スペイン ロマネスクへのいざない (1)

文化
聖エウフェミア教会 – Iglesia de Santa Eufemia – パレンシア県(筆者撮影)

スペイン ロマネスクは、スペイン北部のみに存在する

ロマネスク様式が花開いたのは紀元11~12世紀にかけてというのが一般的。しかしスペインでは、13世紀に入ってもロマネスク様式が採用されていることが多い。また、12世紀末から13世紀はロマネスク様式からゴシック様式に移行する過渡期であり、ハイブリッドな教会もスペインでは多々見られる。

この時代、スペインはレコンキスタの真っ最中。そう、スペインはキリスト教世界とイスラム教世界の二つの相反する世界に分かれていた時代。この時代は、スペインという統一国が誕生する以前の複雑な歴史を持っている。スペインを旅していると気づくことの一つは、スペイン南部にはロマネスク建築が存在しないことだ。スペイン北部では至る所でロマネスク建築が見られるが、南部にはない。これは、スペイン南部がこの時代イスラム教世界だったからだ。

ロマネスクと巡礼の道 サンティアゴ・デ・コンポステーラ

また、スペインにはキリスト教三大聖地の一つ「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」があるが、そのサンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼が始まったのが10世紀。11世紀にはヨーロッパ中から多くの巡礼者が集まり、最盛期の12世紀には年間50万人を超える人たちが西の果てのこの地へ向かったというから驚きだ。サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼が活発化する時期とロマネスクの時代は一致する。巡礼者たちのための修道院、救護院、教会がロマネスク建築で多く建てられた。今では、これらのほとんどがひっそりと静かに、まるで息をひそめるかのように建っているが、11~12世紀当時はヨーロッパの様々な国、民族の巡礼者が集まる賑やかで色々な情報を交換する貴重な場所だったのだろうと想像すると不思議な気持ちになる。

聖フアン・バウティスタ教会 – Iglesia de San Juan Bautista – パレンシア県(筆者撮影)

ロマネスク建築と修道院の役割

ロマネスク建築について調べてみると、「フランス、スペイン北部、ドイツ、イングランド、イタリアと、これらに囲まれた地域で形成された建築で、東ヨーロッパなどの周辺部については、わずかながらロマネスク建築の特徴を持った教会堂が点在するが、本質的には西ヨーロッパで興った建築である。」(wikipedia参照)とある。

ロマネスクの発展には、修道院の役割が大きく、特にクリュニー修道院とシトー会の活動によるところが大きい。この時代の修道院は、単なる祈りと労働による共同生活の場所ではなく学問と文化を主導する役割を担っていた。そして修道士たちは、自給自足の共同体として、都市部だけではなく、俗世を離れ、辺境の地でも荒地や森林を開墾して自分たちの修道院を建設していった。前述したように、サンティアゴ巡礼に赴く巡礼者たちに宿舎として提供し、また病気に倒れた巡礼者たちを収容して治療を施したのも多くの修道院だった。修道士たちは、聖職者というだけではなく、農民、職人、技術者、医者、薬剤師、教師等の専門家として積極的に働き、共同体を維持していた。中世時代の修道院は、その当時最も先進的な生産組織であり、かつ学問と芸術の中心であった。ヨーロッパ各地にみられる地方色豊かなロマネスク建築は、これらの修道院の存在なしには考えられない。(「西洋建築の歴史」佐藤達生著より)

ロマネスク建築の特徴

ロマネスク建築の特徴としては、厚い壁と小さな窓、そして円形アーチが挙げられる。厚い壁は、石造りの天井が外側に向かって力を働かせる構造になっているため、その天井の重みを厚い壁で支えている。窓は小さく、大理石に似た粒子の細かい半透明の石、アラバスターと呼ばれる雪花石膏がよく見受けられる。円形のアーチはローマ風。全体的に重厚感があり、装飾も少ない。

しかし、少ない装飾の中に興味深いものがたくさん隠れているのもこのロマネスクの魅力の一つだと言えるだろう。神話や伝説上の動物や当時の楽器を持つ音楽士たち、聖書に基づくモチーフや悪霊を追い払うための顔などなど・・・。一つ一つゆっくりと時間をかけて観察すればするほど色々な発見がある。ゴシック建築のような高度な技術がまだ発達していなかった時代の建造物だが、1000年の時を超えて多くのことを私たちに語り掛けてくれる。

聖マリア教会 – Iglesia de Santa María – サラゴサ県(筆者撮影)

スペインのロマネスク建築の特徴

スペイン北部アストゥリアス地方には、ロマネスク様式以前の様式が存在する。プレロマネスク様式またはアストゥリアス芸術と呼ばれているものだ。ロマネスク様式は、前述したように西ヨーロッパにおけるグローバル化のような様式で、国が異なっていても共通するものが多くあるが、ここスペイン北部では独自の様式-プレロマネスク様式またはアストゥリアス芸術-が花開いていた。そこには、西ゴート (ゲルマン民族の一部族で、5世紀にイベリア半島で西ゴード王国を建てた) 、モサラべ (イスラム教徒の治下に混在したキリスト教徒のこと) 、そしてスペイン北部アストゥリアス独自の文化が融合して花開いたものである。

バルディオスのサン・サルバドール教会 – Iglesia de San Salvador de Valdediós – アストゥリアス州(筆者撮影)

これから少しづつスペイン北部に点在するロマネスクをこのブログで紹介していくつもりだ。特に、私が住むカスティーリャ・イ・レオン州にはロマネスク建築である教会、救護院、修道院が多く、ロマネスクの粋といわれるフロミスタの聖マルティン教会もここカスティーリャ・イ・レオン州にある。

スペインの建築物というとガウディのサグラダ・ファミリアやグラナダのアルハンブラ宮殿、セビリア大聖堂などが真っ先に頭に浮かんでくるかもしれないが、スペインのロマネスクの魅力もお伝えしたい。是非、スペイン観光のコースにロマネスク教会や修道院への訪問を加えて頂き、自分の目でみて、重厚感あふれる1000年もの歴史を持つ石たちに触れてほしい。

参考

スペイン・ロマネスク・アカデミー(日本)とAmigos de Románico

スペイン・ロマネスク美術の研究組織で、知識・普及・交流を目的にしている。写真も多く説明もわかりやすい。https://arej.jimdofree.com/ 

スペインでも「Amigos de Románico」という組織があり、本の出版や独自のウェブサイトでスペインのロマネスクに関して貢献している。スペイン語のみだが興味のある方はどうぞ。https://www.amigosdelromanico.org/

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