スペイン名ドュルセ・デ・メンブリージョ(Dulce de Membrillo)は、マルメロのジャムを煮詰めてかため羊羹のようにしたスペイン・ポルトガル特産の甘い保存食です。メンブリージョは、日本ではマルメロと呼ばれる果物です。渋みが強いので生で食することはできませんが、砂糖で煮て美味しいジャムまたはお菓子になります。実はこのお菓子、17世紀(1634年)に長崎に渡ってきました。そして、日本では「かせいた」と呼ばれるようになりました。なんでも、ポルトガル語の名前であるCaixa da Marmelada(カイシャ・ダ・マルメラーダ)から”カセイタ”という名前が生まれたと言われています。ちなみにCaixa da Marmeladaは、「マルメラーダの箱」という意味です。スペインのドュルセ・デ・メンブリージョ(Dulce de Membrillo)が日本の羊羹のように長方形の形をしていることを鑑みると、「箱型のマルメロ菓子」とでもいう意味だったのでしょう。
この「かせいた」というお菓子、肥後細川家の初代細川忠興が気に入り、徳川幕府や京都の公卿たちへの献上品として用いられたとのことです。以後、肥後藩主細川家は「かせいた」を毎年4月に幕府へ献上し、この習わしは幕末まで継続されたそうです。そして、江戸時代から戦前まで現熊本県宇土市走潟町の現浜戸川河岸段丘地に、「かせいた」の原材料として使われていたマルメロが栽培され、肥後藩の貴重な献上品として「かせいた」を製造していたということ。
スペイン国内どこにでもあるごく普通の、全く飾り気のない庶民の食べ物が、日本、熊本に渡り、徳川幕府や京都の公卿たちへの献上品という上級社会の限られた人たちのみが食することができる特別な食べ物となり、まるで肥後細川ブランド品ともいえる高級な食べ物に変わったことに、好奇心をそそられます。
日本にポルトガル人がはじめて漂流したのが、1543年。そして、1580年から1640年までは、スペイン王がポルトガル王を兼ねる同君連合が成立していたので、1634年に「かせいた」がポルトガル人によって日本にもたらされたときは、正しくスペインとポルトガルがお互いに影響しあっていた時期です。
スペイン・ポルトガル人はその後日本国内から追放されますが、彼らが残したこの甘い食べ物は幕末まで200年以上「かせいた」として生き残り、当時の重要人物たちが喜んで食べていたことやお茶の際のお菓子として重宝がられたこと等を想像し、きっとその200年の間に「かせいた」の原型である「ドュルセ・デ・メンブリージョ」のことやポルトガル・スペイン人のことはすっかり忘れられていたのだろうな、などと色んなことに思いをはせることは興味深いものです。
実は、今から10年ほど前に熊本城内の城彩苑にある熊本城ミュージアムを訪れた際、スペインでよく食べ親しんでいたドュルセ・デ・メンブリージョ(Dulce de Membrillo)にそっくりなお菓子が展示されていることに気づき、ビックリして説明を読み、調べてみてこのことを知りました。カステラが、ポルトガル人たちによって「カスティージャ地方のお菓子」と呼ばれていたスペインのお菓子だということは結構知られていますが、この「かせいた」については全く初耳だったので驚いたのを覚えています。
さて、この「かせいた」は、明治以降すっかり忘れられていましたが、現在は細川家秘伝の銘菓を復元するという目的で、「加勢伊多」という名前で復活し、熊本市水前寺成趣園内にある古今伝授之間と隣接する茶屋で有料にて味わうことができます。最中の皮で薄く切った濃厚なジャムを挟んであり、上品なお菓子になっていました。ちなみに、マルメロとは言いますが、熊本ではすでに藩御用のマルメロ栽培は無くなったので、原料はカリンだそうです。
もしスペインにいらっしゃることがあれば、ぜひこのドュルセ・デ・メンブリージョ(Dulce de Membrillo)をご賞味ください。真空パック入りのものもスーパーなどで手軽に購入できるので、お土産にも喜ばれると思いますよ。お土産にされる際、是非肥後細川藩の「かせいた」のお話をされると更に話に花が咲くこと間違いなしです!
ここでは、ドュルセ・デ・メンブリージョ(Dulce de Membrillo)のスペイン版のレシピを紹介します。
ドュルセ・デ・メンブリージョ(Dulce de Membrillo)
材料
・マルメロ(なければカリン) 1㎏(正味)
・砂糖 1㎏
・レモン汁 1個分
作り方
1、マルメロの皮をむき芯をとり、ザクザク小さく切る。
2、鍋に1のマルメロと、砂糖、レモン汁、水をヒタヒタに入れる。最初は強火で、煮立ったら中弱火でマルメロが柔らかくなるまで約15分ほど煮る。水分が多いようであれば、水分をきる。
3、2のマルメロをミキサーにかける。
4、ここで砂糖を入れ、もう一度火にかける。弱火で約一時間ほど時々かき混ぜながら煮詰める。
5、モッタリした感じになり、キャラメル色に近い色になったら火を消す。
6、熱いうちに長細い型に入れて、そのまま冷やす。冷えたら固まるので、好みの厚さに切ってパンに乗せたり、チーズと一緒に食べる。
スペイン式の食べ方は、チーズを切ってその上にのせて食べます。カナッペの上にチーズと一緒に乗せると美味!単にパンに塗って食べても美味しいですよ。
切って容器に入れ、冷凍することもできます。是非、このスペインと日本の出会いの物語ある「かせいた」を作ってみてくださいね。
江戸時代の徳川幕府の面々や京都の公卿のみが食べられた肥後細川ブランド品の原型「ドュルセ・デ・メンブリージョ」(Dulce de Membrillo)を是非お試しください!
追記
この南蛮菓子の日本版「かせいた」についての動画があります。現在唯一、「かせいた」の由緒正しい技術を継承されてご自身で作られ、お茶会でお茶菓子として出されている茶道の村上美枝子先生にインタビューした貴重な動画です。雅美な菓子として復刻したこの「かせいた」についてのいきさつなども興味深いものです。是非、ご覧ください。
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