去る2023年5月24日、「スペインのノーベル賞」とも呼ばれる「アストゥリアス皇太子賞」の文学部門の今年の受賞者に、日本人作家の村上春樹氏が決まりました!おめでとうございます!
アストゥリアス皇太子賞(Premios Princesa de Asturias)とは
「アストゥリアス皇太子賞(Premios Princesa de Asturias)」は、現在のスペイン国王フェリペ6世が皇太子だった1980年に、皇太子の称号を冠して設立されたアストゥリアス皇太子財団(Fundación Príncipe de Asturias)により創設され、「コミュニケーションおよびヒューマニズム部門(Premio Príncipe de Asturias de Comunicación y Humanidades)」、「社会科学部門(Premio Príncipe de Asturias de Ciencias Sociales)」、「芸術部門(Premio Príncipe de Asturias de las Artes)」、「文学部門(Premio Príncipe de Asturias de las Letras)」、「学術・技術研究部門(Premio Príncipe de Asturias de Investigación Científica y Técnica)」、「国際協力部門(Premio Príncipe de Asturias de Cooperación Internacional)」、「共存共栄部門(Premio Príncipe de Asturias de la Concordia)」、「スポーツ部門(Premio Príncipe de Asturias de los Deportes)」の8部門の賞があります。
今回の文学部門での村上春樹氏の授賞に際しては審査員全員一致で決まり、授賞理由について、日本の伝統と西洋文化の遺産を野心的かつ革新的な叙述で調和させ、独自の文学を持ち、世界的に受け入れられている作家だと位置づけたうえで、その作品は、孤独や存在不安、都市の非人間化、テロといった現代の重要な主題や困難を表現することに成功し、全く異なる世代にまで受け入れられていると述べています。そして、最後に現代文学における現代文学における主要な長距離ランナーの一人だ、とたたえました。
スペイン語ですが、アストゥリアス皇太子財団(Fundación Príncipe de Asturias)の公式サイトにこの授賞について詳しくでています。興味のある方はどうぞ。
https://www.fpa.es/es/premios-princesa-de-asturias/premiados/2023-haruki-murakami.html
文学部門での日本人受賞は初めてですが、作家村上春樹氏はスペインでも人気が高い日本人作家のひとりです。既に24冊の本がスペイン語に翻訳されています。新刊「街とその不確かな壁」も来年の春にはスペインでも出版される予定です。
これまでの日本人受賞者
ちなみに、この「アストゥリアス皇太子賞」の日本人の受賞者は想像以上にいました。現在までの受賞者の皆さんは次の通りです。
1.国際協力部門(Premio Príncipe de Asturias de Cooperación Internacional)で、1999年に宇宙飛行士の向井千秋氏が日本人として初めて、米国やロシアなどの宇宙飛行士3人と共に受賞されました。
2.学術・技術研究部門(Premio Príncipe de Asturias de Investigación Científica y Técnica)で、2008年に物理学者でもあり化学者でもある飯島澄男氏が、アメリカの中村修二氏をはじめとするアメリカ人学者4人と共に受賞されました。
3.共存共栄部門(Premio Príncipe de Asturias de la Concordia)で、2011年に福島第一原子力発電所事故の対応に当たったフクシマ50(消防士、自衛官、警察官、作業員)の方々が受賞されました。また、同じ部門では、2022 年には建築家の坂茂氏が受賞されました。
4.コミュニケーションおよびヒューマニズム部門(Premio Príncipe de Asturias de Comunicación y Humanidades)では、2012年に任天堂株式会社代表取締役フェローの宮本茂氏が受賞されました。
去年2022年に、建築家の坂茂氏が受賞されていたので、2年連続の日本人受賞の快挙ですね。坂茂氏も、スペインで有名な方です。
今でも鮮明に記憶にあるのが、福島第一原発の事故で放水作業や住民の避難誘導に当たった、自衛隊と警察、消防の部隊フクシマ50の方々に送られた2011年の共存共栄部門(Premio Príncipe de Asturias de la Concordia)です。その時のフクシマ50のスペイン語名称は、「フクシマの英雄たち(Héroes de Fukushima)」というものでした。
授賞の理由として、「津波によって引き起こされた原子力災害による壊滅的な影響の拡大を、その決断が自分達の生命に深刻な影響を及ぼすことをも顧みず、自己犠牲によって防ごうとした、人間として最高の価値観と勇気を体現した人たち-フクシマの英雄たち」と褒め称えました。
授賞理由を聞いた際、胸が熱くなり涙が出たのを今も思い出します。
スペイン語ですが、この受賞についてもっと知りたい方はこちらをどうぞ。
最後に
さて、スペイン語を勉強している皆さん、またはスペイン語をご存じの方は、この「アストゥリアス皇太子賞(Premios Princesa de Asturias)」を見て、疑問に思われたことと思います。というのも、スペイン語の「Premios Princesa de Asturias」を日本語に訳すと、実は、「アストゥリアス皇太子賞」ではなく、「アストゥリアス王女賞」となるからです。
アストゥリアス皇太子財団(Fundación Príncipe de Asturias)の名称は現在、アストゥリアス王女財団(Fundación Princesa de Asturias)と改称されています。何故なら、2014年に皇太子から国王フェリペ6世として即位されたことにより、長子である王女レオノールがアストゥリアス公を継承しました。そのため、現在の名称は「アストゥリアス女王財団(Fundación Princesa de Asturias)」となったという訳です。本来ならば、「アストゥリアス皇太子賞」ではなく、「アストゥリアス王女賞」とするべきですが、日本の報道機関で使われている従来の「アストゥリアス皇太子賞」という名前でこのブログの記事も統一しています。
補足すると、スペイン王家が持つこのアストゥリアス公の称号は、1388年、カスティーリャ王フアン1世が王位継承者を指定するためにアストゥリアス王子の称号を創設したことに端を発したものです。それから600年以上も続くスペイン王家の由緒正しい称号なのです。