ちょっとスペイン語 -36-  (¡Está de rechupete!-とっても美味しい!)

ここでは、ちょっとしたスペイン語の言い回しや、ことわざ、話し言葉など、辞書には載っていない単語も含めて紹介していきます。スペイン語を勉強している方には言葉の幅が広がるお手伝いができればいいなと、スペイン語には興味ないという方には雑学として楽しんでいただければいいなと思っています。

スペインに来たら絶対食べてほしいオマール海老の米料理(Arroz con bogavante)(写真: 筆者撮影)

¡Está de rechupete!-とっても美味しい!

「de rechupete」という言い方があり、スペイン王立アカデミーの辞書には、話し言葉で使われる言葉で「とても良い、素晴らしい、美味しい」という意味で使われているとの説明があります。「rechupete」という単独での使い方はなく、常に「de rechupete」という使われ方をします。「rechupete」のみの意味を調べてみましたが、結局この単語本来の意味は分かりませんでした。「chupete」には「おしゃぶり」等の意味もあり、「chupar」という動詞には「吸う、しゃぶる、なめる 」という意味なので、その動詞に接頭辞の「re-」を付け、「再び」という意味合いや「(強調としての)すごく、とても」という意味が加味されるのかな⁈と勝手に想像したりしています。この「rechupete」という単語を聞くと、私の頭の中で指に付いたクリームやソースを美味しそうに舐める女の子の姿が想像されてしまいます。(笑)

Este fin de semana hemos ido a Galicia y hemos comino un arroz con bogavante. La verdad que ¡estaba de rechupete!

週末にガリシア州に行って来て、オマール海老の米料理を食べてきたよ。本当に、とっても美味しかった!

「美味しい!」以外の例文としては、次のような使い方もできます。

¿Qué tal fue el viaje a Praga?

プラハ旅行はどうだった?

Me encantó la ciudad, es una ciudad muy bonita. Me lo pasé de rechupete.

プラハはとっても美しい街でとっても気に入ったわ。とっても楽しく過ごしたわよ。

スペインは美食の国。どこにでもある気さくな街角のバルで食べるタバスも美味しいものが多いし、きちんと座って食べるレストランで食べる様々なスペイン料理もとっても美味しいものが多く、本当に「あーここはハズレだったね」という所が少ないのも食べ物に対する思いが強いスペインならではといえるでしょう。

もし、バル等でウエィターの人から「如何ですか?」って尋ねられたら、「Está muy rica. (とっても美味しい)」だけではなく、「¡Está de rechupete!」と言ったらきっと喜ばれることでしょう。言葉の幅が広がり旅が楽しくなること間違いなしです!

2025年3月30日までにスペインに行く人必見!-プラド美術館の植物散歩(Un paseo botánico por el Prado)

去る2月3日、マドリードにあるスペインが誇るプラド美術館に久しぶりに行ってきました。丁度中国の春節の時期に重なったので中国からの団体さん達の姿が多かったのですが、それでも夏に比べれば少ない方だったかもしれません。まあ、ヨーロッパ内でも人気の美術館の一つなので、何時行っても人は多いようです。

今回、3月30日まで開催されている展覧会の一つ、「プラド美術館の植物散歩(Un paseo botánico por el Prado)(筆者訳)」を見てきました。この企画は、園芸家でもあり芸術の中の植物を研究しているスペイン人エドゥアルド・バルバ・ゴメス(Edurardo Barba Gómez)氏とプラド美術館のコラボで実現したものです。彼は、今までも絵画等の中に描かれている植物を研究した題材を本にして出版したり、ラジオや新聞などでもこの題材について語っています。以前、彼の本を読んだこともあり行ってきました。

各時代の植物の表現方法

エドゥアルド・バルバ・ゴメス(Edurardo Barba Gómez)氏が述べているように、芸術の中で描かれている植物は、各時代によってそれぞれ異なる手法で表現されています。

例えば、10世紀から12世紀にかけてヨーロッパに広まったロマネスク様式では、植物を極限まで単純化することで、植物に独特の美しさやダイナリズムを与えました。今回の展覧会の一つに、マドリードからすぐ近くに位置するセゴビア県のベラ・クルス礼拝堂に描かれている「アダムの誕生」の場面があります。

12世紀に描かれた壁画。左側が神がアダムを造った場面、右側は禁断の実を食べたアダムとイブが裸であることを恥ずかしがる姿が描かれています (Wikipedia Dmain)

上の写真を見ていただくと左端に大きな木があり、その横で神がアダムを創り、アダムが誕生しています。この木はナツメヤシだということ。ナツメヤシはヨーロッパ芸術の世界では常連さんらしく、「楽園」の象徴として描かれてきたそうです。「エデンの園」等をテーマにした絵画には必ずと言ってもいいほど描かれている木だということです。

こちらがナツメヤシの写真。上の壁画の植物をナツメヤシと見破るのは結構難しいですね(ウィキペディアドメイン)

また、12世紀~15世紀のゴシック時代には、それぞれの植物、それぞれの花を正確に描写することが目指されたと彼は語っています。ゴシック時代の絵として、初期フランドル派の画家ヤン・ファン・エイクの「生命の泉」が紹介されていました。

絵に沿って作られた額のこの形はかなり珍しい(ウィキペディアドメイン)

この絵の中のどこに植物が描かれているのかちょっと見分けずらいですが、実は、2段目の楽器を弾いている天使たちが座っている緑色の所は、一面の野イチゴ畑です。他にも、20種類程の異なる植物が緻密に描かれていて、ロマネスク時代とはかなり異なる表現方法が用いられていることは分かります。

イチゴはその赤い実がキリストが流した血に見立てられることが多いとか。また、イチゴの葉は3枚の葉から構成されているので、キリスト教の父・子・聖霊を示す三位一体を象徴しているのだそうです。

ヤン・ファン・エイクの「生命の泉」の中で描かれている野イチゴは、学名をフラガリア・ベスカ(Fragaria vesca)と呼ばれている実はとても小さなエゾヘビイチゴです(ウィキペディアドメイン)

そしてルネサンス時代になると、植物自体が主人公となり、静物画が独自の存在感を獲得していきました。その後、16世紀末から18世紀初頭にかけてヨーロッパで広がったバロック時代になると、意図的にバランスを崩した動的でダイナミックな表現が好まれるようになりました。17世紀にスペインの宮廷画家として活躍したフアン・バン・デル・アメンは、多くの静物画を残していますが、その中の一つが今回取り上げられています。

背景が黒に様々な花が浮かび上がる美しい絵画(ウィキペディアドメイン)

この絵の中でひときわ目立っているのが、沢山の小さな花によって大きな丸い花の形をしているセイヨウテマリカンボクの白い花でしょう。背景が黒なので余計に浮きだち、存在感抜群です。この花は、元々ヨーロッパが原産の植物ですが、バロック時代ではとても好まれて絵の題材にされた植物の一つだったそうです。そして、現在もこの植物はスペインではよく庭に植えられる人気の植物の一つです。何を隠そう、我が家の庭にもこの木を植えていて、夏になると大きな手毬のような花を沢山咲かせ私たちを楽しませてくれています。

セイヨウテマリカンボクの花は、ちょっとアジサイの花のよう(ウィキペディアドメイン)

大航海時代の植物たち

16世紀以降は、大航海時代へと入っていきます。と同時に、遠い国々からもたらされたエキゾチックな植物がスペインにも紹介されていきます。南米・北米・アジア等、今までヨーロッパの人々が見たこともないような色や形の珍しい植物に、多くの人が魅了されていきましたが、芸術家もまた然りでした。芸術家たちは、熱心に植物を観察し、それらを繊細に描き出し、そしてあたかも一人の人間の様な魅力的な姿をキャンバスに収めたのです。

展示会の中では17世紀のスペインの画家トマス・イエペスの静物画が紹介されています。残念ながら作品の写真を撮ることができず、パブリックドメインの写真も入手できなかったのでお見せすることはできませんが、この静物画には東アジアを原産とするハゲイトウという赤・黄・緑の三色カラーの葉が美しい植物が描かれています。(この記事の最後にプラド美術館の本展覧会の公式ウエブサイトを紹介していますが、そこを開いてもらうとこの作品も見ることができます。)もっとも、静物画の中では枯れた花として描かれていて、この植物の特徴である鮮やかな三色カラーは描かれていません。絵のトーンに一致しないとの判断だったのかもしれませんが、画家の意図は謎です。

一見ポインセチアかと見誤ってしまいそうなハゲイトウ(ウィキペディアドメイン)

植物に託されたもの

昔の人にとって植物はとても身近なものでした。その身近な植物に、神話的または宗教的な意味を持たせたり、高貴な象徴性や伝統的な象徴性も含ませることを芸術家たちはしてきました。何気なく描かれた一輪の花や植物によって、芸術家たちが描く絵の主題を更に立体的にし、意味を際立たせたり奥深いものにしたりする効果を期待していたのです。

エドゥアルド・バルバ・ゴメス(Edurardo Barba Gómez)氏が語るように、現代社会は、こうした植物たちとの結びつきから切り離されてしまいました。このことは芸術作品の鑑賞にも反映され、私たちは絵を見る際、これらの植物たちに全く注意を払うことなく絵の前を通り過ぎていくことが多くなっています。園芸家でもある彼は、「私たちはただ植物たちを探し、それに耳を傾けるだけで、プラド美術館の庭師になったような気分になれる。」と言っています。

最後に

エドゥアルド・バルバ・ゴメス(Edurardo Barba Gómez)氏が指摘しているように、多くの芸術作品は植物で溢れています。何気なく描かれているような小さな植物にも、実は画家が表現したかったことやその植物に託す意味等があり、とても興味深い展示会でした。また、一つの植物が時の権力者の権力の象徴であったり、大航海時代、新大陸からヨーロッパに紹介された植物たちは遠い旅をし、全く異なる環境からやって来たこと等まで思いを馳せると、どんどん想像が広がっていく楽しみもありました。うっかり見落としてしまいそうな植物、これからはもっとじっくりと絵画を楽しむことができそうです。そして、別の角度から絵画や彫刻を観察することができそうです。

もし、3月末までにスペイン、マドリードにいらっしゃる機会があれば、是非この展示会にも足を運んでみてください。きっと新しい発見の散歩となることでしょう。

プラド美術館の公式サイトからこの展覧会の情報を入力することができます。また、今回の展覧会で紹介されている全ての絵画をこちらから確認することもできますので、是非ご覧ください。

https://www.museodelprado.es/en/whats-on/exhibition/a-botanical-stroll-through-the-prado/3f48df04-a1fb-d356-7ad5-56cbf5d3b2ce

国立プラド美術館 開館情報

住所:プラド通り無番地(Paseo de Prado, s/n)
最寄り駅:エスタシオン・デル・アルテ(Estación del Arte 1号線・水色) 、バンコ・デ・エスパーニャ (Banco de España 2号線・赤色)      
開館時間:月~土 10:00~20:00(最終入館 19:30)日・祝 10:00~19:00(最終入館 18:30)         
*1月1日・5月1日・12月25日は休館                                    入場料:一般 15€  65歳以上 7,50€ 無料-18歳未満、25歳未満の大学生(国際学生証必要)、教師(国際証明書必要)              

*バッグ、リュック、傘、かさばる物、荷物は、美術館のロッカーに預けなければなりません。

スペインでバードウォッチング!-絶滅危惧種ホオアカトキ(Ibis eremita)に迫る!

観察日:2025年1月18日

芝生の上で一生懸命エサを探して食べるブロンズトキ(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

こんな鳥がいますよ!

1月13日に、スペイン北部ガリシア州のバヨーナ(Baiona)の近く、ラマジョサ(Ramallosa)という海岸沿いの街に、こんな鳥がいますよ!という友人からのラインが届きました。最初は、スペイン南部で見かけるブロンズトキ(Ibis morito común)だと思っていたら、よくよく送られてきた動画を見てみると、ちょっと違うみたいだと夫が気づきました。早速、夫はバードウォッチング仲間が発信する「珍しい鳥がみれたよ!」というインターネットに書き込みをするサイトに入ってみると、モロッコに生息する絶滅危惧種のホオアカトキ(Ibis eremita)だということが分かりました。少なくとも1月に入ってからラマジョサ(Ramallosa)でのんびり過ごしているようです。

ホオアカトキに会えるか⁉

私たちも週末にはラマジョサ(Ramallosa)へ駆けつけて、スペインでは見ることができないホオアカトキ(Ibis eremita)を見に行きました。朝から友人が見たという公園に行く途中、大きな看板の上にとまっているホオアカトキ (Ibis eremita)を発見しました!その後ロータリーの芝生部分に降り立ち、しきりと虫を探して食事を始めました。ロータリーでは結構な車が横を通っているものの全く気にも留めていない様子です。

その後は、友人が見た場所の公園方面に飛び立ち、公園内にある建物の屋根の上で日向ぼっこでもしているかのよう。地元では結構有名人ならぬ有名鳥になっているようで、子供連れの家族や双眼鏡を持ったカップル、そして写真を撮ろうと立派なカメラ機材持参の人など,10名位がこの珍しいホオアカトキのウォッチングを楽しんでいました。

午後も再びホオアカトキに会いに行くと、海辺の近くの散歩道の横にある芝生地帯で羽を広げたり、食べ物を探したりしていました。人が歩いているすぐ近くにいて、あまり警戒心がないようです。また、足には黄色い足環を付けていたので、もしかすると動物園等の人間がいる所にいたホオアカトキが逃げ出してこの辺りまで飛んできたのかもしれません。

絶滅危惧種ホオアカトキ

ホオアカトキについて調べてみると、17世紀にヨーロッパでは完全に姿を消していたようです。それまでは、ドイツやスイス等にも生殖していたとのこと。スペインでも16世紀まではスペイン本土の大部分で生息していたらしい。しかし、今では野生のホオアカトキは、モロッコ等のアフリカ大陸の一部でのみ生息している絶滅危惧種に指定されています。

日本のトキも一旦絶滅した後、人工繁殖等の努力の結果、飼育下とは言うものの現在かなりの数まで回復していると聞いているので、洋の東西を問わずトキの環境は厳しいものなのでしょう。

屋根の上で日向ぼっこの(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

エレミータ 計画(Proyecto Eremita)とは

そんなとても珍しい鳥を見ることができたので、単純にとても嬉しくなりました。家に帰ってこの鳥について調べてみると、こんな興味深いプロジェクトが行われていることを知りました。

それは、「エレミータ 計画(Proyecto Eremita)」と呼ばれるプロジェクトで、スペイン南部アンダルシア州にあるドニャーナ生物学研究所(CSIC)の科学的助言を得ながらヘレス動物園が2003年に開始したプロジェクトです。具体的には、野生のホオアカトキが絶滅の危機に晒されているため再導入計画が策定されて、飼育下で繁殖させた若い個体の放鳥が試みられています。そのお陰で、スペイン南部カディス県のハンダ(Janda)という地域で繁殖が確認されているそうです。

このプロジェクトで放鳥されているホオアカトキの足には、識別用の足輪が付けられているそうなので、もしかすると、私たちが見たガリシア州のラマジョサに居たホオアカトキは、このプロジェクトの賜物かもしれません。繁殖が確認されているスペイン南部カディス県のハンダ(Janda)から、私たちが見た場所ラマジョサまでの直線距離は約900㎞。結構な距離を頑張って飛んで来たんですね。

最後に

一体何時までラマジョサ周辺にこのホオアカトキが居座るかは分かりませんが、3月になったらまた行ってみようかなと考えています。3月は繁殖期に入るので、きっと仲間を探しに別のところに移っているとは思いますが…。

それにしてもこんなに貴重な鳥を間近に見ることができて本当にラッキーでした。「エレミータ 計画(Proyecto Eremita)」がこれからも成功して、もっと仲間が増えることを願っています。

資料

・「エレミータ 計画(Proyecto Eremita)」について

https://www.zoobotanicojerez.com/proyecto-eremita#:~:text=En%202004%20se%20inici%C3%B3%20el,para%20establecer%20una%20poblaci%C3%B3n%20sedentaria%2C

・2019年の「エレミータ 計画(Proyecto Eremita)」の報告書

https://www.zoobotanicojerez.com/fileadmin/documentos/2019/Resumen_Proyecto_Eremita_2019.pdf

チョコレート物語-アストルガ チョコレート博物館(Museo de Chocolate de Astorga)

スペイン、カステージャ・イ・レオン州のレオン県に位置するアストルガ (Astorga) という街をご存じですか?人口1万1千人程の小さな街ですが、ここにはアントニオ・ガウディの設計によるモデルニスモ建築の「アストルガ司教館 (Palacio Episcopal de Astorga)」があるので、ガウディ建築のファンの方はご存じかもしれません。ガウディ建築のほとんどがバルセロナに集中していて、数少ないバルセロナ以外にあるガウディ建築の一つがこの「アストルガ司教館 (Palacio Episcopal de Astorga)」です。

アントニオ・ガウディの設計によるモデルニスモ建築の「アストルガ司教館 (Palacio Episcopal de Astorga)」(写真: 筆者撮影)

その素晴らしいガウディ建築から歩いて10分程の所に、今回紹介する「アストルガ チョコレート博物館(Museo de Chocolate de Astorga)」はあります。では一緒に博物館を訪れてみましょう!

神の食物

チョコレートの原料であるカカオは、南米オリノコ川とアマゾン川流域が起源の植物です。高い温度と湿度が成長の条件で、二つの大きな川の流域はカカオが成長するのに理想的な場所でした。

そして、最初にカカオを栽培し、飲み物にしたのは、メキシコ湾やジャングルに住むマヤ文明(紀元前1000年頃~16世紀頃)やオルメカ文明(紀元前1200年頃~紀元前200年頃)の人達でした。紀元前1750年頃の器にカカオの残滓が付いていたものが発見されていて、これが最も古いカカオの記録とされているようです。本当に長い長い歴史を持っていたことがわかりますね。これは、豪奢な品物の数々と共にメキシコで見つかっており、カカオの飲み物はマヤ文明社会において、高貴な階級の人達のみが飲める飲み物であったことを推定することができます。

というのも、カカオはマヤ文明やアステカ文明の人達にとっては、神の食物と考えられていたのです。カカオは神聖な食物だったのです。

カカオの花はカカオの木の幹から直接ぶら下がって咲いている(写真: Wikipedia Domain)

ケツァルコアトル (Quezalcoatl) という神の伝説

伝説によると、羽のある蛇ケツァルコアトル(Quezalcoatl) という神が、「ショコラトル(xocolotl)」と呼ばれていたカカオの植物を知恵を授けるために人間に贈ったのだとか。しかし、神の食物であるこの植物を、死すべき人間に与えたことにより他の神々の怒りを買い、ケツァルコアトル(Quezalcoatl)は神の国から追放される羽目になりました。

こちらには、カカオの植物を知恵を授けるためにケツァルコアトル(Quezalcoatl) という神が人間に送ったという伝説が説明されています。(写真: 筆者撮影)

カカオの用途

神の食物と考えられていたカカオには様々な用途やシンボルが与えられていました。この「チョコレート博物館」の中にあった説明書によると、鎮痛剤、奉納物、貢物、貨幣、滋養食、強壮剤、媚薬、祭儀用の道具、交換するための高価な品物、豊穣の象徴、権力の象徴、そして社会的特権の象徴等々。これを見ると、マヤ文明やオルメカ文明の人達にとって必要不可欠な存在であったことが容易に想像できます。

マヤ文明やオルメカ文明で貨幣としての価値があったカカオの種は、面白い事に贋金ならぬ偽種まであったそうで、ソラマメの中に泥などを入れてカカオの種に似せていたとか。これらの偽種のことを「カチュアチチウア(cachuachichiua)」と呼んでいたらしいので、偽種の名前まで付くほど出回っていたのかもしれませんね。

当時のカカオの値段について説明してあるパネル (写真: 筆者撮影)

スペインにやって来たカカオ

中南米でのカカオは、前述したように「神の食物」と考えられていましたが、基本的には、カカオを粉にしてトウモロコシの粉や唐辛子、バニラなどの香料と共に水や湯に溶かして、食べ物というより飲み物として食されていました。今のチョコレートドリンクとは全く異なり、甘くなく、辛くて苦い飲み物だったようです。

そして、スペインに最初にこのカカオドリンクのレシピを紹介したのは、アステカ帝国を征服したスペインの征服者エルナン・コルテスに同行していたヘロニモ・アギラル修道士だと言われています。このヘロニモ・アギラル修道士は、1534年スペインのアラゴン州にあるピエドラ修道院の修道院長にカカオドリンクのレシピを送りました。

ところが、中南米で好まれていたカカオドリンクの辛くて苦い味は、スペイン人の口には合わず、修道士たちの工夫により蜂蜜・バニラ・シナモンを入れて飲みやすくアレンジされていきました。

カカオの葉や美も展示してありました (写真: 筆者撮影)

チョコレートは飲み物?それとも食べ物?

さて、スペインの修道士たちによってアレンジされたカカオドリンク(飲むチョコレート)は、100年位門外不出のものとしてスペインでのみ飲まれていました。主に、修道院や貴族、王族等、特権階級の人達だけが飲めるとても貴重な飲み物でした。

ここで、特に修道院の中で積極的に飲まれていたというこのカカオドリンク(飲むチョコレート)の面白いお話があります。キリスト教では、イースター前の四旬節に断食する習慣があります。スペイン版カカオドリンク(飲むチョコレート)の発明は16世紀なので、この頃には初期キリスト教の時代よりもかなり緩い断食スタイルになっていたようですが、修道院内では一般家庭よりも厳しい断食が行われていました。しかし飲み物は断食の対象になっていなかったため、修道士の中にはカカオドリンクを飲み断食を乗り切っている人もいて、それが物議を醸したのです。一体、カカオドリンク(飲むチョコレート)は飲み物なのか、それとも食べ物なのかと!結局、ローマ法王庁は、四旬節の間、カカオドリンク(飲むチョコレート)を食べても断食を破ることはない、カカオドリンク(飲むチョコレート)は飲み物であって食べ物ではないとする勅令を出したことで四旬節の断食中にも飲むことが許され、これを機に、修道士の間での需要が高まったそうです。

アストルガの街とチョコレートの出会い

「チョコレート博物館」のあるアストルガ市とチョコレート製造の関係は、16世紀、エルナン・コルテスが中米を征服して帰還したときにまで遡ります。1545年、エルナン・コルテスの娘とアストルガ侯爵の相続人との間で結婚の合意がなされました。その後、アストルガ侯爵と君主カルロス1世(神聖ローマ帝国カール5世)の関係によって、カカオの導入が可能になりました。

アステカ王国を征服したエルナン・コルテスの肖像画(写真: Wikipedia Domain)

アストルガの街で何故チョコレート製造が盛んになったのか

当時、アストルガには、アストルガ侯爵家お抱えの荷馬車屋を営む組織がありましたが、この荷馬車屋の組織は、メキシコから送られてくるカカオを、港から内陸部へスペイン各地と取引し、カカオを含む海外産品の輸送を独占していました。彼らはまた、アストルガで作られたチョコレートをスペイン各地に流通させる役割を担い、アストルガの名声に貢献しました。

また、アストルガには、チョコレート購入者である病院、薬局、修道院、教会が広く存在していたこともの、アストルガでのチョコレート生産を決定づけた要因だそうです。病院や薬局では、チョコレートはお薬の役目を果たしていたようです。こんなおいしいお薬だったら、病気の人達も喜んで飲んでいたことでしょう。

そして、このアストルガの街は寒く乾燥した気候なので、チョコレートがすぐに冷えて扱いやすかったことも、この街でチョコレート製造が盛んになった要因といえます。

チョコレート製造に使用されていた様々な機械も展示されています (写真: 筆者撮影)

沢山のチョコレート製造メーカー

「チョコレート博物館」には、17世紀から始まったと言われるアストルガでのチョコレート製造について詳しく説明する展示室がありました。

カカオを焙煎する機械 (写真: 筆者撮影)

19世紀から20世紀初頭まで、最大のチョコレート・ブームが起こり機械が導入されました。記録によると、1925年には51のチョコレート・メーカーがあったらしく、2024年現在でのアストルガの人口が1万人ちょっとなので、この小さな街にこんなにチョコレート・メーカーがあったなんてビックリです。チョコレートの街としての歴史を通じて、アストルガには400を超えるチョコレート・メーカーが存在したそうなので、正しく「チョコレートの街」と呼んでも過言ではないでしょう。

この板は、出来上がったチョコレートを一定の大きさの板チョコにするためのもの (写真: 筆者撮影)

チョコレートにまつわる宣伝広告

こちらの展示室には、チョコレートの包み紙や、チョコレートが入っていた缶、チョコレートのおまけとしてついてきていたブロマイドやカード等、当時を思い起こさせる色んな物が展示してありました。

チョコレートの「おまけ」で付いていたブロマイド。スペインでは人気のあった闘牛士の絵などが描かれています (写真: 筆者撮影)
こちらは、チョコレートが入っていた缶。なかなかお洒落なデザインです (写真: 筆者撮影)

お土産にはアストルガのチョコレートを!

「チョコレート博物館」の最後の楽しみは、矢張りチョコレートを試食することです!お土産用の様々なチョコレートも売ってありますが、3種類のチョコレートの試食ができました。ナッツチョコ・ミルクチョコ・ダークチョコの試食をさせてもらい、私も我が家のお土産にダークチョコを一つ買って帰りました。味も濃厚な食べ応えのあるチョコレートで、とても美味しいですよ。

カカオ75%のチョコレート。昔に比べてパッケージはシンプルなもの (写真: 筆者撮影)

現在、日本国内でもアマゾンなどのネット販売で世界中の物が日本の自宅に居ながら手に入る時代ですが、アストルガのチョコレートは全く紹介されていないので、アストルガまでいらっしゃった方にはお土産にお勧めです!せっかく遠いスペインの地元で買い求めてお土産にした品物が、日本でも売っていたら残念ですよね!でもアストルガのチョコレートだったらそんなことはないですよ。

アストルガの「チョコレート博物館」情報

住所:エスタシオン通り16番地(Avd. de la Estación 16)
電話:(34)987 616 220 E-mail:museochocolate@astorga.es /reservasmucha@astorga.es    
開館時間:火~土 10:00~14:00(13.30まで入館) 16:30~19:00(18:30まで入館)  日曜日・祭日 10:30~14:30  *月曜日は休館/休館休館日: 12月24・25・31日、1月1日・5日・6日、5月22日                                     入場料:4€   11 ~18歳 3€   無料-10歳までの子供 

                       

参考

・アストルガ市役所の「チョコレート博物館」のサイト。

https://www.aytoastorga.es/turismo-y-ocio/MUCHA/index.html

・カステージャ・イ・レオン州のサイト。

https://museoscastillayleon.jcyl.es/web/jcyl/MuseosCastillayLeon/es/Plantilla100Detalle/1284811313457/Institucion/1284809941138/DirectorioPadre

スペインでバードウォッチング!-種類別 スペインの野鳥 日本語名(アマツバメ科)

ここでは、スペインに生息する野鳥の名前を、種類別に集めてみました。スペイン語名をクリックしてもらうと、スペイン鳥学会のホームページに飛びます。残念ながら日本語版はありませんが、英語での鳥の名前は出ています。スペインで野鳥観察されるとき、またはスペインの旅の途中で見かけた鳥のスペイン語名を知りたいときに、少しでもお役に立てれば幸いです。

シロハラアマツバメ (Vencejo real)/ (写真: アルベルト・F・メダルデ) 

Vencejos = アマツバメ科

スペイン語日本語ラテン語//常駐/偶然
Vencejo comúnヨーロッパアマツバメApus apus
Vencejo realシロハラアマツバメApus melba
Vencejo pálidoウスアマツバメApus pallidus
Vencejo unicolorハイイロアマツバメApus unicolor常駐 (Canarias)
Vencejo cafreアフリカコシジロアマツバメApus caffer
Vencejo moroヒメアマツバメApus affinis偶然

ちょっとスペイン語 -35-  (¡Suena bien!-いいね!)

ここでは、ちょっとしたスペイン語の言い回しや、ことわざ、話し言葉など、辞書には載っていない単語も含めて紹介していきます。スペイン語を勉強している方には言葉の幅が広がるお手伝いができればいいなと、スペイン語には興味ないという方には雑学として楽しんでいただければいいなと思っています。

¡Suena bien!-いいね!

この ¡Suena bien! という言い方は、実は状況に合わせて色んな意味に使われている表現です。動詞「sonar」は手元の辞書に載っているだけでも「1. 鳴る、鳴り響く、音を立てる 2. 言及される 3. [+a のように]思われる 4.[漠然と+a+人 の]記憶に残っている 5. [漠然と+que+直接法 の]噂が流れている 6. [文字が]発音される」と、6つも意味があります。

例えば、「耳に心地よく響く」という意味で使われる場合を見てみましょう。

¿Ya habéis pensado en el nombre del bebé?

赤ちゃんの名前はもう考えた?

Sí, hemos decidido por el nombre “Clara”.

ええ、「クララ」という名前に決めたわ。

¡Que bonito! Me gusta este nombre porque me suena bien.

素敵ね!響きが良いからその名前好きだわ。

他に、「4.[漠然と+a+人 の]記憶に残っている」の意味では次のように使われます。

¿Has visto a Jorge ?

ホルヘを見た?

¿Quién es Jorge?

ホルヘって誰?

Es un chicho que toca un violonchelo.

チェロを弾いてる人よ。

Me suena…, ¡ay, sí! Es un chico alto y simpático. Pues, hace poco lo he visto en la sala de concierto donde he estado.

そういわれてみれば…。あー、分かった!身長が高くて面白い彼ね。ついさっきコンサート会場で見たわよ。

¡Gracias!

サンキュー

最後に、「いいね!」という意味で使われる場合を見てみましょう。

Para mis próximas vacaciones voy a las Islas Canarias y estaré tranquilamente allí con mi familia.

今度の休暇は、カナリア諸島に行って家族でゆっくりするつもり。

¡Suena muy bien! Allí hace buen tiempo y hay mucha naturaleza. ¡Que tengas buenas vacaciones!

わー、いいね!カナリア諸島だったら気候も良いし、自然も多いしね。休暇、楽しんでね!

Muchas gracias.

どうもありがとう。

色んな場面に使え、実際によく使われている言い回しなので、是非使いこなしてくださいね。

ちょっとスペイン語 -34-  (¡Que tengas una buena salida y entrada de año!-良い年末年始をお迎えください!)

ここでは、ちょっとしたスペイン語の言い回しや、ことわざ、話し言葉など、辞書には載っていない単語も含めて紹介していきます。スペイン語を勉強している方には言葉の幅が広がるお手伝いができればいいなと、スペイン語には興味ないという方には雑学として楽しんでいただければいいなと思っています。

¡Que tengáis una buena salida y entrada de año!-良い年末年始をお迎えください!

師走になり、今年も残すところわずかです。スペインではクリスマスのシーズンとなり町中がイルミネーションで華やかな雰囲気一杯です。そして、クリスマスのプレゼント探しに皆大忙しです。

さて、年末が近づくと、スペインでも「良い年末年始をお迎えください!」という言葉が飛び交います。この ¡Que tengas una buena salida y entrada de año! は、「buena salida」が「良い出口」そして、「buena entrada」が「良い入口」を意味します。「一年の良い出口と良い入口をお持ちください」が直訳でしょうか。一年の始まりを扉を開けて入る絵で表したり、一年の終わりを扉を閉める絵で表したりしている絵を見たことがある人もいらっしゃるかもしれません。スペインの人達は時間に「扉」という仕切りを当てて一年の終わりや始まりを意識していたようです。興味深いですね。

Ya mañana es Nochevieja. ¿Con quién vas a pasar en la Nochevieja este año?

もう明日は大晦日。今年の大晦日は誰と過ごすの?

Voy a cenar con mis padres, y a las 12 horas comeré 12 uvas para celebramos el Año Nuevo, luego iré a salir al centro con mis amigos de la universidad.

両親と夜ご飯を一緒に食べて、12時になったら12個のブドウを食べて新年を祝ったら、大学時代の友達皆で街に繰り出す予定だよ。

¡Suena muy bien! Bueno, ¡que tengas una buena salida y entrada de año!

楽しそう!じゃ、よい年末年始を迎えてね!

もし、年末にスペインを訪れる方は、是非この言葉を覚えて使ってくださいね!きっと、何度もスペインの人達からかけられる言葉になると思いますよ。

そして、新年を告げる12個の鐘と共に食べる12個のブドウの体験もお忘れなく!

12個のブドウについてはこちらもどうぞ。

今年もこのブログに訪ねてきて下さりどうもありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。そして、どうぞ皆様良い年末年始ををお迎えくださいませ。

¡Que tengáis una buena salida y entrada de año!

スペインでバードウォッチング!-種類別 スペインの野鳥 日本語名(ヨタカ科)

ここでは、スペインに生息する野鳥の名前を、種類別に集めてみました。スペイン語名をクリックしてもらうと、スペイン鳥学会のホームページに飛びます。残念ながら日本語版はありませんが、英語での鳥の名前は出ています。スペインで野鳥観察されるとき、またはスペインの旅の途中で見かけた鳥のスペイン語名を知りたいときに、少しでもお役に立てれば幸いです。

ヨーロッパヨタカ(ウィキペディアドメイン写真)

Chotacabras = ヨタカ科

スペイン語日本語ラテン語//常駐/偶然
Chotacabras europeoヨーロッパヨタカCaprimulgus europaeus
Chotacabras cuellirrojoアカエリヨタカCaprimulgus ruficollis

ロマネスクへのいざない (19)- ガリシア州 (1)–ア・コルーニャのサンティアゴ教会 (Iglesia de Santiago de A Coruña)

スペイン西北部にあるガリシア州のア・コルーニャに行ってきた。大西洋沿いでローマ時代の灯台「ヘラクレスの塔」がある街。マリーナ通りは海が見える海岸沿いの通りで、海風が気持ちよく散歩するにはもってこいの通りだ。

白い枠にガラスの窓がある建物が並び建ち、「ガラスの街」とも呼ばれている(写真: 筆者撮影)

今回は、ア・コルーニャの中でも最も古い教会であり、1972年以来文化財に指定されているサンティアゴ教会(Iglesia de Santiago)を紹介する。

教会の歴史

ヴァイキングによるノルマン人の襲撃によって、ローマ時代以前からこの地に存在していたケルト人の居住地の全部または一部分から住民が減っていったことがわかっている。(arteguias より)

そして、12世紀から13世紀の頭にこのロマネスク様式の教会が建てられた。しかし、度々の火事に見舞われ何度も改修・改造工事が行われたため、ゴシック様式等、その時々の様式に建て替えられた。

1521年当時、この教会には2つの塔があり、一方には鐘と時計が、もう一方には証書、火薬、弾薬、その他市に属するものが保管されていた。サンティアゴ教会の役割は宗教的なものだけでなく、少なくとも1380年から市庁舎が建設される15世紀までは、その玄関の広間で議会が開かれていた。(Galicia Pueblo a Pueblo より)

元々は、海路で巡礼地サンティアゴ・デ・コンポステーラを訪れた巡礼者達に捧げられた教会だった。

三廊から成るロマネスク様式の教会

ア・コルーニャから70km程離れたサンティアゴ・デ・コンポステーラは、キリストの12人の弟子の一人聖ヤコブの墓がある巡礼地であることから、この教会が建設された当時、多くの巡礼者が訪れていた。そして「コンポステーラ派(Escuela Compostelana)筆者訳」と呼ばれる人たちの手によって、ア・コルーニャのサンティアゴ教会は造られた。

建設された当時は三廊から成るロマネスク様式の教会だったが、15世紀には、スペインのロマネスク教会で多く見られたように、教会を3つの身廊で連結していたアーチと柱を取り除き、1つの大きな身廊にすることが決定され、現在の様な教会内部になっている。

三廊を広げて一つの大きな身廊になり、多くの信者がミサに参加できるようになった(写真: 筆者撮影)

しかし、教会から出て外から教会の後陣を見てみると、ロマネスク様式時代の姿が残存している。

ロマネスク様式の典型的な後陣の形をしている(写真: 筆者撮影)

持ち送りには、動物の頭や人間をモチーフにした具象的なものが残っている。そのうちの一つに保存状態の良い人間の頭部が彫られているが、ドリオと呼ばれた空気の塊を振動させることによって音を出す気鳴楽器を吹いている姿が見られる。このドリオは、中世時代にイベリア半島北部、特にガリシア地方で使用されていたが、その後使われなくなった楽器である。音の高低を変化させるシステムが無かったので、ドリオは短期間のみで使用され、その後は別の楽器、例えばガイタとよばれるガリシア・バグパイプに取って代わられていったという。(ウィキペディア参照)

ドリオを吹く頭部(写真: 筆者撮影)
持ち送りには、動物の頭や人間の姿も見える(写真: 筆者撮影)

ロマネスク様式の北側の扉口

何度も改装・増築が行われたにもかかわらず、北側の扉口は元のままの純粋なロマネスク様式である。

下の写真でも見えるように、二つのアーキボルトにはまるで沢山の指輪を通しているかのように環状に飾られた植物の葉が特徴的な装飾と、4枚の花弁がある大きな花の装飾とが施されており、とても印象的である。

北側の扉口からも教会に入れた(写真: 筆者撮影)

もう少しアップで見てみよう。700年以上風雪にさらされながらも、ほぼ当時のままの姿を見れることに感謝したくなるような美しい模様だ。

細かく植物の葉が描かれており、花びらの襞も美しい(写真: 筆者撮影)
対の雄牛が扉口の両側にまるで入ってくる人たちを見守るかのように私たちを見下ろしている(写真: 筆者撮影)

神秘の神の子羊「Agnus Dei(アニュス・デイ)」

この北側の扉口には、「神の子羊(アニュス・デイ)」が施されている。これは、ロマネスク様式によくみられる図像であるが、人間の罪に対する贖いとして、イエスが生贄の役割を果たすことを踏まえて、イエスを子羊として描いた視覚的表象である。

十字架が付けられた旗竿や旗を持ち、旗竿は子羊の肩にかかり、右前足で十字架の土台を支えるように曲げられている(写真: 筆者撮影)

興味深いのは、子羊の両側に施された二つの大輪の花。神秘の神の子羊の脇には、それぞれ7枚と12枚の花弁を持つ2つの花がある。何故花びらの数が異なる2つの花が施されているのかは調べてみても分からなかった。

正門について

西側の正門はゴシック様式である。14世紀末のバラ窓とサンティアゴが描かれたタンパンがある。先が尖ったアーキボルトはゴシックの特徴の一つである。

段差のある土地に建てられた教会の正門には、階段を上って教会に入る(写真: 筆者撮影)

柱頭にはロマネスクの伝統を図像的に継承しており、旧約聖書に書かれている「イサクのいけにえ」と「ライオンの穴に投げ込まれたダニエル」が彫られている。「ライオンの穴に投げ込まれたダニエル」と同じ場面中に、「天使に担がれたハバクク」も描かれている。

ハバククはユダヤの預言者とされ、バビロンのライオンの洞窟にいるダニエルのために天使に担がれて食事を届けたと言われ、ロマネスク以降の美術の世界でも「ライオンの穴に投げ込まれたダニエル」と「天使とハバクク」は対で描かれていることが多いようだ。ローマのサンタ・マリア・デル・ポポロ教会にあるバロック様式のベルニーニの作品で、この二つのモチーフの彫刻があり有名である。

残念ながらダニエルの頭部が消失しているが、右端「ライオンの穴に投げ込まれたダニエル」の右側にはライオンが左側には天使に担がれダニエルに食料を届けるハバククが描かれている。左端は、一対のドラゴン(写真: 筆者撮影)
植物の葉をモチーフとした装飾(写真: 筆者撮影)

興味深いのは入口の両脇に、12使徒の聖ヤコブ(左側)と福音記者聖ヨハネ(右側)の像が施されていることだろう。

聖ヤコブ。頭の上には本と天使が載っている(写真: 筆者撮影)
聖ヨハネ(写真: 筆者撮影)

そしてタンパンには、13世紀から15世紀に施された馬に乗った聖ヤコブの浮彫がある。

アーキボルトに彫られている人たちには羽がある。天使だろうか(写真: 筆者撮影)

聖ヤコブの頭上のアーキボルトには、黙示録の24人の長老の姿が描かれていると言われているが、全ての人達に翼があるので天使の聖歌隊ではないかとも言われている。

教会内部

教会に入るとすぐに目を引くのが巡礼者の格好をしたイエスの12使徒の一人聖ヤコブの彫刻である。

これは、14世紀に石で作られたもので多色装飾されている。

長い長い道のりを歩く巡礼者が少し疲れて座って休んでいる姿と重ね合わされた聖ヤコブの顔は、とても穏やかだ(写真: 筆者撮影)

教会内の柱頭にはロマネスク時代の典型的な古風な動物が描かれているが、全てゴシック時代のものである。

同じ頭を持つ2匹のドラゴン(?)と女の頭を持つ鳥ハイピュリア(?)(写真: 筆者撮影)
サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼者のシンボルであるホタテ貝(写真: 筆者撮影)

もう一つ目を引いたのが17世紀の説教壇。説教壇を支える部分には人魚が4人描かれている。アルベルト・ガルシア・ロルダン氏(Alberto García Roldán)のブログサイト「GALICIA PUEBLO A PUEBLO」によると、この人魚の2人は女性であるが、もう2人は男性の人魚だそうだ。男性の人魚は初めて見たので驚きであった。

今はもう使われていない説教壇は、教会の隅に置かれていた(写真: 筆者撮影)
左側の人魚には胸はなく男性の人魚、4人の人魚が腕組みしている姿も珍しい(写真: 筆者撮影)

最後に

後で知ったことだが、この教会にはスペインで唯一、身ごもった聖母の彫刻と、赤ん坊のイエスに授乳する彫刻の両方がある教会で、芸術的価値が高い(ウィキペディア参照)と言われている。赤ん坊のイエスに授乳する彫刻は17世紀のものらしい。

何世紀のものかは分からなかったが、半円アーチの模式的な柱を持つ小さな洗礼盤も保存されている。前述のアルベルト・ガルシア・ロルダン氏によると洗礼式を行う際に今も使用されているとのこと。

こちらも教会の隅っこに置かれていて詳しく見ることができなかった(写真: 筆者撮影)

今も多くの人が訪れ、ミサも行われている活躍中の教会の一つである。ロマネスクからゴシックへ、更にバロック等の彫刻も残存し、様式は変化しながら今も地元の人々に愛されている。ロマネスクの教会は、ともすれば忘れ去られてしまったり、教会がある所にもう人が住んでいない場合も多い。そういう中で、ア・コルーニャで一番古い教会でありながらも今も教会として、人々の心の支柱として活躍しているサンティアゴ教会は幸せな教会であると感じた。

参考

・サンティアゴ教会の住所・電話番号・時間帯等の情報サイト

https://www.coruna.gal/web/es/temas/sociedad-y-bienestar/ocio-y-cultura/equipamientos-de-ocio/equipamiento/iglesia-de-santiago/entidad/1149056044903?argIdioma=es

・「アルテギア」というロマネスクに関するサイト。

https://www.arteguias.com/monumentos/iglesia-santiago-coruna.htm

・本ブログで紹介したアルベルト・ガルシア・ロルダン氏(Alberto García Roldán)のブログサイト「GALICIA PUEBLO A PUEBLO」

https://galiciapuebloapueblo.blogspot.com/2015/05/iglesia-de-santiago-coruna.html

ちょっとスペイン語 -33-  (Tentempié-1. 間食、軽食 2. 起き上がり小法師)

ここでは、ちょっとしたスペイン語の言い回しや、ことわざ、話し言葉など、辞書には載っていない単語も含めて紹介していきます。スペイン語を勉強している方には言葉の幅が広がるお手伝いができればいいなと、スペイン語には興味ないという方には雑学として楽しんでいただければいいなと思っています。

ウィキペディアドメイン写真

今回は、いかにもスペインらしい単語を紹介します。

Tentempié-1. 間食、軽食 2. 起き上がり小法師

この「Tentempié」という言葉の由来を調べてみると「tente en pié」、日本語で言えば「立っていなさい」という命令形の言葉からきたようです。「pié」という単語は「【足首から下をさす】足」という意味で、「tente」は動詞「tener」の命令形で、この場合は「状態」を表す使い方がされていています。

この意味から、玩具の「起き上がり子法師」を指すことは何となく分かりますが、「間食、軽食」という意味になるのはずっと不思議な気がしていました。今回調べてみると、「少ない量の食べ物を摂ることにより、元気になり、立っていることができるようになる」という説明が語源辞書に載っていて納得しました。

なるほど、腹が減っては戦ができないどころか、自分の足で立っていることもできなくなるほどの空腹状態を解決するための「軽食、間食」が「Tentempié」ということのようです。長年の疑問が解決してスッキリしました。(笑)

¡Hola! ¿Tomamos un tentenpié?

ねえ!軽く食べに行かない?

Sí, estaría bien. Es que ya es la hora y tengo un poco de hambre.

うん、いいね。もうそういう時間だよね、それにちょっとお腹もすいてるし。

Entonces, vamos al bar de la esquina donde nos dan buen picho de tortilla de patatas.

じゃ、トルティージャ・デ・パタタス(ジャガイモ入りスペインオムレツ)がおいしい角のバルに行こう。

Me parece buena idea. ¡Vamos!

いいね。行こう!

どこへ行っても必ずバルがあるスペイン。バルのない街や村はスペインには存在しないよ!とスペイン人たちが言う通り、どんな小さな村でも必ずバルはあります。朝からコーヒーを飲みながら新聞をのんびり読むおじいさんや、正午前後で職場の休憩時間があるので、その際バルに行って同僚と「Tentempié」を楽しむサラリーマン達、仕事が終わって帰宅前の時間(午後8時過ぎごろ)に待ち合わせてピンチョを楽しむご夫婦や友人同士等、スペイン人にとってバルはとても身近で生活に密着した無くてはならない存在です。

人生を食べて飲んで謳歌するスペイン人が愛するバル。バルのない生活はスペインじゃないですね!皆さんもスペインにいらっしゃったらバルを思いきり楽しんでください!