ドイツのグリム童話、イギリスのマザーグース、フランスのペロー童話そしてギリシャのイソップ物語など、ヨーロッパの童話はいろいろありますが、あまりスペインの童話って知っている方はいないのはないのでしょうか。そういう私自身もスペインの童話は自分の子供が生まれるまであまり知りませんでした。スペインでも、グリム童話やペロー童話が一般的に知られていて、スペイン人自体もスペイン特有の童話、昔話として特別認識しているわけでもないようです。でも、やはりどこの国にも童話や昔話はあるものです。
今回は、あることわざの基になったお話、「ミルク売り娘のお話-エル・クエント・デ・ラ・レチェーラ(El cuento de La lechera)」のお話を紹介します。
ミルク売り娘のお話(El cuento de La lechera)
昔々、あるところに明るく働き者の娘がいました。毎日、太陽が山の後ろから顔をのぞかせるころには起きて、街の広場にミルクを届けに行っていました。
毎朝、冷たい水で顔を洗うと長い髪を三つ編みにして背中に垂らし、赤いスカートと黒いベストに着替えます。その姿はまるで可愛い人形のようでした。
娘はとても朗らかで幸せでした。街に行く途中、花を見たり、鳥のさえずりを聞いたり、娘の足音が聞こえると、パシャッ、パシャッ!と慌てて水たまりに飛び込むカエルなどを見たりするのも楽しいものでした。
なんて、世界は素敵で楽しいものかしら!
喜びのあまり娘の心は踊り、歩きながら、頭の中は様々な空想でいっぱいになっていきました。
私はお金持ちで立派な女性になりたいわ!お金を稼ぐために何をしようかしら?この牛乳を売ったお金で、卵の入った籠とその卵を温める雌鶏を買ったらどうかしら。そしたら、すぐにヒヨコが生まれるわね。
娘は、もう自分の家が綿玉のようなヒヨコたちでいっぱいになり、ヒヨコたちがか弱い足取りで走って雌鶏の温かい翼の下に隠れようとする姿を思い描いていました。
ヒヨコたちが大きくなったら売って、売ったお金で子豚を買おう。子豚は、ドングリや栗やおいしいものを沢山食べて、お腹が大きくなって丸々と太っていくにちがいないわ。
娘は、ますます空想に夢中になって興奮しながら歩いていきました。
子豚が子牛みたいに太ったら次はどうしようかしら……。とっても太って子牛みたいに大きくなったら……。そうだ!子牛を買おう!子牛は、草原を走ったり飛んだりして、新鮮でおいしい草を食べることでしょう。うーん、もしかしたら牛を買えるかもしれないわ。ええ、買えるに決まってるわ!牛のために温かい藁で一杯の牛小屋をお父さんに作ってもらって、私は日が山の後ろに沈むまで草を食べさせに連れて行ってあげるわ。
さらに歩きながら、娘は、子牛のための牛小屋のことを考えたり、母牛のそばで跳ねる子牛の姿はどんなに愉快だろうかと想像してはウキウキしてきました。
そんな大きな未来を思い描いて心がときめいてきて、娘はスキップしたりぴょんぴょんと跳ねたりしました。あらあら、娘の頭の上にあるミルクの壺は、右へ左へと大きく揺れています。それでも、娘は気が付きません。街はもうすぐです。道も歩きやすい道になってきたので、娘はさらに速足になって歌い始めました。
牛乳を売ったお金でやりたい商売のことを考えながら、ミルクの壺が頭の上にあることも忘れて回転してみたりしていました。そして、やんちゃな子ヤギのように飛び跳ねた拍子に、ガチャン!ミルクが入っていた壺は地面に落ち、粉々に割れてしまいました。
なんてことでしょう!可哀そうな娘さん!さようならひよこたち、子豚も子牛もみんなさようなら……。売るはずだったミルクは地面に流れて、娘の夢と共に消えていってしまいました。
娘は悲しくなり、がっかりしてしまいました。でも、いつまでも落ち込んでいるような娘ではありません。顔を上げ、涙をぬぐい、両腕を広げ、優雅にスカートをひらひらと揺らしながらこう言いました。
もう、欲深い空想するのはやめよう!貧しくても幸せでいる方がましよね。
そう言うと、もと来た道を歌いながら戻っていきました。
翻訳: 筆者

このお話、なんとなく聞いたことがある、読んだことがあるという方もいるのではないでしょうか。このお話の作者は、18世紀のスペインで活躍した寓話作家フェリックス・マリア・デ・サマニエゴ(Félix M.ª de Samaniego)で、「ミルク売りの娘(La lechera)」という題名が付けられています。ただ、ギリシャのイソップ物語にある「乳搾りの娘」によく似ているので、聞いたことがある、読んだことがあると思われた方もいたことでしょう。「乳搾りの娘」に限らず、イソップ物語のお話をもとにして、各国の作家たちが色んなバージョンのお話として書いています。このサマニエゴの「ミルク売りの娘(La lechera)」もその一つです。
スペインでは、サマニエゴが書いたものなのでスペインの童話と位置付けられています。そして、このお話から、スペイン語では「捕らぬ狸の皮算用」のことを「Cuento de la lechera」と言います。
如何でしたか?今回のお話は子供向けの童話の本を基に翻訳したもので、サマニエゴが韻文で書いたものではありませんが、サマニエゴの文を読みたい方はこちらからどうぞ。https://www.poeticous.com/felix-maria-de-samaniego/la-lechera?locale=es
