観察日: 2023年6月11日
スペインではないのですが、番外編として3回シリーズで、英国最北端に位置するシェットランド諸島でのバードウォッチングについて紹介しています。
シェットランド諸島バードウォッチングの旅、最終回はシェットランド諸島のメインランド島(Mainland island)とマウサ島(Mousa island) です。
スピギー湖 (Loch of Spiggie) & スピギー海岸 (Spiggie Beach)
スピギー湖 (Loch of Spiggie)は、野生生物保護の目的で特別保護地区および特別科学関心地区に指定されています。英国王立鳥類保護協会 (RSPB) のウエブサイトとによると、秋から冬にかけてはオオハクチョウ (Cisne cantor)、コガモ (Cerceta común)、ヒドリガモ (Silbón europeo) が、春から夏にかけてはキョクアジサシ (Charrán ártico)、キタオオトウゾクカモメ (Págalo grande)、キンクロハジロ(Porrón moñudo)、マガモ (Ánade azulón) が湖で見られ、沼地では様々な渉禽類が見られると紹介されています。
ハイドに入ってスピギー湖を眺めるとすぐにコブハクチョウ(Cisne vulgar)が見えました。
英国王立鳥類保護協会 (RSPB) のウエブサイトに紹介されていたキョクアジサシ(Charrán ártico)もいました。
ハイドの横にあった草むらでは、マキバタヒバリ(Bisbita pratense)が上手に虫を捕っている姿を観察できました。
残念ながらキタオオトウゾクカモメ (Págalo grande)、キンクロハジロ (Porrón moñudo)はいませんでした。
その後、スピギー湖と反対側に歩いていきスピギー・ビーチに着きました。とても清澄な海が広がっていて、私がこれまで見てきた海岸の中でもかなり気に入ったものの一つとなりました。海の色が薄く、透明感が強く、清涼な空気も手伝い、日本の海ともスペインの海とも印象が異なっていました。双眼鏡をのぞいてみると、向こう岸に20頭ほどのアザラシが浜辺で日向ぼっこしている姿が見えましたよ。
全く人けのない海辺で、キタオオトウゾクカモメ (Págalo grande) が水浴びをしていました。離れた場所から双眼鏡を通して観察していると、かなり長い時間をかけて水浴びをしていました。
時々、アジサシ(Charrán común)が海の上を飛んできては魚を捕まえようとしていました。
浜辺の岩肌には、フルマカモメ(Fulmar)たちの巣も沢山ありました。
海の水に手を入れてみて驚いたのは、思ったより海の水が冷たくないということ。スペイン北部の大西洋側の海の水の方がずっと冷たいなと思いました。海辺の岩に座り、飽きもせずいつまでも海を見ていて、この浜辺から離れがたい思いでした。
サンバラ岬(Sumburgh head)
前回もサンバラ岬(Sumburgh head)には行き、沢山のフルマカモメ(Fulmar)が目の前で、私の目線と同じ高さで飛んでいたのがとても印象的でした。今回も彼らは飛んでいましたが、数的にはかなり少なかったようです。やはり去年の鳥インフルエンザの災難がフルマカモメたちにも降りかかってきたのでしょうか。はっきりとしたことは分かりませんでした。
サンバラ岬(Sumburgh head)の駐車場で車をとめ、灯台まで歩いていく途中、海を見下ろしてみてびっくり!大きな岩の上にウミガラス(Arao común)のコロニーが!所狭しと無数のウミガラスたちがひしめき合っています。前回来たときは8月下旬ということもあり、殆ど姿を見ることができなかったウミガラスでしたが、今回は卵を孵化させているようです。面白いことに、ウミガラスはフルマカモメやパフィンのように巣作りはせず、岩の割れ目など卵が海に落ちていかない場所に卵を産み落としていました。
ウィキペディアによると、このウミガラスの卵は、他の鳥の卵に比べ一端が尖っている「セイヨウナシ型」と呼ばれている形状のもので、この形状だと転がってもその場で円を描くようにしか転がらないため、断崖から落ちにくいものだそうです。なるほど!と感心すると同時に安堵しました。
上の写真を見ていただくとお気づきになると思いますが、まるで白いサングラスをかけているようなウミガラスがいます。これは、大西洋などに分布する目の後ろ側に白い線の入ったウミガラスです。
サンバラ岬(Sumburgh head)は、パフィンのコロニーが見れる所でもあります。ただ、このブログの番外編の第1回で紹介したアンスト島(Unst island)にあるハーマネス国立自然保護区(Hermaness Natural Reserve)で見たようなパフィンのコロニーを見ることはできませんでした。そしてハーマネス国立自然保護区ほど近くでパフィンを見ることはできませんが、かなり近い距離で岩肌に居るパフィン達の姿を見ることができました。
その他、サンバラ岬で見れた鳥たちは次の通りです。
-ヨーロッパタヒバリ(学名:Anthus petrosus / 西:Bisbita costero)
-マキバタヒバリ(学名:Anthus pratensis / 西:Bisbita pratense)
-ヨーロッパヒメウ(学名:Gulosus aristotelis / 西:Cormorán moñudo)
-オオカモメ(学名:Larus marinus / 西:Gavión atlántico)
-ミツユビカモメ(学名:Rissa tridactyla / 西:Gaviota tridáctila)
-キバシヒワ(学名:Linaria flavirostris / 西:Pardillo piquigualdo)
プール・オブ・バーキー(Pool of Virkie)
サンバラ岬(Sumburgh head)のすぐ近くにプール・オブ・バーキー(Pool of Virkie)があります。サンバラには空港がありますが、滑走路を横切って!! プール・オブ・バーキーまで行きました。
ここは入江になっていて、サンバラ空港の滑走路の横に位置します。海辺の横には少し背の高い草地があり、鳥たちが巣を作るには格好の場所です。私たちが観察している間に、ダイシャクシギ(Zarapito real)が草むらから飛び立ち入江に降りてきました。
その他、プール・オブ・バーキーで見れた鳥たちは次の通りです。
-ハジロコチドリ(学名:Charadrius hiaticula / 西:Chorlitejo grande)
-アビ(学名:Gavia stellata / 西:Colimbo chico)
-ヨーロッパヒメウ(学名:Gulosus aristotelis / 西:Cormorán moñudo)
-ミユビシギ(学名:Calidris alba / 西:Correlimos tridáctilo)
-セグロカモメ(学名:Larus argentatus / 西:Gaviota argéntea europea)
マウサ島(Mausa island)
今回、夜にマウサ島(Mausa island)へ行き、ヒメウミツバメ (Paíño europeo) を見に行きました。
この島には、「モウサ島のブロッホ(Broch of Mousa)」と呼ばれる石組みの円形城塞形の塔があることでも有名です。ブロッホ(Broch)は、鉄器時代(紀元前700年~紀元200年)にスコットランド北部と西部に数多く作られていたものですが、「モウサ島のブロッホ(Broch of Mousa)」は、その中でも最も保存状態が良く最も大きいもので、高さ13メートルにも及びます。
ブロッホ(Broch)が何に使用されていたのかは未だに謎に包まれていて、研究者たちが様々な使用目的を指摘しています。捕虜たちの収容場所、島の有力者たちの富や権力を敵に見せ示すための建物、食料や薬の保存庫、共同の台所、また比較的最近の時代には密輸業者の秘密の貯蔵庫等々、様々な用途が想像されていますが、ハッキリとしたことは分かっていません。
夜10時半にメインランドを出発しましたが、こちらはまだ明るく島へ上陸した後もしばらくは光がありましたが、「モウサ島のブロッホ(Broch of Mousa)」に着くころにはもうかなり暗くなっていました。案内人は、所々で止まって島の歴史などの紹介をしてくれましたが、スコットランド訛りが強く理解するのに苦労しました。(笑)
彼が話してくれたモウサ島の面白い話の一つに次のような話がありました。18世紀のシェットランド、ある夫婦が暮らしていましたが、妻の方がアルコール依存症となり、夫はアルコールが簡単には手に入らないモウサ島へしばらく住むことで妻のアルコール依存症を治癒しようと考えました。ところが、モウサ島へやってきても妻の依存症はなかなかよくなりません。どうしたことかと不思議に思っていると、実はこの島にはアルコール密輸商人たちが沢山いたので、妻は彼らからアルコールを簡単に手に入れていたのです。ちなみに、19世紀からこの島には人は誰も住んでいません。
ヒメウミツバメ (Paíño europeo) は、この「モウサ島のブロッホ(Broch of Mousa)」の住人ならぬ住鳥のようです。円形の石組みの窪みや穴を利用して巣を作っていました。数多くのヒメウミツバメ (Paíño europeo) がブロッホ(Broch)の周りを飛び回っていましたが、私の顔をかすめていくヒメウミツバメ もいました。暗闇の中、いきなりすぐ近くを飛び回っているヒメウミツバメには驚かされました。
ブロッホ(Broch)の中にも入り、狭くて急な階段を上っていくと一番上に着きます。人がやっとすれ違うことができるくらいの円形状に沿ったスペースがあり、真ん中は下まで筒抜けです。ここでもヒメウミツバメたちがせわしく飛び回っていました。
ヒメウミツバメ (Paíño europeo) を実際にゆっくり観察することはかなり難しいものでした。というのも、日中は海に居てモウサ島には暗くなってから巣に戻ってきます。ただ、とにかくジッとしていない鳥たちで常に飛び回っているという感じです。巣の中に止まることは勿論ありますが、暗くなっているのでハッキリと見ることはできませんでした。残念ながら、写真は1枚も撮れませんでした。
「eBird」というサイトでは、ヒメウミツバメ (Paíño europeo) 写真やモウサ島で撮影した動画も投稿されていますので、ご覧ください。
https://ebird.org/species/eurstp1?siteLanguage=ja
ラーウィック (Lerwick)
シェットランド諸島の州都で港町です。17世紀にニシン漁のために建設され、現在も漁港として栄えています。有名な行事として、1月の最終火曜日に毎年開催されているバイキングの伝統を祝う火祭り「ウップヘリ―アー(Up-Helly-Aa)」があります。15世紀までシェットランド諸島はバイキングの子孫の島としてノルウェー領だった歴史があり、実際、ノルウェーの港町ベルゲンからは370㎞の距離しかありません。ノルウェーからシェットランド諸島に個人所有の船で訪れる人も多いようです。
ラーウィック(Lerwick)の港は絶好のバードウォッチング・スポットです。すぐ近くで水鳥たちを見ることができます。ウミガラス(Arao común)やハジロウミバト(Arao aliblanco) の姿をよーく観察することができました。
最後に
ラーウィックの街は、小さいながらもなかなか趣のある街です。
6月7月は観光にも適し、バードウォッチングも一年の中で一番良い時期ということもあり、今回はシェットランド諸島での宿泊施設を探すのにかなり苦労しました。アドバイスとして、旅程が決まったらなるべく早めに宿泊施設を予約された方が良いでしょう。
前回はラーウィックではB&Bに泊まったのですが、今回はメインストリートにある由緒ある「グランド・ホテル(The Grand Hotel Lerwick)」に泊り、時代を感じさせる建物の中を見ることができました。口コミではあまり高い評価をされていなかったのですが、スタッフ皆とても温かく迎えてくれ、居心地の良いホテルでした。ただ、古い建物の改装などがなかなか行き届いていないようで、エレベーターやエスカレーターはなく階段のみなので大きな荷物を持っている人にとってはちょっと大変かもしれません。朝食は希望を尋ねられ、英国特有の朝食がでてきました。ビーンズやブラックプディングもおいしくて大満足!
ただ、前回泊まったB&Bではキッパー(Kippers)が出てきてとても美味しかったのですが、今回のシェットランド旅行では1度もキッパー(Kippers)が出てこなかったのがとっても残念でした。キッパー(Kippers)はニシンの燻製で、日本の干し魚を思い出させます。ラーウィックはもともとニシン漁港として発達したので、当然キッパー(Kippers)が朝食に出てくると思い込んでいたので落胆度も大きかったです。(苦笑)
4泊5日のシェットランド諸島バードウォッチングの旅は、お天気にも恵まれ、沢山の珍しい鳥たちにも出会えて、とても充実した毎日でした。そして、島々で出会った人たちの温かさに心も満たされた旅となりました。バードウォッチングが目的の人達にも、単に自然に身を任せてのんびり過ごしたいという人達にも大いに推薦したい場所です。英国へ行かれる方は、思い切ってシェットランド諸島まで足を伸ばしてみてください!
参考
・英国王立鳥類保護協会 (RSPB) のウエブサイトはこちらです。
https://www.rspb.org.uk/reserves-and-events/reserves-a-z/loch-of-spiggie/
・今回訪れたルートは次の通りです。
・モウサ島(Mousa island)の場所はここです。
・モウサ島(Mousa island)までのツアーはこちらから予約しました。
https://www.mousa.co.uk/storm-petrel-trip
第1回で紹介したアンスト島(Unst island)について興味のある方は、こちらからどうぞ。
第2回で紹介したフェトラー島(Fetlar island)について興味のある方は、こちらからどうぞ。