スペインを訪れる楽しみの一つは、何といってもその食事とワイン!きちんとしたレストランに行かなくても、街のちょっとしたバルでおいしいおつまみ(タパス)と豊富なワインが気軽に楽しめます。今回は、スペインの白ワインでは絶大な人気を誇るガリシア地方にある「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」というワイナリー見学を報告します。
「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)グループ」の紹介
リアス・バイシャスと呼ばれるスペイン、ガリシア州の南、ポルトガルとの国境近くのオ・ロサルという所にこのワイナリーはあります。ローマ、エルサレムと並びキリスト教の三大巡礼地に数えられるサンティアゴ・デ・コンポステーラからは、車で約1時間半。大西洋からは8Km程離れたところに位置し、年間平均温度は15℃。ここは、ガリシア州の中では比較的天気に恵まれており、ぶどうの糖度を高めた状態で成熟させることができる理想的な土地です。
1990年、今からちょうど30年前に最初のワインを造り始めました。最初の年のヴィンテージは3万7千本だったのが、今では150万本を生産し、日本も含め世界45か国に輸出するほどの会社に成長しています。スペイン国内でも絶大な人気があり、今年3月から5月にかけてコロナウイルスによるロックダウンになっていたスペインで、インターネットを通して最もヒットしたワインのベスト10に唯一白ワインで入っていたのがこの「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)グループ」のワイン、テーラス・ガウダ(Terras Gauda)です。
魚介類が豊富で、食べ物がおいしいガリシア州。このワイナリーの白ワインも魚介類との相性抜群!ワインだけでもおいしいですが、食事を引き立ててくれる陰の立役者とでも言えるのがこの「Terras Gauda(テーラス・ガウダ)グループ」のワインです。
今回は、グループ発祥の白ワインのワイナリー「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」について紹介していきます。
ユニークなブドウ畑とブドウの種類
2020年9月18日、午前11時にワイナリー見学が始まりました。1週間程前に予約の電話を入れると、「丁度ブドウの収穫真っ盛りなので、普段見れない光景も見学できますね!」と言われ楽しみにしていました。ただ、雨が降るという天気予報だったのでちょっと心配しましたが、最終的には雨も降らず気持ちの良い一日でした。
予定の時刻にワイナリーまで行くと、エノツーリズム(ワインツーリズム)担当のベゴーニャが迎えてくれました。彼女がバンでブドウ畑まで連れて行ってくれます。バンに乗り込むと、まず、名前の由来の説明がありました。「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」の「Gauda(ガウダ)」の意味には、二通りの説があるとのことで、一つ目は、守り人に対して与えたゴード人のことだという説と、二つ目は、ラテン語の意味である「Tierra de Alegría」、「歓喜の土地」という意味。この辺りは肥沃な土地で、今でも果物、野菜、花や鑑賞用の植物の栽培が盛んなところだそうです。作物に恵まれた「喜びの土地」、素敵な名前ですね。
車でしばらく行くと、両側にブドウ畑が広がってきました。早速、車を降りてベゴーニャの説明がありました。「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」では、垣根仕立て(スペイン語では”Espaldera”といいます)によるブドウの栽培が行われています。垣根仕立てによるメリットは、垂直に伸びていくので雨が降っても水はけがよく菌が発生しにくいということと、棚仕立て(”Parra”)のように陰を作らないので、全てのブドウの実に太陽の光が行き届いて実が完熟し、ムラのないブドウの実を収穫することができ、ワインを造る段階で高品質かつムラのない品質を保つことができること。デメリットとしては、棚仕立てに比べると、収穫量が40%ほど少ないということ。「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」では、プレミアムワインやウルトラプレミアムワインを主に生産することを目的としているため、この垣根仕立てによる高品質を追求したブドウの栽培が採用されている訳です。
更に、車で移動しながらベゴーニャが「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」で栽培されているブドウの種類についても説明してくれました。ここでは、アルバリーニョ種(Albariño)、ロウレイラ種(Loureira)、カイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)の3種類のブドウが栽培されています。原産地がここガリシア州で、ガリシア州白ワインの代名詞ともいえるアルバリーニョ種(Albariño)が一番多く栽培されていますが、「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」が特に力を入れて栽培数を増やしているのが、カイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)。この品種は病気にかかりやすくデリケートな株で、アルバリーニョ種(Albariño)に比べても収穫量が少ないことを理由に、今から約20年前までは殆んどワイン用のブドウとしては使われていない廃れたブドウの種類だったとか。今では、「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」は、97%がこのカイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)である「La Mar(ラ・マール)」というワインを造っていて、カイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)を主にしたワインはスペインでも唯一だそうです。ブドウを植えてから4~5年間は収穫せず、その後やっと収穫が始まりワインが造られるそうで、1株のブドウの木は、30~32年程を過ぎると新しいブドウの木に植え替えるという作業が続けられています。車からも2~3年前に植えたばかりというまだまだひ弱いブドウの木が見えました。
公務員からワイナリーのオーナーに
「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」は、会社名でもあり、会社を代表するワインの名前でもあります。この会社を約30年前に設立したホセ・マリア・フォンセカ氏は、もともとは日本でいう職業訓練校などで様々な講習などを企画するような仕事をされていた公務員だったそうです。仕事柄、地元の農家や企業等とも交流があり、ご本人がワイン好きということもあり、友人を募ってワイナリーを作ることにしたという、異色の人物。スペインでは、今も昔も安定している職業の一つである公務員は人気があり、公務員試験にパスするのもかなりの競争率をくぐり抜けなければならず、その公務員の仕事を捨てて未知の世界に飛び込むという勇気ある行動、そして現在、スペインの中で有名なワイナリーとして成功を修めているその経営力、自分達が求めるワインを追求し、質の高いワインを作り出しているその感性と情熱に、強い感銘を受け魅かれました。現在も、オーナーとして様々な企画を提案し、ご活躍中です。今回のワイナリー見学ではお会いする機会に恵まれませんでしたが、お父様の意思を受け継いでセールス部門で活躍されている息子さんのアントン・フォンセカ氏とはお話する機会がありました。アントン氏もワイン好き、料理好きで、和食も大好きだとか。今では、日本でも「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」のワインが販売されているので是非試してみてくださいね!
ブドウの収穫真っ盛り
さて、3種類のブドウを栽培するブドウ畑を見て回り、丁度、今年のブドウ収穫真っ盛りということもあり、ブドウの収穫をしている様子も見せていただきました。地元の学生や失業中の方なども含め200人の人たちが、会社が所有する160ヘクタールのブドウ畑のブドウ収穫に勤しんでいました。山を切り開いて作られているぶどう畑は急勾配(20%)で、収穫作業はかなりの重労働です。その斜面に広がるブドウを一つ一つ丁寧に手作業にて箱に入れる姿は印象的でした。箱には、ブドウを8㎏までしか入れず、ブドウの実が重みでつぶれないよう細心の注意をもって摘み取られていました。今年は、暑い日が多かったせいか、例年より早く熟しているので、私が訪れた9月18日は最終日だったようです。例年ならば、10月の頭まで終わらない収穫らしいので、かなり早い収穫です。オーナーの娘さんカルメンさんが、「今週は、天気予報では強風を伴う雨だったので心配していたけれど、何とかお天気にも恵まれ無事に全部を収穫できそうだ。雨に打たれず品質の良いワインが造れそうだ。」と、ほっとした表情で話してくれました。今年のワインが出来上がるのが楽しみです!クリスマスシーズンには、今年のワインがリリースされるので、今年は「テーラス・ガウダ(Terras Gauda )」の白ワインでクリスマス・ディナーを楽しめますね!
固有種カイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)の復活と新しいワイン作りへの挑戦-研究開発(I+D)-
その後、再びバンに乗って出発地点まで戻りました。その間にも、ベゴーニャが説明をしてくれます。その中で特に印象深かったのが、カイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)の話でした。前述したように、このカイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)はデリケートで収穫量が少ないという理由で、この地方固有のブドウでありながらも忘れられていた種類のブドウでした。ワイナリー設立者であるホセ・マリア・フォンセカ氏は、それぞれのその土地が持つ特異な気質を柱として育っていく固有種の復活、その固有種から作り出されるその土地のワイン、それも質の高いワイン造りを目標に掲げ、今から訳20年前から自社の畑にカイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)を栽培し続けています。
政府機関であるCSIC(Consejo Superior de Investigaciones Científicas「科学研究高等評議会」)と共同にて、I+D(Investigación y Desarrollo「研究開発」)の企画の一つとして研究を始めました。そして、長い研究開発の末、前述した「La Mar」というカイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)のワインを造りだしたのです。今では、「La Mar」は「Terras Gauda 」と並ぶ代表ワインとなっています。このI+D(Investigación y Desarrollo「研究開発」)は現在も様々な企画で行われており、ブドウの木の肥料について、ブドウ畑の土壌について等を、アルゼンチンのワイナリーと共同研究中とのことです。
ワイナリーの中を見学して驚くことは、34のタンクの説明です。これは、ガリシア地方固有のブドウそのものの素晴らしさを追求していくことを会社理念としていたホセ・マリア・フォンセカ氏の情熱が形となっているものです。ワイン造りを始めようと決心したホセ・マリア・フォンセカ氏は、まず研究のために試験場を作り、全ガリシア地方のから115のアルバリーニョ種(Albariño)の株を集め、その中から厳選して34株に絞り、それぞれの成長や品質に合わせてワインを造ってみました。その34株から造られたワインがこのタンクに入っているとのことです。現在ではこのワインのモデルは、I+D(Investigación y Desarrollo「研究開発」)に使用されているそうです。そして、最終的には、「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」の土壌に適した、「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」が求めるワインに理想的な5つの株を選び抜き、実際に栽培始めたとのことです。
地道な努力、科学に裏打ちされた研究、そして決して消えることの無いワイン造りの情熱がこのワイナリーのワインに凝縮されています。
試飲
いよいよ楽しみにしていた試飲です!ワイナリーの工場から出て、お店の横にテイスティング・スペースが設けられていました。
まずは、アルバリーニョ種(Albariño)100%のアバディア・デ・サン・カンピオ(Abadía de San Campio)。口に含むとフルーティで爽やかな甘みが広がってきました。次は、「テーラス・ガウダ(Terras Gauda)」の顔とでもいうべきテーラス・ガウダ(Terras Gauda)。アルバリーニョ種(Albariño)70%、カイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)22%、ロウレイラ種(Loureira)8%のこのワインは、アバディア・デ・サン・カンピオに比べると濃厚で複雑な味。柑橘系の香りがして、しっかりとした味わいがあります。次は、黒ラベルテーラス・ガウダ(Terras Gauda Etiqueta Negra)。テーラス・ガウダをフランス産オークの樽に5ヶ月寝かしている熟成ワインで、普通のテーラス・ガウダに比べると、こくがあります。一般的に白ワインは次の年の白ワインが出るまでに飲んでしまう方が良いと言われていますが、この黒ラベルテーラス・ガウダは15年位までなら寝かして飲んでも味に深みが加わり美味しく飲めるとのことでした。そして、最後にカイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)97%と残りの3%は、ロウレイラ種(Loureira)とアルバリーニョ種(Albariño)で造られているラ・マール(La Mar)。こちらのワインは、全く口当たりの異なるワインです。果物の柿やリーチを彷彿させる香りと、成熟感やコクも兼ね備えたこのワインは、1年程寝かせた後にリリースするとのこと。研究と情熱をもって造り上げた新しいテーラス・ガウダの代表ワインへと成長しています。
試飲は、まずはワインのみでそれぞれを味わい、ベゴーニャとアントンの説明があり、その後、チーズとドライフルーツのおつまみが出てきて、おつまみを食べた後に再びワインを飲んでみました。不思議なことには、ワインのみで飲んだ時と、おつまみを食べた後に飲んだ時では、微妙に感じる味が変わったことです。個人的には、最初にワインのみを飲み比べたときは、テーラス・ガウダが一番気に入ったのですが、チーズと一緒に飲み始めると、ラ・マールもチーズとよく合い、甲乙付け難くなってしまいました。
白ワインだけではなく、個性的な新しいワインを求めて
最後に、ご子息のアントン・フォンセカ氏に今後の会社の抱負をお聞きしました。「テーラス・ガウダ(Terras Gauda)グループ」として、白ワインだけではなく、スペイン中にある新しいブドウの原産地を開拓していき、高品質で個性的なワインを造っていくことだそうです。実際、ビエルソ地方のメンシア種(mencía)100%のピタクン・アウレア(Pittacum Aurea)という赤ワインや、有機栽培・自然栽培の一種であるバイオダイナミック農法によるブドウ栽培と持続可能な環境のパイオニアであるキンタ・サルドニア(Quinta Sardonia)というワイナリーや、スペインの赤ワインを代表するリオハ地方の赤ワインのエラクリオ・アルファロ(Heraclio Alfaro)という赤ワインも、この「テーラス・ガウダ(Terras Gauda)グループ」が手掛けています。多様性とそれぞれの土地が持つ特異な気質を柱として、経験と知識を共有かつ利用しながら、個性的で高品質なワインを追求していく、それが、「テーラス・ガウダ(Terras Gauda)グループ」の設立から変わらぬワイン造りに対する姿勢です。
おすすめ!ワイナリー見学
ブドウ畑から収穫、ワイナリー内の見学、そしてそれぞれのワインの飲み比べなど、本当に楽しく充実したひと時を過ごせました。何気なく飲んでいたワインも、造り手の思いや情熱、そして研究・開発などを知ったうえでもう一度飲んでみると、そのワインに対する愛着がグッと湧き、一緒に飲むお友達にもそのワインの物語を話すことによって会話が盛り上がります。スペインにいらっしゃる際は、是非、ワイナリー見学をお薦めします!
また、テイスティング・スペースの隣にはお店もあり、お土産用のワインを購入できますよ。 「テーラス・ガウダ(Terras Gauda )グループ」では、ワインだけではなく、ハーブの蒸留酒やこの地方でとれる野菜や果物の保存食品(缶詰や瓶詰)も販売しています。日本への美味しいお土産がここで見つかるかもしれませんね。
ここ「テーラス・ガウダ(Terras Gauda)」では、幾つかのコースがありますが、おすすめのコースは、「Terras Gauda para 2(二人のためのテーラス・ガウダ)」です。このコースには、アルバリーニョ種(Albariño)100%のアバディア・デ・サン・カンピオ(Aabadía de San Campio)、テーラス・ガウダ(Terras Gauda)、カイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)97%のラ・マール(La Mar)の3種類のワインを試飲できます。カイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)の白ワインはここのワイナリーでしか造っていないので、カイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)とアルバリーニョ種(Albariño)の味の違いを是非とも味わってほしいものです。
もしお子様連れの家族でワイナリー見学をされる方の場合は、お薦めコースは、「Plan familiar(ファミリー・プラン)」です。年齢別に2つのワークショップが用意されています。10歳までの子供たちには、創造的なワイン・ワールドを体験するワークショップ、11歳以上のの子供たちには、ストップ・モーション技法を使いワイナリーで見学したことをストーリーとして作成するワークショップがあります。きっと子供たちにとってもスペインのワイナリー見学は、忘れがたい旅の思い出になること間違いなしです。
大人も子供も楽しめる「テーラス・ガウダ(Terras Gauda)」のワイナリー見学。是非スペイン旅行のコースに入れてみてはいかがでしょうか。
参考
・「テーラス・ガウダ(Terras Gauda)グループ」の公式サイト。個人でワイナリー見学を予約される方はこちらからどうぞ。:https://www.terrasgauda.com/
・残念ながら「テーラス・ガウダ(Terras Gauda)」のワイナリーは紹介されていませんが、ガリシア州リアス・バイシャスのワイナリー見学ルートが紹介されています。スペイン観光公式サイト:https://www.spain.info/ja/waingaku/wain-ruto-riasu-baishasu/
・日本人向けにワイナリーツアーを企画している会社(スペインワインのプロフェッショナルである、バルセロナのOFFICE SATAKEと、バリャドリッドのBUDO YAを中心にスペイン各地のプロフェッショナルが、ワイナリーを本格的に案内)。「テーラス・ガウダ(Terras Gauda)」も訪問可能ですよ!:http://enoturismo.jp/?page_id=703
・ガリシア州公式観光サイト。ガリシア州の素晴らしい魅力を発見できるサイト。日本語版があるのも嬉しいですね!:https://www.turismo.gal/homu/kanko-hissu-supotto?langId=ja_JP
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