チョコレート物語-アストルガ チョコレート博物館(Museo de Chocolate de Astorga)

スペイン、カステージャ・イ・レオン州のレオン県に位置するアストルガ (Astorga) という街をご存じですか?人口1万1千人程の小さな街ですが、ここにはアントニオ・ガウディの設計によるモデルニスモ建築の「アストルガ司教館 (Palacio Episcopal de Astorga)」があるので、ガウディ建築のファンの方はご存じかもしれません。ガウディ建築のほとんどがバルセロナに集中していて、数少ないバルセロナ以外にあるガウディ建築の一つがこの「アストルガ司教館 (Palacio Episcopal de Astorga)」です。

アントニオ・ガウディの設計によるモデルニスモ建築の「アストルガ司教館 (Palacio Episcopal de Astorga)」(写真: 筆者撮影)

その素晴らしいガウディ建築から歩いて10分程の所に、今回紹介する「アストルガ チョコレート博物館(Museo de Chocolate de Astorga)」はあります。では一緒に博物館を訪れてみましょう!

神の食物

チョコレートの原料であるカカオは、南米オリノコ川とアマゾン川流域が起源の植物です。高い温度と湿度が成長の条件で、二つの大きな川の流域はカカオが成長するのに理想的な場所でした。

そして、最初にカカオを栽培し、飲み物にしたのは、メキシコ湾やジャングルに住むマヤ文明(紀元前1000年頃~16世紀頃)やオルメカ文明(紀元前1200年頃~紀元前200年頃)の人達でした。紀元前1750年頃の器にカカオの残滓が付いていたものが発見されていて、これが最も古いカカオの記録とされているようです。本当に長い長い歴史を持っていたことがわかりますね。これは、豪奢な品物の数々と共にメキシコで見つかっており、カカオの飲み物はマヤ文明社会において、高貴な階級の人達のみが飲める飲み物であったことを推定することができます。

というのも、カカオはマヤ文明やアステカ文明の人達にとっては、神の食物と考えられていたのです。カカオは神聖な食物だったのです。

カカオの花はカカオの木の幹から直接ぶら下がって咲いている(写真: Wikipedia Domain)

ケツァルコアトル (Quezalcoatl) という神の伝説

伝説によると、羽のある蛇ケツァルコアトル(Quezalcoatl) という神が、「ショコラトル(xocolotl)」と呼ばれていたカカオの植物を知恵を授けるために人間に贈ったのだとか。しかし、神の食物であるこの植物を、死すべき人間に与えたことにより他の神々の怒りを買い、ケツァルコアトル(Quezalcoatl)は神の国から追放される羽目になりました。

こちらには、カカオの植物を知恵を授けるためにケツァルコアトル(Quezalcoatl) という神が人間に送ったという伝説が説明されています。(写真: 筆者撮影)

カカオの用途

神の食物と考えられていたカカオには様々な用途やシンボルが与えられていました。この「チョコレート博物館」の中にあった説明書によると、鎮痛剤、奉納物、貢物、貨幣、滋養食、強壮剤、媚薬、祭儀用の道具、交換するための高価な品物、豊穣の象徴、権力の象徴、そして社会的特権の象徴等々。これを見ると、マヤ文明やオルメカ文明の人達にとって必要不可欠な存在であったことが容易に想像できます。

マヤ文明やオルメカ文明で貨幣としての価値があったカカオの種は、面白い事に贋金ならぬ偽種まであったそうで、ソラマメの中に泥などを入れてカカオの種に似せていたとか。これらの偽種のことを「カチュアチチウア(cachuachichiua)」と呼んでいたらしいので、偽種の名前まで付くほど出回っていたのかもしれませんね。

当時のカカオの値段について説明してあるパネル (写真: 筆者撮影)

スペインにやって来たカカオ

中南米でのカカオは、前述したように「神の食物」と考えられていましたが、基本的には、カカオを粉にしてトウモロコシの粉や唐辛子、バニラなどの香料と共に水や湯に溶かして、食べ物というより飲み物として食されていました。今のチョコレートドリンクとは全く異なり、甘くなく、辛くて苦い飲み物だったようです。

そして、スペインに最初にこのカカオドリンクのレシピを紹介したのは、アステカ帝国を征服したスペインの征服者エルナン・コルテスに同行していたヘロニモ・アギラル修道士だと言われています。このヘロニモ・アギラル修道士は、1534年スペインのアラゴン州にあるピエドラ修道院の修道院長にカカオドリンクのレシピを送りました。

ところが、中南米で好まれていたカカオドリンクの辛くて苦い味は、スペイン人の口には合わず、修道士たちの工夫により蜂蜜・バニラ・シナモンを入れて飲みやすくアレンジされていきました。

カカオの葉や美も展示してありました (写真: 筆者撮影)

チョコレートは飲み物?それとも食べ物?

さて、スペインの修道士たちによってアレンジされたカカオドリンク(飲むチョコレート)は、100年位門外不出のものとしてスペインでのみ飲まれていました。主に、修道院や貴族、王族等、特権階級の人達だけが飲めるとても貴重な飲み物でした。

ここで、特に修道院の中で積極的に飲まれていたというこのカカオドリンク(飲むチョコレート)の面白いお話があります。キリスト教では、イースター前の四旬節に断食する習慣があります。スペイン版カカオドリンク(飲むチョコレート)の発明は16世紀なので、この頃には初期キリスト教の時代よりもかなり緩い断食スタイルになっていたようですが、修道院内では一般家庭よりも厳しい断食が行われていました。しかし飲み物は断食の対象になっていなかったため、修道士の中にはカカオドリンクを飲み断食を乗り切っている人もいて、それが物議を醸したのです。一体、カカオドリンク(飲むチョコレート)は飲み物なのか、それとも食べ物なのかと!結局、ローマ法王庁は、四旬節の間、カカオドリンク(飲むチョコレート)を食べても断食を破ることはない、カカオドリンク(飲むチョコレート)は飲み物であって食べ物ではないとする勅令を出したことで四旬節の断食中にも飲むことが許され、これを機に、修道士の間での需要が高まったそうです。

アストルガの街とチョコレートの出会い

「チョコレート博物館」のあるアストルガ市とチョコレート製造の関係は、16世紀、エルナン・コルテスが中米を征服して帰還したときにまで遡ります。1545年、エルナン・コルテスの娘とアストルガ侯爵の相続人との間で結婚の合意がなされました。その後、アストルガ侯爵と君主カルロス1世(神聖ローマ帝国カール5世)の関係によって、カカオの導入が可能になりました。

アステカ王国を征服したエルナン・コルテスの肖像画(写真: Wikipedia Domain)

アストルガの街で何故チョコレート製造が盛んになったのか

当時、アストルガには、アストルガ侯爵家お抱えの荷馬車屋を営む組織がありましたが、この荷馬車屋の組織は、メキシコから送られてくるカカオを、港から内陸部へスペイン各地と取引し、カカオを含む海外産品の輸送を独占していました。彼らはまた、アストルガで作られたチョコレートをスペイン各地に流通させる役割を担い、アストルガの名声に貢献しました。

また、アストルガには、チョコレート購入者である病院、薬局、修道院、教会が広く存在していたこともの、アストルガでのチョコレート生産を決定づけた要因だそうです。病院や薬局では、チョコレートはお薬の役目を果たしていたようです。こんなおいしいお薬だったら、病気の人達も喜んで飲んでいたことでしょう。

そして、このアストルガの街は寒く乾燥した気候なので、チョコレートがすぐに冷えて扱いやすかったことも、この街でチョコレート製造が盛んになった要因といえます。

チョコレート製造に使用されていた様々な機械も展示されています (写真: 筆者撮影)

沢山のチョコレート製造メーカー

「チョコレート博物館」には、17世紀から始まったと言われるアストルガでのチョコレート製造について詳しく説明する展示室がありました。

カカオを焙煎する機械 (写真: 筆者撮影)

19世紀から20世紀初頭まで、最大のチョコレート・ブームが起こり機械が導入されました。記録によると、1925年には51のチョコレート・メーカーがあったらしく、2024年現在でのアストルガの人口が1万人ちょっとなので、この小さな街にこんなにチョコレート・メーカーがあったなんてビックリです。チョコレートの街としての歴史を通じて、アストルガには400を超えるチョコレート・メーカーが存在したそうなので、正しく「チョコレートの街」と呼んでも過言ではないでしょう。

この板は、出来上がったチョコレートを一定の大きさの板チョコにするためのもの (写真: 筆者撮影)

チョコレートにまつわる宣伝広告

こちらの展示室には、チョコレートの包み紙や、チョコレートが入っていた缶、チョコレートのおまけとしてついてきていたブロマイドやカード等、当時を思い起こさせる色んな物が展示してありました。

チョコレートの「おまけ」で付いていたブロマイド。スペインでは人気のあった闘牛士の絵などが描かれています (写真: 筆者撮影)
こちらは、チョコレートが入っていた缶。なかなかお洒落なデザインです (写真: 筆者撮影)

お土産にはアストルガのチョコレートを!

「チョコレート博物館」の最後の楽しみは、矢張りチョコレートを試食することです!お土産用の様々なチョコレートも売ってありますが、3種類のチョコレートの試食ができました。ナッツチョコ・ミルクチョコ・ダークチョコの試食をさせてもらい、私も我が家のお土産にダークチョコを一つ買って帰りました。味も濃厚な食べ応えのあるチョコレートで、とても美味しいですよ。

カカオ75%のチョコレート。昔に比べてパッケージはシンプルなもの (写真: 筆者撮影)

現在、日本国内でもアマゾンなどのネット販売で世界中の物が日本の自宅に居ながら手に入る時代ですが、アストルガのチョコレートは全く紹介されていないので、アストルガまでいらっしゃった方にはお土産にお勧めです!せっかく遠いスペインの地元で買い求めてお土産にした品物が、日本でも売っていたら残念ですよね!でもアストルガのチョコレートだったらそんなことはないですよ。

アストルガの「チョコレート博物館」情報

住所:エスタシオン通り16番地(Avd. de la Estación 16)
電話:(34)987 616 220 E-mail:museochocolate@astorga.es /reservasmucha@astorga.es    
開館時間:火~土 10:00~14:00(13.30まで入館) 16:30~19:00(18:30まで入館)  日曜日・祭日 10:30~14:30  *月曜日は休館/休館休館日: 12月24・25・31日、1月1日・5日・6日、5月22日                                     入場料:4€   11 ~18歳 3€   無料-10歳までの子供 

                       

参考

・アストルガ市役所の「チョコレート博物館」のサイト。

https://www.aytoastorga.es/turismo-y-ocio/MUCHA/index.html

・カステージャ・イ・レオン州のサイト。

https://museoscastillayleon.jcyl.es/web/jcyl/MuseosCastillayLeon/es/Plantilla100Detalle/1284811313457/Institucion/1284809941138/DirectorioPadre

スペインでバードウォッチング!-種類別 スペインの野鳥 日本語名(アマツバメ科)

ここでは、スペインに生息する野鳥の名前を、種類別に集めてみました。スペイン語名をクリックしてもらうと、スペイン鳥学会のホームページに飛びます。残念ながら日本語版はありませんが、英語での鳥の名前は出ています。スペインで野鳥観察されるとき、またはスペインの旅の途中で見かけた鳥のスペイン語名を知りたいときに、少しでもお役に立てれば幸いです。

シロハラアマツバメ (Vencejo real)/ (写真: アルベルト・F・メダルデ) 

Vencejos = アマツバメ科

スペイン語日本語ラテン語//常駐/偶然
Vencejo comúnヨーロッパアマツバメApus apus
Vencejo realシロハラアマツバメApus melba
Vencejo pálidoウスアマツバメApus pallidus
Vencejo unicolorハイイロアマツバメApus unicolor常駐 (Canarias)
Vencejo cafreアフリカコシジロアマツバメApus caffer
Vencejo moroヒメアマツバメApus affinis偶然

ちょっとスペイン語 -35-  (¡Suena bien!-いいね!)

ここでは、ちょっとしたスペイン語の言い回しや、ことわざ、話し言葉など、辞書には載っていない単語も含めて紹介していきます。スペイン語を勉強している方には言葉の幅が広がるお手伝いができればいいなと、スペイン語には興味ないという方には雑学として楽しんでいただければいいなと思っています。

¡Suena bien!-いいね!

この ¡Suena bien! という言い方は、実は状況に合わせて色んな意味に使われている表現です。動詞「sonar」は手元の辞書に載っているだけでも「1. 鳴る、鳴り響く、音を立てる 2. 言及される 3. [+a のように]思われる 4.[漠然と+a+人 の]記憶に残っている 5. [漠然と+que+直接法 の]噂が流れている 6. [文字が]発音される」と、6つも意味があります。

例えば、「耳に心地よく響く」という意味で使われる場合を見てみましょう。

¿Ya habéis pensado en el nombre del bebé?

赤ちゃんの名前はもう考えた?

Sí, hemos decidido por el nombre “Clara”.

ええ、「クララ」という名前に決めたわ。

¡Que bonito! Me gusta este nombre porque me suena bien.

素敵ね!響きが良いからその名前好きだわ。

他に、「4.[漠然と+a+人 の]記憶に残っている」の意味では次のように使われます。

¿Has visto a Jorge ?

ホルヘを見た?

¿Quién es Jorge?

ホルヘって誰?

Es un chicho que toca un violonchelo.

チェロを弾いてる人よ。

Me suena…, ¡ay, sí! Es un chico alto y simpático. Pues, hace poco lo he visto en la sala de concierto donde he estado.

そういわれてみれば…。あー、分かった!身長が高くて面白い彼ね。ついさっきコンサート会場で見たわよ。

¡Gracias!

サンキュー

最後に、「いいね!」という意味で使われる場合を見てみましょう。

Para mis próximas vacaciones voy a las Islas Canarias y estaré tranquilamente allí con mi familia.

今度の休暇は、カナリア諸島に行って家族でゆっくりするつもり。

¡Suena muy bien! Allí hace buen tiempo y hay mucha naturaleza. ¡Que tengas buenas vacaciones!

わー、いいね!カナリア諸島だったら気候も良いし、自然も多いしね。休暇、楽しんでね!

Muchas gracias.

どうもありがとう。

色んな場面に使え、実際によく使われている言い回しなので、是非使いこなしてくださいね。

ちょっとスペイン語 -34-  (¡Que tengas una buena salida y entrada de año!-良い年末年始をお迎えください!)

ここでは、ちょっとしたスペイン語の言い回しや、ことわざ、話し言葉など、辞書には載っていない単語も含めて紹介していきます。スペイン語を勉強している方には言葉の幅が広がるお手伝いができればいいなと、スペイン語には興味ないという方には雑学として楽しんでいただければいいなと思っています。

¡Que tengáis una buena salida y entrada de año!-良い年末年始をお迎えください!

師走になり、今年も残すところわずかです。スペインではクリスマスのシーズンとなり町中がイルミネーションで華やかな雰囲気一杯です。そして、クリスマスのプレゼント探しに皆大忙しです。

さて、年末が近づくと、スペインでも「良い年末年始をお迎えください!」という言葉が飛び交います。この ¡Que tengas una buena salida y entrada de año! は、「buena salida」が「良い出口」そして、「buena entrada」が「良い入口」を意味します。「一年の良い出口と良い入口をお持ちください」が直訳でしょうか。一年の始まりを扉を開けて入る絵で表したり、一年の終わりを扉を閉める絵で表したりしている絵を見たことがある人もいらっしゃるかもしれません。スペインの人達は時間に「扉」という仕切りを当てて一年の終わりや始まりを意識していたようです。興味深いですね。

Ya mañana es Nochevieja. ¿Con quién vas a pasar en la Nochevieja este año?

もう明日は大晦日。今年の大晦日は誰と過ごすの?

Voy a cenar con mis padres, y a las 12 horas comeré 12 uvas para celebramos el Año Nuevo, luego iré a salir al centro con mis amigos de la universidad.

両親と夜ご飯を一緒に食べて、12時になったら12個のブドウを食べて新年を祝ったら、大学時代の友達皆で街に繰り出す予定だよ。

¡Suena muy bien! Bueno, ¡que tengas una buena salida y entrada de año!

楽しそう!じゃ、よい年末年始を迎えてね!

もし、年末にスペインを訪れる方は、是非この言葉を覚えて使ってくださいね!きっと、何度もスペインの人達からかけられる言葉になると思いますよ。

そして、新年を告げる12個の鐘と共に食べる12個のブドウの体験もお忘れなく!

12個のブドウについてはこちらもどうぞ。

今年もこのブログに訪ねてきて下さりどうもありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。そして、どうぞ皆様良い年末年始ををお迎えくださいませ。

¡Que tengáis una buena salida y entrada de año!

スペインでバードウォッチング!-種類別 スペインの野鳥 日本語名(ヨタカ科)

ここでは、スペインに生息する野鳥の名前を、種類別に集めてみました。スペイン語名をクリックしてもらうと、スペイン鳥学会のホームページに飛びます。残念ながら日本語版はありませんが、英語での鳥の名前は出ています。スペインで野鳥観察されるとき、またはスペインの旅の途中で見かけた鳥のスペイン語名を知りたいときに、少しでもお役に立てれば幸いです。

ヨーロッパヨタカ(ウィキペディアドメイン写真)

Chotacabras = ヨタカ科

スペイン語日本語ラテン語//常駐/偶然
Chotacabras europeoヨーロッパヨタカCaprimulgus europaeus
Chotacabras cuellirrojoアカエリヨタカCaprimulgus ruficollis

ロマネスクへのいざない (19)- ガリシア州 (1)–ア・コルーニャのサンティアゴ教会 (Iglesia de Santiago de A Coruña)

スペイン西北部にあるガリシア州のア・コルーニャに行ってきた。大西洋沿いでローマ時代の灯台「ヘラクレスの塔」がある街。マリーナ通りは海が見える海岸沿いの通りで、海風が気持ちよく散歩するにはもってこいの通りだ。

白い枠にガラスの窓がある建物が並び建ち、「ガラスの街」とも呼ばれている(写真: 筆者撮影)

今回は、ア・コルーニャの中でも最も古い教会であり、1972年以来文化財に指定されているサンティアゴ教会(Iglesia de Santiago)を紹介する。

教会の歴史

ヴァイキングによるノルマン人の襲撃によって、ローマ時代以前からこの地に存在していたケルト人の居住地の全部または一部分から住民が減っていったことがわかっている。(arteguias より)

そして、12世紀から13世紀の頭にこのロマネスク様式の教会が建てられた。しかし、度々の火事に見舞われ何度も改修・改造工事が行われたため、ゴシック様式等、その時々の様式に建て替えられた。

1521年当時、この教会には2つの塔があり、一方には鐘と時計が、もう一方には証書、火薬、弾薬、その他市に属するものが保管されていた。サンティアゴ教会の役割は宗教的なものだけでなく、少なくとも1380年から市庁舎が建設される15世紀までは、その玄関の広間で議会が開かれていた。(Galicia Pueblo a Pueblo より)

元々は、海路で巡礼地サンティアゴ・デ・コンポステーラを訪れた巡礼者達に捧げられた教会だった。

三廊から成るロマネスク様式の教会

ア・コルーニャから70km程離れたサンティアゴ・デ・コンポステーラは、キリストの12人の弟子の一人聖ヤコブの墓がある巡礼地であることから、この教会が建設された当時、多くの巡礼者が訪れていた。そして「コンポステーラ派(Escuela Compostelana)筆者訳」と呼ばれる人たちの手によって、ア・コルーニャのサンティアゴ教会は造られた。

建設された当時は三廊から成るロマネスク様式の教会だったが、15世紀には、スペインのロマネスク教会で多く見られたように、教会を3つの身廊で連結していたアーチと柱を取り除き、1つの大きな身廊にすることが決定され、現在の様な教会内部になっている。

三廊を広げて一つの大きな身廊になり、多くの信者がミサに参加できるようになった(写真: 筆者撮影)

しかし、教会から出て外から教会の後陣を見てみると、ロマネスク様式時代の姿が残存している。

ロマネスク様式の典型的な後陣の形をしている(写真: 筆者撮影)

持ち送りには、動物の頭や人間をモチーフにした具象的なものが残っている。そのうちの一つに保存状態の良い人間の頭部が彫られているが、ドリオと呼ばれた空気の塊を振動させることによって音を出す気鳴楽器を吹いている姿が見られる。このドリオは、中世時代にイベリア半島北部、特にガリシア地方で使用されていたが、その後使われなくなった楽器である。音の高低を変化させるシステムが無かったので、ドリオは短期間のみで使用され、その後は別の楽器、例えばガイタとよばれるガリシア・バグパイプに取って代わられていったという。(ウィキペディア参照)

ドリオを吹く頭部(写真: 筆者撮影)
持ち送りには、動物の頭や人間の姿も見える(写真: 筆者撮影)

ロマネスク様式の北側の扉口

何度も改装・増築が行われたにもかかわらず、北側の扉口は元のままの純粋なロマネスク様式である。

下の写真でも見えるように、二つのアーキボルトにはまるで沢山の指輪を通しているかのように環状に飾られた植物の葉が特徴的な装飾と、4枚の花弁がある大きな花の装飾とが施されており、とても印象的である。

北側の扉口からも教会に入れた(写真: 筆者撮影)

もう少しアップで見てみよう。700年以上風雪にさらされながらも、ほぼ当時のままの姿を見れることに感謝したくなるような美しい模様だ。

細かく植物の葉が描かれており、花びらの襞も美しい(写真: 筆者撮影)
対の雄牛が扉口の両側にまるで入ってくる人たちを見守るかのように私たちを見下ろしている(写真: 筆者撮影)

神秘の神の子羊「Agnus Dei(アニュス・デイ)」

この北側の扉口には、「神の子羊(アニュス・デイ)」が施されている。これは、ロマネスク様式によくみられる図像であるが、人間の罪に対する贖いとして、イエスが生贄の役割を果たすことを踏まえて、イエスを子羊として描いた視覚的表象である。

十字架が付けられた旗竿や旗を持ち、旗竿は子羊の肩にかかり、右前足で十字架の土台を支えるように曲げられている(写真: 筆者撮影)

興味深いのは、子羊の両側に施された二つの大輪の花。神秘の神の子羊の脇には、それぞれ7枚と12枚の花弁を持つ2つの花がある。何故花びらの数が異なる2つの花が施されているのかは調べてみても分からなかった。

正門について

西側の正門はゴシック様式である。14世紀末のバラ窓とサンティアゴが描かれたタンパンがある。先が尖ったアーキボルトはゴシックの特徴の一つである。

段差のある土地に建てられた教会の正門には、階段を上って教会に入る(写真: 筆者撮影)

柱頭にはロマネスクの伝統を図像的に継承しており、旧約聖書に書かれている「イサクのいけにえ」と「ライオンの穴に投げ込まれたダニエル」が彫られている。「ライオンの穴に投げ込まれたダニエル」と同じ場面中に、「天使に担がれたハバクク」も描かれている。

ハバククはユダヤの預言者とされ、バビロンのライオンの洞窟にいるダニエルのために天使に担がれて食事を届けたと言われ、ロマネスク以降の美術の世界でも「ライオンの穴に投げ込まれたダニエル」と「天使とハバクク」は対で描かれていることが多いようだ。ローマのサンタ・マリア・デル・ポポロ教会にあるバロック様式のベルニーニの作品で、この二つのモチーフの彫刻があり有名である。

残念ながらダニエルの頭部が消失しているが、右端「ライオンの穴に投げ込まれたダニエル」の右側にはライオンが左側には天使に担がれダニエルに食料を届けるハバククが描かれている。左端は、一対のドラゴン(写真: 筆者撮影)
植物の葉をモチーフとした装飾(写真: 筆者撮影)

興味深いのは入口の両脇に、12使徒の聖ヤコブ(左側)と福音記者聖ヨハネ(右側)の像が施されていることだろう。

聖ヤコブ。頭の上には本と天使が載っている(写真: 筆者撮影)
聖ヨハネ(写真: 筆者撮影)

そしてタンパンには、13世紀から15世紀に施された馬に乗った聖ヤコブの浮彫がある。

アーキボルトに彫られている人たちには羽がある。天使だろうか(写真: 筆者撮影)

聖ヤコブの頭上のアーキボルトには、黙示録の24人の長老の姿が描かれていると言われているが、全ての人達に翼があるので天使の聖歌隊ではないかとも言われている。

教会内部

教会に入るとすぐに目を引くのが巡礼者の格好をしたイエスの12使徒の一人聖ヤコブの彫刻である。

これは、14世紀に石で作られたもので多色装飾されている。

長い長い道のりを歩く巡礼者が少し疲れて座って休んでいる姿と重ね合わされた聖ヤコブの顔は、とても穏やかだ(写真: 筆者撮影)

教会内の柱頭にはロマネスク時代の典型的な古風な動物が描かれているが、全てゴシック時代のものである。

同じ頭を持つ2匹のドラゴン(?)と女の頭を持つ鳥ハイピュリア(?)(写真: 筆者撮影)
サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼者のシンボルであるホタテ貝(写真: 筆者撮影)

もう一つ目を引いたのが17世紀の説教壇。説教壇を支える部分には人魚が4人描かれている。アルベルト・ガルシア・ロルダン氏(Alberto García Roldán)のブログサイト「GALICIA PUEBLO A PUEBLO」によると、この人魚の2人は女性であるが、もう2人は男性の人魚だそうだ。男性の人魚は初めて見たので驚きであった。

今はもう使われていない説教壇は、教会の隅に置かれていた(写真: 筆者撮影)
左側の人魚には胸はなく男性の人魚、4人の人魚が腕組みしている姿も珍しい(写真: 筆者撮影)

最後に

後で知ったことだが、この教会にはスペインで唯一、身ごもった聖母の彫刻と、赤ん坊のイエスに授乳する彫刻の両方がある教会で、芸術的価値が高い(ウィキペディア参照)と言われている。赤ん坊のイエスに授乳する彫刻は17世紀のものらしい。

何世紀のものかは分からなかったが、半円アーチの模式的な柱を持つ小さな洗礼盤も保存されている。前述のアルベルト・ガルシア・ロルダン氏によると洗礼式を行う際に今も使用されているとのこと。

こちらも教会の隅っこに置かれていて詳しく見ることができなかった(写真: 筆者撮影)

今も多くの人が訪れ、ミサも行われている活躍中の教会の一つである。ロマネスクからゴシックへ、更にバロック等の彫刻も残存し、様式は変化しながら今も地元の人々に愛されている。ロマネスクの教会は、ともすれば忘れ去られてしまったり、教会がある所にもう人が住んでいない場合も多い。そういう中で、ア・コルーニャで一番古い教会でありながらも今も教会として、人々の心の支柱として活躍しているサンティアゴ教会は幸せな教会であると感じた。

参考

・サンティアゴ教会の住所・電話番号・時間帯等の情報サイト

https://www.coruna.gal/web/es/temas/sociedad-y-bienestar/ocio-y-cultura/equipamientos-de-ocio/equipamiento/iglesia-de-santiago/entidad/1149056044903?argIdioma=es

・「アルテギア」というロマネスクに関するサイト。

https://www.arteguias.com/monumentos/iglesia-santiago-coruna.htm

・本ブログで紹介したアルベルト・ガルシア・ロルダン氏(Alberto García Roldán)のブログサイト「GALICIA PUEBLO A PUEBLO」

https://galiciapuebloapueblo.blogspot.com/2015/05/iglesia-de-santiago-coruna.html

ちょっとスペイン語 -33-  (Tentempié-1. 間食、軽食 2. 起き上がり小法師)

ここでは、ちょっとしたスペイン語の言い回しや、ことわざ、話し言葉など、辞書には載っていない単語も含めて紹介していきます。スペイン語を勉強している方には言葉の幅が広がるお手伝いができればいいなと、スペイン語には興味ないという方には雑学として楽しんでいただければいいなと思っています。

ウィキペディアドメイン写真

今回は、いかにもスペインらしい単語を紹介します。

Tentempié-1. 間食、軽食 2. 起き上がり小法師

この「Tentempié」という言葉の由来を調べてみると「tente en pié」、日本語で言えば「立っていなさい」という命令形の言葉からきたようです。「pié」という単語は「【足首から下をさす】足」という意味で、「tente」は動詞「tener」の命令形で、この場合は「状態」を表す使い方がされていています。

この意味から、玩具の「起き上がり子法師」を指すことは何となく分かりますが、「間食、軽食」という意味になるのはずっと不思議な気がしていました。今回調べてみると、「少ない量の食べ物を摂ることにより、元気になり、立っていることができるようになる」という説明が語源辞書に載っていて納得しました。

なるほど、腹が減っては戦ができないどころか、自分の足で立っていることもできなくなるほどの空腹状態を解決するための「軽食、間食」が「Tentempié」ということのようです。長年の疑問が解決してスッキリしました。(笑)

¡Hola! ¿Tomamos un tentenpié?

ねえ!軽く食べに行かない?

Sí, estaría bien. Es que ya es la hora y tengo un poco de hambre.

うん、いいね。もうそういう時間だよね、それにちょっとお腹もすいてるし。

Entonces, vamos al bar de la esquina donde nos dan buen picho de tortilla de patatas.

じゃ、トルティージャ・デ・パタタス(ジャガイモ入りスペインオムレツ)がおいしい角のバルに行こう。

Me parece buena idea. ¡Vamos!

いいね。行こう!

どこへ行っても必ずバルがあるスペイン。バルのない街や村はスペインには存在しないよ!とスペイン人たちが言う通り、どんな小さな村でも必ずバルはあります。朝からコーヒーを飲みながら新聞をのんびり読むおじいさんや、正午前後で職場の休憩時間があるので、その際バルに行って同僚と「Tentempié」を楽しむサラリーマン達、仕事が終わって帰宅前の時間(午後8時過ぎごろ)に待ち合わせてピンチョを楽しむご夫婦や友人同士等、スペイン人にとってバルはとても身近で生活に密着した無くてはならない存在です。

人生を食べて飲んで謳歌するスペイン人が愛するバル。バルのない生活はスペインじゃないですね!皆さんもスペインにいらっしゃったらバルを思いきり楽しんでください!

スペインのイチオシお菓子-カスティジェハ・デ・ラ・クエスタの焼き菓子 (Tortas de Aceite de Castilleja de la Cuesta)

美食の国スペイン。スペインと言えばバル!バルと言えばピンチョ!ピンチョと言えばトルティージャ・デ・パタタ(スペインオムレツ)!と連想ゲームの様に次々と出てきますが、スペインのお菓子と言えば何が思い浮かびますか?数年前に日本ではちょっとしたブームになった「バスクチーズケーキ」が思い浮かぶ人もいるかもしれません。でも実はこの「バスクチーズケーキ」ってスペイン人の中では全く知られていないお菓子です。サンセバスチャン発祥のお菓子ですが、スペイン国内ではサンセバスチャンでしか食べれないお菓子かもしれません。遠い東の果ての国日本でブームになったのは奇跡かも⁈

欧州連合(EU)のTSG – 伝統的特産品保証付きのお菓子

さて、今回紹介するスペインの一押しお菓子は、欧州連合(EU)の品質認証に登録され、スペインの「本物の美味しさ」を保証している「伝統的特産品で美味しいもの」の一つに認証されている「トルタス・デ・アセイテ・デ・カスティジェハ・デ・ラ・クエスタ(Tortas de Aceite de Castilleja de la Cuesta)」というお菓子です。

日本語に訳すと「カスティジェハ・デ・ラ・クエスタの焼き菓子(筆者訳)」という意味。「カスティジェハ・デ・ラ・クエスタ」は、スペイン南部アンダルシア地方のセビージャの街の中にある地区の名前です。セビージャのカスティジェハ・デ・ラ・クエスタという地区の伝統菓子になります。

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6枚入りのシンプルなパッケージ(写真: 筆者撮影)

「トルタス・デ・アセイテ・デ・カスティジェハ・デ・ラ・クエスタ(Tortas de Aceite de Castilleja de la Cuesta)」の特徴

上の写真でもお分かりになるかもしれませんが、材料にエキストラバージンオリーブオイルが24%も使われている贅沢なお菓子です。

材料は、小麦粉、砂糖、ゴマ、アニス、塩、アニスエッセンス、そしてエキストラバージンオリーブオイルです。ゴマやアニスが入っているため風味も良く、薄く伸ばした生地を焼いてあり、パイ生地の様なサクサク感が特徴です。

エキストラバージンオリーブオイルの割合が多いので扱いにくいのが特徴で、なんと一つ一つ丁寧に手作業で生地を練り、熟練した作り手が丸い形に伸ばして焼いていきます。

一枚一枚、油紙に包んで食べやすいようにしてあります(写真: 筆者撮影)

「トルタス・デ・アセイテ・デ・カスティジェハ・デ・ラ・クエスタ(Tortas de Aceite de Castilleja de la Cuesta)」の歴史

前述したように、元々はセビージャの街のカスティジェハ・デ・ラ・クエスタ地区の伝統的で家庭で作られていたお菓子で、徐々にアンダルシア西部にも広まっていきました。特に、復活祭の間に作られていたらしく、きっと卵が入っていないお菓子なのでその時期に食べられていたのでしょう。というのも、スペインでは9世紀から18世紀にかけて、教会が聖週間の間肉や卵を食べることを禁じていたのです。

そして1910年、セビージャに住むイネス・ロサレス(Inés Rosales)という名前の女性が、セビージャの街のカスティジェハ・デ・ラ・クエスタ地区から約30㎞ほど離れたアルハラフェ(Aljarafe)という町にあった自分の家のレシピ本からこの伝統的なお菓子のレシピを救い出して、製造・販売を始めました。名前も「イネス・ロサーレスの焼き菓子(筆者訳)」と命名され、この女性起業家の名前が冠されています。

レトロなパッケージ

上の写真を見てください。「イネス・ロサーレスの焼き菓子(筆者訳)」は、一枚一枚丁寧に油紙に包まれています。これは、パイ生地の様に壊れやすいお菓子を守るため、油脂の配分が多いお菓子なので手が脂っこくならないため、食べやすくするために工夫されたパッケージです。

製造・販売当時からこのスタイルで包装されていたのかどうかは分かりませんが、会社の所在住所と電話番号が包装油紙に印刷されています。そして、電話番号(TELÉFONO)が「30」と印刷されているのが見えます。1910年当時、まだまだ電話を所有する人が稀だったので、電話番号が30という、今では驚くような番号でした。今も当時のままのレトロなパッケージ、包み方にとてもほっこりさせられますね。

色んなフレイバーを楽しもう!

オリジナルレシピの他にも色んなフレイバーが楽しめます。

まずこちらはオレンジ。

スペイン語でオレンジは、「ナランハ(Naranja)」といいます(写真: 筆者撮影)

こちらはレモン。

レモンは、スペイン語でも似た発音「リモン(Limón)」(写真: 筆者撮影)

そして、シナモンもあります。

シナモンは、スペイン語では「カネラ(Canela)」と言います(写真: 筆者撮影)

個人的にはアニスとゴマの風味たっぷりなオリジナルレシピの味が一番お薦めですが、他の味のお菓子もとっても美味しいですよ!残念なのは、スペインから日本へのお土産にするにはあまりにも壊れやすい繊細なお菓子だということ!それでも、わざわざ箱に入れて緩衝材を詰め日本にお土産として持っていき家族や友人に渡すと、皆口をそろえて「これ、美味しいね!」って言われるお菓子の一つです。

是非、スペインにいらっしゃったら食べてみてください!手軽にスーパー等でも手に入りますよ。ただ気を付けてほしいことは、似たようなお菓子が他にも売っていますが「イネス・ロサーレスの焼き菓子(筆者訳)」ほどおいしいのは無いので、このレトロなパッケージを忘れずにお買い求めください。

参考

・イネス・ロサレス(Inés Rosales)社のウエブサイト

https://www.inesrosales.com/tortas-de-aceite-dulces-ines-rosales/torta-aceite-original

・「TSG – 伝統的特産品保証」についての説明があるイネス・ロサレス(Inés Rosales)社のサイト

https://www.tortasdeaceite.com/selloetg.php

・在日欧州連合部の公式ウエブマガジンに「TSG – 伝統的特産品保証」についての説明があります。

ロマネスクへのいざない (18)- アストゥリアス州 (5)–ルガスのサンタ・マリア教会 (Iglesia de Santa María de Lugás)

3泊4日でアストゥリアス州のロマネスクとプレロマネスクを訪れた第2日目。中には入れなかったが、「ルガス(Lugás)」という村にある12世紀末に建てられた当時のロマネスク様式の正面玄関入口と南門が残るサンタ・マリア教会(Iglesia de Santa María)を訪れた。

ロマネスク様式が残存する教会の正面玄関入口(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

この旅程を知りたい方はこちらをどうぞ。

このルガス(Lugás)村でお祝いされていた聖母マリア祭は、何世紀もの間アストゥリアス地方での重要なお祭りだったという。サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼の道「サンティアゴの道(Camino de Santiago)」の一つである「カミーノ・デル・ノルテ(北の道 Camino del Norte)」と呼ばれる海沿いを歩く巡礼者たちが、ルガス村の聖マリア祭に訪れていた。中世を生きる人たちにとってここは巡礼と信仰を具体化する特別な場所、神聖な場所だったようだ。

ロマネスク様式が残る正面玄関入口と南口

サンタ・マリア教会(Iglesia de Santa María)は12世紀末に建設されたが、その後何度も改築・増築されてきた。特に1690年に行われた増築工事により、前述した二つの入口を除き、バロック様式の教会として生まれ変わっている。

正面玄関入口

正面玄関入口には3つの半円形のアーキボルトがあり、柱頭には美しい植物の装飾が施してある。

入口への床はまるでチェス盤の様な白と赤の石畳。その斬新さはお洒落な雰囲気を醸し出している(写真: 筆者撮影)

サンティアゴ巡礼の道の模様

一番外側のアーキボルトには、ここから500km以上離れたフランスとの国境に近い所にあるハカ(Jaca)という場所で最初に始まった「アへドレサード(ajedrezado)」と呼ばれる市松模様が見られる。この模様は、サンティアゴ巡礼の道沿いの教会等に多く用いられているものだ。この模様からもサンティアゴ巡礼の道を通して文化が伝わっていった証明を目にすることができる。

次のアーキボルトは大胆なジグザク模様で、私たちの目を引く。

向かって左側の柱頭に、下の写真に見られる一つだけ植物ではない装飾がある。

柱頭の上部のアーキボルト部分には、当時の青い色彩が残っている(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

これは、旧約聖書のダニエル書に出てくる一場面「ライオンの穴に投げ込まれたダニエル」である。ダニエルはイスラエルの重要な預言者のひとりだが、ベルシア王が自分ではなく神を崇拝するダニエルに腹を立て、腹を空かせているライオンがいる洞窟の中でダニエルを一晩過ごさせた。翌朝ライオンに食われていると思っていたダニエルが、無傷で神に祈っていること見たペルシア王は驚いた。この話がサンタ・マリア教会(Iglesia de Santa María)の柱頭に描かれている。あまりライオンぽくないが、まるでダニエルに甘えるようにダニエルの両肩に前足を載せるライオンの姿が描かれている。

一般的なロマネスクスタイルの「ライオンの穴に投げ込まれたダニエル」では、ダニエルは両手を合わせるか両手を広げて上に揚げている姿で現され、そのダニエルの足元にライオンが描かれ、服従の意を表していることが多い。しかし、ルガスのサンタ・マリア教会では、確かにダニエルは両手を合わせて祈っている様子だが、前述のようにライオンがダニエルの両肩に前足を載せていて、珍しいスタイルの一つだといえるだろう。

教会の入口にあった説明書によると、「ライオンの穴に投げ込まれたダニエル」は、罪や悪霊や悪魔によって束縛されている人間の魂を象徴している。無実の罪によって死刑に課され復活したイエスと、ライオンに食われる刑を課され穴に投げ込まれたにもかかわらず食われることなく無事に穴から出てくるダニエルは、重ね合わされてロマネスクでは表現されていると一般的には解釈されているようだ。(「Iconografía y Simbolismo Románico」より)

柱頭には美しい植物の装飾が施されている(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

様々なの影響を受けた装飾

南口のアーキボルトは2本あり、その装飾は興味深い。

シンプルな中にも存在感があるアーキボルトの模様(写真: 筆者撮影)

上の写真でもよく分かるが、外側のアーキボルトには、嘴のある鳥のモチーフが施されているのが見える。これは、入口の説明書によると、サクソン人からの影響を受けているらしい。サクソン人は北ドイツで形成されたゲルマン系の部族で、4~5世紀にはイギリスにわたってアングロサクソン人となった人たちだ。そして、この嘴のある鳥の模様は、イングランド・フランス・アイルランド等でもよく見られる模様で、アストゥリアス地方でも見られる模様だということ。これも北の巡礼の道を通って様々な文化が伝わってきた証拠の一つだろう。

内側のアーキボルトは、まるで小文字のオメガ「ω」が連なっているような模様だ。入口の説明書によると、「ロージョス・サモラ―ノス(rollos zamoranos)」と呼ばれる「サモーラの円筒状に巻いた形(筆者訳)」で、名前の通りカスティージャ・イ・レオン州のサモーラという街が起源のイスラム文化のオリエンタルな影響を受けた形だとか。

嘴のある鳥と円筒状の模様があるアーキボルト(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

グリーンマン

下の写真は、大きな口を開けて植物の茎や葉を出す擬人化された仮面を持つグリーンマン。

口の中から大きな葉っぱが飛び出してくる動きがある模様だ(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

グリーンマンと呼ばれる植物を吐き出す仮面は、ロマネスクでは頻繁にみられるモチーフの一つであり、生命の無限の再生サイクルに関連する大地から生じた宗教に由来する。何故グリーンマンをロマネスク教会の装飾に多用したのだろうか。今も専門家たちの意見が分かれハッキリした意味は定説としては無いようだ。ただ、生命の無限の再生を表す、すなわち、「再び生まれる、よみがえる」という意味がキリストの復活に結びつけられたのではないかという説もあり、これは納得いく説だと思われる。

最後に

現在は小さな村でひっそりと佇むルガスのサンタ・マリア教会 (Iglesia de Santa María de Lugás)。しかしその装飾を一つひとつ見ていくと、同じスペイン国内で始まったアへドレサード(ajedrezado)」と呼ばれる市松模様や、遠くドイツ北部のサラセン人を起源とする人たちがイングランド・フランス・アイルランド等へ渡りそこで使い始めた嘴のある鳥の模様、そして異教徒文化であるイスラム文化の影響を受けた模様など、距離・文化・宗教を超えてサンティアゴ巡礼の道を通して様々な交流が行われていたこと、伝達されていた証拠となる模様を見ることができたことはとても興味深く、貴重なものであった。

参考

・アルテギア(arteguia)のウエブサイト。スペインロマネスク美術と中世美術を紹介するサイト。本も多数出版している。

https://www.arteguias.com/santuario/santamarialugas.htm

・Youtube でもルガスのサンタ・マリア教会 (Iglesia de Santa María de Lugás)が見れます。

ちょっとスペイン語 -32-  (a la vuelta de la esquina-1. もうすぐ、ごく近くに、目と鼻の先に、2. 角を曲がったところに)

ここでは、ちょっとしたスペイン語の言い回しや、ことわざ、話し言葉など、辞書には載っていない単語も含めて紹介していきます。スペイン語を勉強している方には言葉の幅が広がるお手伝いができればいいなと、スペイン語には興味ないという方には雑学として楽しんでいただければいいなと思っています。

a la vuelta de la esquina-1. もうすぐ、ごく近くに、目と鼻の先に、2. 角を曲がったところに

スペインでよく使われる表現の一つに「a la vuelta de la esquina」があります。「もうすぐ、ごく近くに、目と鼻の先に」という意味と「角を曲がったところに」という意味で使われ、時間や空間的な距離を表現しています。

先日も、新学年が始まる9月の頭に、近所のお母さんとこんな会話がありました。

Por fin termina las vacaciones largas de verano. El colegio empieza a la vuelta de la esquina.

長い夏休みもやっと終わり。学校が始まるのも直ぐだね。

スペインの幼稚園から高校までの夏休みは6月末から9月頭まで約2ヵ月半‼ 共働きのご夫婦にとってこんなに長い夏休みは悩みの種。やっともうすぐ学校が始まるからホッとするよ、という感じがよく出ていました。(笑)

Mañana empieza diciembre. ¡Qué rápido pasa el tiempo!

明日は12月だ。時が経つのは速いね!

La verdad que sí. La Navidad está a la vuelta de la esquina.

本当だね。クリスマスはもうすぐだよ。

こちらは毎年クリスマスが近づくとスペイン中で必ず交わされる会話の一コマです。

このように、時間的に近いという意味で使われることが多いのですが、空間的な近さ、距離の近さで使われることも多くあります。

¡Qué bonitos zapatos!

その靴、素敵ね!

Gracias. Los compré en rebajas.

ありがとう。バーゲンでお買い得だったのよ。

Bien, ¿dónde los compraste?

そう、どこで買ったの?

En la “Zapatería Cabrerizos”.

「カブレリソス靴店」よ。

¿Dónde está?

どこにあるの?

Está a la vuelta de la esquina desde aquí.

ここからすぐ近くよ。

Pues, ¡voy ahora mismo!

じゃ、今から行ってみるわ!

この表現、スペイン人との会話の中で頻繁に出てくる表現なので、覚えていると便利な表現の一つです。スペイン人と話す機会のある方は、是非一度使ってみてください。「estar cerca -近くに」という表現よりも更にグッと距離や時間が縮まって「すごく近い」感じが表されますよ。