ハラミージョ・デ・ラ・フエンテという村に着き、聖母被昇天教会(Iglesia de la Asunción de Nuestra Señora-ラ・アスンシオン・デ・ヌエストラ・セニョーラ教会)を見たとき、青い空と前庭の緑の芝生、そして太陽の光を浴びた黄金色の石と赤い屋根がとても素敵な色のコントラストをなしていて目を奪われた。とても調和のとれた美しいロマネスク様式の教会だ。
ちょうどスペインではお食事時間の午後2時半ごろに着いたので、殆ど村には人がいなかったが、一人おじいさんが教会の前を通ったので、「教会には入れますか?」と尋ねると、「あー、今は昼ご飯の時間なので4時以降だったら教会の近くに住む神父に頼めるよ。」と教えてくれた。そして、教会を見上げながら、「わしらの教会はとっても美しいだろう?」と誇らしげに言っていたのが印象的だった。こんな小さな村に、ロマネスク様式の宝物のような教会があることに本当に驚きを感じた。
スペインの文化財
ハラミージョ・デ・ラ・フエンテ村の聖母被昇天教会に関する最古の記録は982年まで遡り、このブログでも紹介したことのあるサン・ペドロ・デ・アルランサ修道院(Monasterio de San Pedro de Alranza)の管轄範囲にあったことが、約100年後の1119年にウラカ女王自らが確認している。(https://www.romanicodigital.com/sites/default/files/pdfs/files/burgos_JARAMILLO_DE_LA_FUENTE.pdf より)
サン・ペドロ・デ・アルランサ修道院(Monasterio de San Pedro de Alranza)について興味のある方はこちらをどうぞ。
約1000年の時を経た1991年に、スペインの文化財として歴史的・芸術的モニュメント(Bien de Interés Cultural)に指定された。この辺りには、ブルゴス地方にあるシエラ・デ・ラ・デマンダ(Sierra de la Demanda)と呼ばれる山脈全地域に存在していた「山の学校 (Escuela serrana)」と呼ばれたロマネスク建築群があるが、その中でもハラミーリョ・デ・ラ・フエンテの聖母被昇天教会は、特に気品があり興味深いロマネスク建築の一例として知られている。
柱廊玄関(La galería porticada)
ガレリア・ポルティカーダ(Galería porticada)と呼ばれる柱廊のある玄関は、計7つの半円形アーチで構成され、左側(東側)は2つのアーチ、右側(西側)には4つのアーチがあり、左右対称ではないが不思議ととても調和がとれている。
この「7つ」のアーチの数字の「7」には、初期キリスト教における7つの主要教会として、新約聖書ヨハネの黙示録の中で言及されている教会(エフェソス、スミルナ、ペルガモン、ティアティラ、サルデス、フィラデルフィア、ラオディキア)を指し、完全な数を表している。(「Rutas Romanicas en Castilla y León/2 (provincia de Burgos) (カスティージャ・イ・レオン州のロマネスク・ルート 2 ブルゴス県編)」Luis María de Lojendio(ルイス・マリア・デ・ロヘンディオ)著, Abundio Rodriguez(アブンディオ・ロドリゲス)著、 Ediciones Encuentro, S.A. (エンクエントロ出版社) より参照)
「7」という数字には、キリスト教の中で「完全、完璧に終わる」という意味が込められている。神はこの世界を「7日」で創造した(「7日」で完成した)。キリスト教には、洗礼、聖体、堅信、告解、病者の塗油、叙階、婚姻と呼ばれる「7つ」の秘跡がある。これらの「7」の数字のシンボルとして「完成、完全」などの意味を含んでいるのである。(「Iconografía y Simbolismo Románico (ロマネスクの図像とシンボリズム)」より。David de la Garma Ramírez (ダビッド・デ・ラ・ガルマ・ラミレス)著、Arteguias(アルテギアス)発行)
これら7つの各アーチには2本の柱がそれぞれあり、その柱頭には興味深い彫り物が施されている。いくつか見てみよう。
教会に向かって左側(東側)には、まるで2つの肖像画のように頭部が描かれているが、一つは巻き毛の人、もう一つは怪物のような顔が見える。
次の柱頭には、ギリシャ神話に出てくるお馴染みのケンタウロス(半人半獣の種族)とハイピュイア(女面鳥身の生物)が見える。
右側(西側)のアーチに目を向けると、王と王妃の頭が見える。王の顎髭のカールした描写や王妃の冠の細かい模様は素晴らしい。
その隣の柱頭には、図案化された植物の模様が見られる。
鐘楼(La torre)
角形の鐘楼は3層から成る。下から2層目と3層目に半円形の大きなアーチがあり、そのアーチの中に同じようには半円形の小さな双子型のアーチがある。このタイプの鐘楼はハラミージョ・デ・ラ・フエンテ村のこの教会だけではなく、近隣の町のいくつかの教会でも繰り返し用いられているタイプの鐘楼である。(Arteguiaのウエブサイト「Iglesia de Jaramillo de la Fuente 」より )
後陣またはアプス(El ábside)
後陣またはアプス(ábside)と呼ばれる部分の中央には、細長い採光窓がある。上の写真で見てもらえるが、半円形のアーチの右上には四足を持つ動物と左上には鳥が描かれていて、二つとも愛嬌のある姿である。また、2本の柱頭には、素人目にもはっきりと、ハイピュイア(女面鳥身の伝説上の生物)とグリフォン(鷲の翼と上半身、ライオンの下半身をもつ伝説上の生物)の姿を確認することができる。質の高い出来と石材が周りの部分と異なることから、この教会の聖堂や身廊の他の部分を手がけていた工房とは別の工房で作られたと思われる。(Arteguiaのウエブサイト「Iglesia de Jaramillo de la Fuente 」より )
後陣またはアプス(ábside)の装飾には、ヤギ、熊等の動物や、読書する僧、天を見上げる二人の男性、アクロバット(?)をする男性または恥部を露出している(?)男性等、好奇心を掻き立てられるモチーフがある。
出入口(La puerta)
柱廊玄関(La galería porticada)を入ると、教会への出入口がある。柱廊玄関(La galería porticada)の庇によって雨風等から守られたためか12世紀の教会としては保存状態が良く、多彩色で装飾された痕跡も見て取られる。そして、5つの半円形のアーチボルト、左右2本ずつ丸い柱とその上に柱頭があり、柱頭には下の写真のように興味深い装飾が施されている。
向かって左側から見てみよう。二股に分かれた尾鰭を持つ人魚。次は、両手を膝の上に合わせて両側からライオンに襲われている人。右側の柱では、旧約聖書の士師記の中で語られる怪力の持ち主サムソンを題材とした「ライオンと戦うサムソン」。そして、最も右側にある柱頭には、後脚で立つライオンが描かれている。
最後に
今回は、時間の都合で教会の中に入ることはできなかったので、帰ってきてこの教会の内部についても調べてみたが、ハラミージョ・デ・ラ・フエンテ村の聖母被昇天教会の見どころは外観にあることが分かった。
こちらの動画に教会の中が少し見える。教会内部は、後期ゴシック様式だという。
それにしても、ロマネスク建築の装飾のモチーフは面白く、飽きさせない。旧約聖書に出てくる場面を装飾にしたものは、識字率が極端に低かった当時、教会へ訪れる信者たちへビジュアルで理解を助けていただろうということはよくわかるが、何故、アクロバットだの、ライオンから嚙まれている人だのが教会の出入り口などのモチーフに使われたのか理解に苦しむ。と同時に、だからロマネスクの教会を訪れるのはとても楽しく、笑ってしまうモチーフ探しをやめられない。
別の機会に、ロマネスク装飾のモチーフについても紹介しよう。
参考
ここで紹介したハラミージョ・デ・ラ・フエンテの聖母被昇天教会 (Iglesia de la Asunción de Nuestra Señora en Jaramillo de la Fuente)は、ブルゴス県のロマネスクを訪ねたルートの中の一つです。こちらのルートを知りたい方はこちらを参考にして下さい。
・スペイン語ですが、教会についてだけではなく、興味深い図面なども見れます。
https://www.romanicodigital.com/sites/default/files/pdfs/files/burgos_JARAMILLO_DE_LA_FUENTE.pdf
・こちらもスペイン語ですが、興味のある方は是非ご覧ください。
https://www.arteguias.com/iglesia/jaramillofuente.htm
・デマンダ連峰の観光案内。残念ながらスペイン語のみです。
https://sierradelademanda.com/
・デマンダ連峰にあるロマネスク建築のパンフレット。これも残念ながらスペイン語のみです。
https://sierradelademanda.com/wp-content/uploads/2019/01/FOLLETO-ROMA%CC%81NICO-SERRANO.pdf
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