スペイン西北部にあるガリシア州のア・コルーニャに行ってきた。大西洋沿いでローマ時代の灯台「ヘラクレスの塔」がある街。マリーナ通りは海が見える海岸沿いの通りで、海風が気持ちよく散歩するにはもってこいの通りだ。
今回は、ア・コルーニャの中でも最も古い教会であり、1972年以来文化財に指定されているサンティアゴ教会(Iglesia de Santiago)を紹介する。
教会の歴史
ヴァイキングによるノルマン人の襲撃によって、ローマ時代以前からこの地に存在していたケルト人の居住地の全部または一部分から住民が減っていったことがわかっている。(arteguias より)
そして、12世紀から13世紀の頭にこのロマネスク様式の教会が建てられた。しかし、度々の火事に見舞われ何度も改修・改造工事が行われたため、ゴシック様式等、その時々の様式に建て替えられた。
1521年当時、この教会には2つの塔があり、一方には鐘と時計が、もう一方には証書、火薬、弾薬、その他市に属するものが保管されていた。サンティアゴ教会の役割は宗教的なものだけでなく、少なくとも1380年から市庁舎が建設される15世紀までは、その玄関の広間で議会が開かれていた。(Galicia Pueblo a Pueblo より)
元々は、海路で巡礼地サンティアゴ・デ・コンポステーラを訪れた巡礼者達に捧げられた教会だった。
三廊から成るロマネスク様式の教会
ア・コルーニャから70km程離れたサンティアゴ・デ・コンポステーラは、キリストの12人の弟子の一人聖ヤコブの墓がある巡礼地であることから、この教会が建設された当時、多くの巡礼者が訪れていた。そして「コンポステーラ派(Escuela Compostelana)筆者訳」と呼ばれる人たちの手によって、ア・コルーニャのサンティアゴ教会は造られた。
建設された当時は三廊から成るロマネスク様式の教会だったが、15世紀には、スペインのロマネスク教会で多く見られたように、教会を3つの身廊で連結していたアーチと柱を取り除き、1つの大きな身廊にすることが決定され、現在の様な教会内部になっている。
しかし、教会から出て外から教会の後陣を見てみると、ロマネスク様式時代の姿が残存している。
持ち送りには、動物の頭や人間をモチーフにした具象的なものが残っている。そのうちの一つに保存状態の良い人間の頭部が彫られているが、ドリオと呼ばれた空気の塊を振動させることによって音を出す気鳴楽器を吹いている姿が見られる。このドリオは、中世時代にイベリア半島北部、特にガリシア地方で使用されていたが、その後使われなくなった楽器である。音の高低を変化させるシステムが無かったので、ドリオは短期間のみで使用され、その後は別の楽器、例えばガイタとよばれるガリシア・バグパイプに取って代わられていったという。(ウィキペディア参照)
ロマネスク様式の北側の扉口
何度も改装・増築が行われたにもかかわらず、北側の扉口は元のままの純粋なロマネスク様式である。
下の写真でも見えるように、二つのアーキボルトにはまるで沢山の指輪を通しているかのように環状に飾られた植物の葉が特徴的な装飾と、4枚の花弁がある大きな花の装飾とが施されており、とても印象的である。
もう少しアップで見てみよう。700年以上風雪にさらされながらも、ほぼ当時のままの姿を見れることに感謝したくなるような美しい模様だ。
神秘の神の子羊「Agnus Dei(アニュス・デイ)」
この北側の扉口には、「神の子羊(アニュス・デイ)」が施されている。これは、ロマネスク様式によくみられる図像であるが、人間の罪に対する贖いとして、イエスが生贄の役割を果たすことを踏まえて、イエスを子羊として描いた視覚的表象である。
興味深いのは、子羊の両側に施された二つの大輪の花。神秘の神の子羊の脇には、それぞれ7枚と12枚の花弁を持つ2つの花がある。何故花びらの数が異なる2つの花が施されているのかは調べてみても分からなかった。
正門について
西側の正門はゴシック様式である。14世紀末のバラ窓とサンティアゴが描かれたタンパンがある。先が尖ったアーキボルトはゴシックの特徴の一つである。
柱頭にはロマネスクの伝統を図像的に継承しており、旧約聖書に書かれている「イサクのいけにえ」と「ライオンの穴に投げ込まれたダニエル」が彫られている。「ライオンの穴に投げ込まれたダニエル」と同じ場面中に、「天使に担がれたハバクク」も描かれている。
ハバククはユダヤの預言者とされ、バビロンのライオンの洞窟にいるダニエルのために天使に担がれて食事を届けたと言われ、ロマネスク以降の美術の世界でも「ライオンの穴に投げ込まれたダニエル」と「天使とハバクク」は対で描かれていることが多いようだ。ローマのサンタ・マリア・デル・ポポロ教会にあるバロック様式のベルニーニの作品で、この二つのモチーフの彫刻があり有名である。
興味深いのは入口の両脇に、12使徒の聖ヤコブ(左側)と福音記者聖ヨハネ(右側)の像が施されていることだろう。
そしてタンパンには、13世紀から15世紀に施された馬に乗った聖ヤコブの浮彫がある。
聖ヤコブの頭上のアーキボルトには、黙示録の24人の長老の姿が描かれていると言われているが、全ての人達に翼があるので天使の聖歌隊ではないかとも言われている。
教会内部
教会に入るとすぐに目を引くのが巡礼者の格好をしたイエスの12使徒の一人聖ヤコブの彫刻である。
これは、14世紀に石で作られたもので多色装飾されている。
教会内の柱頭にはロマネスク時代の典型的な古風な動物が描かれているが、全てゴシック時代のものである。
もう一つ目を引いたのが17世紀の説教壇。説教壇を支える部分には人魚が4人描かれている。アルベルト・ガルシア・ロルダン氏(Alberto García Roldán)のブログサイト「GALICIA PUEBLO A PUEBLO」によると、この人魚の2人は女性であるが、もう2人は男性の人魚だそうだ。男性の人魚は初めて見たので驚きであった。
最後に
後で知ったことだが、この教会にはスペインで唯一、身ごもった聖母の彫刻と、赤ん坊のイエスに授乳する彫刻の両方がある教会で、芸術的価値が高い(ウィキペディア参照)と言われている。赤ん坊のイエスに授乳する彫刻は17世紀のものらしい。
何世紀のものかは分からなかったが、半円アーチの模式的な柱を持つ小さな洗礼盤も保存されている。前述のアルベルト・ガルシア・ロルダン氏によると洗礼式を行う際に今も使用されているとのこと。
今も多くの人が訪れ、ミサも行われている活躍中の教会の一つである。ロマネスクからゴシックへ、更にバロック等の彫刻も残存し、様式は変化しながら今も地元の人々に愛されている。ロマネスクの教会は、ともすれば忘れ去られてしまったり、教会がある所にもう人が住んでいない場合も多い。そういう中で、ア・コルーニャで一番古い教会でありながらも今も教会として、人々の心の支柱として活躍しているサンティアゴ教会は幸せな教会であると感じた。
参考
・サンティアゴ教会の住所・電話番号・時間帯等の情報サイト
・「アルテギア」というロマネスクに関するサイト。
https://www.arteguias.com/monumentos/iglesia-santiago-coruna.htm
・本ブログで紹介したアルベルト・ガルシア・ロルダン氏(Alberto García Roldán)のブログサイト「GALICIA PUEBLO A PUEBLO」
https://galiciapuebloapueblo.blogspot.com/2015/05/iglesia-de-santiago-coruna.html