ブルゴス県のロマネスクを訪ねて
今回、カステーリャ・イ・レオン州のブルゴス県にあるロマネスク巡りの旅に2泊3日で行ってきた。代表的なロマネスク建築だけではなく、まるで忘れられたような小さな村にひっそりと建てられているロマネスク建築や今も村の教会として活躍しているロマネスク建築、スペインのブルゴス県特有(ロマネスク建築が建てられた当時はブルゴス県という概念はなかったが・・・)のロマネスク建築も含めた多くのロマネスク建築を見ることができた。
サント・ドミンゴ・デ・シロス(Santo Domingo de Silos)からピネダ・デ・ラ・シエラ(Pineda de la Sierra)まで
第1日目に訪れたロマネスク建築は次の通り。7ヶ所のロマネスク建築を見ることができた。
・サント・ドミンゴ・デ・シロス修道院 (Monasterio de Santo Domingo de Silos)
11世紀から12世紀末に造られたロマネスク回廊の傑作。長方形の回廊には、北側と南側に16のアーチが、東側と西側に14のアーチがある。回廊の角にある浅浮き彫りの中でも、大天使ガブリエルによる「聖母マリアへの受胎告知(La anunciación a María)」は特に名作として有名。これは12世紀末のものだ。また、「エッサイの木(El árbol de Jesé)」と呼ばれるイエス・キリストの祖先の芸術の描写も逸品。ロマネスク建築にあまり興味のない人でも、この回廊の素晴らしさには心打たれるものがある。また、ここの修道士達が歌うヨーロッパ音楽最古と呼ばれるグレゴリオ聖歌は有名で、日本でもCDが売られているので、聞いたことがある人もいるだろう。
浅浮き彫りについてもっと知りたい方はこちらへどうぞ。
・サンタ・セシリア礼拝堂 (Ermita de Santa Cecilia)
サント・ドミンゴ・デ・シロス修道院の修道士から訪れることを薦められた礼拝堂。音楽の守護聖人として知られる聖セシリアに捧げられている。9世紀末から10世紀初頭に造られたもので、イベリア半島に現存する21あるモサラべ様式の教会・礼拝堂の一つである。光が入るように作られたギリシャ十字は、この辺りでは珍しい。
・サン・ペドロ・デ・アルランサ修道院 (Monasterio de San Pedro de Arlanza)
912年に設立されたサン・ペドロ・デ・アルランサ修道院は今は廃墟となっているが、スペインの重要文化財(Bien de Interés Cultural)に指定されている。11世紀後半にロマネスク建築として建てられ、3つの身廊(三廊式)、3つの後陣(アプス)から成っていた。
サン・ペドロ・デ・アルランサ修道院についてもっと知りたい方はこちらへどうぞ。
・ハラミ―ジョ・デ・ラ・フエンテの聖母被昇天教会 (Iglesia de la Asunción de Nuestra Señora de Jaramillo de la Fuente)
デマンダ山脈地域にあるハラミ―ジョ・デ・ラ・フエンテの聖母被昇天教会も重要文化財に指定されている。12世紀に建てられたロマネスク建築部分は、塔、後陣(アプス)、柱廊のある入口(ギャラリー)だが、全体として調和のとれた美しいロマネスクの教会の一つである。
ハラミ―ジョ・デ・ラ・フエンテ教会についてもっと知りたい方はこちらへどうぞ。
・ビスカイノス・デ・ラ・シエラのサン・マルティン・デ・トゥール教会 (Iglesia de San Martín de Tours de Vizcaínos de la Sierra)
12世紀に建てられたロマネスク様式ビスカイノス・デ・ラ・シエラ村のサン・マルティン・デ・トゥール教会は、少なくとも外観は完全なロマネスク建築で保存状態もとても良い。颯爽とした外観は、この辺りのデマンダ山脈地域で多くみられるロマネスク建築の特徴の一つである。
サン・マルティン・デ・トゥール教会についてもっと知りたい方はこちらへどうぞ。
・ピネダ・デ・ラ・シエラのサン・エステバン・プロトマルティル教会 (Iglesia de San Esteban Protomártir de Pineda de la Sierra)
12世紀から13世紀にかけてに建てられたロマネスク様式。 柱廊のある入口(ギャラリー)は、重要かつ豪華なものの一つであり、前述のサント・ドミンゴ・デ・シロス修道院の回廊の影響を受けている。
ピネダ・デ・ラ・シエラのサン・エステバン・プロトマルティル・デ教会についてもっと知りたい方はこちらへどうぞ。
・オジュエロス・デ・シエラ教会 (Iglesia de Hoyuelos de sierra)
デマンダ山脈地域にあるロマネスク建築の教会。柱頭に施された鳥、動物、アルピア等の彫の図柄から、 サント・ドミンゴ・デ・シロス修道院の影響を受けていると考えられている。
モナステリオ・デ・ロディ―ジャ(Monasterio de Rodilla)からミニョン・デ・サンティバニェス(Miñon de Santibáñez)まで
第2日目に訪れたロマネスク建築は次の通り。9ヵ所のロマネスク建築を見ることができた。
・モナステリオ・デ・ロディ―ジャ礼拝堂 (Ermita de Nuestra Señora del Valle de Monasterio de Rodilla)
12世紀に造られたこの礼拝堂は、スペインにおけるバシリカ型ロマネスク建築の教会の最も優れた一例だと言われている。保存状態も良く、改築や異なる様式による追加建築もない純粋なロマネスク建築である。また、ユネスコの文化遺産にも指定され、スペインの重要文化財でもある。
モナステリオ・デ・ロディ―ジャ礼拝堂 (Ermita de Nuestra Señora del Valle de Monasterio de Rodilla) についてもっと知りたい方は、こちらもどうぞ。
・サン・ニコラス・デ・エル・アルミニェ教会 (Iglesia de San Nicolás de El Almiñé)
小さな村の教会として今もミサが行われているサン・ニコラス教会は12世紀に建てられ、ロマネスク、ゴシック、バロック様式等が見られる。ロマネスク建築は塔部分で、エル・アルミニェ村のすぐ近くにあるテハダ村のサン・ペドロ教会の模倣が見られ、この地方特有の「ウシ―ジャ(Usilla)」と呼ばれる塔に上るための円柱形の螺旋階段がある。
・サン・ペドロ・デ・テハダ教会 (Iglesia de San Pedro de Tejada)
12世紀に建てられたロマネスクの教会で、ブルゴス県のなかでも保存状態の良い純粋なロマネスク様式として重要なものの一つである。珍しいことに個人の所有物だが、決められた時間であれば料金を支払い教会の中に入ることができる。周りの景色と融合して建つその様は、印象的だった。
サン・ペドロ・デ・テハダ教会については、こちらも読んでみてください。
・大天使サン・ミゲル・デ・バルデノセダ教会(Iglesia de San Miguel Arcángel de Valdenoceda)
前述のサン・ニコラス・デ・エル・アルミニェ教会 (Iglesia de San Nicolás de El Almiñé) とサン・ペドロ・デ・テハダ修道院 (San Pedro de Tejada)と共にバルディエルソ盆地にあるロマネスク様式の教会の一つ。 テハダ村のサン・ペドロ教会の模倣が見られ、この地方特有の「ウシ―ジャ(Usilla)」と呼ばれる塔に上るための円柱形の螺旋階段があり、翼のあるライオン(マルコ)、天使(マタイ)の姿が見える。これは、テトラモルフォと呼ばれる新約聖書の4福音書記者を象徴するもので、鷲(ヨハネ)と雄牛(ルカ)は失われていた。
・アエダ・デル・ブトロンの聖母の被昇天教会 (Iglesia de Nuestra Señora de la Asunción de Ahedo del Butrón)
細い田舎道を車でしばらく走っていくとようやくこのアエダ・デル・ブトロン村に着いた。12世紀に造られたロマネスク様式部分は玄関部分のみで、その他は16世紀に改築されたルネッサンス様式の教会である。しかし、タンパンに彫られた東方三博士の礼拝 (Adoración de los Magos)は、必見の価値あり。
アエダ・デル・ブトロン村の聖母の被昇天教会にあるについては、こちらも読んでみてください。
・ビルヘン・デ・ラ・オリーバ・デ・エスコバード・デ・アバホ礼拝堂 (Ermita de la Virgen de la Oliva de Escobado de Abajo)
12世紀に建設され、18世紀に拡張工事が行われた。ロマネスク様式の様々なモチーフで飾られた持ち送りは、植物や動物、幾何学模様、人間の半身像、空想上の獣などを見ることができる。
・サン・エステバン・プロトマルティル・デ・モラディジョ・デ・セダノの教会 (Iglesia de San Esteban Protomártir de Moradillo de Sedano)
運よく教会の内部まで見せてもらった。12世紀に造られた玄関のテンパンは覆われているので外から見えなかったが、中に入って見せてもらうと保存状態の良いロマネスク様式の タンパンが現れた。建設当初に多色装飾した色が薄っすらと残っている部分さえあった。 タンパンと内部にあるジグザク形の柱身は必見。
サン・エステバン・プロトマルティル・デ・モラディジョ・デ・セダノの教会の内部を知りたい方はこちらをどうぞ。
・サン・ペド・イ・サン・パブロ・デ・グレディージョ・デ・セダノ教会 ( Iglesia de San Pedro y San Pablo de Gredillo de Sedano)
12世紀末に建築されたろロマネスク様式。タンパンには、聖母戴冠 (Coronación de la Virgen)の浅浮き彫りがあるが、残念ながらマリアの頭部は後から取って付けたようで違和感を覚えた。しかし、神々しいマリアの隣で、まるで自分は関係ない者のようにうとうととしているヨセフの姿は印象的だった。
・サン・ペドロ・デ・ミニョン・デ・サンティバニェス教会 (Iglesia de San Pedro de Miñon de Santibáñez)
スペインの重要文化財の一つ。12世紀末から13世紀初頭にかけて造られたこの教会の入口にある浅浮き彫りには驚かされた。まるで、「千と千尋の神隠し」に出てくるような漫画チックでユーモラスな顔のものが多く、またソディアック・サインと思われる「射手座」や「乙女座」等が見れるのは興味深い。
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