スペインのイチオシお菓子-カスティジェハ・デ・ラ・クエスタの焼き菓子 (Tortas de Aceite de Castilleja de la Cuesta)

美食の国スペイン。スペインと言えばバル!バルと言えばピンチョ!ピンチョと言えばトルティージャ・デ・パタタ(スペインオムレツ)!と連想ゲームの様に次々と出てきますが、スペインのお菓子と言えば何が思い浮かびますか?数年前に日本ではちょっとしたブームになった「バスクチーズケーキ」が思い浮かぶ人もいるかもしれません。でも実はこの「バスクチーズケーキ」ってスペイン人の中では全く知られていないお菓子です。サンセバスチャン発祥のお菓子ですが、スペイン国内ではサンセバスチャンでしか食べれないお菓子かもしれません。遠い東の果ての国日本でブームになったのは奇跡かも⁈

欧州連合(EU)のTSG – 伝統的特産品保証付きのお菓子

さて、今回紹介するスペインの一押しお菓子は、欧州連合(EU)の品質認証に登録され、スペインの「本物の美味しさ」を保証している「伝統的特産品で美味しいもの」の一つに認証されている「トルタス・デ・アセイテ・デ・カスティジェハ・デ・ラ・クエスタ(Tortas de Aceite de Castilleja de la Cuesta)」というお菓子です。

日本語に訳すと「カスティジェハ・デ・ラ・クエスタの焼き菓子(筆者訳)」という意味。「カスティジェハ・デ・ラ・クエスタ」は、スペイン南部アンダルシア地方のセビージャの街の中にある地区の名前です。セビージャのカスティジェハ・デ・ラ・クエスタという地区の伝統菓子になります。

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6枚入りのシンプルなパッケージ(写真: 筆者撮影)

「トルタス・デ・アセイテ・デ・カスティジェハ・デ・ラ・クエスタ(Tortas de Aceite de Castilleja de la Cuesta)」の特徴

上の写真でもお分かりになるかもしれませんが、材料にエキストラバージンオリーブオイルが24%も使われている贅沢なお菓子です。

材料は、小麦粉、砂糖、ゴマ、アニス、塩、アニスエッセンス、そしてエキストラバージンオリーブオイルです。ゴマやアニスが入っているため風味も良く、薄く伸ばした生地を焼いてあり、パイ生地の様なサクサク感が特徴です。

エキストラバージンオリーブオイルの割合が多いので扱いにくいのが特徴で、なんと一つ一つ丁寧に手作業で生地を練り、熟練した作り手が丸い形に伸ばして焼いていきます。

一枚一枚、油紙に包んで食べやすいようにしてあります(写真: 筆者撮影)

「トルタス・デ・アセイテ・デ・カスティジェハ・デ・ラ・クエスタ(Tortas de Aceite de Castilleja de la Cuesta)」の歴史

前述したように、元々はセビージャの街のカスティジェハ・デ・ラ・クエスタ地区の伝統的で家庭で作られていたお菓子で、徐々にアンダルシア西部にも広まっていきました。特に、復活祭の間に作られていたらしく、きっと卵が入っていないお菓子なのでその時期に食べられていたのでしょう。というのも、スペインでは9世紀から18世紀にかけて、教会が聖週間の間肉や卵を食べることを禁じていたのです。

そして1910年、セビージャに住むイネス・ロサレス(Inés Rosales)という名前の女性が、セビージャの街のカスティジェハ・デ・ラ・クエスタ地区から約30㎞ほど離れたアルハラフェ(Aljarafe)という町にあった自分の家のレシピ本からこの伝統的なお菓子のレシピを救い出して、製造・販売を始めました。名前も「イネス・ロサーレスの焼き菓子(筆者訳)」と命名され、この女性起業家の名前が冠されています。

レトロなパッケージ

上の写真を見てください。「イネス・ロサーレスの焼き菓子(筆者訳)」は、一枚一枚丁寧に油紙に包まれています。これは、パイ生地の様に壊れやすいお菓子を守るため、油脂の配分が多いお菓子なので手が脂っこくならないため、食べやすくするために工夫されたパッケージです。

製造・販売当時からこのスタイルで包装されていたのかどうかは分かりませんが、会社の所在住所と電話番号が包装油紙に印刷されています。そして、電話番号(TELÉFONO)が「30」と印刷されているのが見えます。1910年当時、まだまだ電話を所有する人が稀だったので、電話番号が30という、今では驚くような番号でした。今も当時のままのレトロなパッケージ、包み方にとてもほっこりさせられますね。

色んなフレイバーを楽しもう!

オリジナルレシピの他にも色んなフレイバーが楽しめます。

まずこちらはオレンジ。

スペイン語でオレンジは、「ナランハ(Naranja)」といいます(写真: 筆者撮影)

こちらはレモン。

レモンは、スペイン語でも似た発音「リモン(Limón)」(写真: 筆者撮影)

そして、シナモンもあります。

シナモンは、スペイン語では「カネラ(Canela)」と言います(写真: 筆者撮影)

個人的にはアニスとゴマの風味たっぷりなオリジナルレシピの味が一番お薦めですが、他の味のお菓子もとっても美味しいですよ!残念なのは、スペインから日本へのお土産にするにはあまりにも壊れやすい繊細なお菓子だということ!それでも、わざわざ箱に入れて緩衝材を詰め日本にお土産として持っていき家族や友人に渡すと、皆口をそろえて「これ、美味しいね!」って言われるお菓子の一つです。

是非、スペインにいらっしゃったら食べてみてください!手軽にスーパー等でも手に入りますよ。ただ気を付けてほしいことは、似たようなお菓子が他にも売っていますが「イネス・ロサーレスの焼き菓子(筆者訳)」ほどおいしいのは無いので、このレトロなパッケージを忘れずにお買い求めください。

参考

・イネス・ロサレス(Inés Rosales)社のウエブサイト

https://www.inesrosales.com/tortas-de-aceite-dulces-ines-rosales/torta-aceite-original

・「TSG – 伝統的特産品保証」についての説明があるイネス・ロサレス(Inés Rosales)社のサイト

https://www.tortasdeaceite.com/selloetg.php

・在日欧州連合部の公式ウエブマガジンに「TSG – 伝統的特産品保証」についての説明があります。

ロマネスクへのいざない (18)- アストゥリアス州 (5)–ルガスのサンタ・マリア教会 (Iglesia de Santa María de Lugás)

3泊4日でアストゥリアス州のロマネスクとプレロマネスクを訪れた第2日目。中には入れなかったが、「ルガス(Lugás)」という村にある12世紀末に建てられた当時のロマネスク様式の正面玄関入口と南門が残るサンタ・マリア教会(Iglesia de Santa María)を訪れた。

ロマネスク様式が残存する教会の正面玄関入口(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

この旅程を知りたい方はこちらをどうぞ。

このルガス(Lugás)村でお祝いされていた聖母マリア祭は、何世紀もの間アストゥリアス地方での重要なお祭りだったという。サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼の道「サンティアゴの道(Camino de Santiago)」の一つである「カミーノ・デル・ノルテ(北の道 Camino del Norte)」と呼ばれる海沿いを歩く巡礼者たちが、ルガス村の聖マリア祭に訪れていた。中世を生きる人たちにとってここは巡礼と信仰を具体化する特別な場所、神聖な場所だったようだ。

ロマネスク様式が残る正面玄関入口と南口

サンタ・マリア教会(Iglesia de Santa María)は12世紀末に建設されたが、その後何度も改築・増築されてきた。特に1690年に行われた増築工事により、前述した二つの入口を除き、バロック様式の教会として生まれ変わっている。

正面玄関入口

正面玄関入口には3つの半円形のアーキボルトがあり、柱頭には美しい植物の装飾が施してある。

入口への床はまるでチェス盤の様な白と赤の石畳。その斬新さはお洒落な雰囲気を醸し出している(写真: 筆者撮影)

サンティアゴ巡礼の道の模様

一番外側のアーキボルトには、ここから500km以上離れたフランスとの国境に近い所にあるハカ(Jaca)という場所で最初に始まった「アへドレサード(ajedrezado)」と呼ばれる市松模様が見られる。この模様は、サンティアゴ巡礼の道沿いの教会等に多く用いられているものだ。この模様からもサンティアゴ巡礼の道を通して文化が伝わっていった証明を目にすることができる。

次のアーキボルトは大胆なジグザク模様で、私たちの目を引く。

向かって左側の柱頭に、下の写真に見られる一つだけ植物ではない装飾がある。

柱頭の上部のアーキボルト部分には、当時の青い色彩が残っている(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

これは、旧約聖書のダニエル書に出てくる一場面「ライオンの穴に投げ込まれたダニエル」である。ダニエルはイスラエルの重要な預言者のひとりだが、ベルシア王が自分ではなく神を崇拝するダニエルに腹を立て、腹を空かせているライオンがいる洞窟の中でダニエルを一晩過ごさせた。翌朝ライオンに食われていると思っていたダニエルが、無傷で神に祈っていること見たペルシア王は驚いた。この話がサンタ・マリア教会(Iglesia de Santa María)の柱頭に描かれている。あまりライオンぽくないが、まるでダニエルに甘えるようにダニエルの両肩に前足を載せるライオンの姿が描かれている。

一般的なロマネスクスタイルの「ライオンの穴に投げ込まれたダニエル」では、ダニエルは両手を合わせるか両手を広げて上に揚げている姿で現され、そのダニエルの足元にライオンが描かれ、服従の意を表していることが多い。しかし、ルガスのサンタ・マリア教会では、確かにダニエルは両手を合わせて祈っている様子だが、前述のようにライオンがダニエルの両肩に前足を載せていて、珍しいスタイルの一つだといえるだろう。

教会の入口にあった説明書によると、「ライオンの穴に投げ込まれたダニエル」は、罪や悪霊や悪魔によって束縛されている人間の魂を象徴している。無実の罪によって死刑に課され復活したイエスと、ライオンに食われる刑を課され穴に投げ込まれたにもかかわらず食われることなく無事に穴から出てくるダニエルは、重ね合わされてロマネスクでは表現されていると一般的には解釈されているようだ。(「Iconografía y Simbolismo Románico」より)

柱頭には美しい植物の装飾が施されている(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

様々なの影響を受けた装飾

南口のアーキボルトは2本あり、その装飾は興味深い。

シンプルな中にも存在感があるアーキボルトの模様(写真: 筆者撮影)

上の写真でもよく分かるが、外側のアーキボルトには、嘴のある鳥のモチーフが施されているのが見える。これは、入口の説明書によると、サクソン人からの影響を受けているらしい。サクソン人は北ドイツで形成されたゲルマン系の部族で、4~5世紀にはイギリスにわたってアングロサクソン人となった人たちだ。そして、この嘴のある鳥の模様は、イングランド・フランス・アイルランド等でもよく見られる模様で、アストゥリアス地方でも見られる模様だということ。これも北の巡礼の道を通って様々な文化が伝わってきた証拠の一つだろう。

内側のアーキボルトは、まるで小文字のオメガ「ω」が連なっているような模様だ。入口の説明書によると、「ロージョス・サモラ―ノス(rollos zamoranos)」と呼ばれる「サモーラの円筒状に巻いた形(筆者訳)」で、名前の通りカスティージャ・イ・レオン州のサモーラという街が起源のイスラム文化のオリエンタルな影響を受けた形だとか。

嘴のある鳥と円筒状の模様があるアーキボルト(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

グリーンマン

下の写真は、大きな口を開けて植物の茎や葉を出す擬人化された仮面を持つグリーンマン。

口の中から大きな葉っぱが飛び出してくる動きがある模様だ(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

グリーンマンと呼ばれる植物を吐き出す仮面は、ロマネスクでは頻繁にみられるモチーフの一つであり、生命の無限の再生サイクルに関連する大地から生じた宗教に由来する。何故グリーンマンをロマネスク教会の装飾に多用したのだろうか。今も専門家たちの意見が分かれハッキリした意味は定説としては無いようだ。ただ、生命の無限の再生を表す、すなわち、「再び生まれる、よみがえる」という意味がキリストの復活に結びつけられたのではないかという説もあり、これは納得いく説だと思われる。

最後に

現在は小さな村でひっそりと佇むルガスのサンタ・マリア教会 (Iglesia de Santa María de Lugás)。しかしその装飾を一つひとつ見ていくと、同じスペイン国内で始まったアへドレサード(ajedrezado)」と呼ばれる市松模様や、遠くドイツ北部のサラセン人を起源とする人たちがイングランド・フランス・アイルランド等へ渡りそこで使い始めた嘴のある鳥の模様、そして異教徒文化であるイスラム文化の影響を受けた模様など、距離・文化・宗教を超えてサンティアゴ巡礼の道を通して様々な交流が行われていたこと、伝達されていた証拠となる模様を見ることができたことはとても興味深く、貴重なものであった。

参考

・アルテギア(arteguia)のウエブサイト。スペインロマネスク美術と中世美術を紹介するサイト。本も多数出版している。

https://www.arteguias.com/santuario/santamarialugas.htm

・Youtube でもルガスのサンタ・マリア教会 (Iglesia de Santa María de Lugás)が見れます。

ちょっとスペイン語 -32-  (a la vuelta de la esquina-1. もうすぐ、ごく近くに、目と鼻の先に、2. 角を曲がったところに)

ここでは、ちょっとしたスペイン語の言い回しや、ことわざ、話し言葉など、辞書には載っていない単語も含めて紹介していきます。スペイン語を勉強している方には言葉の幅が広がるお手伝いができればいいなと、スペイン語には興味ないという方には雑学として楽しんでいただければいいなと思っています。

a la vuelta de la esquina-1. もうすぐ、ごく近くに、目と鼻の先に、2. 角を曲がったところに

スペインでよく使われる表現の一つに「a la vuelta de la esquina」があります。「もうすぐ、ごく近くに、目と鼻の先に」という意味と「角を曲がったところに」という意味で使われ、時間や空間的な距離を表現しています。

先日も、新学年が始まる9月の頭に、近所のお母さんとこんな会話がありました。

Por fin termina las vacaciones largas de verano. El colegio empieza a la vuelta de la esquina.

長い夏休みもやっと終わり。学校が始まるのも直ぐだね。

スペインの幼稚園から高校までの夏休みは6月末から9月頭まで約2ヵ月半‼ 共働きのご夫婦にとってこんなに長い夏休みは悩みの種。やっともうすぐ学校が始まるからホッとするよ、という感じがよく出ていました。(笑)

Mañana empieza diciembre. ¡Qué rápido pasa el tiempo!

明日は12月だ。時が経つのは速いね!

La verdad que sí. La Navidad está a la vuelta de la esquina.

本当だね。クリスマスはもうすぐだよ。

こちらは毎年クリスマスが近づくとスペイン中で必ず交わされる会話の一コマです。

このように、時間的に近いという意味で使われることが多いのですが、空間的な近さ、距離の近さで使われることも多くあります。

¡Qué bonitos zapatos!

その靴、素敵ね!

Gracias. Los compré en rebajas.

ありがとう。バーゲンでお買い得だったのよ。

Bien, ¿dónde los compraste?

そう、どこで買ったの?

En la “Zapatería Cabrerizos”.

「カブレリソス靴店」よ。

¿Dónde está?

どこにあるの?

Está a la vuelta de la esquina desde aquí.

ここからすぐ近くよ。

Pues, ¡voy ahora mismo!

じゃ、今から行ってみるわ!

この表現、スペイン人との会話の中で頻繁に出てくる表現なので、覚えていると便利な表現の一つです。スペイン人と話す機会のある方は、是非一度使ってみてください。「estar cerca -近くに」という表現よりも更にグッと距離や時間が縮まって「すごく近い」感じが表されますよ。