おいでよ!スペインの素敵な村 (3)-カンタブリア州-カルモナ(Carmona)

スペインいろいろ

スペイン北部 カンタブリア州内陸部にあるスペインで最も美しい村

今年の夏は例年以上に暑い毎日で、避暑を兼ねて8月末に2泊3日の小旅行に出かけました。その日カステージャ・イ・レオン州では37℃というかなり厳しい暑さでしたが、スペイン北部のカンタブリア州に入った途端一気に気温がドンドン下がっていき、車で15分も走ると17℃になり20度も差がありました。車から降りてみると、ちょっと寒いくらい!隣の州なのにこんなにも気温差があるのかと改めて驚かされました。

カンタブリア州は、州都サンタンデールをはじめ有名どころの観光地はカンタブリア海の海岸沿いに連なっています。スペイン旅行をされた方の中には、スペインを代表する建築家ガウディの「エル・カプリチョ」という建物があるコミージャス(Comillas)や海岸線から少し内陸部に入ったところにあり14世紀から18世紀の建物が残存する古く美しい街並みのサンティジャーナ・デル・マール(Santillana del Mar)を訪れたことがあるのではないでしょうか。もしかすると、サンティジャーナ・デル・マール(Santillana del Mar)の近くにあるアルタミラ洞窟まで足を延ばされたかもしれません。

今回ご紹介する村は、カンタブリア州内陸部の山地にある美しい村カルモナ(Carmona)です。1985年に歴史的・芸術的な村として指定されたカルモナは、2019年には「スペインで最も美しい村」という協会からスペインで最も美しい村の一つとしても認定されました。「日本で最も美しい村」という日本版の協会もあるのでご存知の方も多いかもしれません。ちなみに、この「スペインで最も美しい村」という協会は2011年に設立され、人口1万5000人以下(歴史地区の人口は5000人以下)であること、建築的遺産または自然遺産があることなどを条件に、村内の環境、宿泊施設、案内板に至るまで厳正に審査し、登録を認定しています。(ウィキペディアより)

半円アーチを持つ入口とバルコニー、そして切り石建築はこの山間部の村に見られる典型的な建築(写真:筆者撮影)

カルモナ(Carmona)の邸宅(Palacio)でお昼ご飯

村に入り、ぶらぶらと散歩していると、他の建物とは異なる立派な邸宅(Palacio)がありました。正面門の上部には、かなり大きな家紋が彫られています。現在ホテル兼レストランとして活躍しているディアス家、カッシオ家、カルデロン家、ミエル家の邸宅(Palacio de los Díaz de Cossio, Calderón y Mier)です。この邸宅は、1715年に建てられたマドリードのバロック(barroco madrileño)様式と地元の典型的な建築様式が融合した建物で、柱に3つの半円アーチを持つ中央部分と、それを挟む2つの高い塔で構成されています。

二つの建築様式が見事に調和され、バランスの取れた切り石建築と中央の大きな紋章が特徴(写真:筆者撮影)

特に目を引く大きな紋章はディアス家、コシオ家、カルデロン家、ミエル家の4つの家の紋章で、紋章の両脇には長槍で武装した二人の巨大な兵士の彫刻が浮き彫りにされています。

紋章の上には飾り付きの兜が(写真:筆者撮影)

丁度お昼ご飯の時間だったので、邸宅のレストランでお昼を食べることに。中に入るとレストラン部分の隣に小さな中庭がありテーブルが用意されていたので、心地よい風の吹く中庭でお食事を。ウエイターの方にお薦め料理を尋ねると、「狩猟で捕獲したこの辺りの野生鳥獣の肉を使ったジビエ料理だね!」という返事が返ってきました。味付けの方はカレーのスパイシーなもので、伝統料理というよりも地元の伝統的な素材を使って作る創作料理という感じのものでしたが、日本人の私にとっては口に合う味付けでした。

カレー味のピチョンと呼ばれる鳩の雛肉(Pichón)料理(写真:筆者撮影)

他にもカルモナ村では、コシード・モンタニェス(Cocido montañés)と呼ばれる煮込み料理や、カルモナ村から約10㎞程にあるサハ川で獲れるマスを使った料理等も有名だそうです。

村で取れた洋梨を使ったサラダ。数年前からスペインでもよく使われるようになったイタリアのブッラータチーズ入り(写真:筆者撮影)

レストランの上部分には野外テラスがあり、そこから見る自然に囲まれた風景は心癒されるものがありました。

バロック時代の家々

カルモナ村を歩いていてすぐ気付いたことは、村の家々が私が住むカステージャ・イ・レオン州の村の家々の造りとはかなり異なっていることです。

まず、結構大きな家が多く存在していてバロック時代(17世紀から18世紀)に造られたものです。特徴としては、入口は半円アーチがあり、「ソラーナ(Solana)」と呼ばれるバルコニーがあります

百聞は一見に如かず。下の写真をご覧ください。こちらはカルモナ村の典型的な家です。

入口は半円アーチがあり、「ソラーナ(Solana)」と呼ばれる左右を厚い石造りの防火壁で囲まれたバルコニーがある(写真:筆者撮影)

次に下の写真をご覧ください。こちらは、カステージャ・イ・レオン州の「カンデラリオ(Candelario)」村の典型的な家です。入口、バルコニー等かなり趣が異なっていることがお分かりになると思います。

カンデラリオ(Candelario)についてもっと知りたい方はこちらもどうぞ。

この「ソラーナ(Solana)」とは左右を厚い石造りの防火壁で囲まれたバルコニーで、カンタブリア地方特有の建築様式です。下部の壁には梁受け(はりうけ ménsulas)が突き出していてバルコニー部分を支えています。そして、「ソラーナ(Solana)」であるためには南向きに造られ、冬の日差しを存分に浴びることができるように考えられています。(一般的なスペイン語の「ソラーナ(Solana)」の意味は、「日なた、日だまり」等の意味があるからです。)

村に残存する建築物から、その村に住む人たちの生活の知恵、生活様式、生活のニーズが見えてきます。そして、村人たちの美的感覚や村に対する愛着まで訪れる人に伝わってくることはとても興味深く、歴史的・芸術的な村を訪れる醍醐味ともいえるでしょう。

カルモナ村の木工細工「アルバルカ(Albarca)」

この村の伝統的な職業として木工細工があります。特に「アルバルカ(Albarca)」という木靴を作る「アルバルケロ(Albarquero)」という職業が典型的で、現在もこの村で作られ使われています。日本の下駄とは異なりつま先が靴のように覆われていて、歯は前の方に2本、後ろの方に1本、合計3本付けられています。この木靴は、雨の多いこの地方で、湿気や水たまりから足を守るために考案されたもので、カンタブリア地方からスペイン北部のその他の地方へも伝わっていきました。木靴というと歩きにくいように感じてしまいますが、3本の歯が足を高くして歩行に敏捷性を与えるため、悪路やぬかるんだ場所だけでなく雪の中での歩行に実用的な靴だということです。

カンタブリア地方西部が原産のトゥダンカ牛(Wikipedia Public Domain)

またこの地方では、「トゥダンカ(Tudanca)」という名前のスペイン特有の牛の品種が多く生息していて、このトゥダンカ牛の畜産が盛んですが、牧人たちが牛を放牧している間に副業としてこの木靴「アルバルカ(Albarca)」を作っていたということです。

スペイン国営テレビによる木靴「アルバルカ(Albarcas)」ととそれを作る職人「アルバルケロ(Albarquero)」について紹介する動画があります。是非ご覧ください。

Recorremos la tradición cántabra... ¡con unas albarcas!
En Cantabria damos con un artesano que nos enseña a hacer unos zapatos tradicionales de Cantabria: ¡las albarcas!

ちょっと足を延ばして

今回は紹介しませんでしたが、カルモナ村から車で約30分位の所に「バルセナ・マヨール(Bárcena Mayor)」という村があります。この村もカルモナ村と同様に歴史的・芸術的な村として指定され、「スペインで最も美しい村」協会からもその一つとして認定されています。そして、カルモナ村と同じような建築様式の家々があり、とてもかわいい村です。カルモナ村に比べると、もっと観光地化している印象を受けましたが、カルモナ村と同様に、この地方の典型的な建築様式が見事に反映された家々を見て歩くのは楽しいものでした。

バルセナ・マヨール村(Bárcena Mayor)(写真:筆者撮影)

カルモナ村もバルセナ・マヨール村も趣がありとても絵になる美しい村です。特にカルモナ村はサハ保護区に含まれているため、恵まれた自然の飛び地に位置していて、この地域特有の森林や景観がとても豊かで、周りを自然に囲まれ、まるで自然から優しく包み込まれているかのような錯覚を覚え、心に安らぎを与えてくれる村です。機会と時間があれば是非訪れてほしいスペインの村の一つです。

カルモナ村へ向かう途中の景色。美しく調和のとれた自然とその中で営む生活の一端(写真:筆者撮影)

情報

・4つ星ホテル兼レストラン ディアス家、カッシオ家、カルデロン家、ミエル家の邸宅「Hotel Arha Carmona」のウエブサイト。

HOTEL ARHA CARMONA – Hoteles en Carmona Cantabria

・カルモナ村に興味のある方はこちらのウエブサイトもお薦めです。カルモナ村の地図も出ていて便利です。残念ながらスペイン語のみです。

Visita autoguiada por Carmona | Mancomunidad Reserva del Saja
Carmona es conocida como “La flor de los Albarqueros". Declarado Conjunto Histórico Artístico, sus calles, casonas y su ...
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