今年2023年は、スペインの国民的画家フアキン・ソロージャ(Juaquín Sorolla)が亡くなってからちょうど100年目の年に当たります。それを記念し「ソロージャ イヤー」と銘打って、出身地バレンシアをはじめマドリッド等でも彼の絵の展示会が開催されています。
このブログでも以前フアキン・ソロージャ(Juaquín Sorolla)とソロージャ美術館について紹介していますので、興味のある方はこちらもどうぞ。
今回は、バレンシアとマドリッドで現在開催中の展示会やその他の展示会情報をお伝えします。
光のアプローチ ソロージャ(Sorolla a través de la luz)
最初は、マドリッドの王宮で開催されている「光のアプローチ ソロージャ(筆者訳)(Sorolla a través de la luz)」の展示会です。
この展示会では、テクノロジーを駆使して彼のオリジナル作品とデジタルで再現された作品が対話するという仕掛けが施してあります。また、バーチャルリアリティルームではバーチャルリアリティ用の装置を付け、画像と音のショーの中に身を置くという、今までの絵画展示会では考えつかなかったような不思議な体験ができます。
展示されているソロージャの絵は24点ありますが、そのほとんどが個人所有のもので今回初公開されています。海、庭園、肖像画、風俗描写の場面など、画家ソロージャが好んで描いたテーマが選ばれています。「光の画家」と呼ばれているほど彼の絵には、その瞬間、瞬間の微妙な光の動きや光の強弱、光の質感、そして季節ごと一日の時間ごとの光の違いを上手く捕らえて表現されていて、こんなにも異なる光を表現できるのかと驚かされます。初めてソロージャの生まれ故郷バレンシアを訪れた時、お天気が良かったということも手伝って、あーこれがソロージャの光だな!地中海の光だな!と実感しました。同じスペインでも私が住むカスティージャ・イ・レオン州の光とは全く異なる光がそこに降り注いでいたことがとても印象的でした。
「ハベアの恋人たち(筆者訳)(Idilio, Jávea)」という作品がありました。まだ年若い少年が少女に話しかけています。少女は恥ずかしそうにでも嬉しそうに下を向いて座っています。なんと初々しく、見る人がまだ若かったころの自分の思い出とオーバーラップするような美しい絵でしょう。説明板に、この絵は9月の昼下がりに描かれ、ソロージャ自身が若くして妻クロティルデに恋した思い出を表現したものかもしれないと書かれていました。題名の「Idilio」には「田園恋愛詩、恋愛関係、牧歌的(幸福)な時期」という意味が手元の辞書には出てきますが、この作品は1901年の「国内絵画展(Exposición Nacional de Bellas Artes)」に出展され売れました。その時には「Los novios(恋人たち)」という名前がついていたそうです。
マドリッドの王宮で開催されている「光のアプローチ ソロージャ(Sorolla a través de la luz)」の展示会は、2023年6月30日まで開催されています。もし、それまでにマドリッドに行かれる機会がある方は、是非この展示会にも寄られることをお薦めします。その際は、下の公式サイトで事前に入場券を買われた方が良いでしょう。
https://www.patrimonionacional.es/actualidad/exposiciones/sorolla-traves-de-la-luz
ソロージャの原点 (Los orígenes de Sorolla)
次に紹介する絵画展は、バレンシア美術館(Museo de Bellas Artes en Valencia)で開かれている「ソロージャの原点 (筆者訳)(Los orígenes de Sorolla)」です。
この展覧会は、まだピカソやダリ等が活躍する以前、スペイン国内でも国際的にも最も成功したスペイン画家の原点を探っていく内容の展示会として構成されています。まだ21歳だったソロージャが「パジェテルの叫び(筆者訳)(El grito del Palleter)」という作品の成功により、奨学金を得てローマに滞在する直前の1878年から1884年までの6年間の軌跡をたどります。あまり知られていない初期の絵画、水彩画、素描、ソロージャの若いころの写真、資料が一堂に展示されていてとても興味深いものです。
「光の画家」として、スペインのみならずヨーロッパやアメリカ合衆国で名声を得、様々なテーマの絵画を残しているソロージャですが、修業時代は、同じスペインの画家である巨匠ベラスケスやリベラの絵を勉強、模写していました。また、15歳の時に描いた果物の静物画や肖像画等も多数展示してありますが、そのデッサン力、光と影の描き方、構図のとり方等、10代にして既にのちに巨匠と呼ばれる画家としての頭角を現しています。
YouTubeでこの展覧会の様子が紹介されています。スペイン語ですが、様々な作品が紹介されていて見るだけでもソロージャの素晴らしさが伝わってくると思います。
バレンシア美術館(Museo de Bellas Artes en Valencia)で開かれている「ソロージャの原点 (筆者訳)(Los orígenes de Sorolla)」は、2023年6月11日までですので、残り2週間弱となってしまいましたが、機会があれば是非お薦めしたい展覧会です。
スペイン観光局のスペイン観光公式サイトにも紹介されています。
https://www.spain.info/ja/karendaa/soroorya-kigen-tenrankai-barenshia/
ちなみに、バレンシア美術館(Museo de Bellas Artes en Valencia)には、ベラスケス本人が描いた「自画像(Autorretorato)」もあります。あまり知られていないようですが、プラド美術館以外で見れるベラスケスの作品です。
黒のソロージャ(Sorolla en negro)
「光の画家」として名を馳せたソロージャですが、黒やグレーの色使いを中心にして描いた作品も多く残しています。それらの作品を集めて展示しているのが、バレンシアのバンカハ財団で開催されている「黒のソロージャ(筆者訳)(Sorolla en negro)」です。
ソロージャの黒の使用は、ベラスケス、エル・グレコ、ゴヤなどのスペイン絵画の伝統に由来していて、詩的で精神的な状態を示唆する豊かな表現要素となって、彼の時代の現代性とその飾り気のない気品を反映する色として再解釈されました。(バンカハ財団のウエブサイトより)
ソロージャが描いたグレーという色は現代的な色として描かれていて、静寂や平穏を表現していたそうですが、この「グレーのドレスを着たクロティルデ(Clotilde con traje gris)」には、グレーのドレスがクロティルデの美しさのみではなく洗練された雰囲気を醸し出し、と同時に内面的な静穏と深い愛情が伝わってきます。
展覧会は、「黒とグレーの調和(筆者訳)(Armonías en negro y gris)」、「象徴的な黒(筆者訳)(Negro simbólico)」、「黒と暗い表面(筆者訳)(Superficies negras y oscuras)」、「モノクローム(筆者訳)(Monocromías)」の4つのセクションで構成されています。ソロージャの絵に特別な個性を与えている肖像画の黒とグレーの色彩和音から始まり、時代や自然主義画家の作品に浸透している黒という色の象徴性や文化的意義について見ていきます。更に、19世紀に急進的なコントラストを生み出し、他の色を引き立てる存在として形作られた黒の新しい使い方についても検証していきます。展覧会の最後には、グレーや青みがかった色調に包まれたモノクローム作品が展示されていますが、これは複雑でないどころか、卓越した技術を駆使した特異な作品です。(バンカハ財団のウエブサイトより)
確かに、この絵画展を見てソロージャは正しくスペインの巨匠たちの素晴らしい技術を踏襲したスペインの画家であることを確認させられました。と同時に、黒とグレーという色に様々な意味を持たせ、ソロージャが表現したいものを浮き出たせる重要な役割を果たす色だったということにも気づきました。ソロージャ絵画の奥の深さ、多面的な部分を再発見できた素晴らしい展覧会でした。
バレンシアのバンカハ財団で開催されている「黒のソロージャ(Sorolla en negro)」の開催期間は今年9月10日までです。もしバレンシアに行かれる方は是非見に行ってください。
バンカハ財団の公式サイトです。最後の方には、展覧会を紹介したYouTube の動画もあります。一見の価値ありです。
https://www.fundacionbancaja.es/exposicion/sorolla-en-negro/
肖像画で見るソロージャ(Sorolla a través de sus retratos)
最後に紹介するのは、マドリッドのプラド美術館で開催されている「肖像画で見るソロージャ(筆者訳)(Sorolla a través de sus retratos)」です。
こちらは、プラド美術館が所有するソロージャの作品を集め、特に肖像画を通してソロージャの作品に迫るものです。肖像画のコーナーには、ソロージャの作品だけではなく、ソロージャと同時期19世紀に活躍した画家たちが描いた肖像画も一堂に展示されています。残念ながら美術館内での写真撮影が禁止されているので、写真をお届けすることはできませんが、下のプラド美術館公式サイトをクリックして頂くと、展示されているソロージャの作品が紹介されています。
もし、6月18日までにマドリッドのプラド美術館を訪れる機会があれば、是非こちらも見に行ってください。
プラド美術館公式サイトはこちらです。
2023年に開催される展覧会情報
その他、開催されているソロージャの絵画展は次の通りです。
マドリッドのソロージャ美術館:
・2023年6月25日まで開催-「ソロージャが死んだ!ソロージャ万歳!(筆者訳)(¡Sorolla ha muerto!¡Viva Sorolla!)」
この展示会は、ソロージャが亡くなった時の新聞記事などが展示してあり、ソロージャがどれだけ民衆からも愛された国民的な画家だったことがよくわかります。簡単な説明が youtube に紹介してあります。スペイン語ですが、興味のある方はどうぞ。
・2023年9月17日まで開催-「マヌエル・ビセンテとソロージャの海(筆者訳)(En el mar de Sorolla con Manuel Vicent)」
ソロージャと同じバレンシア州出身の詩人・作家マヌエル・ビセントによる詩とソロージャの絵画のコラボ企画です。スペイン文化・スポーツ省の公式サイトにこの展覧会が紹介されています。
https://www.culturaydeporte.gob.es/msorolla/exposicion/exposicion-mar-sorolla-con-manuel-vicent.html
バレンシア:
・2023年6月2日まで開催-「ローマのソロージャ。芸術家ソロージャとバレンシア州議会奨学金(筆者訳)(Sorolla en Roma. El artista y la pensión de la Diptación de Valencia (1884-1889))」バテリア宮殿 (Palacio de Batlia)
ソロージャが前述の「パジェテルの叫び(El grito del Palleter)」という作品の成功により、奨学金を得てローマに滞在した21歳から26歳まで絵画の勉強と訓練を積んだ時期の芸術生活に焦点を当てた展覧会です。「ソロージャ100周年(Centenario Sorolla)」公式サイトにも紹介されています。
・2023年12月まで開催-「芸術家たちの街。フアキン・ソロージャとバレンシア芸術産業宮殿(筆者訳) (La Ciudad de los artistas. Juaquín Sorolla y el Palacio de los Artes e Industrias de Valencia)」バレンシア市立博物館(Museo de la Ciudad de Valencia)
ソロージャと並行してキャリアを積んだバレンシアの芸術家たちによる140点以上の作品が展示されています。フアキン・ソロージャがバレンシアに芸術産業宮殿を建設したプロジェクトについてや、当時のバレンシアの芸術的雰囲気に焦点を当てた展覧会です。「ソロージャ100周年(Centenario Sorolla)」公式サイトにも紹介されています。
アリカンテ:
・2023年6月25日まで開催-「ソロージャと同時代のバレンシア絵画(筆者訳) (Sorolla y la pintura valenciana de su tiempo)」アリカンテ美術館(Museo de Bellas Artes de Alicante)
120点という多くの作品が展示してある展覧会で、ソロージャの作品以外にもソロージャの弟子たちや同時代に活躍したバレンシアの画家の作品やバレンシアを題材にした作品を一挙に公開しています。スペイン国営のラジオ・テレビ放送協会がこの展覧会について紹介しています。
「ソロージャ100周年(Centenario Sorolla)」公式サイトはこちらです。
https://www.centenariosorolla.es/
このブログで紹介した展覧会が行われている場所です。
https://goo.gl/maps/q8QfpFVUtugstwbc6?coh=178573&entry=tt
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