ロマネスクへのいざない (5)- カスティーリャ・イ・レオン州-ブルゴス県 (2)- サント・ドミンゴ・デ・シロス修道院 (Monasterio de Santo Domingo de Silos)

楽しみにしていたサント・ドミンゴ・デ・シロス修道院 (Monasterio de Santo Domingo de Silos) へ向かった。サント・ドミンゴ・デ・シロス修道院は、ヨーロッパ最古の音楽と言われる「グレゴリオ聖歌」を今も修道士たちがミサや祈りの時間の中で歌い続けていることで有名だ。日本でもCDが売られているので聴いたことがある人も多いと思う。 この修道院は、21世紀の今日まで活動し続けているカトリック教会最古のベネディクト修道会の修道院だ。そして、 サント・ドミンゴ・デ・シロス修道院自体は954年に設立されたことが、当院の文献資料として残っている。まさしく、この修道院設立時期はロマネスク建築がヨーロッパで始まった頃と重なる。サント・ドミンゴ・デ・シロス修道院にあるロマネスク建築の回廊は素晴らしく、スペイン人の中で知らない人はいないほど。ロマネスク回廊の傑作と言われている。回廊は2階建てで、1階部分の東側と北側は11世紀半ばに造られ、西側と南側は12世紀のものだ。長方形の回廊は、北側と南側には16のアーチが、東側と西側には14のアーチがあり、柱頭は64本ある。そして回廊の2階部分は、12世紀末に造られた。 回廊1階部分の控え壁にある8つの浅彫き彫りは一つ一つが素晴らしいロマネスクの傑作。簡単に紹介していくことにする。 受胎告知と聖母戴冠(La Anunciación y La Coronación de la Virgen) 「神の母」である聖母マリアが大天使ガブリエルのお告げによって神の子「イエス」を身ごもることを知る瞬間の場面と「天の女王」である聖母マリアが神から冠を授けられる場面を同じ構図の中に描かれている。 サント・ドミンゴ・デ・シロス修道院の建設期間は約200年かかったが、この「受胎告知と聖母戴冠(Anunciación y Coronación de la Virgen)」は建設完了時期12世紀末に造られたものだ。 12世紀末といえばゴシック様式初期に当たり、この浅浮き彫りにもゴシック様式である自然的で人間的な表現の萌芽が見られる。大天使ガブリエルと聖母マリアの二人のまなざしはまるで知り合い同士のようで、心なしか口元にはかすかに笑みを浮かべているように見える。と同時に、聖母マリアの堂々として自然な雰囲気が漂っている。聖母マリアの左手に持っている布は何か意味があるのか気になるところ。 エッサイの木 (EL ÁRBOL DE JESÉ) 「エッサイの木」はイエスの家系図とも言われ、統一イスラエル王国(イスラエルとユダ連合王国)の王で、ユダヤ教を確立したダビデの父エッサイから幹が伸び、ダビデ家より生ずべき未来の救世主(イエス・キリスト)を生んだ聖母マリア、イエス、そして精霊を示す鳩が描かれていることが多い。これは、旧約聖書のイザヤ書11の言葉をもとにしてロマネスク時代に始まった表現である。その言葉とは、「エッサイの株から一つの芽が萌えいで、その根からひとつの若枝が育ち、その上に主の霊がとどまる。(参照:イザヤ書 11 | 新共同訳 聖書 | YouVersion (bible.com))」である。 サント・ドミンゴ・デ・シロス修道院の浅浮き彫りには、横になって右手で頭を支えているエッサイの横腹から2本の枝が交差しながら力強くそして躍動感に満ちながら上に上に伸びている。その2本の枝は二つのマンドルラ(アーモンド形の光輪)を形作り、更に、周りの6人の人物を包み込むようにまるで生きているかの如き動きを表現している。最初のマンドルラには聖母マリアが描かれ、その上のマンドルラには幼子イエスを膝の上に乗せた神が描かれ、その更に上には精霊を示す鳩が描かれている。浅浮き彫り独特の立体感と躍動感は、一度見たら忘れられないものだった。ちなみに、イエスを膝の上に載せ父である神という形で表現されている神の姿は、ロマネスク美術には珍しいものだったらしい。 周りにいる人物は、偉大な予言者であるイザヤ、エレミヤ、エゼキエル、ダニエルの4人とヘブライ人の王ダビデ王とサロモン王である。 イエスの死と降架(Muerte en cruz del Señor y descendimiento) あばら骨がリアルに表現され、キリストの顔は苦しみの後に解放された静かな表情だ。興味深いのは、十字架の木の節が見られること。今まで、この十字架のようにはっきりと木の節が描かれている十字架を見たことはなかったと思う。 音声ガイドの説明では、アダムとイブのアダムがそのゴルゴダの丘(キリストが十字架に磔にされた丘)に葬られたという伝説から、キリストの足元には、キリストによって原罪から救済されたアダムが墓から這い上がっている姿が表されている、ということだった。(私には … 続きを読む ロマネスクへのいざない (5)- カスティーリャ・イ・レオン州-ブルゴス県 (2)- サント・ドミンゴ・デ・シロス修道院 (Monasterio de Santo Domingo de Silos)