番外編 バードウォッチング!-「羊と鳥の楽園シェットランド諸島」-1-(スコットランド/シェットランド諸島/アンスト島)

自然

観察日:2023年6月9日

スペインではないのですが、番外編として今回から3回シリーズで、英国最北端に位置するシェットランド諸島でのバードウォッチングについて紹介します。

第1回は、アンスト島(Unst island)にあるハーマネス国立自然保護区(Hermaness Natural Reserve)と、宿泊地バルタサウンド (Baltasound) です。

ハーマネス国立自然保護区の遊歩道の一部には板が敷いてあります。この板道の周りには、見えないところに鳥たちの巣があります。(写真: 筆者撮影)

羊と鳥の楽園-ハーマネス国立自然保護区(Hermaness Natural Reserve)

シェットランド諸島のアンスト島(Unst island)に、英国最北端にあるハーマネス国立自然保護区(Hermaness Natural Reserve)があります。ここは、欧州のバードウオッチャー達が一度は訪れてみたい憧れの島の一つとしても知られています。というのも、巨大な海食崖と湿原からなる島は、様々な鳥にとって理想的な生息地だからです。シロカツオドリ(スペイン語ではAlcatraz)やフルマカモメ(Fulmar)、それにパフィン (Frailecillo) と呼ばれるニシツノメドリ等の海鳥のコロニー((集団)繁殖地、(集団)営巣地) があり、10万ペアを超える鳥が繁殖するハーマネスは、国際的に重要な場所なのです。

ハーマネスにある伝説では、ハーマネスにはかつてハーマン(Herman)という巨人が住んでいて、ハーマンは人魚をめぐってサクサ(Saxa)と呼ばれる別の巨人と戦いました。この二人の巨人は互いに石を投げ合い、それが岬を取り囲む岩や離れ岩となったと言われています。(Wikipediaより) どこの国や地域にも、奇景がある場所には伝説が付いて回るものです。二人の巨人ハーマンとサクサの石の投げ合いはなかなかの見物だったでしょう。巨人たちが投げた石による離れ岩などが造るハーマネスの風景は見応えがあります。

二人の巨人の石の投げ合いによってできた岬を取り囲む岩や離れ岩。「絶景」という言葉がぴったりです。(写真: 筆者撮影)

海の方ばかり目が行きがちですが、ハーマネス国立自然保護区を歩いていくと見渡す限りの平原が続いています。アンスト島には自生の木は1本もありません。というのも、この島は一年中風が強く、木が生えるには過酷な自然環境だからです。初めてこの島を訪れた時、360度全く木を見ることのないその風景に驚かされました。日本人の私は、島というと木々に覆われた場所を想像してしまいます。その代わり、地に這いつくばって生えている草の野原やボグまたは泥炭地と呼ばれる湿原が広がっています。ちなみにボグまたは泥炭地はスペイン語ではトゥルベラ(Turbera)と呼ばれているもので、森林に覆われていない、泥炭を生成する生きたスギゴケ、ミズゴケ等の植物からなる湿地です。また泥炭は泥状の炭で、石炭の一種で可燃性です。アイルランドの知人の話では、自分の家の裏にある泥炭地の泥炭を取ってきては乾燥させ、暖炉にくべて暖を取っていたそうです。

木が1本も生えていない景色は私の心に染みいり、この島を出てからもいつまでもいつまでも思い出す景色です。(写真: 筆者撮影)

そのボグまたは泥炭地と呼ばれる湿地帯にも、様々な鳥たちが繁殖しています。代表的な鳥はトウゾクカモメ(Págalo)です。ハーマネスは世界で3番目に大きいトウゾクカモメのコロニーがあるところでも有名です。5年前にハーマネス国立自然保護区を訪れた際、驚くほど沢山のトウゾクカモメが飛び回っているのが印象的でした。今回はそこまでトウゾクカモメの姿を見なかったので、時期的なものかな、巣作り時期で見えないのかな等と勝手に想像していましたが、実は、去年から鳥インフルエンザが猛威を振るい、半分以上のトウゾクカモメ達が犠牲になったとのことでした。日本でも鳥インフルエンザの被害が記録的なものとなっていることをニュース等で聞いてはいましたが、ここシェットランド諸島でもその被害は甚大だったようです。

トウゾクカモメという人聞きの悪い名前が付けられていますが、水を飲む姿は憎めないですね。(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

その他、ヨーロッパムナグロ、ハマシギ、タシギなどの良好な生息地にもなっています。

鳥の数に負けないくらいここに沢山いる動物は、シェットランド・シープです。春に生まれた子羊たちが、お母さん羊と一緒に草を食んでいました。大人の羊たちは、人間の私たちが歩いていても見向きもせずひたすら草を食むことに忙しくしていましたが、子羊たちは好奇心旺盛で、草を食むのを止め私たちの方をしきりと見ています。たまに私たちが近くにいるのに気づくのが遅い子羊もいて、私たちの存在に気付くとびっくりして慌ててお母さん羊の許に走っていきます。もう草を食むくらい少し大きくなっている子羊たちですが、不安や驚きの後はお母さんの胸の下に頭を突っ込み、少しおっぱいを吸って気持ちを落ち着かせているようでした。人間の子供と一緒だな、なんて思いながら、「怖がらなくても大丈夫だよ」と優しく声をかけてみましたが、日本語だったので分かりませんよね。(笑)

私が写真を撮っていることに興味津々でこちらをジーっと見つめている子羊。(写真: 筆者撮影)

圧倒的に羊と鳥の数の方が人間の数より多いこのシェットランド諸島にあるアンスト島は、まさしく羊と鳥の楽園でした。

人見知りしないパフィン達(Frailecillo atlántico)

ハーマネス国立自然保護区(Hermaness Natural Reserve)に入って歩き出して約1時間、遂にパフィンと再会できました!

最初のパフィンと再会してから更に15分ほど歩いていくと、沢山のパフィンが崖にある無数の穴の近くにいました。6月は巣作りの真っ最中なのです。こちらが驚くほどすぐ近くにパフィンが居て、そっと近づいてみても全く怖がる気配もなく、飛んで逃げるわけでもなく、野生の鳥かしら?!と疑ってしまったくらいです。(笑) 静かにパフィンを観察していましたが、時間が経つのを忘れてずっとずっとパフィンを観察してしていたい気持ちで一杯でした。歩く姿がぎこちなく、まるで歩き始めた赤ちゃんのようなおぼつかない足取りが、コミカルでもあり癒しでもありました。

すぐ近くで見れるパフィン達。まるでピエロのようにおしろいを塗って化粧をしているかのような顔です。(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

途中の案内板に、「巣穴を傷つけないよう、歩いたり座ったりする場所に注意すること。」という注意書きがありましたが、手を伸ばしたほんの少し先にはパフィン達の巣があり、パフィン達が活動していました。

崖肌には、沢山のパフィンの巣の穴とパフィン達がいました。(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)
パフィンまたはニシツノメドリ(学名:Fratercula arctica / 西:Frailecillo atlántico) / (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

シヲカツオドリ(Alcatraz)のコロニー

パフィンと別れ、灯台が見える崖っぷちまで更に歩いていきました。この灯台が見える所まで約2時間くらいでした。灯台は、アンスト島ではなく、マックル・フラガ島という岩だらけの島に建てられています。そのマックル・フラガ島の前に魚の群れがやって来たのでしょうか。それまでアンスト島の岩の上でのんびり日向ぼっこをしていたシヲカツオドリ達が、一斉に飛び立ったのです。本当に一瞬のことで驚きと共に息をのむ光景でした。そして無数のシヲカツオドリがマックル・フラガ島の前に飛んでいき、勢いよく垂直に海に突っ込み魚を捕る姿は迫力満点でした‼ アンスト島から肉眼で見るには少し遠かったので、双眼鏡をのぞいて見ていましたが、シヲカツオドリが持つ魚の捕獲技術には舌を巻きました。

飛ぶ姿が美しいシヲカツオドリ。(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

BBC放送がシヲカツオドリの魚の捕獲する映像をYoutube にアップしていますので、是非ご覧ください。時速100kmの速さで空から海に突っ込んでいく姿等、本当に驚嘆することしきりです。

前述したようにハーマネスには、シヲカツオドリのコロニーがあります。私たちもコロニーを見に行きました。ハーマネス国立自然保護区に入り、歩き始めて45分くらいの所に左右へ行く分岐点があります(下の写真右側の地図の赤い丸い部分が分岐点です)。右へ行くとパフィンに出会え、マックル・フラガ島の灯台が見える所まで行けます。左へ行くとサイト(Saito)と呼ばれる散策コースで、シヲカツオドリのコロニーがある所に行けます。私たちは、先にパフィンに会いに行くために右の道を選びました。

ハーマネス国立自然保護区(Hermaness Natural Reserve)の中の2本の遊歩道の案内板。(写真: 筆者撮影)

ハーマネスに着いたのが午前9時前だったので、まだほとんど人影もなく、この広い世界に無数の鳥たちと羊の親子、そして私たち二人きりという何とも言えない不思議な感覚を味わいました。パフィンを観察している間に年配のカップルがやってきたので少し言葉を交わしましたが、その時、「先に左の道を選んだのでシヲカツオドリのコロニーを見てきたよ。」と教えてくれました。ただ、「時間的に早すぎて太陽の光が届かない場所にコロニーがあったので、ちょっと暗くて良い写真が撮れなかった。」と残念そうに話していました。私たちは、シヲカツオドリのコロニーに着いたのが既に午後2時を回っていたので、丁度良い具合に光がコロニーに射し、コロニーも良く見え、良い写真も撮れました。良いことづくめでした!

シヲカツオドリのコロニー。(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

上の写真でもお分かりになると思いますが、岩肌には無数のシヲカツオドリがいました。これだけの数の鳥を見ると圧倒され、私たちが彼らの世界にお邪魔しているという謙虚な気持ちを呼び起こしてくれます。

アツアツのシヲカツオドリのカップル (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

シヲカツオドリのつがいは、コロニーで入念な求愛儀式を行い、くちばしと頸を空に向けて伸ばし、それから互いにくちばしを軽くたたき合います。カツオドリの顔は歌舞伎役者を連想させます。目の周りが青色をしていて、とても美しい鳥です。

シヲカツオドリ(学名:Morus bassanus / 西:alcatraz común) /(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

その他の鳥たち

前述したようにフルマカモメのコロニーもあります。岩肌の段になっている所に、まるでフルマカモメ達の団地のようなコロニーがありました。

-フルマカモメ(学名:Fulmarus glacialis / 西:Fulmar)

つがいで巣にいるのは、卵を孵化しているのかもしれません。(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

ちなみに、フルマカモメの名前の「フルマ」はノルウェー語で「悪臭のするカモメ」の意味に由来します。というのも、フルマカモメは、危険を感じると口から悪臭のする液体を吐き出す防御行動を取るのです。「悪臭のするカモメ」という名前には似合わない優しい顔つきをしたカモメで、私のお気に入りの鳥の一つです。

コロニーがある場所には、低草の花が咲いていました。(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

その他、歩いている最中に出会った鳥たちを紹介します。

-ヒバリ(学名:Alauda arvensis / 西:Alondra común)

ヒバリ(学名:Alauda arvensis / 西:Alondra común) / (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

-ヨーロッパビンズイ(学名:Anthus trivialis / 西:Bisbita arbóreo)

ヨーロッパビンズイ(学名:Anthus trivialis / 西:Bisbita arbóreo) / (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

-シェットランド諸島のミソサザイ(学名:Troglodytes troglodytes zetlandicus / 西:Chochín de Las Islas Shetland)

シェットランド諸島のミソサザイ(学名:Troglodytes troglodytes zetlandicus / 西:Chochín de Las Islas Shetland) / (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

-ヨーロッパヒメウ(学名:Gulosus aristotelis / 西:Cormorán moñudo)

ヨーロッパヒメウ(学名:Gulosus aristotelis / 西:Cormorán moñudo)/ (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

-ハマシギ(学名:Calidris alpina / 西:Correlimos común)

ハマシギ(学名:Calidris alpina / 西:Correlimos común / (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

-キバシヒワ(学名:Linaria flavirostris / 西:Pardillo piquigualdo)

キバシヒワ(学名:Linaria flavirostris / 西:Pardillo piquigualdo)/ (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

-トウゾクカモメ(学名:Stercorarius pomarinus / 西:Págalo pomarino)

トウゾクカモメ(学名:Stercorarius pomarinus / 西:Págalo pomarino)/ (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

バルタサウンド (Baltasound)

今回は、アンスト島の中で一番大きな町バルタサウンド(Baltasound) で宿泊しました。同じ名前の湾がありますが、この町は以前、シェットランド諸島で最も重要なニシン港でした。バルタサウンド湾付近で見かけた鳥たちも紹介します。

-マキバタヒバリ(学名:Anthus pratensis / 西:Bisbita pratense)

マキバタヒバリ(学名:Anthus pratensis / 西:Bisbita pratense) / (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

-キョクアジサシ(学名:Sterna paradisaea / 西:Charrán ártico)

キョクアジサシ(学名:Sterna paradisaea / 西:Charrán ártico) / (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

-ホンケワタガモ(学名:Somateria mollissima / 西:Éider común)

ホンケワタガモ(学名:Somateria mollissima / 西:Éider común) / (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

-ミヤコドリ(学名:Haematopus ostralegus / 西:Ostrero euroasiático)

ミヤコドリ(学名:Haematopus ostralegus / 西:Ostrero euroasiático) / (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

最後に

2度目のアンスト島、ハーマネスでしたが、前回同様、いや前回以上に素晴らしい訪問でした。前回は8月末ということもあり巣から離れてしまっていた鳥たちが多く、今回のようにこんなに近くでパフィンを見ることはできませんでした。また、シェットランド諸島本島のラーウィック(Lerwick)の街に宿泊したので、ラーウィックからハーマネス国立自然保護区までは車で約2時間半ほどかかり、帰りのフェリーの時刻に合わせて時間的に制限された滞在となったので、シヲカツオドリのコロニーがあるサイト(Saito)コースまで行くことができませんでした。今回は朝9時前にはハーマネス国立自然保護区に入り、のんびりと持参したお昼御飯も食べて夕方4時前までたっぷりゆっくり7時間かけて歩き回ることができました。

ここは、時間の流れが止まり、悠久の世界に身を任せているような不思議な感覚が湧き上がってくる場所です。こんな北の果ての自然保護区に来る人は、よほど鳥好き、自然好きな人ばかりで、すれ違いざまに挨拶し、立ち止まって静かにちょっとした会話を交わす喜びは、普通の場所ではなかなかない経験でした。

草の絨毯を歩いているようなホワホワ感を足の裏に感じながら、ヒバリ(Alondra)やダイシャクシギ(Zarapito)等の様々な鳥の声と「ウン、メー」となく羊の声を聴きながら、そして北海の強い風を体全体で受け止めながら歩いて回る満足感は、非日常の世界に身を置き全てのことから解放される満足感と相重なって、本当に素晴らしい時間でした。バードウォッチングが好きな方はもちろん、そうでない方も是非訪れてみてほしい所です。

鳥に興味のない方もきっと好きになるパフィン達。(写真: 筆者撮影)

参考

旅のアドバイスとして、ちょっと一言。

フェリーの時刻などに煩わされずゆっくり満喫できるよう、宿泊地はアンスト島をお薦めします。私が今回宿泊したバルタサウンドからハーマネス国立自然保護区までは、車で約15分でした。

また、私は今回6月に訪れましたが、ホテルを予約するのが1ヵ月ほど前だったせいか、ホテルやB&B等の宿泊施設が満杯で、何とかぎりぎりで1軒予約を入れることができました。この時期はシェットランド諸島全体で宿泊施設不足になるようです。できるだけ早めに、少なくとも2ヵ月前までには宿泊施設を予約されることをお薦めします

ハーマネス国立自然保護区(Hermaness Natural Reserve)にあるシヲカツオドリのコロニーの写真を撮りたい方は、少なくとも6月時点では午後に行く方が太陽の光が当たり良い写真が撮れそうです。

最後に、風よけの耳当てや帽子、手袋は、真夏でも持参された方が安心だと思います。また、ハーマネス国立自然保護区では湿地帯を歩くこともあります。できれば防水靴を履いて行った方がよいでしょう。

ハーマネス国立自然保護区のパノラマ写真。(写真: 筆者撮影)

・ハーマネス国立自然保護区(Hermaness Natural Reserve)を管理しているスコットランドの自然エージェンシーのウエブサイトです。

Hermaness National Nature Reserve
Hermaness is a real treasure trove of wildlife at Britain's northern tip, with bird cries, sea smells, myth and mist.
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