ロマネスクへのいざない (6)- カスティーリャ・イ・レオン州-ブルゴス県 (3)- サン・ペドロ・デ・アルランサ修道院 (Monasterio de San Pedro de Alranza)
「カスティージャのゆりかご(Cuna de Castilla)」 アルランサ川が岩を削って作った壮大な峡谷にあるこのサン・ペドロ・デ・アルランサ修道院は、緑深き自然の中に姿を現した。素晴らしい景色の中、突如廃墟となったサン・ペドロ・デ・アルランサ修道院が現れたとき、人里離れたこの場所を選んだことに納得できた。「スペインで最も美しい村」という協会に認定され登録されている村の一つであるコバルビアス(Cobarrubias)から7~8km程の距離にあり、修道院に着くまでカーブの多い道で距離的には近いが車で10分位かかった。 今は廃墟となっているサン・ペドロ・デ・アルランサ修道院は、スペインの重要文化財に指定されている。912年に設立されたベネディクト会修道院で、当時約50人程度の隠者たちがこの庵に住んでいたことが記録に残っている。そして1080年にロマネスク様式の教会が建設された。その後「カスティージャのゆりかご(揺籃・ようらん)」と呼ばれ、カステージャ王国の重要な修道院と発展し、修道士たちの数も増えていった。それに伴い、拡張工事も行われ、ゴシック様式、バロック様式、ルネサンス様式が加わり、時代ごとに異なる様式の建物部分を含む修道院となっていった。 「メンディサバル法(Desamortización Eclesiástica de Mendizabal)」による明け渡し 約900年間も修道士たちが暮らし修道院としての機能を果たしていたが、1835年の通称「メンディサバル法」と呼ばれる主にカトリック教会を対象に行われた「永代所有財産解放令」によって解体されてしまった。これは、スペイン国内の修道院や教会が所有していた土地を没収し、競売にかけ、教会権力をそぎ、公的債務を解消し国富を増やしたが、このメンディサバル法によって由緒ある修道院等が明け渡されることになり、一気に廃墟となって、修道院や教会にあった建築的、美術的な価値あるものが次々と国内外に流出することにもなった。 スペイン国内に散在するサン・ペドロ・デ・アルランサ修道院のものとしては、次のようなものが挙げられる。 ・教会のファサード。1895年にマドリッドの国立考古学博物館に移された。 ・カスティージャ王国のフェルナン・ゴンサレス伯爵と妻サンチャとムダーラのロマネスク様式の墓。同県のブルゴス大聖堂に移された。 ・図書館にあった古代の膨大な量の写本。隣接するサント・ドミンゴ・デ・シロス修道院に重要な部分が残されている。 ・11世紀末から12世紀初頭の見事な教会の北側の扉。マドリードの国立考古学博物館に展示されている。 ・後期ロマネスク建築の傑作である「ララの7人の王子」の異母兄弟である「ムダラの墓」。これもブルゴス大聖堂の回廊に移された。 ・修道院総会会議室に描かれていた13世紀初頭の壁画の様々な断片。カタルーニャ国立美術館にある。 最後のカタルーニャ国立美術館にある修道院総会会議室に描かれていた13世紀初頭の壁画の断片については、残りの壁画の断片はハーバード大学フォッグ美術館、ニューヨークのメトロポリタン美術館に分散されている。 ちなみに、当たり前のことだがアメリカにはロマネスク様式は存在しないので、ロマネスク様式の教会等の建物部分、壁画等、あらゆるものが買い取られて海を渡っていった。オリジナルの場所から引き離されて美術館や博物館に展示してある全ての芸術品を見るに度に思うことは、残念だという気持ちと幸いだったという複雑な二つの気持ちである。例えばこのサン・ペドロ・デ・アルランサ修道院について思いを巡らすと、修道士たちが居なくなった修道院が荒れ果てていったあとで、芸術や美術的価値もわからぬ輩たちの手によって心なく荒らされたり、残っていたものも雨露に打たれ朽ち果てていったであろうということは容易に想像がつく。そう考えると、価値を認められ、学術的にも研究され、誰でも見ることができ、保存状態を最良に保つことができる美術館や博物館に移動されたことは幸いだったのだろう。だが、それでもなお、オリジナルの場所から離れ、分断されることにより、周りとの関係性、調和、存在理由、歴史的な流れ、その土地の人々の思い、その建物、絵画、彫刻、教会などに携わっていた人たちの物語と歴史等々が失われてしまうことになると思うと、残念である。サン・ペドロ・デ・アルランサ修道院を見学中、そんなことをずっと思っていた。 中世期からバロック期へ サン・ペドロ・デ・アルランサ修道院は、現在は廃墟になっていて失われた部分も多く、その全貌をつかむことは難しいが、旺盛を極めた17世紀から19世紀にはかなりの規模に発展していた。下の写真は修道院の中にあった説明板である。英語版はなかったが、珍しく点字での説明があった。日本でも観光地の案内板 … 続きを読む ロマネスクへのいざない (6)- カスティーリャ・イ・レオン州-ブルゴス県 (3)- サン・ペドロ・デ・アルランサ修道院 (Monasterio de San Pedro de Alranza)
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