ロマネスクへのいざない (2)- カスティーリャ・イ・レオン州-サラマンカ県(1)-サラマンカ旧大聖堂(Catedral Vieja de Salamanca)

カスティーリャ・イ・レオン州はロマネスク建築の宝庫だ。ここサラマンカの旧大聖堂こと「サンタ・マリア大聖堂(Catedral de Santa María)」はイチオシのロマネスク建築である。このサラマンカ旧大聖堂とゴシック様式のサラマンカ新大聖堂は、二つの大聖堂がまるで新大聖堂が旧大聖堂を包み込むように建っている。正面からではなく、アールヌーボー&アールデコの「カサ・リス美術館(Museo Casa Lis)」前のパチィオ・チコ広場(Plaza de Patio Chico)から右に曲がりエル・アルセディアノ通り(Calle El Arcediano)から見上げると、二つの大聖堂の様式の違いがよく見て取れとても興味深いものだ。サラマンカに訪れる人には是非見てほしいアングルだ。

左のドームは新大聖堂、右の塔は旧大聖堂 エル・アルセディアノ通り(Calle El Arcediano)より望む(写真:筆者撮影)

建設時の時代背景

サラマンカ旧大聖堂は、12世紀前半に造り始め13世紀に完成した。

12世紀前半とは1100年から1130年位だと言われている。その当時のスペインはまだ統一されておらず、8世紀からイスラムの支配を受けていた時代だ。そして11世紀後半からキリスト教の軍勢によるコンキスタ(国土回復運動)が進んでいた。

ここサラマンカは、1085年キリスト教側の王アルフォンソ6世によって完全にイスラム王国から取り戻されたが、それまでのサラマンカはキリスト教王国とイスラム教王国の境界地帯であったため、それぞれの王国によって何度も解放されたり征服されたりしていて、街は多くの戦いによって破壊され悲惨な状態だったようだ。荒れ果てた廃墟の如き街に再入植して活気を取り戻すために、アルフォンソ6世は、娘婿のフランス人ブルゴーニュ伯ライムンドに助けを求めた。ライムンド伯爵は、色んな所からやってきた多くの人を連れてサラマンカの街にやってきた。フランス人をはじめ、ポルトガル人、カスティーリャ人、山岳民族セラーノ人など、様々な人たちが新しい土地をもらえるという約束のもとに喜びいさんでやってきた。そして、新しい共同体を治める法律家や裁判官などもサラマンカに移り住んだ。

興味深いことに、その当時サラマンカに住む人々はキリスト教徒の人たちばかりではなく、キリスト教徒でありながらイスラム教徒の治下にいたモサラべと呼ばれる人たち、ユダヤ教を信仰するユダヤ人たち、この街に残ることにしたイスラム教徒(ムスリム)の人たちがいて、文化や宗教が異なる全ての人たちが皆一緒にサラマンカの街興しに参加して仲良く暮らしていた時代だった

そういう街の雰囲気の中で、サラマンカ旧大聖堂の建設は始まった。

サラマンカ旧大聖堂 窓際の柱にある装飾グリーンマンと山羊(写真:筆者撮影)

ロマネスク様式の大聖堂

その当時、ヨーロッパのなかで後に「ローマ風の建物」と呼ばれるロマネスク建築が主流になっていた。サラマンカ旧大聖堂は、建築当初は純粋なロマネスク建築による大聖堂を作ることを目的とされた。しかし建築期間が長くなり、12世紀後半にはフランスから入ってきたゴシック建築がスペインでも取り入れられ、このサラマンカ旧大聖堂でも最終段階で建築された身廊部分では、尖頭アーチで交差リブの丸天井部分等でゴシック様式を見ることができる

また、サラマンカの街が発展し大きくなってくると、さらに大きな大聖堂を造ることになった。 

そして新大聖堂が造られた際、旧大聖堂北側の外陣の一部と北側の翼廊が壊された。通常は旧大聖堂を完全に取り壊し新大聖堂を造り直すことが多かった中で、サラマンカの場合は、新大聖堂の建築に長い歳月が費やされ、旧大聖堂を残してミサを行う必要があったため崩壊を免れたと言われている。そのおかげで、ヨーロッパの中でも最も美しいロマネスク建築の大聖堂の一つといわれるサラマンカ旧大聖堂が今日まで残ったのである。

雄鶏をかたどった風見を戴く塔を外から見ると、まるで魚の鱗で覆われ、ほぼ円錐形をした4つの小さい塔や窓の周りに規則正しく丸い飾りがある細長い窓や屋根に施されたカールした飾り等々、そのオリジナルで美しい姿は、一目見たら忘れられない。初めてこの塔を見たとき、幼い頃に読んだヘンゼルとグレーテルの物語に出てくるお菓子の家を思い出し、可愛い塔だなと思って顔がほころんだことを思い出す。ゴシック建築のあまりにも壮大で威厳のある姿とは異なり、ロマネスク建築には丸味や温かさを感じさせられる

サラマンカ旧大聖堂の中 ゴシック様式である尖頭アーチの交差リブが見える(写真:筆者撮影)

大聖堂の役割

街の歴史を学ぶ上で、建築の歴史は、その当時の人々のニーズ、思想、宗教、生活の基盤、衛生状態、生活の知恵等々色々なものが見えてきて面白い。

サラマンカ旧大聖堂は、イスラム教徒の王国からキリスト教徒の王国へと奪回された後にキリスト教を中心にこれから街興しを行っていくという希望、キリスト教の誇示、そして中世の建築精神に基づき戦いの際の防御となる役目も担わされていた。実際、窓はまるで矢狭間(やざま)のようである。

大聖堂は、平和時にも戦争時にも人々の心を一つにする役割を担っていた。

サラマンカ旧大聖堂の建築には、キリスト教徒だけが参加したのではなく、前述のようにキリスト教徒でありながらイスラム教徒の治下にいたモサラべと呼ばれる人たち、ユダヤ教を信仰するユダヤ人たち、この街に残ることにしたイスラム教徒(ムスリム)の人たち全てが皆一緒にこの建築に携わった。全ての人は皆「神の子」であると言われ、宗教に関係なくサラマンカの町興しに精を出した。

昔も今も大聖堂はそこに住む人たちの心の拠り所となっているのである。

サラマンカ旧大聖堂 窓際の柱にある装飾ドラゴンか?(写真:筆者撮影)

祭壇画

サラマンカ旧大聖堂の中に入ると、目を奪われ釘付けにさせられるのが祭壇画だ。これは15世紀のゴシック様式美術で、聖母マリアとキリストの生涯を絵で表している。世界的に見ても素晴らしい祭壇画の一つと言えるものだ。

アプス(後陣)に取り付けるため壁に沿って半円状に53枚の絵が縦に11列、横に5段あり、そして下から1階と2階の中央には、サラマンカの守護聖人である聖女ベガ(Virgen de la Vega)の像がある。

祭壇画の上にはキリストを中心とする「最後の審判」が壁に直接描かれている。この祭壇画の美しさときらびやかさはそれだけでただただ祭壇画の前でいつまでもいつまでも見ていて飽きないものがある。しかし、その一つ一つの絵の意味が解るとまるで聖母マリアとキリスト二人の人生の壮大な蒔絵を見ているような、又は人生劇を見ているような感覚になる。この世界の宝ともいえる祭壇画を見ずにサラマンカを離れた人は一生後悔するだろう。

必見の祭壇画(写真:筆者撮影)

雄鶏の塔(Torre de Gallo)

ロマネスク様式には珍しく、ビザンチン帝国の伝統で東洋的要素である雄鶏を塔の上に飾ってある。これは、スペインの南部から来た東洋の建築様式の知識があった、キリスト教徒でありながらイスラム教徒の治下にいたモサラべ達がもたらしたものである。

雄鶏の形をした風見からこの塔の名前は付けられたが、雄鶏は魂を監視し、終末にキリストが再来するというシンボルであった。

サラマンカ旧大聖堂といえばこの「雄鶏の塔」と言われるほどシンボリックなものである。

夕方になると金色の大聖堂となる(写真:筆者撮影)

「イエロ二ムス」(Ieronimus)

このサラマンカ旧大聖堂はゴシック建築の新大聖堂の隣に建っているので、ロマネスク建築とゴシック建築の相違が一目でわかる。また、旧大聖堂の入口の右手に行くと小さな入口があり「イエロ二ムス」という大聖堂の屋根を歩けるコースが設けられている。これに参加してみると、間近で「雄鶏の塔」や新大聖堂の上部を見ることができ、お薦めのコースだ。大聖堂を見るにはいつも見上げるものだが、このコースを回ると視線の位置が平行や下方へと変わり、距離もグッと近くなるので、新しい発見、予期せぬ感動や驚きを体験できる。そして、大聖堂の高い部分から大聖堂の内部を見下ろせるというなかなかできない体験ができる。

サラッと外や中から大聖堂を見るだけではなく、もっとゆっくり時間をかけて二つの大聖堂と祭壇画を見て感じてほしい。

情報・お薦め動画

・サラマンカ大聖堂のオフィシャルサイト。旧大聖堂の紹介がある。日本語はないが、グーグル翻訳での英語版あり。

La Catedral Vieja – Catedral de Salamanca (catedralsalamanca.org)

・こちらは、スペイン語での解説だが、サラマンカ旧大聖堂の中の映像などが見れる。

La Catedral Vieja de Salamanca – YouTube

・説明はスペイン語だが、1枚1枚の祭壇画が紹介されていて興味深い。

El retablo del altar mayor de la Catedral Vieja de Salamanca – YouTube

・旧大聖堂の「雄鶏の塔」が間近で見ることができる。サラマンカに訪れる方には絶対体験していただきたい「イエロ二ムス」。

スペイン旅行 サラマンカ 「大聖堂の屋根を歩く」Ieronimus, Salamanca – YouTube

スペイン クリスマスのお菓子たち

もうすぐクリスマスです! スペインの人たちにとってとても大切な時期がやってきました。残念ながら今年はコロナウイルスの影響で、例年のようなクリスマスは過ごせませんが、クリスマスを彩るお菓子たちは皆楽しみの一つです。今回は、スペインのクリスマスのお菓子たちを紹介します。

スペインに来るまでは、世界中どこでもクリスマスケーキを食べるものだと思ってました。ところが、ここスペインに来たら、「クリスマスケーキ?」「なにそれ?」「クリスマスにはトゥロンだよ」というから驚きました。素直にカルチャーショックでしたね。まあ、私が初めてスペインのクリスマスを体験したのは、遥か30年近く前のことなので、今のようにインターネットでいろんな国のことを調べたり、外国製品のネット購入などもできない時代だったので、私のようにスペインに来て初めてスペインのクリスマスのお菓子を知ったという人がほどんどでした。

我が家では、クリスマスツリーのサンタさんの靴下の中にクリスマスのお菓子を入れて各々食べています。
何が入っているかはお楽しみです! /(写真:筆者撮影)

日本では、クリスマスの日やイブの夜にクリスマスケーキを買ってきて食べるのが一般的ですが、スペインでは、クリスマス期間中ずっと食べ続けるのがクリスマスのお菓子です。つまり、12月24日のイブの夜ご飯のデザートに始まり、年が明けて1月6日の「三賢王の日」まで、約2週間にわたり食事の後に出てきます。気の早い人たちは、12月8日の無原罪の御宿りの祝日から食べ始めるとか。2週間以上、どうかすると1か月も食べ続けて食べ飽きないのかしら?という疑問が湧くかもしれませんが、このクリスマスのお菓子は種類が幾つかあり、この間にいろんなクリスマスのお菓子を食べているのがスペイン風です。

トゥロン(Turrón)

まず、何といってもクリスマスのお菓子の代表格はトゥロン(Turrón)です。様々なトゥロンがありますが、スーパーなどでも手に入る代表的なものは、柔らかいトゥロン・デ・ヒホナ(Turrón de Jijona)と固いトゥロン・デ・アリカンテ (Turron de Alicante)があります。また、その他にも、街のお菓子屋さんが作るお店独特のトゥロンもいろいろあります。お菓子屋さんのお手製のトゥロンは、チョコレート味、コーヒー味、オレンジ味等様々で、飾りつけもきれいです。切り売りしてくれます。

今年は、サラマンカの村ラ・アルベルカのハンド・メイドのトゥロン(Turrón)にしました。/(写真:筆者撮影)

街のお菓子屋さんのショーケース。真ん中に二つのトゥロンがあります。/(写真:筆者撮影)

ポルボロン(Polvorón)& マンテカート (Mantecado)

次に一般的なクリスマスのお菓子といえば、ポルボロン(Polvorón)でしょう。ポルボロンは、一つ一つ紙に包んであります。このポルボロン、食べ方を知らないで包み紙から出してそのまま食べると、ポロポロと形が崩れて食べずらいです。というのも、包み紙から出す前に、手でしっかり握り固めてから口に入れなければなりません。そうするとポルボロンを一口噛んだ時、ポロポロ、ボロボロになることはないわけです。

ポルボロンは、スペイン南部アンダルシア地方のセビージャ県、エステパという所の物が有名です。16世紀の文献に既にポルボロンの名前が出てくるとのことで、かなり伝統的なお菓子ですね。

我が家での一番人気がこのポルボロンで、毎年色んなポルボロンを買って食べ比べてみましたが、数年前からバスク地方の「フェリッペ・セグンド(Felipe II)」を気に入って買っています。厳密には、ポルボロンという名前ではなくマンテカード(Mantecado)という名前のお菓子で売ってありますが、皆、ポルボロンと呼んでいます。元々、ポルボロンはマンテカートの一種なので、間違いではないのでしょうが、お菓子自体にはマンテカートの名前がついています。

この「フェリッペ・セグンド(Felipe II)」は、ブルッセルに本部がある国際味覚審査機構(I.T.Q.I)から8年連続で(2013年から2020年)、「食品のミッシェラン・ガイド」と呼ばれる「優秀味覚賞」を受賞しているという輝かしい功績を持つお菓子です。また、その他の様々な賞を受賞していて、「受賞数が一番多いマンテカート」としても知られています。

九州出身の私は、福岡名物「ひよこ」のあんこを思い出します。味はもちろんちょっと違いますが・・・。是非、食べ比べてみてください!

「フェリッペ・セグンド(Felipe II)」 一つ一つハンドメイドで、番号までついています! /(写真:筆者撮影)

マサパン(Mazapan)& パン・デ・カディス(Pan de Cádiz)& ピニョナーダ(Piñonada)

クリスマスのお菓子の多くは、アーモンドが入っていますが、スペインのマサパン(Mazapan)ことマジパンもその一つです。そのマジパンの仲間にパン・デ・カディス(Pan de Cádiz)やピニョナーダ(Piñonada)があります。パン・デ・カディスの方はしっとりとした感じですが、ピニョナーダのほうはちょっと堅めです。ピニョン(Piñon)というのはスペイン語で松の実のことですが、マジパンに松の実が一杯!のお菓子です。個人的にはピニョナーダが好きです。

パン・デ・カディス(Pan de Cádiz)は羊羹のように切って食べます。/(写真:筆者撮影)

松の実一杯のピニョナーダ(Piñonada)/(写真:筆者撮影)

ロスコン・デ・レージェス (Roscón de Reyes)

ロスコン・デ・レージェス(Roscón de Reyes)は、1月6日のみに食べるクリスマス最後のお菓子です。ケーキに近い感じですね。1月6日は、スペインでは「東方の三賢王の日」つまりカトリックの「公現祭」に当たる日で祭日です。この日は、幼子イエスの誕生をしり贈り物を持って拝みに来たと言われる「東方の三賢王」の日に当たり、この日をもってスペインの長いクリスマスが終わります。この日は、三人の王様達がみんなにクリスマスプレゼントを持ってきてくれる日にも当たり、スペインの家庭、特に小さい子供がいる家庭では、プレゼントが来たかどうかを知りたくてワクワクしながら朝早くから目を覚まし、プレゼントを楽しみにしている待ちに待った一日なのです。そして、夕方家族みんなや友人たちもよんで、このロスコン・デ・レージェス(Roscón de Reyes)と飲むチョコレートを食べながらワイワイおしゃべりに花が咲きます。このロスコン・デ・レージェス(Roscón de Reyes)は、生クリームやカスタードクリームが入っている物もありますが、基本的にはちょっとパサッとした感じで、砂糖漬けの果物が入っている菓子パンのようなものです。ちょっとしっとり感が足りないので、これを飲むチョコレートに付けながら食べると丁度良い感じですね!

面白いことは、ロスコン・デ・レージェス(Roscón de Reyes)の中には必ず人形や乾燥豆(乾燥ソラマメやひよこ豆など)が隠されています。切り分けられたとき、人形が当たった人はその年は良い年だとか。でも乾燥豆が当たった人は、次の年のロスコン・デ・レージェス(Roscón de Reyes)を買ってきて皆にごちそうしなければならない、といわれています。いかにも集まってワイワイすることが好きなスペイン人の都合の良い来年の約束って感じですよね! 「わー、私が当たっちゃった! じゃ、来年はロスコン・デ・レージェス持ってくるから、またみんなで集まろうね!」というわけです。

(写真:Wikipedia Public Domain)

お土産にお薦めのクリスマスのお菓子

もし、11月の半ばくらいからスペインにいらっしゃる機会がある方には、是非スペインの色々なクリスマス限定のお菓子をお土産にされることをお薦めします!この時期には、ここで紹介したお菓子以外にも色んな種類のお菓子が季節限定で出てきます。

普通のスーパーによく売られている「トルタ・インペリアル(Torta Imperial)」は、普通のトゥロンに比べると軽く、甘すぎないので日本人の口にも合うアーモンド菓子です。日本の私の家族も大好きなお菓子です。

トルタ・インペリアル(Torta Imperial)/(写真:筆者撮影)

この時期、スーパーに行くと、パッケージが昔懐かしいお菓子も出てきます。この「ラ・エステペーニャ(La Estepeña)」はポルボロンで有名なエステパの会社で、ポルボロンの他にも色んなお菓子があります。

レトロなパッケージ「ラ・エステペーニャ(La Estepeña)」のお菓子 /(写真:筆者撮影)

チョコレートのトゥロンならこれ!「スチャー(Suchard)」なら色んな種類のチョコレートのトゥロンの品揃えが豊富です。子供から大人まで楽しめます!

私のお薦めはこれ!ビターチョコにオレンジが入っています。/(写真:筆者撮影)
こちらはクラッシック。ミルクチョコレートです。/(写真:筆者撮影)

そして、数々の賞に輝くマンテカード「フィリッペ・セグンド(Felipe II)」はやっぱり一度は食べたいクリスマスのお菓子です。ただ、大量生産していないので普通のスーパーなどでは買えず、手に入りずらいかもしれません。興味のある方はウエブサイトをご覧ください。

一押しのフィリッペ・セグンド(Felipe II) /(写真:筆者撮影)

フェリッペ・セグンドの公式サイト:PÁGINA OFICIAL del obrador de Mantecados Felipe Segundo – los polvorones más premiados del mundo (reyfelipe.com)

様々な種類があるスペインのクリスマスのお菓子、スーパーや街のお菓子屋さんなどを見て歩くだけでも楽しくなりますよ。

今年は、残念ながらコロナウイルスのせいで日本からスペインに訪れる機会もないかもしれませんが、来年のクリスマス時期にはコロナウイルスが終息していることを願っています。その時は、是非クリスマスのお菓子を楽しんでくださいね!

おいでよ!スペインの素敵な村(1)-カスティーリャ・イ・レオン州-カンデラリオ(Candelario)

ベハール(Béjar)からカンデラリオ(Candelario)の遊歩道

10月末、お天気が良かったので栗拾い兼紅葉を見にカスティーリャ・イ・レオン州のサラマンカ県にあるカンデラリオ(Candelario)という村に行ってきました。標高1136mというこの村は、サラマンカ市内から車で小一時間程です。紅葉にはちょっと早かったのですが、カンデラリオの村の近くにあるベハール(Béjar)という街に車を止めて、カンデラリオの村に続く遊歩道を気持ちよく散歩できました。ベハールからカンデラリオの村までは約4km、ゆっくり歩いても1時間程です。小さい子供連れでも、あまり歩きなれていない人でも無理なく歩ける遊歩道です。

ベハールの街がみえます。写真:筆者撮影

歩いていると、カウベルが鳴り牛たちがのんびりと草を食む光景や、鳥の鳴き声が聞こえてくる歩道が急に細くなって林の中に誘ってくれる小道や、石橋がある川を渡ったり、乾燥したサラマンカ県の気候の中ではこの辺りは割と雨が多いところなので、普段はめったに見られないコケ蒸した石垣の道を通ったりと、なかなか変化に富んだ遊歩道です。

牛が草を食む牧歌的な風景 写真:筆者撮影

お目当ての栗も拾えました。家族連れで栗拾いを楽しんでいる人もいましたよ。この辺りの栗は小粒ですが、焼いて食べると味は良いですね。我が家でも帰った後、早速オーブンで焼いて食べました。

遊歩道に沿った苔むした石垣 写真:筆者撮影

スペインで最も美しい村

さて、1時間以上かけてゆっくりとカンデラリオの村に着きました。このカンデラリオの村は、「スペインで最も美しい村」という協会に認定され登録されている村の一つです。「日本で最も美しい村」という日本版の協会もあるのでご存知の方も多いかもしれません。ちなみに、この「スペインで最も美しい村」という協会は2011年に設立され、人口1万5000人以下(歴史地区の人口は5000人以下)であること、建築的遺産または自然遺産があることなどを条件に、村内の環境、宿泊施設、案内板に至るまで厳正に審査し、登録を認定しています。2020年8月末時点で、94村が認定されています。(ウィキペディアより)

標高1136mの村カンデラリオ。右上の山には薄っすらと雪が積もっていました。 写真:筆者撮影

ここカンデラリオの村は2015年に「スペインで最も美しい村」に登録されましたが、その伝統的な建築により歴史的・芸術的な場所としても宣言されています。遊歩道からカンデラリオの村への入り口に、「カンデラリオ サラマンカの史跡ルート」なる看板が立っていました。

カンデラリオ山脈は、サラマンカ県、アビラ県、カセレス県にまたがり、その美しく多様な風景は、フユナラと栗の森におおわれた渓谷による河川と、氷河の浸食作用によって形成された地形の1つである圏谷とによってつくられています。

この自然の飛び地は、「共同遺産地区」並びに「野鳥保護特別地区」に指定されています。また、2006年にユネスコ協会により「ベハール山脈とフランス山脈の生物圏保護区」の一部として生物圏保護地区(ユネスコエコパーク)として宣言されました。ちなみに、スペインはこの生物圏保護地区(ユネスコエコパーク)に登録されている場所は、現在52か所あり、ヨーロッパの中でもかなり多い国です。

カンデラリオの村は、坂の多い可愛い村です。小さい村ですが、隅々まで歩いて周ると色んな発見があります。今回数年ぶりにこの村を訪れましたが、村の所々に様々な説明板がありました。残念ながらスペイン語しかありませんでしたが。この村を週末や夏に訪れると、結構な数の観光客で賑わっていますが、今回はお天気も良い週末にもかかわらず、コロナウイルスの影響で人っ子一人居ない閑散とした状態でした。いつもなら人のいない写真を撮るのに一苦労するところですが、今回はまるで村全部を貸し切っているかのような感じでした。コーヒーを飲みに入ったバルの人と話すと、「本当にいつもの賑わいが戻ってほしい」と残念がっていました。心からコロナウイルスの収束を願ってやみません。

左側に見えるバルでコーヒーを飲みました。本当に人が全く居なくて驚くやら悲しいやら・・・。 写真:筆者撮影

ラ・カサ・チャシネラ(La Casa Chacinera)

さて、カンデラリオの村の特徴の一つは、何といってもその建築にあります。18世紀初頭から「チョリソ」や「サルチチョン」と呼ばれるスペインのソーセージやサラミ等豚肉製品を作る産業が盛んになってくると、「チョリソ」や「サルチチョン」作りに適した家屋を造るようになりました。そして、一階は肉製品加工所、二階は居住する場所、そして三階は乾燥室並びに一階で加工した物を保管する倉庫である三階建ての家が造られ始めました。それらの家を「ラ・カサ・チャシネラ(豚肉製品用家屋)」と呼び、この村の特徴の一つとなったわけです。

「ラ・カサ・チャシネラ」一階は肉製品加工、二階は居住用、三階は乾燥室並びに一階で加工した物を保管する倉庫 写真:筆者撮影

バティプエルタ(Batipuerta)

上の写真でもみえますが、この村にある建物の特徴のもう一つに、「バティプエルタ」と呼ばれる扉があります。本扉の前に付けられた下から半分だけの扉です。この「バティプエルタ」には多様な用途があったようで、それらは、①通りに降り積もった雪から本扉を守るため ②動物たちが勝手に家の中に入るのを避けるため ③本扉を開け放ったままで自然光や風が建物の中にも入るためのものでした。

昔のスペインでは、犬や猫だけではなく豚や牛などの家畜も放し飼いにされていて、家の中に勝手にお邪魔してくる家畜たちも少なくはありませんでした。そこで、この「バティプエルタ」が活躍するわけです。また、前述したようにスペインソーセージやサラミ「チョリソ」「サルチチョン」等の豚肉製品を加工する際、自然光がよく入り、風通しを良くするためにもこの「バティプエルタ」はなくてはならないものでした。

自然や産業に適した建物を造り、そこには生活の知恵や生活様式が反映されていてとても興味深いです。その上、ただ単に半分に切った扉ではなく、デザイン的にもなかなかお洒落です。

「バティプエルタ」 写真:筆者撮影

ヌエストラ・セニョーラ・デ・ラ・アスンシオン教会(Iglesia de Ntra. Sra. de la Asunción)

村の高い所に建てられたアスンシオン教会は、1329年に建設が始まり、ロマネスク、ゴシック、ムデハル、バロックと様々な様式が混在しているためか、ちょっと不思議な印象を与えられる教会です。外側から見ると飾り気はないけれど力強く古拙な感じを受けますが、中に入るとその独特なスタイルに驚かされます。

石畳の階段を上るとアスンシオン教会が建っています 写真:筆者撮影

祭壇の上を飾るムデハル様式の天井は一見の価値ありです。ムデハル様式とは、スペインの建築様式の一つで、イスラム教徒の建築様式とキリスト教徒の建築様式が融合したイベリア半島特有の様式です。特徴として建物の壁面に幾何学文様の装飾を施していますが、この教会のムデハル様式の天井は約100㎡の大きさがあり、ポリクロームと呼ばれる多色装飾による99個の星が施されています。

鮮やかに多色装飾された美しい天井 写真:アルベルト・フェルナンデス・メダルデ

村巡りのすすめ

今回は紹介しませんでしたが、この遊歩道の出発点がある「ベハール」の街も見るところが沢山あります。また、もう少し足を延ばすと「モガラス(Mogarraz)」や「ミランダ・デル・カスタニャル (Miranda del Castañar)」や「ラ・アルベルカ(La Alberca)」という「スペインで最も美しい村」に登録されている素敵な村々もありますよ。是非、車を借りて、村巡りを楽しんでみてください。マドリッドやバルセロナ等の大都市にはない、もっとディープなスペインに出会えること間違いなしです。

カンデラリオの村の隅々に流れる水路。山からの水は冷たかった!

「ラ・アルベルカ(La Alberca)」についてはこちらもどうぞ。

「ムセオ・カサ・チャシネラ」博物館 開館情報

・「ムセオ・カサ・チャシネラ」カンデラリオにある博物館。

住所: カジェ・ペラレス3番地(Calle Perales, 3 )

郵便番号 37710 カンデラリオ( Candelario)サラマンカ県 ( Salamanca ).

電話番号:(34)695 56 34 91

E-mail:museocasachacinera@gmail.com. 

開館時間:土曜日 17:30~19:00 日曜日 11:30~13:00

一風変わった博物館で、ここに訪れると1920年頃にタイムスリップし、「チョリソ」「サルチチョン」などを作る人達の姿を見ることができます。というのも、博物館に居る人たちがその当時の服装で迎えてくれ、芝居によって説明してくれるからです。芝居はスペイン語ですが、当時の服装、仕事ぶりを見るのも楽しいものです。是非、立ち寄って見てくださいね。

http://www.candelario.es/museo-casa-chacinera-de-candelario/

スペインのワイナリー見学(1)-テーラス・ガウダ(Terras Gauda)

スペインを訪れる楽しみの一つは、何といってもその食事とワイン!きちんとしたレストランに行かなくても、街のちょっとしたバルでおいしいおつまみ(タパス)と豊富なワインが気軽に楽しめます。今回は、スペインの白ワインでは絶大な人気を誇るガリシア地方にある「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」というワイナリー見学を報告します。

「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)グループ」の紹介

リアス・バイシャスと呼ばれるスペイン、ガリシア州の南、ポルトガルとの国境近くのオ・ロサルという所にこのワイナリーはあります。ローマ、エルサレムと並びキリスト教の三大巡礼地に数えられるサンティアゴ・デ・コンポステーラからは、車で約1時間半。大西洋からは8Km程離れたところに位置し、年間平均温度は15℃。ここは、ガリシア州の中では比較的天気に恵まれており、ぶどうの糖度を高めた状態で成熟させることができる理想的な土地です。

1990年、今からちょうど30年前に最初のワインを造り始めました。最初の年のヴィンテージは3万7千本だったのが、今では150万本を生産し、日本も含め世界45か国に輸出するほどの会社に成長しています。スペイン国内でも絶大な人気があり、今年3月から5月にかけてコロナウイルスによるロックダウンになっていたスペインで、インターネットを通して最もヒットしたワインのベスト10に唯一白ワインで入っていたのがこの「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)グループ」のワイン、テーラス・ガウダ(Terras Gauda)です。

1992年バルセロナ五輪のマスコット「コビー」の生みの親ハビエル・マリスカル氏の絵      
「テーラス・ガウダの友達たちへ愛情をこめて」という献辞が見える(写真:アルベルト・F・メダルデ撮影)

魚介類が豊富で、食べ物がおいしいガリシア州。このワイナリーの白ワインも魚介類との相性抜群!ワインだけでもおいしいですが、食事を引き立ててくれる陰の立役者とでも言えるのがこの「Terras Gauda(テーラス・ガウダ)グループ」のワインです。

今回は、グループ発祥の白ワインのワイナリー「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」について紹介していきます。

ユニークなブドウ畑とブドウの種類

2020年9月18日、午前11時にワイナリー見学が始まりました。1週間程前に予約の電話を入れると、「丁度ブドウの収穫真っ盛りなので、普段見れない光景も見学できますね!」と言われ楽しみにしていました。ただ、雨が降るという天気予報だったのでちょっと心配しましたが、最終的には雨も降らず気持ちの良い一日でした。

予定の時刻にワイナリーまで行くと、エノツーリズム(ワインツーリズム)担当のベゴーニャが迎えてくれました。彼女がバンでブドウ畑まで連れて行ってくれます。バンに乗り込むと、まず、名前の由来の説明がありました。「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」の「Gauda(ガウダ)」の意味には、二通りの説があるとのことで、一つ目は、守り人に対して与えたゴード人のことだという説と、二つ目は、ラテン語の意味である「Tierra de Alegría」、「歓喜の土地」という意味。この辺りは肥沃な土地で、今でも果物、野菜、花や鑑賞用の植物の栽培が盛んなところだそうです。作物に恵まれた「喜びの土地」、素敵な名前ですね。

車でしばらく行くと、両側にブドウ畑が広がってきました。早速、車を降りてベゴーニャの説明がありました。「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」では、垣根仕立て(スペイン語では”Espaldera”といいます)によるブドウの栽培が行われています。垣根仕立てによるメリットは、垂直に伸びていくので雨が降っても水はけがよく菌が発生しにくいということと、棚仕立て(”Parra”)のように陰を作らないので、全てのブドウの実に太陽の光が行き届いて実が完熟し、ムラのないブドウの実を収穫することができ、ワインを造る段階で高品質かつムラのない品質を保つことができること。デメリットとしては、棚仕立てに比べると、収穫量が40%ほど少ないということ。「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」では、プレミアムワインやウルトラプレミアムワインを主に生産することを目的としているため、この垣根仕立てによる高品質を追求したブドウの栽培が採用されている訳です。

垣根仕立て(”Espaldera”)のブドウ畑(写真:アルベルト・F・メダルデ撮影)

更に、車で移動しながらベゴーニャが「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」で栽培されているブドウの種類についても説明してくれました。ここでは、アルバリーニョ種(Albariño)、ロウレイラ種(Loureira)、カイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)の3種類のブドウが栽培されています。原産地がここガリシア州で、ガリシア州白ワインの代名詞ともいえるアルバリーニョ種(Albariño)が一番多く栽培されていますが、「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」が特に力を入れて栽培数を増やしているのが、カイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)。この品種は病気にかかりやすくデリケートな株で、アルバリーニョ種(Albariño)に比べても収穫量が少ないことを理由に、今から約20年前までは殆んどワイン用のブドウとしては使われていない廃れたブドウの種類だったとか。今では、「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」は、97%がこのカイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)である「La Mar(ラ・マール)」というワインを造っていて、カイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)を主にしたワインはスペインでも唯一だそうです。ブドウを植えてから4~5年間は収穫せず、その後やっと収穫が始まりワインが造られるそうで、1株のブドウの木は、30~32年程を過ぎると新しいブドウの木に植え替えるという作業が続けられています。車からも2~3年前に植えたばかりというまだまだひ弱いブドウの木が見えました。

左側に見えるブドウの木はまだ植えて2~3年(写真:アルベルト・F・メダルデ撮影)
2021年8月に再度訪問した際、ブドウ園での試飲が楽しめる場所が新しく設置されていました!(写真:筆者撮影)

公務員からワイナリーのオーナーに

「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」は、会社名でもあり、会社を代表するワインの名前でもあります。この会社を約30年前に設立したホセ・マリア・フォンセカ氏は、もともとは日本でいう職業訓練校などで様々な講習などを企画するような仕事をされていた公務員だったそうです。仕事柄、地元の農家や企業等とも交流があり、ご本人がワイン好きということもあり、友人を募ってワイナリーを作ることにしたという、異色の人物。スペインでは、今も昔も安定している職業の一つである公務員は人気があり、公務員試験にパスするのもかなりの競争率をくぐり抜けなければならず、その公務員の仕事を捨てて未知の世界に飛び込むという勇気ある行動、そして現在、スペインの中で有名なワイナリーとして成功を修めているその経営力、自分達が求めるワインを追求し、質の高いワインを作り出しているその感性と情熱に、強い感銘を受け魅かれました。現在も、オーナーとして様々な企画を提案し、ご活躍中です。今回のワイナリー見学ではお会いする機会に恵まれませんでしたが、お父様の意思を受け継いでセールス部門で活躍されている息子さんのアントン・フォンセカ氏とはお話する機会がありました。アントン氏もワイン好き、料理好きで、和食も大好きだとか。今では、日本でも「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」のワインが販売されているので是非試してみてくださいね!

粒の揃ったブドウの実(写真:アルベルト・F・メダルデ撮影)

ブドウの収穫真っ盛り

さて、3種類のブドウを栽培するブドウ畑を見て回り、丁度、今年のブドウ収穫真っ盛りということもあり、ブドウの収穫をしている様子も見せていただきました。地元の学生や失業中の方なども含め200人の人たちが、会社が所有する160ヘクタールのブドウ畑のブドウ収穫に勤しんでいました。山を切り開いて作られているぶどう畑は急勾配(20%)で、収穫作業はかなりの重労働です。その斜面に広がるブドウを一つ一つ丁寧に手作業にて箱に入れる姿は印象的でした。箱には、ブドウを8㎏までしか入れず、ブドウの実が重みでつぶれないよう細心の注意をもって摘み取られていました。今年は、暑い日が多かったせいか、例年より早く熟しているので、私が訪れた9月18日は最終日だったようです。例年ならば、10月の頭まで終わらない収穫らしいので、かなり早い収穫です。オーナーの娘さんカルメンさんが、「今週は、天気予報では強風を伴う雨だったので心配していたけれど、何とかお天気にも恵まれ無事に全部を収穫できそうだ。雨に打たれず品質の良いワインが造れそうだ。」と、ほっとした表情で話してくれました。今年のワインが出来上がるのが楽しみです!クリスマスシーズンには、今年のワインがリリースされるので、今年は「テーラス・ガウダ(Terras Gauda )」の白ワインでクリスマス・ディナーを楽しめますね!

ブドウの房一つ一つを丁寧に収穫していく(写真:筆者撮影)

固有種カイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)の復活と新しいワイン作りへの挑戦-研究開発(I+D)-

その後、再びバンに乗って出発地点まで戻りました。その間にも、ベゴーニャが説明をしてくれます。その中で特に印象深かったのが、カイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)の話でした。前述したように、このカイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)はデリケートで収穫量が少ないという理由で、この地方固有のブドウでありながらも忘れられていた種類のブドウでした。ワイナリー設立者であるホセ・マリア・フォンセカ氏は、それぞれのその土地が持つ特異な気質を柱として育っていく固有種の復活、その固有種から作り出されるその土地のワイン、それも質の高いワイン造りを目標に掲げ、今から訳20年前から自社の畑にカイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)を栽培し続けています。

政府機関であるCSIC(Consejo Superior de Investigaciones Científicas「科学研究高等評議会」)と共同にて、I+D(Investigación y Desarrollo「研究開発」)の企画の一つとして研究を始めました。そして、長い研究開発の末、前述した「La Mar」というカイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)のワインを造りだしたのです。今では、「La Mar」は「Terras Gauda 」と並ぶ代表ワインとなっています。このI+D(Investigación y Desarrollo「研究開発」)は現在も様々な企画で行われており、ブドウの木の肥料について、ブドウ畑の土壌について等を、アルゼンチンのワイナリーと共同研究中とのことです。

ワイナリーの中を見学して驚くことは、34のタンクの説明です。これは、ガリシア地方固有のブドウそのものの素晴らしさを追求していくことを会社理念としていたホセ・マリア・フォンセカ氏の情熱が形となっているものです。ワイン造りを始めようと決心したホセ・マリア・フォンセカ氏は、まず研究のために試験場を作り、全ガリシア地方のから115のアルバリーニョ種(Albariño)の株を集め、その中から厳選して34株に絞り、それぞれの成長や品質に合わせてワインを造ってみました。その34株から造られたワインがこのタンクに入っているとのことです。現在ではこのワインのモデルは、I+D(Investigación y Desarrollo「研究開発」)に使用されているそうです。そして、最終的には、「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」の土壌に適した、「Terras Gauda (テーラス・ガウダ)」が求めるワインに理想的な5つの株を選び抜き、実際に栽培始めたとのことです。

研究用にガリシア地方全土から集められたブドウの木34株から造られたワインのタンク(写真:筆者撮影)

地道な努力、科学に裏打ちされた研究、そして決して消えることの無いワイン造り情熱がこのワイナリーのワインに凝縮されています。

収穫されてきたブドウは除梗破砕機(実と茎を分ける機械)へ。ワイナリー内ではブドウの香りが広がっています。(写真:アルベルト・F・メダルデ撮影)

試飲

いよいよ楽しみにしていた試飲です!ワイナリーの工場から出て、お店の横にテイスティング・スペースが設けられていました。

スペイン美人ベゴーニャ(写真:アルベルト・F・メダルデ撮影)

まずは、アルバリーニョ種(Albariño)100%のアバディア・デ・サン・カンピオ(Abadía de San Campio)。口に含むとフルーティで爽やかな甘みが広がってきました。次は、「テーラス・ガウダ(Terras Gauda)」の顔とでもいうべきテーラス・ガウダ(Terras Gauda)。アルバリーニョ種(Albariño)70%、カイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)22%、ロウレイラ種(Loureira)8%のこのワインは、アバディア・デ・サン・カンピオに比べると濃厚で複雑な味。柑橘系の香りがして、しっかりとした味わいがあります。次は、黒ラベルテーラス・ガウダ(Terras Gauda Etiqueta Negra)。テーラス・ガウダをフランス産オークの樽に5ヶ月寝かしている熟成ワインで、普通のテーラス・ガウダに比べると、こくがあります。一般的に白ワインは次の年の白ワインが出るまでに飲んでしまう方が良いと言われていますが、この黒ラベルテーラス・ガウダは15年位までなら寝かして飲んでも味に深みが加わり美味しく飲めるとのことでした。そして、最後にカイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)97%と残りの3%は、ロウレイラ種(Loureira)とアルバリーニョ種(Albariño)で造られているラ・マール(La Mar)。こちらのワインは、全く口当たりの異なるワインです。果物の柿やリーチを彷彿させる香りと、成熟感やコクも兼ね備えたこのワインは、1年程寝かせた後にリリースするとのこと。研究と情熱をもって造り上げた新しいテーラス・ガウダの代表ワインへと成長しています。

黒ラベル テーラス・ガウダ(Terras Gauda Etiqueta Negra) が寝かされているオーク樽(写真:筆者撮影)

試飲は、まずはワインのみでそれぞれを味わい、ベゴーニャとアントンの説明があり、その後、チーズとドライフルーツのおつまみが出てきて、おつまみを食べた後に再びワインを飲んでみました。不思議なことには、ワインのみで飲んだ時と、おつまみを食べた後に飲んだ時では、微妙に感じる味が変わったことです。個人的には、最初にワインのみを飲み比べたときは、テーラス・ガウダが一番気に入ったのですが、チーズと一緒に飲み始めると、ラ・マールもチーズとよく合い、甲乙付け難くなってしまいました。

白ワインだけではなく、個性的な新しいワインを求めて

最後に、ご子息のアントン・フォンセカ氏に今後の会社の抱負をお聞きしました。「テーラス・ガウダ(Terras Gauda)グループ」として、白ワインだけではなく、スペイン中にある新しいブドウの原産地を開拓していき、高品質で個性的なワインを造っていくことだそうです。実際、ビエルソ地方のメンシア種(mencía)100%のピタクン・アウレア(Pittacum Aurea)という赤ワインや、有機栽培・自然栽培の一種であるバイオダイナミック農法によるブドウ栽培と持続可能な環境のパイオニアであるキンタ・サルドニア(Quinta Sardonia)というワイナリーや、スペインの赤ワインを代表するリオハ地方の赤ワインのエラクリオ・アルファロ(Heraclio Alfaro)という赤ワインも、この「テーラス・ガウダ(Terras Gauda)グループ」が手掛けています。多様性とそれぞれの土地が持つ特異な気質を柱として、経験と知識を共有かつ利用しながら、個性的で高品質なワインを追求していく、それが、「テーラス・ガウダ(Terras Gauda)グループ」の設立から変わらぬワイン造りに対する姿勢です。

笑顔が素敵なアントン・フォンセカ氏(写真:アルベルト・F・メダルデ撮影)

おすすめ!ワイナリー見学

ブドウ畑から収穫、ワイナリー内の見学、そしてそれぞれのワインの飲み比べなど、本当に楽しく充実したひと時を過ごせました。何気なく飲んでいたワインも、造り手の思いや情熱、そして研究・開発などを知ったうえでもう一度飲んでみると、そのワインに対する愛着がグッと湧き、一緒に飲むお友達にもそのワインの物語を話すことによって会話が盛り上がります。スペインにいらっしゃる際は、是非、ワイナリー見学をお薦めします!

また、テイスティング・スペースの隣にはお店もあり、お土産用のワインを購入できますよ。 「テーラス・ガウダ(Terras Gauda )グループ」では、ワインだけではなく、ハーブの蒸留酒やこの地方でとれる野菜や果物の保存食品(缶詰や瓶詰)も販売しています。日本への美味しいお土産がここで見つかるかもしれませんね

ここ「テーラス・ガウダ(Terras Gauda)」では、幾つかのコースがありますが、おすすめのコースは、「Terras Gauda para 2(二人のためのテーラス・ガウダ)」です。このコースには、アルバリーニョ種(Albariño)100%のアバディア・デ・サン・カンピオ(Aabadía de San Campio)、テーラス・ガウダ(Terras Gauda)、カイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)97%のラ・マール(La Mar)の3種類のワインを試飲できます。カイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)の白ワインはここのワイナリーでしか造っていないので、カイーニョ・ブランコ種(Caiño Blanco)とアルバリーニョ種(Albariño)の味の違いを是非とも味わってほしいものです。

もしお子様連れの家族でワイナリー見学をされる方の場合は、お薦めコースは、「Plan familiar(ファミリー・プラン)」です。年齢別に2つのワークショップが用意されています。10歳までの子供たちには、創造的なワイン・ワールドを体験するワークショップ、11歳以上のの子供たちには、ストップ・モーション技法を使いワイナリーで見学したことをストーリーとして作成するワークショップがあります。きっと子供たちにとってもスペインのワイナリー見学は、忘れがたい旅の思い出になること間違いなしです。

大人も子供も楽しめる「テーラス・ガウダ(Terras Gauda)」のワイナリー見学。是非スペイン旅行のコースに入れてみてはいかがでしょうか。

Terras Gauda (テーラス・ガウダ)が造っているワイン。左からアバディア・デ・サン・カンピオ、テーラス・ガウダ、黒ラベルテーラス・ガウダ、ラ・マール。(写真:アルベルト・F・メダルデ撮影)

参考

・「テーラス・ガウダ(Terras Gauda)グループ」の公式サイト。個人でワイナリー見学を予約される方はこちらからどうぞ。:https://www.terrasgauda.com/ 

・残念ながら「テーラス・ガウダ(Terras Gauda)」のワイナリーは紹介されていませんが、ガリシア州リアス・バイシャスのワイナリー見学ルートが紹介されています。スペイン観光公式サイト:https://www.spain.info/ja/waingaku/wain-ruto-riasu-baishasu/

・日本人向けにワイナリーツアーを企画している会社(スペインワインのプロフェッショナルである、バルセロナのOFFICE SATAKEと、バリャドリッドのBUDO YAを中心にスペイン各地のプロフェッショナルが、ワイナリーを本格的に案内)。「テーラス・ガウダ(Terras Gauda)」も訪問可能ですよ!:http://enoturismo.jp/?page_id=703

・ガリシア州公式観光サイト。ガリシア州の素晴らしい魅力を発見できるサイト。日本語版があるのも嬉しいですね!:https://www.turismo.gal/homu/kanko-hissu-supotto?langId=ja_JP

マドリード観光-カルロス3世なしにはマドリードは語れない!

スペインの首都マドリッド。欧州の首都にふさわしく堂々たる建物や大きな通りがあり、ぶらぶら散歩するだけでも楽しい街。美術館あり、噴水あり、並木道あり、カフェテリアあり、エンブレム的な建物ありと、マドリッドの街の風景はとても魅力的です。18世紀のスペイン王カルロス3世は、「マドリッド最良の市長」(El mejor alcalde de Madrid)と言われています。それは、現在のマドリッドの街の風景を彼がつくったからです。

1750年 アルカラ通りから見たマドリード / Wikipedia Public Domain

カルロス3世、ナポリからマドリードへ

カルロス3世は、1716年1月20日スペイン国王フェリッペ5世の三男としてマドリードで生まれました。その後しばらくスペイン南部の街セビリアに暮らしていた時期もありましたが、15歳の時スペインを去ってナポリ王となり、その後シチリア王として24年間シチリアを統治していました。三男という立場から、スペイン国王としては生まれなかったカルロス3世は、シチリア王としてイタリアに生涯暮らすつもりでいたようです。

ところが、子がないまま二人の兄達が死に、思いがけずスペイン国王になることに。本人は、スペイン国王になる気はさらさらなかったようで、病床に付す兄の回復を毎日祈っていたとか。そんなカルロス3世の祈りも神には届かず、1759年12月9日にスペイン国王としてマドリードに戻ることになります。

カルロス3世、マドリードの街を見て嘆く

カルロス3世はマドリードに着いたとき、マドリードの街のあまりの汚さ、不衛生で美しさのない街並みを見て嘆いたと言われています。

その頃のマドリードの街には下水の処理システムなどなく、マドリード市民は各家庭で出る汚水(尿から便に至るまで)をバケツに溜め、家の窓から汚物を投げ捨てる(!!!)習慣がありました。今では考えられないことですが、頭の上から汚物が降ってきたり、歩く道には汚物が悪臭を伴いそこかしこにまかれていて、のんびり通りを歩くこともできないような状況でした。汚物を窓から捨てるときは、「水がいくよ!」「あぶないよ!」という意味で 「¡Agua Va! (アグア・バ!)」と注意を促していたとか。この習慣から、「予告なしに突然」「出し抜けに」などという意味で使われる「Sin decir agua va 」という表現も生まれました。

また、家畜なども我が物顔に通りを歩いていたらしく、彼らもまた所構わず用を足していたので、その当時イタリアからきた旅人たちによる、「なんて臭くて汚い街だ!」という文書が残されているくらいです。

マドリードの街のあまりの悲惨な状態を嘆いたカルロス3世は、マドリードをヨーロッパの首都にふさわしい美しく近代的かつ衛生的な街に整備するため様々な法律や建築計画等を打ち出していきます。

カルロス3世、マドリード大改造

フランチェスコ・サバティーニ / Wikipedia Public Domain

早速、シシリアからフランチェスコ・サバティーニという建築家を呼び寄せ、下水道網の敷設に取り掛かります。また、新しく敷石を敷き、通りの清掃についての計画を次々に実行していきます。その内容は、馬車道には敷石を敷き、歩道を舗装し、家庭から出る汚水は腐敗槽や汚水溜めに誘導し、ごみ収集を行うという画期的な内容でした。これによって、窓から汚水を投げ捨てることも禁じられ、マドリードの街から「アグア・バ!(¡Agua va!)」の声が聞こえなくなりました。ちなみに、この腐敗槽や汚水溜めの汚物は、夜のうちに街の外に運ばれていました。

数年後には、マドリード市民に、自分の家の前の道を朝一番に清掃することや5月から10月までは打ち水をすることを義務付ける命令まで出すという徹底したものでした。また、街の中を勝手に歩き回っていた家畜たちも取り締まりの対象になりました。

その他、カルロス3世は、マドリードの夜の街に街灯をともしました。その数4000本以上あったというから驚きです。また、通りを広くし、広場や噴水などを作り、マドリードの市民が気持ち良く散歩できる環境を作っていきました。通りの代表的なものには、プラド通り (Paseo del Prado)デリシアス通り (Paseo de Delicias)カステジャーナ通り (Paseo de la Castellana) があります。さらに、墓地を街の外れに作ったり、通りや広場に木や植物を大量に植えたりしました。

18世紀のヨーロッパは、聖書や神学など今までの権威から離れて、理性による知によって世界を把握しようとする啓蒙思想が主流となっていた啓蒙時代でした。この啓蒙思想の波はスペインにも押し寄せていて、カルロス3世もこれに従い、歴史学院(Academia de Historia)、言語学院(Academia de Lengua)、法学院(Academia de la Jurispurdencia)、芸術学院(Academia de Bellas Artes)等を次々に開設します。

マドリードにあるカルロス3世ゆかりの建物や通り

カルロス3世が造ったプラド通り (Paseo del Prado) は、マドリードを訪れたら絶対に外せない観光ルートの一つです。この通りは幅広く、並木道で、夏の日差しが強いマドリードでも気持ちよく散歩できる絶好の通りです。そして、マドリード観光お目当てのプラド美術館やティッセン・ボルネミッサ美術館もこのプラド通りにあります

プラド通り (Paseo del Prado) / 筆者撮影

このプラド通りには、カルロス3世が手掛けた建物があります。まず代表的なものは、プラド美術館 (Museo del Prado) です。本来は、自然科学博物館としてカルロス3世が建築家フアン・デ・ビジャヌエバに造らせたものです。そのため、同時に自然科学博物館の隣にマドリード王立植物園 (Real Jardín Botánico) も造らせました。

更に、このプラド通りが始まる場所にシベーレスの噴水 (Fuente de Cibeles) があり、通りを歩いていく途中にアポロの噴水 (Fuente de Apolo) または四季の噴水 (Fuente de las Cuatro Estaciones) があります。ちなみに、シベーレスの噴水があるシベーレス広場は、スペインサッカーチームのレアル・マドリードが勝利した際にパレードが行われる場所で有名です。スペインサッカーファンには見逃せない場所でしょう。さらに歩いていくとホテルリッツ前にネプチューンの噴水 (Fuente de Nepturno) があります。これらの噴水もカルロス3世が造らせたものです。カルロス3世がマドリードの街を美しく、魅力的で、マドリード市民だけではなくマドリード以外から訪れる人たちをも魅了する街にしようという心意気が伝わってくるのが、このプラド通りといえるでしょう。

Archivo:Cibeles con Palacio de Linares closeup.jpg
シベーレスの噴水 (Fuente de Cibeles) / Wikipedia Public Domain

また、マドリードの代名詞ともいえるソル広場 (Puerta del Sol) にもカルロス3世が造ったエンブレム的建物があります。それは、ソル広場の中では最も古い建物で時計台がある王立郵便局 (Real Casa de Correos) です。毎年、大晦日の夜、多くの市民がこの時計台の前に集まります。というのも、年が替わる12時の鐘の音に合わせて、ブドウを12個食べるためです。もし、鐘の音が終わるまでに12個のブドウを食べてしまったら、新年は良い年になるといわれています。もし大晦日の日にマドリードに滞在する機会があれば、あなたも是非12個のブドウ持参で王立郵便局前でスペイン式に新年をお祝いしてみてはいかがでしょうか。きっと忘れられない一生の楽しい思い出になること間違いなしです!

王立郵便局 (Real Casa de Correos) / 大晦日の夜には、12個のブドウ持参の人たちで賑わう / 筆者撮影

その他にカルロス3世の建造物としては、アルカラの門 (Puerta de Alcalá)サン・アントニオ・デ・ラ・フロリダ礼拝堂 (La iglesia de San Antonio de la Florida)カバジェロ・デ・グラシア王立礼拝堂 (Real Oratorio de Caballero de Gracia) などが挙げられます。サン・アントニオ・デ・ラ・フロリダ礼拝堂 は、通称ゴヤのパンテオン (Panteón de Goya) と呼ばれ、スペインの偉大なる宮廷画家ゴヤはこの教会に眠っています。この教会にある天井のフレスコ画「聖アントニオの奇跡」はほかでもないゴヤの作品で、一見の価値がありお薦めです。

サン・アントニオ・デ・ラ・フロリダ礼拝堂 (La iglesia de San Antonio de la Florida) / ゴヤが描いた天井のフレスコ画「聖アントニオの奇跡」/ Wikipedia Public Domain

サン・アントニオ・デ・ラ・フロリダ礼拝堂についてはこちらもどうぞ。

マドリード市民の反応

さて、1760年から精力的にマドリードの改造を推し進めてきたカルロス3世ですが、改造当初はマドリード市民にはあまり受けが良くなかったとのこと。自宅前の道の清掃や打ち水の義務まで課せられた市民は、しぶしぶ実行していたのでしょう。そのことを側近が報告すると、カルロス3世は「わが市民は、体を洗うと泣く子供のようだな。( Mis vasallos son como los niños: lloran cuando se les lava.)」と答えたといいます。言い得て妙とはこのことですね。

この時代、カフェテリアや劇場が現れ、闘牛、ダンス、コンサート等、マドリード庶民の新しい楽しみや習慣が生まれていきましたが、それも皆カルロス3世のお陰です。マドリード市民は、プラド通りなどを散歩し、カフェテリアに入ってその頃人気だった飲むチョコレートとスポンジケーキ(bizcocho)を楽しんだのです。日本の庶民が楽しんだ江戸文化に近いものがあったかもしれません。

そしてついには、1797年にマドリードにやってきたフランス外交官に、「ヨーロッパの中で最も清潔な街の一つだ」と言わしめるほど、カルロス3世が改造したマドリードは、衛生的かつ近代的な街へと変貌を遂げ、21世紀の現在でも魅力的な街となりました

カルロス3世に会いに行こう!

プエルタ・デル・ソル広場 (Puerta del Sol) にある騎馬像は18世紀のスペイン王カルロス3世です。1994年、マドリードの都市改造、近代化を行った「マドリッド最良の市長」(El mejor alcalde de Madrid)」であるカルロス3世の偉業を讃えこの騎馬像が建てられました。カルロス3世は、スペイン国の王であり「市長」ではなかったのですが、、、。300年経った現在、カルロス3世はマドリード市民、ひいてはスペイン人から最も好意を持たれている王の一人です。

狩猟をこよなく愛していたというカルロス3世。別名「狩猟家 (El Cazador)」とも呼ばれています。馬にまたがる姿は一番彼らしい姿かもしれません。プラド美術館には、ゴヤが描いた「カルロス3世、狩猟家 (Carlos III, Cazador)」という作品があります。残念ながら馬上姿ではありませんが。

ゴヤ 「カルロス3世、狩猟家」/ プラド美術館

また、チョコレートが大好きだったようで、毎日同じカップに入れて飲んでいたとか。

カルロス3世が造ったプラド通りを散歩し、プラド美術館や様々な建造物、威厳のある噴水などを鑑賞したら、カフェテリアに入って彼の時代に流行っていた、そして今も多くのスペイン人が大好きな、飲むチョコレートとスポンジケーキ(bizcocho)を楽しんで18世紀のカルロス3世時代に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。300年以上経った今も、カルロス3世が望んだ美しく、近代的で魅力的なマドリードをあなたも実際に堪能してみてください。

マドリード 情報

・マドリードの観光ガイドはこちらにお任せ!

  -マドリード観光オフィシャルサイト(日本語)   https://www.esmadrid.com/ja

・上記サイトの中にお得なマドリードの美術館、博物館カード情報があります。ちなみに、「美術館通りカード (Abono Paseo del Arte)」は、人気のプラド美術館・ティッセン・ボルネミッサ美術館・ソフィア王妃美術館の3つの美術館が対象のお得なパス。30,40ユーロで通常よリ20%お得ですよ。「国立美術館・博物館年間カード (Tarjeta anual de Museos Estatales」は、かなりお得な36,06ユーロ。「国立考古学博物館 (Museo Arqueológico Nacional)」、「ソロージャ美術館 (Museo Sorolla)」等多くの美術館・博物館が含まれている欲張りなカードです。ただ、ティッセン・ボルネミッサ美術館は含まれていないのでご注意を!

  -マドリード観光オフィシャルサイト(日本語)/観光カード     https://www.esmadrid.com/ja/kanko-card

・マドリードの歴史に興味がある方は、是非「マドリード歴史博物館」へ!サーモンピンクの建物で、バロック様式のファサードも一見の価値ありです。

-マドリード歴史博物館 (Museo de Historia de Madrid) 住所:フエンカラル通り 78番 マドリード (C/ Fuencarral, 78 Madrid) 最寄りのメトロ:トリブナル (Tribunal 1号線 水色ライン、10号線 紺色ライン) 電話番号:91-701 18 63  Fax:91-701 16 86  開館時間:火~土 10:00~20:00 / 日・祝 10:00~20:00 *月曜日・1月1日・5月1日・12月25日は休館  入場料:無料

スペインの春を呼ぶ花アーモンド

パッと見は桜と見間違う

今年のスペインは記録的な暖冬で、ここサラマンカではしばらく20度近い気温が続いていました。その暖かな気候に誘われて、一気にアーモンドの花があちこちで咲き誇っています。

20年以上前に初めてここスペインにやってきて、サラマンカでスペイン語を勉強し始めたのも丁度2月の寒い時期でした。あの頃は、もっと寒くてかなり雪が降ったりして、もっと温暖なスペインの冬を想像していた私は、あまりの寒さに毎日震えていたのを思い出します。そして、3月に入りサラマンカからちょっと田舎に足を延ばしたら、なだらかな丘に桜の花が咲いているのが見え、「えー!サラマンカでも桜が咲くんだ!でもまだ3月の頭なのに、まだまだ寒いのに・・・?」と不思議に思い友人のスペイン人に尋ねると、「あれはアーモンドの花だよ。」と教えてくれました。「へー、アーモンドの花って桜の花そっくり!」と驚いたことを今も鮮明に覚えています。

アーモンドの花と桜の花の見分け方

アーモンドの花と桜の花がよく似ているのもそのはず。アーモンドは、バラ科さくら属の落葉樹です。桜とは従妹同士のようなもの。似ているはずです。我が家のお向いさんの庭にも立派なアーモンドの木があり、花を楽しんだ後はアーモンドの実も楽しめる、”花も団子も楽しめる”楽しみの多い木です。アーモンドの花は、桜と同じように花弁が5枚あり、花弁の先が少し割れています。色も白っぽいものからピンクのものまでありますが、我が家付近のアーモンドの花は、日本の桜の花より薄いピンク色のものが多いようです。本当に、パッと見ただけまたは遠目に見ただけではアーモンドと桜の花の違いを見分けるのは難しいでしょう。では、どうやって見分けたらよいのでしょうか。桜の花はご存知の通り、枝から花柄(かへい)が出てその先に花が咲きます。しかし、アーモンドには花柄がないか極端に短く、枝から直接花が咲いています。一般的に、アーモンドのほうが桜より1か月以上前に花が咲き始めるので、今の時期に桜そっくりの花をスペインで見かけたら、アーモンドの花に間違いないです。

花弁がなく直接枝に花が咲いている

アーモンド栽培

アーモンドの木がスペインで栽培されるようになったのは、なんと2000年以上も前から。東から交易などできた人-フェニキア人-によって、中央アジア原産のアーモンドがペルシャやメソポタミアを通って西の果てスペインまでもたらされたらしい。その後は、ローマ人がさらに広めていったとのこと。

2018年のデータでは、スペインは米国に次ぐ世界第2位のアーモンド生産国です。それだけに、もしこのアーモンドの花の時期にスペインを訪れる機会がある方は、きっと色んな所でこの桜によく似たアーモンドの花を見ることができますよ。

色々なアーモンド製品

お菓子に飲み物、肌のクリームなど、スペインでは色んなアーモンド製品を見ることができます。クリスマスの時期に必ずスペイン中の家庭で食べられるお菓子トゥロン(Turrón)。アーモンドの実から作るこのトゥロンは、アーモンドの実が丸ごとたっぷり入っているハードタイプと、アーモンドの実をすりつぶしてペースト状にし、油を加えて柔らかでかつチョット粘り気のあるソフトタイプの2種類があります。個人的には、ハードタイプのものが大好きですね。他には、やはりクリスマスによく食べられるマジパン(Mazapan)。巡礼の街サンティアゴ・デ・コンポステーラのお菓子タルタ・デ・サンティアゴ(Tarta de Santiago)は、アーモンドを粉状にしたアーモンド・プードルで作られていて、しっとりとした口触りが何とも言えず美味!是非、サンティアゴ・デ・コンポステーラに行く方は試食していただきたいお薦めのお菓子です。日持ちも良いので、お土産にも喜ばれますよ。

飲み物では、アーモンドのオルチャータ(Horchata de almendra)と呼ばれるアイスドリンクも夏場にはお薦め。また、アーモンドオイルもシャワー後に全身に塗ると保湿効果抜群、低刺激なので赤ちゃんに塗っている人も多いですね。日本ではあまり見られないかもしれませんが、アーモンドオイル入りのシャンプーなども多いです。アーモンドオイル物をお土産にするのもいいかもしれません。

チョコレートのトゥロン、丸ごとアーモンドが使われています

美術におけるアーモンド

キリスト教の国スペインを旅していると、度々Mandorla(マンドルラ)と呼ばれるアーモンド形の光輪を見ます。もともとイタリア語でアーモンドという意味だとか。ロマネスク様式やビザンチン様式の美術品によくみられ、特に復活したキリストを表現する際にこのマンドルラが使われています。また、聖母マリアや聖人にも使われています。下の写真でも、アーモンド形のマンドルラの中にキリストが座っています。このような彫刻、絵画はロマネスク様式が多く存在するスペイン北部ではよくみられるので、注意して見てくださいね。

モアルべス・デ・オヘダの聖ヨハネ教会(パレンシア県)

アーモンドのお花見

至る所にアーモンドの木があり、花真っ盛り(ラ・フラヘネーダ(La Frageneda)

ここサラマンカ県にあるラ・フラヘネーダ(La Frageneda)という村には村の人口の何倍ものアーモンドの木が栽培されています。ポルトガルとの国境をなすドゥエロ川とアゲダ川の合流点にあるこの村は、2月末から3月頭はアーモンドの花盛りです。アーモンドのお花見に行くにはもってこい。お弁当ならぬスペインのボカディージョ(フランスパンで作ったスペイン式サンドイッチ)を持って、是非ラ・フラヘネーダ(La Frageneda)までお花見をしにぶらぶら散策しませんか。きっと、お決まりの観光コースだけでは味わえない、ディープな旅が楽しめること間違いなしです!

スペインの古代ローマ遺跡 - 大邸宅 ラ・オルメダ(La Olmeda)

遺跡はすっぽりと建物に覆われて劣化から守られてる(筆者撮影)

スペインにも古代ローマ時代の遺跡が残っていますが、やはり一番有名なのはセゴビアにある水道橋でしょうか。それともタラゴナの古代劇場でしょうか。セゴビアと同じカスティージャ・イ・レオン州にあるパレンシア県のラ・オルメダと呼ばれる古代ローマ時代の大邸宅は、日本人の観光客がほとんどいない穴場的存在で一見の価値が十分にあります。特にここで発掘されたモザイク画は、ヨーロッパの中でも最も保存状態の良いものの一つです。今日は、日本では知られていない古代ローマ時代の大邸宅ラ・オルメダを紹介します。

ラ・オルメダについて

紀元4世紀、このラ・オルメダと呼ばれる大邸宅は造られました。この大邸宅は当時の大地主が所有し、生活の場として奴隷や使用人達も暮らすあたかも村の縮図といえるようなところだったようです。建物自体の面積が4,400㎡にもおよび、中央には中庭が設けられ、その周りには精緻なモザイク画が施された4つの部屋がありました。部屋が35部屋もあり、そのうちの12部屋には古代ローマの床下暖房の設備が整っていました。また、その35部屋のうちの26部屋には多色装飾されたモザイク画がありそのモザイク画の占める面積は1,450㎡もありました。大邸宅には4つの塔があり、2つは四角形、残りの2つは八角形でした。

ローマ時代の大邸宅ラ・オルメダの見取図(筆者撮影)

このラ・オルメダで是非見て頂きたいモザイク画は、1,500年という時の経過を感じさせないような当時の色が残る美しいものです。人物画には顔の陰影までモザイク画とは思えないほど緻密に表現され、当時の技術の高さがうかがえます。技術の高さといえば、床下暖房設備には驚かされます。ここカスティーリャ・イ・レオン州の冬は長く厳しいものです。当時、寒い冬の間もこれらの部屋で快適な時間を過ごすことができたことは容易に想像できます。もっと時代が下がり中世のお城を訪れると、暖を取るための暖炉は部屋にありますが、どう考えてもローマ時代の床下暖房設備のほうが断然暖かかったろうなと思うと、つくづく古代ローマの技術の高さに舌を巻きます。

ラ・オルメダの遺跡では、古代ローマの共同浴場や墓地も見れます。また、ローマ時代の様々な道具や屋根瓦なども展示してあり、当時の生活の様子がうかがわれ興味深いです。

ラ・オルメダの発見

1968年、この遺跡は偶然に発見されました。ラ・オルメダ遺跡が1500年以上もの長い年月、誰の目に留まることなく静かに地下で眠っていたその眠りを破られ、発掘によりその姿を現すようになったのは、ハビエル・コルテス氏のひとかたならぬ情熱によるものでした。

ハビエル・コルテス氏は、ラ・オルメダの遺跡が眠る土地の所有者で農業を営んでいました。ある場所で何度もトラクターが引っかかることに疑問を抱き、土を調べると小さな同じ大きさの石のようなものが沢山含まれていることに気づきました。そして、それがモザイク画のモザイクではないかと思い、コルテス氏は独自で発掘を始めたのです。それから何と12年間発掘を自費で続けました。その間、大変保存状態の良いモザイク画や数々の生活用品、ローマ時代の硬貨などが発掘されました。1970年から1984年までは自宅の2部屋を展示室として出土してきた様々な物を展示して一般に公開していました。そして、1980年にパレンシア県に土地・遺跡共々寄贈したのです。

このラ・オルメダ遺跡は、ハビエル・コルテス氏の並々ならぬ遺跡に対する情熱から見つかったといっても過言ではないでしょう。

ラ・オルメダ遺跡(筆者撮影)

モザイク画

1,450㎡も占めていたというモザイク画。中でも大広間にあるモザイク画は、オデュッセウスとアキレウスの神話を表しています。下の写真でもわかりますが、保存状態の良い多色装飾のモザイク画が生き生きと描かれています。動きがあり、緻密な陰影によってより立体的なものに仕上がっているうえ、その大きさにも圧倒されます。当時、モザイク画は専門家が作成していました。おそらくこのモザイク画もどこからか専門家を連れてきて作成したものだと考えられています。

このモザイク画のモチーフとしては、スキーロス島のアキレウス、狩猟の様子、イベリア半島の動物、楕円形をしたメダイヨン、肖像画などが描かれています。周りに施された模様も複雑で丁寧に仕上げられています。

中央上にはスキーロス島のアキレウスが。(筆者撮影)
端正なギリシア風の顔立ち。水鳥とイルカの模様も。(筆者撮影)

当時、色鮮やかで美しいモザイク画がこの大邸宅の住人たちの目を楽しませ、訪れる客人たちを驚嘆させたことでしょう。またカスティーリャ・イ・レオン州の長くて暗い寒い冬にあっても気持ちを明るくさせる役割を果たしていたに違いありません。そして、永い眠りから目覚めさせられ、ハビエル・コルテス氏らの目の前にその姿を現した時の彼らが受けた衝撃的な感動を想像するだけで、こちらまでドキドキさせられます。

大広間とは別の部屋に施された8つの花弁がある花模様。(筆者撮影)

浴場

浴場は、温かいお湯の浴場と冷たい水の浴場の二種類があったとのこと。また、浴槽はかなり大きなもので湯船の中で座る場所も設けられ、四角形の四隅は丸くなっていて快適そうです。また、浴場の隣にはお手洗いもあり、驚いたことには、便座は木製でできていて座り心地も計算されていたようです。そして、浴場からの水を使っての水洗トイレ形式でした!

手前が浴場部分で、角は丸く、段差があるのは座るため。奥がトイレになっていて、木製の便座が。(筆者撮影)

博物館 – 聖ペドロ教会(サルダーニャ)

2020年1月現在は、ラ・オルメダから出土した様々な物は近郊の村サルダーニャの聖ペドロ教会に移され展示されています。訪れた時の説明によると、様々な物が出土され、当時の生活の様子を窺い知ることができます。例えば、ラ・オルメダがあるパレンシア県には海がありません。海がある北に位置するアストゥリアス地方まで行くには200キロ以上の道のりですが、ラ・オルメダ遺跡では大量のカキ(貝)が掘り出されているとか。往復400キロ以上もの道のりも美味しいものを求めてなんのその!何か特別なお祝い事がある毎に、アストゥリアス地方の海岸までカキを採りに行っていたようです。また、出土している装飾品に用いられている石-スペイン語ではアサバッチェ(azabache)と呼ばれる黒石(ジェット/jet)-は、スペインではアストゥリアス地方でしか採れない石です。ここの主人はかなり裕福な生活を送っていたようです。私の目を引いた展示物のひとつに、子供用の靴がありました。皮で作られたものですが、とても1500年以上も昔の靴とは思えない機能的かつ可愛いデザインでした。

子供用の皮のブーツ(筆者撮影)

さいごに

ラ・オルメダは単にローマ時代の遺跡を見れるだけではなく、その発見者であるハビエル・コルテス氏の発掘の歴史を知ることも面白いです。また、この遺跡を覆うように建てられた建物自体も、建築という観点から一見の価値があります。今回ご紹介しませんでしたが、ラ・オルメダ遺跡の近くに別のローマ時代のラ・テハーダ遺跡もありますので、併せて見学されることもできます。

その他、ラ・オルメダ遺跡の出土品が展示してある聖ペドロ教会のあるサルダーニャという村は5kmほどの距離にあり、車だと5分程度で行ける村です。今回、村の広場はあいにく工事中で見れませんでしたが、小さいながらも可愛い村です。ぜひ足を延ばしてみてください。

サルダーニャの村の入口(筆者撮影)
サルダーニャ村にあるねじれた家(筆者撮影)

ラ・オルメダ遺跡 開館情報

住所:ペドロサ・デ・ラ・ベガ、パレンシア(Pedrosa de la Vega, 34116 – Palencia)
GPS検索:G.P.S. Latitud Norte: 42° 28’ 50’’ / Longitud Oeste: 4° 44’ 11’’
開館時間:火~土 10:30~18:30(最終入館 18:15)  
*月曜日(祭日に当たる日は開館している場合もあるのでウエッブページでご確認を)・1月1日・1月6日・12月24日・12月25日・12月31日は休館                    1. 入場料(ラ・オルメダ遺跡と聖ペドロ教会の博物館 共通券):               一般;5ユーロ/1人・割引料金; 3ユーロ/1人・特別料金;1,5ユーロ/1人          *12歳までは無料                                   *国際学生証を提示すれば割引料金適用。英語で書かれた教師証明書などがあれば割引の可能性あり。                                           *5月18日と毎週火曜日15:00以降は無料。但し、火曜日はガイドツアー無し。         2. 入場料(ラ・オルメダ遺跡・聖ペドロ教会の博物館・ラ・テハーダ遺跡 共通券):      一般; 6ユーロ//1人 ・割引料金; 4ユーロ/1人・特別料金;2ユーロ/1人          *12歳までは無料                                   *国際学生証を提示すれば割引料金適用。英語で書かれた教師証明書などがあれば割引の可能性あり。                                           *5月18日と毎週火曜日15:00以降は無料。但し、火曜日はガイドツアー無し。 

ラ・オルメダ 情報

ラ・オルメダ遺跡の公式サイト(英語・スペイン語・フランス語)            https://www.villaromanalaolmeda.com/

当時の様子を再現した3Dの映像がYouTubeで見れます。    https://www.youtube.com/watch?v=MRPaXpr7qU8

サルダーニャ村の公式サイト(スペイン語)                        http://saldana.es/index.php/turismo/

ラ・テハーダ遺跡の公式サイト(英語・スペイン語・フランス語)              https://www.villaromanalaolmeda.com/villa/tejada/presentacion

ナショナルジオグラフィックが選んだスペインのローマ時代の遺跡10選(残念ながらラ・オルメダ遺跡は選ばれていませんでした。)興味のある方はどうぞ。               https://historia.nationalgeographic.com.es/a/10-fantasticos-restos-romanos-espana_11129/2

スペイン ロマネスクへのいざない (1)

聖エウフェミア教会 – Iglesia de Santa Eufemia – パレンシア県(筆者撮影)

スペイン ロマネスクは、スペイン北部のみに存在する

ロマネスク様式が花開いたのは紀元11~12世紀にかけてというのが一般的。しかしスペインでは、13世紀に入ってもロマネスク様式が採用されていることが多い。また、12世紀末から13世紀はロマネスク様式からゴシック様式に移行する過渡期であり、ハイブリッドな教会もスペインでは多々見られる。

この時代、スペインはレコンキスタの真っ最中。そう、スペインはキリスト教世界とイスラム教世界の二つの相反する世界に分かれていた時代。この時代は、スペインという統一国が誕生する以前の複雑な歴史を持っている。スペインを旅していると気づくことの一つは、スペイン南部にはロマネスク建築が存在しないことだ。スペイン北部では至る所でロマネスク建築が見られるが、南部にはない。これは、スペイン南部がこの時代イスラム教世界だったからだ。

ロマネスクと巡礼の道 サンティアゴ・デ・コンポステーラ

また、スペインにはキリスト教三大聖地の一つ「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」があるが、そのサンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼が始まったのが10世紀。11世紀にはヨーロッパ中から多くの巡礼者が集まり、最盛期の12世紀には年間50万人を超える人たちが西の果てのこの地へ向かったというから驚きだ。サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼が活発化する時期とロマネスクの時代は一致する。巡礼者たちのための修道院、救護院、教会がロマネスク建築で多く建てられた。今では、これらのほとんどがひっそりと静かに、まるで息をひそめるかのように建っているが、11~12世紀当時はヨーロッパの様々な国、民族の巡礼者が集まる賑やかで色々な情報を交換する貴重な場所だったのだろうと想像すると不思議な気持ちになる。

聖フアン・バウティスタ教会 – Iglesia de San Juan Bautista – パレンシア県(筆者撮影)

ロマネスク建築と修道院の役割

ロマネスク建築について調べてみると、「フランス、スペイン北部、ドイツ、イングランド、イタリアと、これらに囲まれた地域で形成された建築で、東ヨーロッパなどの周辺部については、わずかながらロマネスク建築の特徴を持った教会堂が点在するが、本質的には西ヨーロッパで興った建築である。」(wikipedia参照)とある。

ロマネスクの発展には、修道院の役割が大きく、特にクリュニー修道院とシトー会の活動によるところが大きい。この時代の修道院は、単なる祈りと労働による共同生活の場所ではなく学問と文化を主導する役割を担っていた。そして修道士たちは、自給自足の共同体として、都市部だけではなく、俗世を離れ、辺境の地でも荒地や森林を開墾して自分たちの修道院を建設していった。前述したように、サンティアゴ巡礼に赴く巡礼者たちに宿舎として提供し、また病気に倒れた巡礼者たちを収容して治療を施したのも多くの修道院だった。修道士たちは、聖職者というだけではなく、農民、職人、技術者、医者、薬剤師、教師等の専門家として積極的に働き、共同体を維持していた。中世時代の修道院は、その当時最も先進的な生産組織であり、かつ学問と芸術の中心であった。ヨーロッパ各地にみられる地方色豊かなロマネスク建築は、これらの修道院の存在なしには考えられない。(「西洋建築の歴史」佐藤達生著より)

ロマネスク建築の特徴

ロマネスク建築の特徴としては、厚い壁と小さな窓、そして円形アーチが挙げられる。厚い壁は、石造りの天井が外側に向かって力を働かせる構造になっているため、その天井の重みを厚い壁で支えている。窓は小さく、大理石に似た粒子の細かい半透明の石、アラバスターと呼ばれる雪花石膏がよく見受けられる。円形のアーチはローマ風。全体的に重厚感があり、装飾も少ない。

しかし、少ない装飾の中に興味深いものがたくさん隠れているのもこのロマネスクの魅力の一つだと言えるだろう。神話や伝説上の動物や当時の楽器を持つ音楽士たち、聖書に基づくモチーフや悪霊を追い払うための顔などなど・・・。一つ一つゆっくりと時間をかけて観察すればするほど色々な発見がある。ゴシック建築のような高度な技術がまだ発達していなかった時代の建造物だが、1000年の時を超えて多くのことを私たちに語り掛けてくれる。

聖マリア教会 – Iglesia de Santa María – サラゴサ県(筆者撮影)

スペインのロマネスク建築の特徴

スペイン北部アストゥリアス地方には、ロマネスク様式以前の様式が存在する。プレロマネスク様式またはアストゥリアス芸術と呼ばれているものだ。ロマネスク様式は、前述したように西ヨーロッパにおけるグローバル化のような様式で、国が異なっていても共通するものが多くあるが、ここスペイン北部では独自の様式-プレロマネスク様式またはアストゥリアス芸術-が花開いていた。そこには、西ゴート (ゲルマン民族の一部族で、5世紀にイベリア半島で西ゴード王国を建てた) 、モサラべ (イスラム教徒の治下に混在したキリスト教徒のこと) 、そしてスペイン北部アストゥリアス独自の文化が融合して花開いたものである。

バルディオスのサン・サルバドール教会 – Iglesia de San Salvador de Valdediós – アストゥリアス州(筆者撮影)

これから少しづつスペイン北部に点在するロマネスクをこのブログで紹介していくつもりだ。特に、私が住むカスティーリャ・イ・レオン州にはロマネスク建築である教会、救護院、修道院が多く、ロマネスクの粋といわれるフロミスタの聖マルティン教会もここカスティーリャ・イ・レオン州にある。

スペインの建築物というとガウディのサグラダ・ファミリアやグラナダのアルハンブラ宮殿、セビリア大聖堂などが真っ先に頭に浮かんでくるかもしれないが、スペインのロマネスクの魅力もお伝えしたい。是非、スペイン観光のコースにロマネスク教会や修道院への訪問を加えて頂き、自分の目でみて、重厚感あふれる1000年もの歴史を持つ石たちに触れてほしい。

参考

スペイン・ロマネスク・アカデミー(日本)とAmigos de Románico

スペイン・ロマネスク美術の研究組織で、知識・普及・交流を目的にしている。写真も多く説明もわかりやすい。https://arej.jimdofree.com/ 

スペインでも「Amigos de Románico」という組織があり、本の出版や独自のウェブサイトでスペインのロマネスクに関して貢献している。スペイン語のみだが興味のある方はどうぞ。https://www.amigosdelromanico.org/

光の画家フワキン・ソロージャ(1863-1923)とソロージャ美術館

海辺の散歩(1909)ソローリャ美術館蔵

スペインの画家フワキン・ソロージャをご存知ですか?

19世紀から20世紀にかけて活躍したスペイン印象派画家の巨匠の一人ですが、彼と同じ時期またはもう少し後に出てきたダリ、ピカソ、ミロに比べ、日本での知名度はかなり低いのではないかと思います。そういう私自身、スペインに来るまで彼の存在を全く知りませんでした。でも、彼の作品を一度見ただけで大好きになりました。

戸外にキャンパスを持ち出して、バレンシアの光の元で描いた彼の様々なモチーフの絵は、本当に見ている者を幸せな気持ちにさせる絵が多いのです。実際、国際的な名声を得るきっかけとなったのは、地中海の光景を描くその絵が、光と喜びにあふれていたから「光の画家」と呼ばれる所以です。

海の色、花の色、人々の光の下での肌の色。あぁ、ソロージャ特有の色!見る人を癒してくれるような、やさしく包んでくれるような絵が何時もそこにある。ソロージャの絵をみていると、とても心地よいのです。

ソロージャは、わずか2歳で両親を失ったにも拘わらず、妹と共に母方の叔父・叔母の家で大切に育てられました。そして1888年、人生の伴侶(クロティルデ)と結婚し、若くしてその才能を花咲かせて画家として大成功を修めました。彼自身の人生は、彼が描く絵にも反映しているといってよいでしょう。彼の代表的な絵に家族の肖像がが多数含まれるのを見ても、幸せな家庭を持ち幸せな人生を送った様子が見て取れます。

ソロージャの絵は、マドリッドにあるソロージャ美術館で見ることができます。1912年に建てられたその建物は、実際に彼と彼の家族が暮らしていた住居兼アトリエだったものをソロージャの死後美術館として公開されたものです。その美しいアンダルシア風の中庭や美術館の門を抜けるとすぐ広がる庭は、ソロージャ一家が当時くつろいだ空間です。また、館内に公開されている彫刻、陶器、宝石、古い写真、手紙、そもまま残されている画材などは、彼とその家族の生活の様子、彼の画家としての生活を垣間見ることができ、なかなか興味深いものです。

ソロージャ美術館の門を抜けると…

ソロージャ美術館では、社会的批判の絵画、家族の肖像画、風習を描く作品や自画像など様々な芸術スタイルやテーマが見られます。 また、ベンリウレ、ロダン、ブロイなど他の芸術家の注目すべき作品もあります。この美術館は小規模ながらも去年(2018年)の年間入館者数が26万人を超えたとか!私が最初にこの美術館を訪れた20年以上前は、知る人ぞ知る隠れ屋的な美術館で、受付の人が1人居て入館料を払った記憶があります。その時の入館者は私と友人の2人だけでした。ところが20年以上経って訪れてみると、受付もすっかり様変わりしているし入館者も大勢いました。ちなみに1998年の年間入館者数は5万人ちょっと。この20年で5倍以上に増えたことに!驚きました。

彼の代表的な絵は、地中海の海辺で遊ぶ子供たちなど浜辺の絵が多いのですが、つい見る人の顔がほころぶような絵です。

浜辺の子供たち(1910)プラド美術館蔵

また、ソロージャの絵はプラド美術館でも見ることができます。ただ、ソロージャ美術館に展示してある作品のほうが、「光の画家ソロージャ」の名にふさわしい作品が多いようです。もしマドリッドに行く機会があれば、是非訪れてほしい美術館の一つです。

ソローリャ美術館 開館情報

住所:パセオ・へネラル・カンポス37番地(Paseo General Campos)
最寄り駅:イグレシア(Iglesia 1号線・水色) ルーベン・ダリオ(Rubén Darío 5号線・黄緑色)      グレゴリオ・マラニョン(Gregorio Marañón 7号線 と 10号線・オレンジ色と紺色)
開館時間:火~土 9:30~20:00(最終入館 19:15)日・祝 10:00~15:00  
*月曜日・1月1日・1月6日・5月1日・12月24日・12月25日・12月31日は休館        入場料:3€ (土曜14:30以降・日曜・4月18日・5月18日・12月6日は無料)

ソローリャ美術館 情報(英語・スペイン語)

http://www.culturaydeporte.gob.es/msorolla/visita/informacion-general.html