スペイン版除夜の鐘と年越しそば?大晦日の12個のブドウとは?

今年も残すところ2週間をきりました。スペインに住んでいると12月24日のクリスマス・イブを皮切りに、年が明けて1月6日までの三賢王の日までの2週間は、何かと家族や友人が集まり食べて飲んで歌って踊ってと、賑やかかつ胃腸にはハードな時期です。私は「マラソン・クリスマス」と勝手に呼んでいます。(笑)

「マラソン・クリスマス」の丁度中間地点にあたる大晦日。スペインでは、大晦日の夜は家族みんなや友人たちと一緒にワイワイといつもより豪華な食事をとるのが一般的です。普段はスペインの夜ご飯が始まる時間は遅いのですが、この日は0時の鐘の音とともに12個のブドウを食べなければならないので、余裕をもって夕食会を始めるスペイン人が多いようです。

大晦日の12時の鐘に合わせて食べる12個のブドウ

ひとしきり大晦日の夜ご飯が終わると、各人が12個のブドウを手にしてテレビの前に集まります。遅くても0時15分前にはテレビにスイッチを入れます。テレビをつけると、スペイン国営放送がマドリードのソル広場(Puerta del Sol) にある王立郵便局 (Real Casa de Correos) の時計台と、新年を迎えようとソル広場に詰め掛けている人々の姿が映し出されます。

ソル広場(Puerta del Sol) にある王立郵便局 (Real Casa de Correos) の時計台(写真: 筆者撮影)

12時の鐘が鳴る直前には、鐘が鳴ると同時に食べ始められるように、皆テレビの前でブドウを手にして待ち構えています。そして、鐘が鳴り始めると一斉に12個のブドウを次々と口の中に入れていくのです。最初の2~3個を食べている間は、「今年はいけるかも!!」と思うのですが、どんどん口に入れるにつれ、噛んで飲み込む時間が無くなってきて、口いっぱいに頬張りながら10個目くらいで12の鐘が鳴り終わってしまうことが多いですね。スペインのブドウは大粒なものが多く、皮と種もそのまま全部食べるのが一般的です。私は、これでは絶対無理!と悟り、ここ数年は事前に皮をむいて種もとった12個のブドウを自分用に用意しています。(笑) 最近では、種無し皮をむいたブドウの入った缶詰が売られていますよ。皆、考えることは同じですね。(笑)

そして、12の鐘が鳴り終わってブドウ12個を食べ終わったらすぐに、皆で抱き合って、両方の頬にキスをして「新年おめでとう!(¡Feliz año nuevo!)」と言いながら、シャンパンでお祝いします。

その始まり

この12個のブドウを鐘の音と一緒に食べて新年を迎えるという習慣は、一体いつ頃どういう理由で誕生したのでしょうか。

1895年、ブドウ農家の人達がその年特に豊作だったブドウを売りさばくために始めたという説や、フランスから輸入された習慣だという説、12粒のブドウを食べると1年の幸運と繁栄につながるという、もともと古くからの言い伝えがあったという説、地域によってはブドウを食べることで魔女や悪一般を追い払うと信じられていたという説など、いろいろな説があるようです

(写真: 筆者撮影)

何はともあれ、今は12個のブドウを12の鐘の音が鳴り終わるまでに食べてしまうと、新年は豊作、良い年、幸せになると言われていて、皆12の鐘の音が鳴り終わるまでに12個のブドウを食べ終わられるよう懸命です。今年も12個のブドウの皮と種を取って準備万端で大晦日を迎えるつもりです。(笑)

終わりに

もし大晦日の日にマドリードに滞在する機会があれば、あなたも是非12個のブドウ持参で王立郵便局 (Real Casa de Correos) 前でスペイン式に新年をお祝いしてみてはいかがでしょうか。きっと忘れられない一生の楽しい思い出になること間違いなしです!ブドウの皮をむいて種を取っておく準備をお忘れなく!

ちょっとスペイン語-19-(¡Manda narices!)嫌になる、不快な、腹が立つ

ここでは、ちょっとしたスペイン語の言い回しや、ことわざ、話し言葉など、辞書には載っていない単語も含めて紹介していきます。スペイン語を勉強している方には言葉の幅が広がるお手伝いができればいいなと、スペイン語には興味ないという方には雑学として楽しんでいただければいいなと思っています。

もうすっかり冬ですね(写真: アルベルト・F・メダルデ )

¡Manda narices! 、manda narices~- 嫌になる、不快な、腹が立つ

前回に続き、話し言葉(coloquial)でのみ使われている表現の一つを紹介します。

スペインに長く住んでいるとよく耳にする話し言葉ですが、スペイン王立アカデミー編纂の西西辞典(Real Academia Española)には載っていない表現です。

基本的には、怒りや腹立たしさ、不快感を表したり、非難する時などに使われる言い回しです。

1.Era un trabajo del grupo pero mis compañeros no han hecho nada, ¡manda narices que tengo que hacer todo yo solito!

グループでやる仕事だったのに、他の奴らは何もやってない。なんで俺が一人でやんなきゃいけないだ!

2.¡Manda narices! Otra vez hay una caca de un perro delante de mi casa.

嫌になまたうちの前に犬のうんちがある。

1の文は、何にも仕事をやっていない怠け者の同僚を非難し、腹立たしさを言い含めた言い方です。

2の文は、不快感と怒りを表しています。

この言い回しを使うと、本当に不快な思いをしている、腹を立てているということが表現できて結構使い勝手の良い言い回しです。発音する時は、ちょっと大げさに言ってください。そうすると一層不快な気持ち、非難する気持ちが伝わりますよ。どうぞ、使ってみてくださいね。

レオン(León)へ行こう!(4)―クリスマスツリーの前身か⁈「クリスマスのラモ・レオネス(Ramo leonés de Navidad)」

12月に入り、スペインの街は一気に賑やか、華やかになってきています。街には色鮮やかなクリスマス・イルミネーションが始まり、クリスマスの飾り付けがお店屋さんや街角でもお目見えしてきています。最近のスペインの傾向としては、伝統的ないわゆるキリスト教に関係するイエス誕生にまつわる場面の飾り付け等はどんどん影をひそめ、もっと商業的でニュートラルなデザインのイルミネーションや飾り付けが幅を利かせています。個人的には華やかなイルミネーションではなく、原点に立ち返ったイエス誕生を祝う喜びの祭典、長く寒く暗い冬を生活する庶民の楽しみでもあり喜びでもあったクリスマスを祝うもっと素朴で精神的で伝統的な飾り付けの方に心を惹かれます。

古くて新しいクリスマスの飾り

実は、レオン市ではここ20~25年位前からお目見えした古くて新しいレオン特有のクリスマスの飾り付けがあります。「クリスマスのラモ・レオネス(Ramo leonés de Navidad)」と呼ばれる飾り付けです。最近では、レオンの街中に大きなこの飾り付けが立てられたり、街中を歩いていると様々な店先でこの飾り付けを見ることができます。私が最初に留学した90年代前半には見たことも聞いたこともないものでしたが、今ではとてもポピュラーな飾り付けとなっています。

レオン街中の公園に今年も現れた巨大なレオンのラモ・レオネス (写真: 筆者撮影)

クリスマスのラモ・レオネスは木製のフレームを使用しますが、その形は日本の相合傘のイラストを思い出していただくとわかりやすいかと思います。三角形の真ん中から出ている木製の一本足が台に乗っているというイメージです。上の写真をご覧ください。百聞は一見に如かずですね。三角形部分は、半円形や四角形のものもありますが、私が実際に見たものは殆ど三角形のものでした。そして、その三角形の2等辺部分には1年12ヶ月を表す12本のロウソクを飾り、三角形の底辺部分にはリボン、毛糸、刺繍、レース、果物、ビスケットなど、さまざまな種類の供物を吊るします。一本足が乗る台には、栗や木の実を入れた籠などが飾れれていることもあります。

クリスマスのラモ・レオネスの起源

クリスマスのラモ・レオネスの起源は、キリスト教以前の時代まで遡ります。「ラモ・レオネス」の「ラモ(ramo)」とはスペイン語では木の枝という意味の言葉ですが、「Ramo leonés de Navidad」を直訳すると「クリスマスのレオンの枝」という意味です。つまりその起源には、キリスト教以前のヨーロッパ諸国で一般的だった自然崇拝があり、特に樹木崇拝があります。樹木崇拝は、春を迎える前兆としてまた冬至にまつわる祭事で豊穣の象徴として一般的なものでした。レオンにおける「ラモ・レオネス」も、豊穣を祈り春への序曲として捧げられていたものだったと考えられています。

約200年ほど前に作られた「ラモ・レオネス」現存するものでは最も古いものだとか(写真: 筆者撮影)

そして時代が下り、キリスト教がこの地にもたらされた時には「ラモ・レオネス」は異教徒のシンボルとされましたが、だんだん教会に適応されていきました。これは、キリスト教がヨーロッパ全土に広がっていく過程ですべての地域で行われた適応の一つで、もともと古くからその土地で祝われていた儀式やお祭りを異教徒のものとして切って捨ててしまうのではなく、上手くキリスト教儀式の中に取り込む形で融合させていき、人々の反発を買うことなく、人々の心をつなぎとめ、キリスト教の布教を助ける働きをしていったのです。

クリスマスのラモ・レオネスは、クリスマスツリーの前身とも言われているそうです。

クリスマスのラモ・レオネスの種類

レオン地方の村々には、色んな種類の「ラモ・レオネス」があります。代表的なものをいくつか見てみましょう。

植物の枝で作られたもの。これは、キリスト教以前にあった最も古い原型に近いものです。常緑樹の植物から採取するのが一般的だったようで、月桂樹、ヒイラギ、松などの枝を使用していました。

偏菱形 (へんりょうけい)のもの。これは、先端が上向きと下向きの2つの三角形で形成されているものです。

キュービックのもの。これは、2つの正方形がマストと互いに結合して形成されているため、立方体状になっています。

円筒形のもの。2本の水平な木の輪を重ねたもので、マストに取り付けられています。

ラストル。草を集めるための農具に形が似ているためこの名がつきました。長方形です。

他にも様々にアレンジされたものがあるようですが、やはり一般的には相合傘のやつが主流のようですね。

売られていた様々な「ラモ・レオネス」(写真: 筆者撮影)

蘇ったクリスマスのラモ・レオネス

長い伝統を持ち、キリスト教にも上手く融合しながら生きながらえてきたこのクリスマスの飾り付け「ラモ・レオネス」は、私たちがよく知っている姿のヨーロッパ他国の伝統であるクリスマスツリーがスペインに入ってくると、だんだんと姿を消していきました。実際、今から約20年ほど前までは、私の知っているレオンの友人や家族などほとんどの人達は「ラモ・レオネス」について見たことも聞いたことなかったそうです。

1996年のクリスマスに、レオン伝統文化協会(La asociación ‘Facendera pola Llingua’)が、レオン語(ラテン語から派生した一つで、カスティージャ・イ・レオン州のレオン県とサモラ県の一部で話されている-ウィキペディアより)で書いたクリスマスカードに「クリスマスのラモ・レオネス」の絵を描き入れて大量に印刷して配ったことから、このレオンの伝統的な飾り付けが一般的に知られることになりました。

それ以来少しずつ市民権を回復していき、私が調べた限りでは、2014年よりレオン市内の広場に8メートルもの巨大な「ラモ・レオネス」が飾られています。それ以前の2010年のレオンの新聞記事には、レオンにある大手デパート「エル・コルテ・イングレス(El Corte Ingés)」にこの飾り付けを売るコーナーが登場したり、街中の店のショーウインドーに飾り付けられていることが載っていました。また、2005年のレオンの新聞「ディアリオ・デ・レオン」には、広場に飾られている「ラモ・レオネス」に毎日2000人の人が見に来ていると報じています。

最後に

クリスマスの飾り付け「ラモ・レオネス」が復活してきた90年代後半といえば、スペインの経済は好景気が始まりどんどんグローバル化が進み、他のヨーロッパ諸国に追いつけ追い抜けの時代でした。 スペイン国外のクリスマス様式や飾り付けもどんどん導入され、画一的かつ商業的なものへと急速に変化していったこの時期に、もっと自分たちだけのローカルなもの、自分たちの起源となるものに目を向けるようになり、レオンの人々から忘れ去られた飾り付けが復活し、現代に生きるレオンの人々に受け入れられたことは面白いことです。グローバル化が進むことで逆にアイデンティティーを求める機運が高まったのでしょう。一方で、多くの若者にとって宗教というものが遠い存在になっている今、また、キリスト教という宗教に反発・反感を抱く広い世代の人々にとっても、キリスト教が入ってくる以前から存在していたこの飾り付け「ラモ・レオネス」は、もっとニュートラルで宗教色の薄いクリスマスの飾り付けとしてすんなり抵抗なく受け入れられたのでしょう。

クリスマスの飾り付け一つからでも、その時代に生きる人々の考え方や生き方、時代の流れ、主張とてもいうべき声なき声などが聞こえてきそうで、興味深いものです。

もし、クリスマスの時期にスペインを訪れる機会があれば、是非レオンまで足を延ばしてこのクリスマスツリーの原型といわれている「ラモ・レオネス」を見に来てくださいね。

情報

・2020年12月18日付け「ディアリオ・デ・レオン (Diario de León)」という地方新聞に、レオンのクリスマスブーケについて詳しく報道されています。このブログの内容もこの記事を参考にしてます。

https://www.diariodeleon.es/articulo/navidad-leon/ramo-leones-navidad-tradicion-leon/202012181539372071100.html