おいでよ!スペインの素敵な村(1)-カスティーリャ・イ・レオン州-カンデラリオ(Candelario)

ベハール(Béjar)からカンデラリオ(Candelario)の遊歩道

10月末、お天気が良かったので栗拾い兼紅葉を見にカスティーリャ・イ・レオン州のサラマンカ県にあるカンデラリオ(Candelario)という村に行ってきました。標高1136mというこの村は、サラマンカ市内から車で小一時間程です。紅葉にはちょっと早かったのですが、カンデラリオの村の近くにあるベハール(Béjar)という街に車を止めて、カンデラリオの村に続く遊歩道を気持ちよく散歩できました。ベハールからカンデラリオの村までは約4km、ゆっくり歩いても1時間程です。小さい子供連れでも、あまり歩きなれていない人でも無理なく歩ける遊歩道です。

ベハールの街がみえます。写真:筆者撮影

歩いていると、カウベルが鳴り牛たちがのんびりと草を食む光景や、鳥の鳴き声が聞こえてくる歩道が急に細くなって林の中に誘ってくれる小道や、石橋がある川を渡ったり、乾燥したサラマンカ県の気候の中ではこの辺りは割と雨が多いところなので、普段はめったに見られないコケ蒸した石垣の道を通ったりと、なかなか変化に富んだ遊歩道です。

牛が草を食む牧歌的な風景 写真:筆者撮影

お目当ての栗も拾えました。家族連れで栗拾いを楽しんでいる人もいましたよ。この辺りの栗は小粒ですが、焼いて食べると味は良いですね。我が家でも帰った後、早速オーブンで焼いて食べました。

遊歩道に沿った苔むした石垣 写真:筆者撮影

スペインで最も美しい村

さて、1時間以上かけてゆっくりとカンデラリオの村に着きました。このカンデラリオの村は、「スペインで最も美しい村」という協会に認定され登録されている村の一つです。「日本で最も美しい村」という日本版の協会もあるのでご存知の方も多いかもしれません。ちなみに、この「スペインで最も美しい村」という協会は2011年に設立され、人口1万5000人以下(歴史地区の人口は5000人以下)であること、建築的遺産または自然遺産があることなどを条件に、村内の環境、宿泊施設、案内板に至るまで厳正に審査し、登録を認定しています。2020年8月末時点で、94村が認定されています。(ウィキペディアより)

標高1136mの村カンデラリオ。右上の山には薄っすらと雪が積もっていました。 写真:筆者撮影

ここカンデラリオの村は2015年に「スペインで最も美しい村」に登録されましたが、その伝統的な建築により歴史的・芸術的な場所としても宣言されています。遊歩道からカンデラリオの村への入り口に、「カンデラリオ サラマンカの史跡ルート」なる看板が立っていました。

カンデラリオ山脈は、サラマンカ県、アビラ県、カセレス県にまたがり、その美しく多様な風景は、フユナラと栗の森におおわれた渓谷による河川と、氷河の浸食作用によって形成された地形の1つである圏谷とによってつくられています。

この自然の飛び地は、「共同遺産地区」並びに「野鳥保護特別地区」に指定されています。また、2006年にユネスコ協会により「ベハール山脈とフランス山脈の生物圏保護区」の一部として生物圏保護地区(ユネスコエコパーク)として宣言されました。ちなみに、スペインはこの生物圏保護地区(ユネスコエコパーク)に登録されている場所は、現在52か所あり、ヨーロッパの中でもかなり多い国です。

カンデラリオの村は、坂の多い可愛い村です。小さい村ですが、隅々まで歩いて周ると色んな発見があります。今回数年ぶりにこの村を訪れましたが、村の所々に様々な説明板がありました。残念ながらスペイン語しかありませんでしたが。この村を週末や夏に訪れると、結構な数の観光客で賑わっていますが、今回はお天気も良い週末にもかかわらず、コロナウイルスの影響で人っ子一人居ない閑散とした状態でした。いつもなら人のいない写真を撮るのに一苦労するところですが、今回はまるで村全部を貸し切っているかのような感じでした。コーヒーを飲みに入ったバルの人と話すと、「本当にいつもの賑わいが戻ってほしい」と残念がっていました。心からコロナウイルスの収束を願ってやみません。

左側に見えるバルでコーヒーを飲みました。本当に人が全く居なくて驚くやら悲しいやら・・・。 写真:筆者撮影

ラ・カサ・チャシネラ(La Casa Chacinera)

さて、カンデラリオの村の特徴の一つは、何といってもその建築にあります。18世紀初頭から「チョリソ」や「サルチチョン」と呼ばれるスペインのソーセージやサラミ等豚肉製品を作る産業が盛んになってくると、「チョリソ」や「サルチチョン」作りに適した家屋を造るようになりました。そして、一階は肉製品加工所、二階は居住する場所、そして三階は乾燥室並びに一階で加工した物を保管する倉庫である三階建ての家が造られ始めました。それらの家を「ラ・カサ・チャシネラ(豚肉製品用家屋)」と呼び、この村の特徴の一つとなったわけです。

「ラ・カサ・チャシネラ」一階は肉製品加工、二階は居住用、三階は乾燥室並びに一階で加工した物を保管する倉庫 写真:筆者撮影

バティプエルタ(Batipuerta)

上の写真でもみえますが、この村にある建物の特徴のもう一つに、「バティプエルタ」と呼ばれる扉があります。本扉の前に付けられた下から半分だけの扉です。この「バティプエルタ」には多様な用途があったようで、それらは、①通りに降り積もった雪から本扉を守るため ②動物たちが勝手に家の中に入るのを避けるため ③本扉を開け放ったままで自然光や風が建物の中にも入るためのものでした。

昔のスペインでは、犬や猫だけではなく豚や牛などの家畜も放し飼いにされていて、家の中に勝手にお邪魔してくる家畜たちも少なくはありませんでした。そこで、この「バティプエルタ」が活躍するわけです。また、前述したようにスペインソーセージやサラミ「チョリソ」「サルチチョン」等の豚肉製品を加工する際、自然光がよく入り、風通しを良くするためにもこの「バティプエルタ」はなくてはならないものでした。

自然や産業に適した建物を造り、そこには生活の知恵や生活様式が反映されていてとても興味深いです。その上、ただ単に半分に切った扉ではなく、デザイン的にもなかなかお洒落です。

「バティプエルタ」 写真:筆者撮影

ヌエストラ・セニョーラ・デ・ラ・アスンシオン教会(Iglesia de Ntra. Sra. de la Asunción)

村の高い所に建てられたアスンシオン教会は、1329年に建設が始まり、ロマネスク、ゴシック、ムデハル、バロックと様々な様式が混在しているためか、ちょっと不思議な印象を与えられる教会です。外側から見ると飾り気はないけれど力強く古拙な感じを受けますが、中に入るとその独特なスタイルに驚かされます。

石畳の階段を上るとアスンシオン教会が建っています 写真:筆者撮影

祭壇の上を飾るムデハル様式の天井は一見の価値ありです。ムデハル様式とは、スペインの建築様式の一つで、イスラム教徒の建築様式とキリスト教徒の建築様式が融合したイベリア半島特有の様式です。特徴として建物の壁面に幾何学文様の装飾を施していますが、この教会のムデハル様式の天井は約100㎡の大きさがあり、ポリクロームと呼ばれる多色装飾による99個の星が施されています。

鮮やかに多色装飾された美しい天井 写真:アルベルト・フェルナンデス・メダルデ

村巡りのすすめ

今回は紹介しませんでしたが、この遊歩道の出発点がある「ベハール」の街も見るところが沢山あります。また、もう少し足を延ばすと「モガラス(Mogarraz)」や「ミランダ・デル・カスタニャル (Miranda del Castañar)」や「ラ・アルベルカ(La Alberca)」という「スペインで最も美しい村」に登録されている素敵な村々もありますよ。是非、車を借りて、村巡りを楽しんでみてください。マドリッドやバルセロナ等の大都市にはない、もっとディープなスペインに出会えること間違いなしです。

カンデラリオの村の隅々に流れる水路。山からの水は冷たかった!

「ラ・アルベルカ(La Alberca)」についてはこちらもどうぞ。

「ムセオ・カサ・チャシネラ」博物館 開館情報

・「ムセオ・カサ・チャシネラ」カンデラリオにある博物館。

住所: カジェ・ペラレス3番地(Calle Perales, 3 )

郵便番号 37710 カンデラリオ( Candelario)サラマンカ県 ( Salamanca ).

電話番号:(34)695 56 34 91

E-mail:museocasachacinera@gmail.com. 

開館時間:土曜日 17:30~19:00 日曜日 11:30~13:00

一風変わった博物館で、ここに訪れると1920年頃にタイムスリップし、「チョリソ」「サルチチョン」などを作る人達の姿を見ることができます。というのも、博物館に居る人たちがその当時の服装で迎えてくれ、芝居によって説明してくれるからです。芝居はスペイン語ですが、当時の服装、仕事ぶりを見るのも楽しいものです。是非、立ち寄って見てくださいね。

http://www.candelario.es/museo-casa-chacinera-de-candelario/


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