12月に入りました。今年もCOVID-19の影響で一体どんなクリスマスとなるのか。スペインではワクチン接種が進み(接種率約80%)、皆楽しみにしていたクリスマス。オミクロン株のせいで今年もいつものような楽しいクリスマスが過ごせないのではないかと気をもんでいます。
スペインの人たちにとってはクリスマスは特別な時期です。家族や遠く離れた友人が地元に里帰りしてきて再会したり、子供たちはサンタクロースや三賢王(マギ)に頼むプレゼントのリストを手紙にして送ったりと、本当に賑やかな時期です。
スペインのクリスマスを、「マラソン・クリスマス」と私は呼んでいます。というのも、12月24日のクリスマス・イブから1月6日の東方三賢王の日まで、2週間くらいずーとクリスマスの行事が続くからです。12月24日イブの夜の夕食会、25日の昼食会、12月31日大晦日の夕食会とパーティー、1月1日のお正月の昼食会、1月6日の朝には三賢王のプレゼントを開け、その後昼食会や夕食会があります。とにかく、家族や友人同士で集まる機会がやたらと多く、そのたびに飲んだり食べたりと、胃腸にとってもかなりハードな時期になります。
去年のクリスマスは、移動制限、人数制限などもあり、寂しいクリスマスでしたが、今年は無事に皆でお祝いできることを祈りながら、今回は、クリスマス、キリスト誕生にちなむロマネスクの装飾を紹介していきます。
受胎告知(La Anunciación )
「受胎告知」とは、新約聖書に書かれているエピソードの1つで、処女マリアに天使ガブリエルが訪れ、マリアが聖霊によってイエスを懐妊したことを知らせる場面です。そして、マリアがその神の意志を受け入れることを告げる出来事です。
フラ・アンジェリコやレオナルド・ダ・ビンチ等が描いた「受胎告知」の絵は有名ですね。
これは、レオン市にあるサン・イシドロ王立参事会教会(11世紀)の天井画にある「受胎告知」の場面です。
まるで驚きためらうマリアに対し、天使ガブリエルは笑みをたたえ明るい表情で未来の救世主の懐妊を告げるこの天井画は、二人の対照的でとても人間的な豊かな心情の表現に惹かれます。まるで、マリアは告げられた内容があまりのことに怖気づいて逃げ腰になっているようです。マリアは、両手を大きく広げ驚いたような仕草に見えますが、これは、11世紀から見られるようになった神を讃える祈りのポーズで、オランス(ORANS)というそうです。(「キリスト教美術を楽しむ 新約聖書編 受胎告知1」金沢百枝 より)
こちらは、「受胎告知」と「天の女王」である聖母マリアが神から冠を授けられた「聖母戴冠」を同じ場面の中に描いています。 ブルゴス県にあるサント・ドミンゴ・デ・シロス修道院の回廊にある浅浮き彫りの一つです。
ロマネスク美術の中でもゴシック様式初期に当たる12世紀末に造られたものですが、こちらは天使ガブリエルが跪いてマリアに告げ知らせるというポーズになっています。「聖母戴冠」の場面も兼ねているせいか、マリアは堂々としていて、ちょっと上から視線に見えるのは、私の気のせいでしょうか。
羊飼いへのお告げ (El Anuncio a los Pastores)
救い主イエスが誕生したことを真っ先に知らされたのがこの羊飼いたちでした。ベツレヘムの町で救い主が生まれたと告げられ、幼子イエスを探しに行き、マリア、ホセ、そしてイエスを探し出します。
この絵は、 レオン市にあるサン・イシドロ王立参事会教会(11世紀)の天井画にある「羊飼いへのお告げ」の場面です。
パンフルートのような笛を吹いている羊飼い、角笛を吹く羊飼い、レオン・マスティフ犬に水を与える羊飼い、誕生を告げる天使、羊、山羊、牛などの動物、そして植物が描かれています。パンフルートのような笛を吹く羊飼いと、天使の服の襞、そしてカーブした草がこの天井画全体に動きを感じさせ、動物たちの姿が生き生きと描かれ、その表情はそれぞれ異なっています。上部に描かれている3頭の牛たちのちょっとキョトンとした顔つきが笑いを誘います。そして何よりも、牧歌的でのんびりとした雰囲気が伝わってきます。
キリスト誕生(El nacimiento de Jesus)と東方三賢王の礼拝(La adoración de los Tres Reyes Magos)
幼子イエスが生まれると、東方でユダヤ人の王として生まれたイエスの星を見た3人の賢王がヘロデ王のもとに行き、幼子がどこにいるのか尋ねました。ヘロデ王は祭司長や律法学者を集めてそのユダヤ人の王となる子がどこで生またかを問いただします。そして彼らはベツレヘムでその子供が生まれたと答えました。そこで3人の賢王たちが幼子イエスを探しに出かけると、星が彼らを導き、イエスの居る場所で星が止まりました。賢王たちはイエスが生まれた馬小屋に入り、幼子イエスを拝み、捧げものを送りました。その場面が「東方三賢王の礼拝」と呼ばれるものです。
こちらは、ブルゴス県のアエド・デ・ブトロン村にある聖母の被昇天教会(12世紀)の入口のタンパンに彫られている「東方三賢王の礼拝」場面です。
マリアの膝に座るイエスは、東方三賢王の一人とまるで何か話しているよう。マリアは誇らしげに堂々としますが、面白いのがヨゼフ。ヨゼフは肘を膝についてまるで居眠りしているようです。素晴らしいのは、東方三賢王の礼拝に花を添える楽士たち。一人一人の楽器を眺めていると、まるで幼子イエスを讃える宗教音楽が聞こえてきそうです。
最後に、ロマネスク美術ではないのですが、珍しいキリスト誕生の場面があったので紹介します。
この珍しいキリスト誕生場面は、パレンシア県ポサンコス村のロマネスク様式の教会エル・サルバドール教会の中にあったものですが、なんと、主役である幼子イエス不在!!のキリスト誕生場面なのです。説明してくださったガイドさんによると、幼子イエスが長い歳月の中で失われてしまった可能性もあるけれど、幼子イエスがいたであろう場所の破損等がないことから、もしかしたら最初から幼子イエスは不在だった可能性もありますとのこと。
左上には幼子イエスを寝かせるベットを天使が運んできています。中央上にはあの幼児虐殺で有名なヘロデ王がイエスの誕生を盗み見しています。ヘロデ王が出るキリスト誕生場面も珍しいものです。
日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、スペインではクリスマスをモチーフにした美術品は多数あります。今回はロマネスク様式のものを紹介しましたが、時代が変わると同じモチーフでも少々異なるものもあり、その違いを見分けたりするのは楽しみの一つです。自分の美術の楽しみ方を見つけてることも旅の喜びの一つでしょう。
参考
・金沢百枝氏が綴る「キリスト教美術を楽しむ 新約聖書編」というブログ。とても興味深いブログです。興味のある方は、是非一読されることをお薦めします。
https://www.kogei-seika.jp/blog/kanazawa/001.html
・同じ金沢百枝氏著書に、『ロマネスク美術革命』(新潮社)があります。これもお薦めの本です。
・スペインロマネスク美術のキリスト誕生場面にまつわるビデオ。
EL NACIMIENTO DE JESÚS DE NAZARET. EL CICLO DE LA NAVIDAD ROMÁNICA – YouTube
コメントを残す