番外編 バードウォッチング!-「羊と鳥の楽園シェットランド諸島」-1-(スコットランド/シェットランド諸島/アンスト島)

観察日:2023年6月9日

スペインではないのですが、番外編として今回から3回シリーズで、英国最北端に位置するシェットランド諸島でのバードウォッチングについて紹介します。

第1回は、アンスト島(Unst island)にあるハーマネス国立自然保護区(Hermaness Natural Reserve)と、宿泊地バルタサウンド (Baltasound) です。

ハーマネス国立自然保護区の遊歩道の一部には板が敷いてあります。この板道の周りには、見えないところに鳥たちの巣があります。(写真: 筆者撮影)

羊と鳥の楽園-ハーマネス国立自然保護区(Hermaness Natural Reserve)

シェットランド諸島のアンスト島(Unst island)に、英国最北端にあるハーマネス国立自然保護区(Hermaness Natural Reserve)があります。ここは、欧州のバードウオッチャー達が一度は訪れてみたい憧れの島の一つとしても知られています。というのも、巨大な海食崖と湿原からなる島は、様々な鳥にとって理想的な生息地だからです。シロカツオドリ(スペイン語ではAlcatraz)やフルマカモメ(Fulmar)、それにパフィン (Frailecillo) と呼ばれるニシツノメドリ等の海鳥のコロニー((集団)繁殖地、(集団)営巣地) があり、10万ペアを超える鳥が繁殖するハーマネスは、国際的に重要な場所なのです。

ハーマネスにある伝説では、ハーマネスにはかつてハーマン(Herman)という巨人が住んでいて、ハーマンは人魚をめぐってサクサ(Saxa)と呼ばれる別の巨人と戦いました。この二人の巨人は互いに石を投げ合い、それが岬を取り囲む岩や離れ岩となったと言われています。(Wikipediaより) どこの国や地域にも、奇景がある場所には伝説が付いて回るものです。二人の巨人ハーマンとサクサの石の投げ合いはなかなかの見物だったでしょう。巨人たちが投げた石による離れ岩などが造るハーマネスの風景は見応えがあります。

二人の巨人の石の投げ合いによってできた岬を取り囲む岩や離れ岩。「絶景」という言葉がぴったりです。(写真: 筆者撮影)

海の方ばかり目が行きがちですが、ハーマネス国立自然保護区を歩いていくと見渡す限りの平原が続いています。アンスト島には自生の木は1本もありません。というのも、この島は一年中風が強く、木が生えるには過酷な自然環境だからです。初めてこの島を訪れた時、360度全く木を見ることのないその風景に驚かされました。日本人の私は、島というと木々に覆われた場所を想像してしまいます。その代わり、地に這いつくばって生えている草の野原やボグまたは泥炭地と呼ばれる湿原が広がっています。ちなみにボグまたは泥炭地はスペイン語ではトゥルベラ(Turbera)と呼ばれているもので、森林に覆われていない、泥炭を生成する生きたスギゴケ、ミズゴケ等の植物からなる湿地です。また泥炭は泥状の炭で、石炭の一種で可燃性です。アイルランドの知人の話では、自分の家の裏にある泥炭地の泥炭を取ってきては乾燥させ、暖炉にくべて暖を取っていたそうです。

木が1本も生えていない景色は私の心に染みいり、この島を出てからもいつまでもいつまでも思い出す景色です。(写真: 筆者撮影)

そのボグまたは泥炭地と呼ばれる湿地帯にも、様々な鳥たちが繁殖しています。代表的な鳥はトウゾクカモメ(Págalo)です。ハーマネスは世界で3番目に大きいトウゾクカモメのコロニーがあるところでも有名です。5年前にハーマネス国立自然保護区を訪れた際、驚くほど沢山のトウゾクカモメが飛び回っているのが印象的でした。今回はそこまでトウゾクカモメの姿を見なかったので、時期的なものかな、巣作り時期で見えないのかな等と勝手に想像していましたが、実は、去年から鳥インフルエンザが猛威を振るい、半分以上のトウゾクカモメ達が犠牲になったとのことでした。日本でも鳥インフルエンザの被害が記録的なものとなっていることをニュース等で聞いてはいましたが、ここシェットランド諸島でもその被害は甚大だったようです。

トウゾクカモメという人聞きの悪い名前が付けられていますが、水を飲む姿は憎めないですね。(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

その他、ヨーロッパムナグロ、ハマシギ、タシギなどの良好な生息地にもなっています。

鳥の数に負けないくらいここに沢山いる動物は、シェットランド・シープです。春に生まれた子羊たちが、お母さん羊と一緒に草を食んでいました。大人の羊たちは、人間の私たちが歩いていても見向きもせずひたすら草を食むことに忙しくしていましたが、子羊たちは好奇心旺盛で、草を食むのを止め私たちの方をしきりと見ています。たまに私たちが近くにいるのに気づくのが遅い子羊もいて、私たちの存在に気付くとびっくりして慌ててお母さん羊の許に走っていきます。もう草を食むくらい少し大きくなっている子羊たちですが、不安や驚きの後はお母さんの胸の下に頭を突っ込み、少しおっぱいを吸って気持ちを落ち着かせているようでした。人間の子供と一緒だな、なんて思いながら、「怖がらなくても大丈夫だよ」と優しく声をかけてみましたが、日本語だったので分かりませんよね。(笑)

私が写真を撮っていることに興味津々でこちらをジーっと見つめている子羊。(写真: 筆者撮影)

圧倒的に羊と鳥の数の方が人間の数より多いこのシェットランド諸島にあるアンスト島は、まさしく羊と鳥の楽園でした。

人見知りしないパフィン達(Frailecillo atlántico

ハーマネス国立自然保護区(Hermaness Natural Reserve)に入って歩き出して約1時間、遂にパフィンと再会できました!

最初のパフィンと再会してから更に15分ほど歩いていくと、沢山のパフィンが崖にある無数の穴の近くにいました。6月は巣作りの真っ最中なのです。こちらが驚くほどすぐ近くにパフィンが居て、そっと近づいてみても全く怖がる気配もなく、飛んで逃げるわけでもなく、野生の鳥かしら?!と疑ってしまったくらいです。(笑) 静かにパフィンを観察していましたが、時間が経つのを忘れてずっとずっとパフィンを観察してしていたい気持ちで一杯でした。歩く姿がぎこちなく、まるで歩き始めた赤ちゃんのようなおぼつかない足取りが、コミカルでもあり癒しでもありました。

すぐ近くで見れるパフィン達。まるでピエロのようにおしろいを塗って化粧をしているかのような顔です。(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

途中の案内板に、「巣穴を傷つけないよう、歩いたり座ったりする場所に注意すること。」という注意書きがありましたが、手を伸ばしたほんの少し先にはパフィン達の巣があり、パフィン達が活動していました。

崖肌には、沢山のパフィンの巣の穴とパフィン達がいました。(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)
パフィンまたはニシツノメドリ(学名:Fratercula arctica / 西:Frailecillo atlántico) / (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

シヲカツオドリ(Alcatraz)のコロニー

パフィンと別れ、灯台が見える崖っぷちまで更に歩いていきました。この灯台が見える所まで約2時間くらいでした。灯台は、アンスト島ではなく、マックル・フラガ島という岩だらけの島に建てられています。そのマックル・フラガ島の前に魚の群れがやって来たのでしょうか。それまでアンスト島の岩の上でのんびり日向ぼっこをしていたシヲカツオドリ達が、一斉に飛び立ったのです。本当に一瞬のことで驚きと共に息をのむ光景でした。そして無数のシヲカツオドリがマックル・フラガ島の前に飛んでいき、勢いよく垂直に海に突っ込み魚を捕る姿は迫力満点でした‼ アンスト島から肉眼で見るには少し遠かったので、双眼鏡をのぞいて見ていましたが、シヲカツオドリが持つ魚の捕獲技術には舌を巻きました。

飛ぶ姿が美しいシヲカツオドリ。(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

BBC放送がシヲカツオドリの魚の捕獲する映像をYoutube にアップしていますので、是非ご覧ください。時速100kmの速さで空から海に突っ込んでいく姿等、本当に驚嘆することしきりです。

前述したようにハーマネスには、シヲカツオドリのコロニーがあります。私たちもコロニーを見に行きました。ハーマネス国立自然保護区に入り、歩き始めて45分くらいの所に左右へ行く分岐点があります(下の写真右側の地図の赤い丸い部分が分岐点です)。右へ行くとパフィンに出会え、マックル・フラガ島の灯台が見える所まで行けます。左へ行くとサイト(Saito)と呼ばれる散策コースで、シヲカツオドリのコロニーがある所に行けます。私たちは、先にパフィンに会いに行くために右の道を選びました。

ハーマネス国立自然保護区(Hermaness Natural Reserve)の中の2本の遊歩道の案内板。(写真: 筆者撮影)

ハーマネスに着いたのが午前9時前だったので、まだほとんど人影もなく、この広い世界に無数の鳥たちと羊の親子、そして私たち二人きりという何とも言えない不思議な感覚を味わいました。パフィンを観察している間に年配のカップルがやってきたので少し言葉を交わしましたが、その時、「先に左の道を選んだのでシヲカツオドリのコロニーを見てきたよ。」と教えてくれました。ただ、「時間的に早すぎて太陽の光が届かない場所にコロニーがあったので、ちょっと暗くて良い写真が撮れなかった。」と残念そうに話していました。私たちは、シヲカツオドリのコロニーに着いたのが既に午後2時を回っていたので、丁度良い具合に光がコロニーに射し、コロニーも良く見え、良い写真も撮れました。良いことづくめでした!

シヲカツオドリのコロニー。(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

上の写真でもお分かりになると思いますが、岩肌には無数のシヲカツオドリがいました。これだけの数の鳥を見ると圧倒され、私たちが彼らの世界にお邪魔しているという謙虚な気持ちを呼び起こしてくれます。

アツアツのシヲカツオドリのカップル (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

シヲカツオドリのつがいは、コロニーで入念な求愛儀式を行い、くちばしと頸を空に向けて伸ばし、それから互いにくちばしを軽くたたき合います。カツオドリの顔は歌舞伎役者を連想させます。目の周りが青色をしていて、とても美しい鳥です。

シヲカツオドリ(学名:Morus bassanus / 西:alcatraz común) /(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

その他の鳥たち

前述したようにフルマカモメのコロニーもあります。岩肌の段になっている所に、まるでフルマカモメ達の団地のようなコロニーがありました。

-フルマカモメ(学名:Fulmarus glacialis / 西:Fulmar)

つがいで巣にいるのは、卵を孵化しているのかもしれません。(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

ちなみに、フルマカモメの名前の「フルマ」はノルウェー語で「悪臭のするカモメ」の意味に由来します。というのも、フルマカモメは、危険を感じると口から悪臭のする液体を吐き出す防御行動を取るのです。「悪臭のするカモメ」という名前には似合わない優しい顔つきをしたカモメで、私のお気に入りの鳥の一つです。

コロニーがある場所には、低草の花が咲いていました。(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

その他、歩いている最中に出会った鳥たちを紹介します。

-ヒバリ(学名:Alauda arvensis / 西:Alondra común)

ヒバリ(学名:Alauda arvensis / 西:Alondra común) / (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

-ヨーロッパビンズイ(学名:Anthus trivialis / 西:Bisbita arbóreo)

ヨーロッパビンズイ(学名:Anthus trivialis / 西:Bisbita arbóreo) / (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

-シェットランド諸島のミソサザイ(学名:Troglodytes troglodytes zetlandicus / 西:Chochín de Las Islas Shetland)

シェットランド諸島のミソサザイ(学名:Troglodytes troglodytes zetlandicus / 西:Chochín de Las Islas Shetland) / (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

-ヨーロッパヒメウ(学名:Gulosus aristotelis / 西:Cormorán moñudo)

ヨーロッパヒメウ(学名:Gulosus aristotelis / 西:Cormorán moñudo)/ (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

-ハマシギ(学名:Calidris alpina / 西:Correlimos común)

ハマシギ(学名:Calidris alpina / 西:Correlimos común / (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

-キバシヒワ(学名:Linaria flavirostris / 西:Pardillo piquigualdo)

キバシヒワ(学名:Linaria flavirostris / 西:Pardillo piquigualdo)/ (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

-トウゾクカモメ(学名:Stercorarius pomarinus / 西:Págalo pomarino)

トウゾクカモメ(学名:Stercorarius pomarinus / 西:Págalo pomarino)/ (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

バルタサウンド (Baltasound)

今回は、アンスト島の中で一番大きな町バルタサウンド(Baltasound) で宿泊しました。同じ名前の湾がありますが、この町は以前、シェットランド諸島で最も重要なニシン港でした。バルタサウンド湾付近で見かけた鳥たちも紹介します。

-マキバタヒバリ(学名:Anthus pratensis / 西:Bisbita pratense)

マキバタヒバリ(学名:Anthus pratensis / 西:Bisbita pratense) / (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

-キョクアジサシ(学名:Sterna paradisaea / 西:Charrán ártico)

キョクアジサシ(学名:Sterna paradisaea / 西:Charrán ártico) / (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

-ホンケワタガモ(学名:Somateria mollissima / 西:Éider común)

ホンケワタガモ(学名:Somateria mollissima / 西:Éider común) / (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

-ミヤコドリ(学名:Haematopus ostralegus / 西:Ostrero euroasiático)

ミヤコドリ(学名:Haematopus ostralegus / 西:Ostrero euroasiático) / (写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

最後に

2度目のアンスト島、ハーマネスでしたが、前回同様、いや前回以上に素晴らしい訪問でした。前回は8月末ということもあり巣から離れてしまっていた鳥たちが多く、今回のようにこんなに近くでパフィンを見ることはできませんでした。また、シェットランド諸島本島のラーウィック(Lerwick)の街に宿泊したので、ラーウィックからハーマネス国立自然保護区までは車で約2時間半ほどかかり、帰りのフェリーの時刻に合わせて時間的に制限された滞在となったので、シヲカツオドリのコロニーがあるサイト(Saito)コースまで行くことができませんでした。今回は朝9時前にはハーマネス国立自然保護区に入り、のんびりと持参したお昼御飯も食べて夕方4時前までたっぷりゆっくり7時間かけて歩き回ることができました。

ここは、時間の流れが止まり、悠久の世界に身を任せているような不思議な感覚が湧き上がってくる場所です。こんな北の果ての自然保護区に来る人は、よほど鳥好き、自然好きな人ばかりで、すれ違いざまに挨拶し、立ち止まって静かにちょっとした会話を交わす喜びは、普通の場所ではなかなかない経験でした。

草の絨毯を歩いているようなホワホワ感を足の裏に感じながら、ヒバリ(Alondra)やダイシャクシギ(Zarapito)等の様々な鳥の声と「ウン、メー」となく羊の声を聴きながら、そして北海の強い風を体全体で受け止めながら歩いて回る満足感は、非日常の世界に身を置き全てのことから解放される満足感と相重なって、本当に素晴らしい時間でした。バードウォッチングが好きな方はもちろん、そうでない方も是非訪れてみてほしい所です。

鳥に興味のない方もきっと好きになるパフィン達。(写真: 筆者撮影)

参考

旅のアドバイスとして、ちょっと一言。

フェリーの時刻などに煩わされずゆっくり満喫できるよう、宿泊地はアンスト島をお薦めします。私が今回宿泊したバルタサウンドからハーマネス国立自然保護区までは、車で約15分でした。

また、私は今回6月に訪れましたが、ホテルを予約するのが1ヵ月ほど前だったせいか、ホテルやB&B等の宿泊施設が満杯で、何とかぎりぎりで1軒予約を入れることができました。この時期はシェットランド諸島全体で宿泊施設不足になるようです。できるだけ早めに、少なくとも2ヵ月前までには宿泊施設を予約されることをお薦めします

ハーマネス国立自然保護区(Hermaness Natural Reserve)にあるシヲカツオドリのコロニーの写真を撮りたい方は、少なくとも6月時点では午後に行く方が太陽の光が当たり良い写真が撮れそうです。

最後に、風よけの耳当てや帽子、手袋は、真夏でも持参された方が安心だと思います。また、ハーマネス国立自然保護区では湿地帯を歩くこともあります。できれば防水靴を履いて行った方がよいでしょう。

ハーマネス国立自然保護区のパノラマ写真。(写真: 筆者撮影)

・ハーマネス国立自然保護区(Hermaness Natural Reserve)を管理しているスコットランドの自然エージェンシーのウエブサイトです。

https://www.nature.scot/enjoying-outdoors/visit-our-nature-reserves/hermaness-national-nature-reserve

ロマネスクへのいざない (11)- カスティーリャ・イ・レオン州-ブルゴス県 (8)– ビスカイーノス・デ・ラ・シエラのサン・マルティン・デ・トゥール教会 (Iglesia de San Martín de Tours en Vizcaínos de la Sierra)

ブルゴス県のデマンダ連峰にある小さなビスカイーノス村は、ペドロソ川のそばにあり、標高1000mを超える所にある。私が目指したサン・マルティン・デ・トゥール教会 (Iglesia de San Martín de Tours)は村へ入る道路に隣接して立っているので、すらっとした鐘楼がいきなり目の前に現れた。

アーチ型夫婦窓が美しい教会だ(写真: 筆者撮影)

この村は、この町を囲む広大な山岳地帯全体と同様に、9世紀末から10世紀にかけて政治的にも人口の面でも重要な位置を占めていた。そして、この時代はアストゥリアス-レオン王国とカスティージャ伯爵領の人口補充が進んだ時期とも重なる。(「arteguias」ウエブサイトより)

シエラ派 (Escuela de la Sierra) の職人たち

以前紹介したピネダ・ラ・シエラのサン・エステバン・プロトマルティール教会 (Iglesia de San Eesteban Prótomartir en Pineda de la Sierra)の最後にも言及したが、この地方には、シエラ・デ・ラ・デマンダ(Sierra de la Demanda)というデマンダ連峰があり、そこから由来する名前でシエラ派(筆者訳 La escuela de la Sierra)と呼ばれるロマネスクの教会や修道院を造った職人たちがいた。

ピネダ・ラ・シエラのサン・エステバン・プロトマルティール教会 (Iglesia de San Eesteban Prótomartir en Pineda de la Sierra)についてはこちらをどうぞ。

このシエラ派(La escuela de la Sierra)の職人たちは、主に10世紀、11世紀、12世紀にかけて活躍した。そして12世紀にはその姿が消え始める。理由は、シロス修道院の回廊を作った4人の親方職人たちの覇権が強かったことに由来する。

水平な教会の単調さを破る高い塔、そして特にその彫塑的な造形(escultura monumental)はシエラ派(La escuela de la Sierra)の特徴として挙げられる。また、現在鐘楼としての役割を果たしている塔が、建設当初は防御の役割を担っていたことも特筆すべき点である

その他のシエラ派(La escuela de la Sierra)の教会について興味のある方はこちらもどうぞ。

サン・マルティン・デ・トゥール教会 (Iglesia de San Martín de Tours)

サン・マルティン・デ・トゥール教会 (Iglesia de San Martín de Tours)の最初の教会は、プレロマネスク様式で9~10世紀に建てられたが、11世紀の終わりまたは12世紀の初めに、シエラ派 (La escuela de la Sierra)と呼ばれるロマネスク様式のものに取って代わった。そして、12世紀後半には、同じロマネスク様式ではあるが別の流派であるシレンセ派(La escuela de la Silense)により、柱廊のある玄関(La galería porticada)と、鐘楼(La torre)が追加された。

近代に入り、何度か改修工事が行われた。最も重要なのは18世紀のことで、前述の回廊のある玄関(La galería porticada)が解体され、再建された

車を降りて教会の入口へ歩いていくと、先程目の前に現れたすらっとした鐘楼の姿のイメージとは全く異なる堂々とした姿が現れた。ただ、他のシエラ派(La escuela de la Sierra)による教会に比べ柱廊のある玄関(La galería porticada)は簡素だ。それでも、横の広がりと高い塔による縦への広がりの調和が美しい教会だ。

砂岩の石組みは濃い褐色、または深い紫がかったトーンもある色で、落ち着いた雰囲気がある(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

シエラ派(La escuela de la Sierra)特有の彫刻

コーニス(軒蛇腹)部分にある持ち送りには、シエラ派特有の自然主義ではないが原始的で表情豊かな様々な彫刻が施されている。

2頭のライオンの首をロープで掴んでいる人物が描かれた彫刻は面白いモチーフで注目に値する。

なんとなく漫画チック。2頭のライオンはちょっととぼけた顔をしていて迫力には欠けるが、憎めない(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

こちらは猿だろうか。歯を食いしばって立派な歯を見せているところは笑いを誘われる。

確かに原始的だがとても親しみを持てる彫刻ばかり(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

性を示す男性。頭でっかちでこちらも笑いを誘う。それにしても教会も以前は性に対してもっと寛容だったのだろうか。ロマネスクでは時々見るモチーフである。

教会に想像上の動物などが彫られていてるのは不思議だが、性を示す男性が彫られているのはもっと不思議だ(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

arteguias のウエブサイトには、「これは、メソポタミアから中世ヨーロッパに伝わった古代の図像であろう。」と言及されていました。そうだとすると、これらの彫刻たちは長い時間をかけて遠いところからやって来たんだ、お疲れ様、と労をねぎらいたくなってしまう。(笑)

シレンセ派(Escuela de la Silense) の彫刻

ここから近いサント・ドミンゴ・デ・シロス修道院 (Monasterio de Santo Domingo de Silos)で活躍した職人達がシレンセ派(La escuela de la Silense)である。前述したように12世紀末にシレンセ派(La escuela de la Silens)の職人たちが、柱廊のある玄関(La galería porticada)と鐘楼(La torre)を造った。彼らが彫った柱廊のある玄関(La galería porticada)の柱頭などはかなりシエラ派(La escuela de la Sierra)のものとは趣を異にしてる。

ロマネスクでは好んで用いられたモチーフの女の頭を持つ鳥ハイピュリアとドラゴンが見える。シレンセ派(La escuela de la Silens)の方が緻密かつ高度な技術があることが分かる。ただ、シレンセ派(Escuela de la Silens)の彫刻のようなユーモラスさ、温かみのある表情には欠ける。

木の実またはブドウを食べるドラゴン(左側の柱頭)と向い合せに配置されているハイピュリア(右側の柱頭)(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

柱廊のある玄関(La galería porticada)の入口の両側にある柱頭には、右側にはライオン、左側にはドラゴンが彫られているが、シエラ派(La escuela de la Sierra)のようなおとぼけライオンではなく、歯をむき出した凶暴な雰囲気を現し毛並みも細かく彫ってあり迫力満点。

同じ教会に施された彫刻も、異なる派の職人の手によるとこんなにも趣の異なるものになるのかと驚かされる(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

鐘楼(La torre)

鐘楼も同じシエラ派(La escuela de la Sierra)が12世紀後半に造ったものだ。この鐘楼は3層から成り、下の層は上層部の構造部分を支える高台としての役目を持ち、南北方向に完璧な半円筒形ヴォールトで覆われている。真ん中の層は、四方にアーチ状夫婦窓があり開口している。上の層は、真ん中の層よりも幅の狭い小窓があり、これもアーチ状夫婦窓である。このアーチ状夫婦窓は、2本の外柱に半円形のアーチで囲まれた中にあるという特徴があり、更にリズミカルな印象を私たちに与える。

上層部分のアーチ状夫婦窓が小さくなることにより、まるで天に昇っているような錯覚も与えられる(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

アーチ状夫婦窓の柱頭には、小型の果実、シダのような葉、人の頭、四足獣、ハイピュリア、ワシなどが描かれている。(「arteguias」ウエブサイトより)

小型の果実がぶら下がっている柱頭(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

四足獣がみえる(写真: アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

最後に

全く異なる時代の様式で改築されている教会や建物は多いが、このビスカイーノス・デ・ラ・シエラのサン・マルティン・デ・トゥール教会 (Iglesia de San Martín de Tours en Vizcaínos de la Sierra)は、同じロマネスク期の中で職人たちが属する派の相違により異なる特徴を持った彫刻や石組みの仕方などがひとつの教会の中に見られる貴重な教会の一つだろう。

洗練されたシレンセ派(La esuela de la Silense)が、温かみがあり表情豊かではあるものの原始的なシエラ派(La escuela de la Sierra)を席巻し、遂には消滅させてしまったというこの地方の歴史から、当時の職人たちの市場獲得の激しさを垣間見たような気がした。

こちらは、造られた時期によって石の組み方の違いや、教会内部にある西ゴード時代の洗礼盤等も見れるので見逃すにはもったいない動画。

デマンダ連峰(Sierra de la Demanda)にあるシエラ派 (Escuela de la Sierra) の建物

今から約1ヵ月ほど前に、ブルゴス県観光課によりシエラ派 (La escuela de la Sierra) の教会を紹介する動画が計10本 youtube にアップされた。その中から幾つか紹介する。残念ながらスペイン語のみだが、内部や教会の周囲などの様子が分かり興味深い動画だ。

・12世紀に造られたバルバディージョ・デ・エレーロスの聖コスメ&聖ダミアン礼拝堂 (Ermita de los Santos Cosme y Damián de Barbadillo de Herreros)を紹介した youtube 。

・プレロマネスク時代の10世紀~11世紀に造られ、その後12世紀に増築されたトルバーニョス・デ・アバホの聖キルコ&聖フリタ教会 (Iglesia San Quirco y Santa Julita de Tolbaños de Abajo)を紹介した youtube 。

・12世紀末に造られたアルランソンの聖大天使ミカエル教会 (Iglesia de San Miguel Arcángel de Alranzón)を紹介した youtube 。

・12世紀に造られたリオカバド・デ・ラ・シエラの聖コロマ教会 (Iglesia de Santa Coloma de Riocavado de la Sierra)を紹介した youtube 。

・12世紀に造られたリコバド・デ・ラ・シエラの聖コロマ教会 (Iglesia de San Millán Obispo de San Millán de Lara)を紹介した youtube 。

参考

ここで紹介したビスカイーノス・デ・ラ・シエラのサン・マルティン・デ・トゥール教会 (Iglesia de San Martín de Tours en Vizcaínos de la Sierra)は、ブルゴス県のロマネスクを訪ねたルートの中の一つだ。こちらのルートを知りたい方はこちらを参考にしてほしい。

・スペイン語ですが、教会についてだけではなく、興味深い図面なども見れます。

https://www.romanicodigital.com/sites/default/files/pdfs/files/burgos_VIZACA%C3%8DNOS_DE_LA_SIERRA.pdf

・こちらもスペイン語ですが、興味のある方は是非ご覧ください。

https://www.arteguias.com/iglesia/vizcainosdelasierra.htm

・デマンダ連峰の観光案内。残念ながらスペイン語のみです。

https://sierradelademanda.com/

・デマンダ連峰にあるロマネスク建築のパンフレット。これも残念ながらスペイン語のみです。

https://sierradelademanda.com/wp-content/uploads/2019/01/FOLLETO-ROMA%CC%81NICO-SERRANO.pdf

https://goo.gl/maps/JdMPigBAKd1zY3pD8?coh=178573&entry=tt

村上春樹氏、日本人作家初のアストゥリアス皇太子賞(Premios Princesa de Asturias)受賞!

去る2023年5月24日、「スペインのノーベル賞」とも呼ばれる「アストゥリアス皇太子賞」の文学部門の今年の受賞者に、日本人作家の村上春樹氏が決まりました!おめでとうございます!

アストゥリアス皇太子財団(Fundación Príncipe de Asturias)(Wikipedia Public Domain)

アストゥリアス皇太子賞(Premios Princesa de Asturias)とは

「アストゥリアス皇太子賞(Premios Princesa de Asturias)」は、現在のスペイン国王フェリペ6世が皇太子だった1980年に、皇太子の称号を冠して設立されたアストゥリアス皇太子財団(Fundación Príncipe de Asturias)により創設され、「コミュニケーションおよびヒューマニズム部門(Premio Príncipe de Asturias de Comunicación y Humanidades)」、「社会科学部門(Premio Príncipe de Asturias de Ciencias Sociales)」、「芸術部門(Premio Príncipe de Asturias de las Artes)」、「文学部門(Premio Príncipe de Asturias de las Letras)」、「学術・技術研究部門(Premio Príncipe de Asturias de Investigación Científica y Técnica)」、「国際協力部門(Premio Príncipe de Asturias de Cooperación Internacional)」、「共存共栄部門(Premio Príncipe de Asturias de la Concordia)」、「スポーツ部門(Premio Príncipe de Asturias de los Deportes)」の8部門の賞があります。

今回の文学部門での村上春樹氏の授賞に際しては審査員全員一致で決まり、授賞理由について、日本の伝統と西洋文化の遺産を野心的かつ革新的な叙述で調和させ、独自の文学を持ち、世界的に受け入れられている作家だと位置づけたうえで、その作品は、孤独や存在不安、都市の非人間化、テロといった現代の重要な主題や困難を表現することに成功し、全く異なる世代にまで受け入れられていると述べています。そして、最後に現代文学における現代文学における主要な長距離ランナーの一人だ、とたたえました

スペイン語ですが、アストゥリアス皇太子財団(Fundación Príncipe de Asturias)の公式サイトにこの授賞について詳しくでています。興味のある方はどうぞ。

https://www.fpa.es/es/premios-princesa-de-asturias/premiados/2023-haruki-murakami.html

文学部門での日本人受賞は初めてですが、作家村上春樹氏はスペインでも人気が高い日本人作家のひとりです。既に24冊の本がスペイン語に翻訳されています。新刊「街とその不確かな壁」も来年の春にはスペインでも出版される予定です。

これまでの日本人受賞者

ちなみに、この「アストゥリアス皇太子賞」の日本人の受賞者は想像以上にいました。現在までの受賞者の皆さんは次の通りです。

1.国際協力部門(Premio Príncipe de Asturias de Cooperación Internacional)で、1999年に宇宙飛行士の向井千秋氏が日本人として初めて、米国やロシアなどの宇宙飛行士3人と共に受賞されました。

2.学術・技術研究部門(Premio Príncipe de Asturias de Investigación Científica y Técnica)で、2008年に物理学者でもあり化学者でもある飯島澄男氏が、アメリカの中村修二氏をはじめとするアメリカ人学者4人と共に受賞されました。

3.共存共栄部門(Premio Príncipe de Asturias de la Concordia)で、2011年に福島第一原子力発電所事故の対応に当たったフクシマ50(消防士、自衛官、警察官、作業員)の方々が受賞されました。また、同じ部門では、2022 年には建築家の坂茂氏が受賞されました。

4.コミュニケーションおよびヒューマニズム部門(Premio Príncipe de Asturias de Comunicación y Humanidades)では、2012年に任天堂株式会社代表取締役フェローの宮本茂氏が受賞されました。

去年2022年に、建築家の坂茂氏が受賞されていたので、2年連続の日本人受賞の快挙ですね。坂茂氏も、スペインで有名な方です。

今でも鮮明に記憶にあるのが、福島第一原発の事故で放水作業や住民の避難誘導に当たった、自衛隊と警察、消防の部隊フクシマ50の方々に送られた2011年の共存共栄部門(Premio Príncipe de Asturias de la Concordia)です。その時のフクシマ50のスペイン語名称は、「フクシマの英雄たち(Héroes de Fukushima)」というものでした。

授賞の理由として、「津波によって引き起こされた原子力災害による壊滅的な影響の拡大を、その決断が自分達の生命に深刻な影響を及ぼすことをも顧みず、自己犠牲によって防ごうとした、人間として最高の価値観と勇気を体現した人たち-フクシマの英雄たち」と褒め称えました。

授賞理由を聞いた際、胸が熱くなり涙が出たのを今も思い出します。

スペイン語ですが、この受賞についてもっと知りたい方はこちらをどうぞ。

https://www.fpa.es/es/premios-princesa-de-asturias/premiados/2011-heroes-de-fukushima.html?especifica=0

最後に

さて、スペイン語を勉強している皆さん、またはスペイン語をご存じの方は、この「アストゥリアス皇太子賞(Premios Princesa de Asturias)」を見て、疑問に思われたことと思います。というのも、スペイン語の「Premios Princesa de Asturias」を日本語に訳すと、実は、「アストゥリアス皇太子賞」ではなく、「アストゥリアス王女賞」となるからです。

アストゥリアス皇太子財団(Fundación Príncipe de Asturias)の名称は現在、アストゥリアス王女財団(Fundación Princesa de Asturias)と改称されています。何故なら、2014年に皇太子から国王フェリペ6世として即位されたことにより、長子である王女レオノールがアストゥリアス公を継承しました。そのため、現在の名称は「アストゥリアス女王財団(Fundación Princesa de Asturias)」となったという訳です。本来ならば、「アストゥリアス皇太子賞」ではなく、「アストゥリアス王女賞」とするべきですが、日本の報道機関で使われている従来の「アストゥリアス皇太子賞」という名前でこのブログの記事も統一しています。

補足すると、スペイン王家が持つこのアストゥリアス公の称号は、1388年、カスティーリャ王フアン1世が王位継承者を指定するためにアストゥリアス王子の称号を創設したことに端を発したものです。それから600年以上も続くスペイン王家の由緒正しい称号なのです。

スペインの国民的画家 フアキン・ソロージャ(Juaquín Sorolla)- 没後100年記念の年

今年2023年は、スペインの国民的画家フアキン・ソロージャ(Juaquín Sorolla)が亡くなってからちょうど100年目の年に当たります。それを記念し「ソロージャ イヤー」と銘打って、出身地バレンシアをはじめマドリッド等でも彼の絵の展示会が開催されています。

このブログでも以前フアキン・ソロージャ(Juaquín Sorolla)とソロージャ美術館について紹介していますので、興味のある方はこちらもどうぞ。

今回は、バレンシアとマドリッドで現在開催中の展示会やその他の展示会情報をお伝えします。

光のアプローチ ソロージャ(Sorolla a través de la luz

最初は、マドリッドの王宮で開催されている「光のアプローチ ソロージャ(筆者訳)(Sorolla a través de la luz)」の展示会です。

この展示会では、テクノロジーを駆使して彼のオリジナル作品とデジタルで再現された作品が対話するという仕掛けが施してあります。また、バーチャルリアリティルームではバーチャルリアリティ用の装置を付け、画像と音のショーの中に身を置くという、今までの絵画展示会では考えつかなかったような不思議な体験ができます。

特殊な部屋に入ると、部屋一杯にソロージャの作品が映し出されます(写真: 筆者撮影)

展示されているソロージャの絵は24点ありますが、そのほとんどが個人所有のもので今回初公開されています。海、庭園、肖像画、風俗描写の場面など、画家ソロージャが好んで描いたテーマが選ばれています「光の画家」と呼ばれているほど彼の絵には、その瞬間、瞬間の微妙な光の動きや光の強弱、光の質感、そして季節ごと一日の時間ごとの光の違いを上手く捕らえて表現されていて、こんなにも異なる光を表現できるのかと驚かされます。初めてソロージャの生まれ故郷バレンシアを訪れた時、お天気が良かったということも手伝って、あーこれがソロージャの光だな!地中海の光だな!と実感しました。同じスペインでも私が住むカスティージャ・イ・レオン州の光とは全く異なる光がそこに降り注いでいたことがとても印象的でした。

大きなスクリーンに映し出された絵は、まるで見ている私たちも同じ場所にいるような不思議な感覚を抱かせられます(写真: 筆者撮影)

「ハベアの恋人たち(筆者訳)(Idilio, Jávea)」という作品がありました。まだ年若い少年が少女に話しかけています。少女は恥ずかしそうにでも嬉しそうに下を向いて座っています。なんと初々しく、見る人がまだ若かったころの自分の思い出とオーバーラップするような美しい絵でしょう。説明板に、この絵は9月の昼下がりに描かれ、ソロージャ自身が若くして妻クロティルデに恋した思い出を表現したものかもしれないと書かれていました。題名の「Idilio」には「田園恋愛詩、恋愛関係、牧歌的(幸福)な時期」という意味が手元の辞書には出てきますが、この作品は1901年の「国内絵画展(Exposición Nacional de Bellas Artes)」に出展され売れました。その時には「Los novios(恋人たち)」という名前がついていたそうです。

「ハベアの恋人たち(Idilio, Jávea)」昼下がりの光が若い二人に降り注ぎ、ほのぼのとさせられると同時に胸がキュンとなりそうな絵です(写真: 筆者撮影)

マドリッドの王宮で開催されている「光のアプローチ ソロージャ(Sorolla a través de la luz)」の展示会は、2023年6月30日まで開催されています。もし、それまでにマドリッドに行かれる機会がある方は、是非この展示会にも寄られることをお薦めします。その際は、下の公式サイトで事前に入場券を買われた方が良いでしょう。

https://www.patrimonionacional.es/actualidad/exposiciones/sorolla-traves-de-la-luz

ソロージャの原点 (Los orígenes de Sorolla)

次に紹介する絵画展は、バレンシア美術館(Museo de Bellas Artes en Valencia)で開かれている「ソロージャの原点 (筆者訳)(Los orígenes de Sorolla)」です。

この展覧会は、まだピカソやダリ等が活躍する以前、スペイン国内でも国際的にも最も成功したスペイン画家の原点を探っていく内容の展示会として構成されています。まだ21歳だったソロージャが「パジェテルの叫び(筆者訳)(El grito del Palleter)」という作品の成功により、奨学金を得てローマに滞在する直前の1878年から1884年までの6年間の軌跡をたどります。あまり知られていない初期の絵画、水彩画、素描、ソロージャの若いころの写真、資料が一堂に展示されていてとても興味深いものです。

若いころのフアキン・ソロージャ。なかなかのハンサム青年でした(写真: 筆者撮影)

「光の画家」として、スペインのみならずヨーロッパやアメリカ合衆国で名声を得、様々なテーマの絵画を残しているソロージャですが、修業時代は、同じスペインの画家である巨匠ベラスケスやリベラの絵を勉強、模写していました。また、15歳の時に描いた果物の静物画や肖像画等も多数展示してありますが、そのデッサン力、光と影の描き方、構図のとり方等、10代にして既にのちに巨匠と呼ばれる画家としての頭角を現しています。

バックを黒にして、白や水色を際立たせて見る人を惹きつける(写真: 筆者撮影)
「ベラスケスの[メニポ]の模写(筆者訳)(Copia de “Menipo” de Velázquez)」19歳のソロージャがプラド美術館で模写した様々な作品は、死ぬまで手元に置いていたそうです(写真: 筆者撮影)

YouTubeでこの展覧会の様子が紹介されています。スペイン語ですが、様々な作品が紹介されていて見るだけでもソロージャの素晴らしさが伝わってくると思います。

「パジェテルの叫び(筆者訳)(El grito del Palleter)」バレンシア州議会が主催したローマへの絵画奨学金コンクールで、21歳の若さで賞を取りローマへ本格的な絵画の勉強へ行くことになったソロージャの記念すべき作品(写真: 筆者撮影)

バレンシア美術館(Museo de Bellas Artes en Valencia)で開かれている「ソロージャの原点 (筆者訳)(Los orígenes de Sorolla)」は、2023年6月11日までですので、残り2週間弱となってしまいましたが、機会があれば是非お薦めしたい展覧会です。

スペイン観光局のスペイン観光公式サイトにも紹介されています。

https://www.spain.info/ja/karendaa/soroorya-kigen-tenrankai-barenshia/

ちなみに、バレンシア美術館(Museo de Bellas Artes en Valencia)には、ベラスケス本人が描いた「自画像(Autorretorato)」もあります。あまり知られていないようですが、プラド美術館以外で見れるベラスケスの作品です。

温和で誠実だったと言われているベラスケスですが、この自画像の彼の視線には強い意志を感じさせられます(写真: 筆者撮影)

黒のソロージャ(Sorolla en negro

「光の画家」として名を馳せたソロージャですが、黒やグレーの色使いを中心にして描いた作品も多く残しています。それらの作品を集めて展示しているのが、バレンシアのバンカハ財団で開催されている「黒ソロージャ(筆者訳)(Sorolla en negro)」です。

ソロージャの黒の使用は、ベラスケス、エル・グレコ、ゴヤなどのスペイン絵画の伝統に由来していて、詩的で精神的な状態を示唆する豊かな表現要素となって、彼の時代の現代性とその飾り気のない気品を反映する色として再解釈されました。(バンカハ財団のウエブサイトより)

「グレーのドレスを着たクロティルデ(筆者訳)(Clotilde con traje gris)」ソロージャが深く愛した妻クロティルデ。心を打つものを感じます(写真: 筆者撮影)

ソロージャが描いたグレーという色は現代的な色として描かれていて、静寂や平穏を表現していたそうですが、この「グレーのドレスを着たクロティルデ(Clotilde con traje gris)」には、グレーのドレスがクロティルデの美しさのみではなく洗練された雰囲気を醸し出し、と同時に内面的な静穏と深い愛情が伝わってきます。

展覧会は、「黒とグレーの調和(筆者訳)(Armonías en negro y gris)」、「象徴的な黒(筆者訳)(Negro simbólico)」、「黒と暗い表面(筆者訳)(Superficies negras y oscuras)」、「モノクローム(筆者訳)(Monocromías)」の4つのセクションで構成されています。ソロージャの絵に特別な個性を与えている肖像画の黒とグレーの色彩和音から始まり、時代や自然主義画家の作品に浸透している黒という色の象徴性や文化的意義について見ていきます。更に、19世紀に急進的なコントラストを生み出し、他の色を引き立てる存在として形作られた黒の新しい使い方についても検証していきます。展覧会の最後には、グレーや青みがかった色調に包まれたモノクローム作品が展示されていますが、これは複雑でないどころか、卓越した技術を駆使した特異な作品です。(バンカハ財団のウエブサイトより)

「エンリケタ・ガルシア・デル・カスティージョ(筆者訳)(Retrato de Enriqueta García del Casitillo)」こちらは雄弁に語る黒!という感じ(写真: 筆者撮影)

確かに、この絵画展を見てソロージャは正しくスペインの巨匠たちの素晴らしい技術を踏襲したスペインの画家であることを確認させられました。と同時に、黒とグレーという色に様々な意味を持たせ、ソロージャが表現したいものを浮き出たせる重要な役割を果たす色だったということにも気づきました。ソロージャ絵画の奥の深さ、多面的な部分を再発見できた素晴らしい展覧会でした。

バレンシアのバンカハ財団で開催されている「黒のソロージャ(Sorolla en negro)」の開催期間は今年9月10日までです。もしバレンシアに行かれる方は是非見に行ってください。

バンカハ財団の公式サイトです。最後の方には、展覧会を紹介したYouTube の動画もあります。一見の価値ありです。

https://www.fundacionbancaja.es/exposicion/sorolla-en-negro/

肖像画で見るソロージャ(Sorolla a través de sus retratos

最後に紹介するのは、マドリッドのプラド美術館で開催されている「肖像画で見るソロージャ(筆者訳)(Sorolla a través de sus retratos)」です。

こちらは、プラド美術館が所有するソロージャの作品を集め、特に肖像画を通してソロージャの作品に迫るものです肖像画のコーナーには、ソロージャの作品だけではなく、ソロージャと同時期19世紀に活躍した画家たちが描いた肖像画も一堂に展示されています。残念ながら美術館内での写真撮影が禁止されているので、写真をお届けすることはできませんが、下のプラド美術館公式サイトをクリックして頂くと、展示されているソロージャの作品が紹介されています。

もし、6月18日までにマドリッドのプラド美術館を訪れる機会があれば、是非こちらも見に行ってください。

プラド美術館公式サイトはこちらです。

https://www.museodelprado.es/actualidad/exposicion/retratos-de-joaquin-sorolla-1863-1923-en-el-museo/2f9c9749-54a2-b25b-4afb-932e76fdb8cf

2023年に開催される展覧会情報

その他、開催されているソロージャの絵画展は次の通りです。

マドリッドのソロージャ美術館:

・2023年6月25日まで開催-「ソロージャが死んだ!ソロージャ万歳!(筆者訳)(¡Sorolla ha muerto!¡Viva Sorolla!)」

この展示会は、ソロージャが亡くなった時の新聞記事などが展示してあり、ソロージャがどれだけ民衆からも愛された国民的な画家だったことがよくわかります。簡単な説明が youtube に紹介してあります。スペイン語ですが、興味のある方はどうぞ。

・2023年9月17日まで開催-「マヌエル・ビセンテとソロージャの海(筆者訳)(En el mar de Sorolla con Manuel Vicent)」

ソロージャと同じバレンシア州出身の詩人・作家マヌエル・ビセントによる詩とソロージャの絵画のコラボ企画です。スペイン文化・スポーツ省の公式サイトにこの展覧会が紹介されています。

https://www.culturaydeporte.gob.es/msorolla/exposicion/exposicion-mar-sorolla-con-manuel-vicent.html

バレンシア:

・2023年6月2日まで開催-「ローマのソロージャ。芸術家ソロージャとバレンシア州議会奨学金(筆者訳)(Sorolla en Roma. El artista y la pensión de la Diptación de Valencia (1884-1889))」バテリア宮殿 (Palacio de Batlia)

ソロージャが前述の「パジェテルの叫び(El grito del Palleter)」という作品の成功により、奨学金を得てローマに滞在した21歳から26歳まで絵画の勉強と訓練を積んだ時期の芸術生活に焦点を当てた展覧会です。「ソロージャ100周年(Centenario Sorolla)」公式サイトにも紹介されています。

https://www.centenariosorolla.es/exposiciones/inauguracion-de-la-exposicion-sorolla-en-roma-el-artista-y-la-pension-de-la-diputacion-de-valencia-1884-1889/

・2023年12月まで開催-「芸術家たちの街。フアキン・ソロージャとバレンシア芸術産業宮殿(筆者訳) (La Ciudad de los artistas. Juaquín Sorolla y el Palacio de los Artes e Industrias de Valencia)」バレンシア市立博物館(Museo de la Ciudad de Valencia)

ソロージャと並行してキャリアを積んだバレンシアの芸術家たちによる140点以上の作品が展示されています。フアキン・ソロージャがバレンシアに芸術産業宮殿を建設したプロジェクトについてや、当時のバレンシアの芸術的雰囲気に焦点を当てた展覧会です。「ソロージャ100周年(Centenario Sorolla)」公式サイトにも紹介されています。

https://www.centenariosorolla.es/exposiciones/inauguracion-de-la-exposicion-la-ciudad-de-los-artistas-joaquin-sorolla-y-el-palacio-de-las-artes-e-industrias-de-valencia/

アリカンテ:

・2023年6月25日まで開催-「ソロージャと同時代のバレンシア絵画(筆者訳) (Sorolla y la pintura valenciana de su tiempo)」アリカンテ美術館(Museo de Bellas Artes de Alicante)

120点という多くの作品が展示してある展覧会で、ソロージャの作品以外にもソロージャの弟子たちや同時代に活躍したバレンシアの画家の作品やバレンシアを題材にした作品を一挙に公開しています。スペイン国営のラジオ・テレビ放送協会がこの展覧会について紹介しています。

https://www.rtve.es/play/videos/linformatiu-comunitat-valenciana/sorolla-pintura-valenciana-tiempo-mubag/6773781/

「ソロージャ100周年(Centenario Sorolla)」公式サイトはこちらです。

https://www.centenariosorolla.es/

このブログで紹介した展覧会が行われている場所です。

https://goo.gl/maps/q8QfpFVUtugstwbc6?coh=178573&entry=tt

レオン(León)へ行こう!(5)―ナショナル ジオグラフィック トラベル リーダーズ チョイス アワード 2023

去る2023年4月25日、ナショナル ジオグラフィック トラベル マガジンで、スペイン国内ベスト デスティネーションを読者の方々に選んでもらうという第1回読者賞「ナショナル ジオグラフィック トラベル リーダーズ チョイス アワード 2023(Premios de los Lectores 2023 de Viajes Nacional Geographic)」の授賞式が行われました。そして、私が大好きなレオン市が栄えある「ベスト アーバン デスティネーション賞」に輝きました!

夜になるとレオン大聖堂の中の照明が美しいステンドグラスを浮かび上がらせます。鮮明に撮れず残念ですが、雰囲気だけでもお届けします(写真:筆者撮影)

ベスト アーバン デスティネーション賞 (Mejor Destino Urbano Nacional)

この賞は、ナショナルジオグラフィックトラベルマガジンの読者数千人の投票によって選ばれました。これは、歴史的遺産と文化的生活という面において、レオン市が「スペインの中で最も重要な都市のひとつ」という理由でこの賞に選ばれました。このブログでもレオン市の魅力についての記事があります。興味のある方はこちらもどうぞ。

レオン市内には、2000年の歳月をレオンの街と共に経てきた「ローマ時代の城壁(Muralla Romana)」、スペインの精神的バックボーンを作ってきたキリスト教の建築物でもあり、レオン王国の歴代王が埋葬されている霊廟がある「聖イシドロ王立参事会教会(Real Colegiata de San Isidoro)」、レオン市民の誇りでもありレオン市民の心の拠り所でもある「レオン大聖堂(Catedral de León)」、修道院、病院、刑務所、パラドールと使用目的が変遷していった「サン・マルコス教会(Iglesia de San Marcos)」、日本人でも知らない人はいないくらい有名なアント二・ガウディが建築した「カサ・ボティネス (Casa Botines)」、2005年に開館した現代美術館「ムサク(MSAC)」という、時代ごとの素晴らしい建築物をまるでタイムスリップして楽しめるように見て回ることができます。これが受賞理由の一つ「歴史的遺産」に当たるものです。

ガウディ建築「カサ・ボティネス」とベンチに座るガウディ。
ガウディの隣には地元のおばあちゃんとお孫さんが散歩の休憩中でした。(写真:筆者撮影)

もう一つの理由「文化的生活」の中の重要な要素として含まれていることに、レオンの街にある「バル」と呼ばれる多くタパスバーがあります。スペイン人にとって、「バル」のない生活は考えられません。どんなに小さな村でも必ずと言っていいほど「バル」はあります。数多くの「バル」で出される様々なタパスの質の高さもレオンの魅力の一つです。地元の食材を使った伝統的なタパスや家庭的なタパス、前衛的なタパスや切ったフランスパンを軽く焼き、その上に様々な料理を載せて食べる「トスタ」と呼ばれるものなど、実に色んな種類の美味しいタパスがレオンでは食べれます。「食」は旅の喜びの一つ、発見の一つ、そしてそこに住む人の生活様式や文化を知るすべとなるものの一つです。実は、スペインの中で、住民一人当たりのバルが最も多い都市はこのレオン市なのです!人口1,000人当たり5.03軒のバルがあるということ。確かに、ウメド地区(Barrio Húmedo)やロマンティコ地区 (Barrio Romántico)には沢山の「バル」が軒を争っており、どこに入ろうか?と、迷ってしまうほどです。

ロマンティコ地区(Barrio Romántico)にあるバル「エル・ガジネロ(El Gallinero)」。ここは手作りトルティージャ・デ・パタタス(Tortilla de patatas)がタパス。(写真:筆者撮影)
バル「エル・ガジネロ(El Gallinero)」の看板タパス、トルティージャ・デ・パタタス(Tortilla de patatas)美味しいですよ!(写真:筆者撮影)

「住民一人当たりのバルが最も多い都市はどこ?」というタイトルで「ラ・ラソン(La Razón)」という新聞に記事(2023年2月8日付)が載っています。スペイン語ですが、こちらです。

https://www.larazon.es/castilla-y-leon/cual-ciudad-espana-mas-bares-habitante_2023020863e13c3c308cc00001feb77b.html

レオンの魅力をもっと知りたい方は、こちらもどうぞ。

こちらがナショナルジオグラフィックトラベルのウエブサイトに出ている「ベスト アーバン デスティネーション賞」の内容です。

https://viajes.nationalgeographic.com.es/a/48-horas-sorprendentes-leon_12963

カスティージャ・イ・レオン州は観光の穴場!

今回の第1回読者賞「ナショナル ジオグラフィック トラベル リーダーズ チョイスアワード2023」の中では、カスティージャ・イ・レオン州の活躍が目立ちました。

「スペイン ベスト ガストロノミー デスティネーション賞 (Mejor Destino Gastronómico de España)」にはブルゴス市が、そして「ベスト ガストロノミック ルート賞(Mejor Ruta Gastronómica)」の最終候補に残りながら惜しくも賞を逃した「リベラ・デ・ドゥエロのワインルート(Ruta del Vino Ribera de Duero)」が特別賞 (Mención especial) を獲得しました。

カスティージャ・イ・レオン州は、美味しいワインあり、料理あり、歴史あり、文化ありの観光にはうってつけの場所なのです。その上、バルセロナやグラナダのように常に多くの観光客でにぎわっている所と異なり、もっとゆっくりと静かに自分のペースでまるでそこで生活しているように旅を楽しめる所です。

リベラ・デ・ドゥエロのワイン(Ribera de Duero)「マタロメラ(Matarromera)」
マドリッドにあるティッセン-ボルネミッサ美術館とのコラボで絵画がラベルに使われています(写真:筆者撮影)

ナショナルジオグラフィックトラベルのウエブサイトに出ている「スペイン ベスト ガストロノミー デスティネーション賞 (Mejor Destino Gastronómico de España)」を受賞したブルゴスの記事です。

https://viajes.nationalgeographic.com.es/a/burgos-sin-salir-ciudad_16573

こちらがナショナルジオグラフィックトラベルのウエブサイトに出ている「リベラ・デ・ドゥエロのワインルート(Ruta del Vino Ribera de Duero)」の記事。

https://viajes.nationalgeographic.com.es/a/ruta-por-ribera-duero_8054

「リベラ・デ・ドゥエロのワインルート(Ruta del Vino Ribera de Duero)」のウエブサイトです。興味のある方はこちらもどうぞ。英語版もあります。

https://www.rutadelvinoriberadelduero.es/

日本は大人気

「海外のベスト デスティネーション賞 (Mejor Destino Internacional)」では、日本が選ばれました!

最近、スペインでの日本人気は高いなと実感していただけに「やっぱり!」という感想です。私の周りでも日本を訪れたことがある人、訪れてみたいと考えている人は多く、和食レストランがどんどん増えてきていることからも、スペインから日本への旅行者がしばらくは増え続けそうですね。それに、若者の間で日本の漫画やアニメのポップカルチャーも根強い人気で、若者層から中年層まで幅広く層の厚い日本大好きスペイン人がいます。(笑)

ただ、日本も東京浅草や京都などの人気観光地は、外国人観光客が増えて一体ここは日本なの?というような状況だと聞いています。ある程度人数を制限するなどの対策を取っていかないと、スペイン語でもよく使われる「Morir de éxito (成功による死)」という表現のように、あまりに人気があり観光客が増えすぎて逆に観光客から避けられることになり遂には観光客が大幅に減るという事態が起こる可能性も起こりうるなという危機感を覚えています。住む人も、訪れる人たちも皆が心地よく過ごせるような工夫を民間共に知恵を絞って実行していかなければならないターニングポイントに来ていると思います。

最後に

ナショナル ジオグラフィック トラベル マガジンのスペイン語版は、スペイン国内だけではなく、スペイン語語圏の中南米の国々でも読まれている非常にポピュラーな雑誌です。スペイン国内を対象にした賞を中心に行われた読者投票なので、投票した人はスペインに住む人々が多かったと推測されますが、今回の受賞内容を見て分かることは、一般的な観光地や観光客でごった返している所ではなく、地元の人達から愛されている場所、居心地の良い場所、今もスペインらしさが残されている場所などが選ばれているということです。「観光地」という仮面を被ったまるで人工的でよそよそしく、地元の人々の日常からかけ離れてしまった場所ではなく、もっと地に足のついた「地元の人達が住みやすい場所、地元の人達のための場所」を見てみたいという方には、レオンはお薦めの街です。是非、次の旅行にレオンを加えて計画を立ててみてくださいね。

最近ファザード部分がきれいになって、華麗な姿を現したサン・マルコス教会(写真:筆者撮影)

今回の内容の元となったナショナルジオグラフィックトラベルのウエブサイトはこちらです。

https://viajes.nationalgeographic.com.es/a/asi-fue-la-entrega-de-los-i-premios-de-los-lectores-2023-de-viajes-national-geographic_19258

ちょっとスペイン語 -23-  (Onomatopeya) 擬音語・擬声語-人の動作や声 編

ここでは、ちょっとしたスペイン語の言い回しや、ことわざ、話し言葉など、辞書には載っていない単語も含めて紹介していきます。スペイン語を勉強している方には言葉の幅が広がるお手伝いができればいいなと、スペイン語には興味ないという方には雑学として楽しんでいただければいいなと思っています。

早速ですが、下記の擬音語・擬声語は一体何を表現しているのでしょうか。

  1. ¡Plas, plas! (プラス、プラス!)
  2. Mua(ムア)、Moac(モアッ)
  3. ¡Ejem, ejem!(エヘン、エヘン!)  
  4. ¡Achís!(アチス!)
  5. ¡Bua, bua!(ブア、ブア!)
  6. ¡Catapumba!(カタプンバ!) ¡Pumba!(プンバ!)
  7. ¡Zas!(サス!) ¡Zasca!(サスカ!) ¡Paf!(パフ!)
  8. Ñam, ñam(ニャム、ニャム)
  9. ¡Toc, toc!(トック、トック!) ¡Pon, pon!(ポン、ポン)
  10. ¡Ja, ja, ja!(ハ、ハ、ハ!) ¡Ji, ji, ji!(ヒ、ヒ、ヒ!)

正解は次の通りです。結構難しかったのではないでしょうか。

  1. ¡Plas, plas! (プラス、プラス!)   拍手の音  パチパチ、パンパン                                  スペイン語も日本語の「パチパチ」もあまり拍手の音っぽくないですね。(笑)                                 
  2. Mua(ムア)、Moac(モアッ)   (頬などに)キスする音  チュ            友達同士でふざけながら両頬に挨拶のキスをするとき「Mua Mua」と2回言ったりしてます。(笑) コロナで挨拶のキスができなかった時期は、この言葉を言って挨拶をしていました。
  3. ¡Ejem, ejem!(エヘン、エヘン!)  咳払いの音  ウォッホンエヘン              これは、日本語もスペイン語も同じ「エヘン」を使いますね。
  4. ¡Achís!(アチス!)    くしゃみの音  ハクシュン                    日本語もスペイン語もどちらもありそうな音です。
  5. ¡Bua, bua!(ブア、ブア!)   赤ちゃんの泣き声  オギャー、オギャー          うーん、やっぱり赤ちゃんはオギャー、オギャーですよね。「ブア、ブア!」ではピンときませんね。
  6. ¡Catapumba!(カタプンバ!) ¡Pumba!(プンバ!)  落下音や転倒した時の音  ドスン、バタリ、バタッ                                      この言葉を使うときは、「pu」を強調して発音するとかなり状況にあった表現になります。
  7. ¡Zas!(サス!) ¡Zasca!(サスカ!) ¡Paf!(パフ!) 平手打ちの音、衝撃音、落ちる音等  バシッ、パチン、ピシャ、パン、ドスン、バタン                         この ¡Zas!(サス!) ¡Zasca!(サスカ!)は、何かすかさず行う・言う時などにも使われています。                                           
  8. Ñam, ñam(ニャム、ニャム) (おいしく)食べる音  ムシャムシャ、パクパク         スペイン語は、日本語の眠い時の擬音語に似ています。(笑)
  9. ¡Toc, toc!(トック、トック!) ¡Pon, pon!(ポン、ポン)  ドアをノックする音  トントン
  10. ¡Ja, ja, ja!(ハ、ハ、ハ!) ¡Ji, ji, ji!(ヒ、ヒ、ヒ!)  笑い声   ハ、ハ、ハ!、ワッハッハ、フフフ                                      ¡Ji, ji, ji!(ヒ、ヒ、ヒ!)は日本語では意地悪そうな、腹に一物持つような笑いですが、スペイン語では喜びを表し、明るい笑い声として使われています。  

日本語とスペイン語、ずいぶん違いますね!日本人にとっては、スペイン語の音の響きとその意味があまりピンとこないものも多くありますが、比較しながら聞いたり読んだりするものまた楽しいものです。スペイン語を聞いたり、読んだりする機会があれば気を付けてみてください。

動物の鳴き声編の擬音語・擬態語に興味がある方はこちらもどうぞ。

ロマネスクへのいざない (10)- カスティーリャ・イ・レオン州-ブルゴス県(7) – ピネダ・ラ・シエラのサン・エステバン・プロトマルティール教会 (Iglesia de San Eesteban Prótomartir en Pineda de la Sierra)

柱廊のある玄関部分から(写真:アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

柱廊のある玄関(Galería porticada)の中から見える風景

キリスト教最初の殉教者聖ステファノ(エステバン)に捧げられたこの教会は、12世紀前半に第一期の建設が始められ、半円形の後陣、プレスビテリオ(Presbiterio)と呼ばれる祭壇、正門を含む身廊の最初の二つの部分(主扉を含む)が造られた。12世紀末には、柱廊のある玄関が造られ、最終的には16世紀に教会の拡張並びに修復工事が行われ、塔が造り替えられた。

この教会を見た時、がっしりとした、力強い教会という印象を抱いた。近くにあるハラミ―ジョ・デ・ラ・フエンテ教会 (Iglesia de la Asunción de Nuestra Señora de Jaramillo de la Fuente) のような調和の取れた美しさには欠けるが、柱廊のある玄関の中に入り、そこから見る村は、いくつものアーチとその間に村の家々、山々がある周りの自然が溶け込んだ美しく、心落ち着く風景だった。

ハラミ―ジョ・デ・ラ・フエンテ教会 (Iglesia de la Asunción de Nuestra Señora de Jaramillo de la Fuente)についてはこちらをどうぞ。

教会の入口(Portada)

柱廊のある玄関(Galería porticada)部分に入ると、教会の入口(Portada)がある。半円形の5層から成るアーキボルトは、教会の中へいざなうかのように立体的だ。

自然と教会の中に足を踏み入れたくなるような入口(写真:アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

教会が建てられている地形の傾斜のため入口には数段の階段があるが、5層のアーキボルトとこの階段がまるで教会の中の祭壇部分の一点に導いているような錯覚を受ける。

左右の柱頭には様々な彫刻が施されているが、建築当初から柱廊のある玄関(Galería porticada)によって入口(Portada)部分は風雪から守られてきたこともあり、比較的保存状態は良い。900年という歳月を経ていることを考えると保存状態の良さは驚きでもある。

興味深い彫刻としては、石棺に納められた遺体を見守る二人の女性の姿と、それを祝福する教会関係者の姿が三面的に構成されているシーンがある。これは、今も何を表現しているのか議論が分かれているようだ。一説によると聖ニコラウスの生涯の一つのシーンに関連していると言われているが、他の説では地元の伝統的なものを表現しているのではないかとも言われている。(arteguias.com より)

遺体が横たわる石棺を飾る布の襞(ひだ)の表現は素晴らしいものだ。(写真:アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

他にも保存状態の良い「東方三博士(三賢王)の礼拝」場面を確認することができる。聖母マリアの膝に抱かれ贈り物に興味を抱く幼子イエスを見ると、普通の子供と同じようで微笑ましくなる。贈り物を捧げる博士の後ろで、もう二人の博士が軽い雑談でもしながら順番待ちしている姿も、見る私たちに親近感を抱かせる構図だ。それにしても、まるで自分は関係ないよとでも言いそうな聖ヨゼフはちょっと気になる。

ロマネスクで特に好まれた「三方博士の礼拝」の構図。白髭をたくわえた跪く老人、その後ろに後ろを向く若者、最後が老人でも若者でもない成人男性の姿をした三方博士たち。(写真:アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

ロマネスクの彫刻によくみられる二つに分かれた尾の部分を握る人魚やその人魚に弓を向けているケンタウロスの姿もある。手元にある「Iconografía y simbolismo Románico」(「ロマネスク 図像と象徴(筆者訳)」 出版社 arteguias)によると、男性を象徴するケンタウロスと女性を象徴する人魚という観点から、生殖性やエロチシズムを表現している。その一方で他の解釈として、罪深いものとしての象徴である人魚に対してケンタウロスが信仰の矢を放つことで、人魚を回心させる役割を担っているという。

ロマネスクの彫刻で人気があった人魚とケンタウロス(写真:アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

こちらもロマネスクの彫刻によくみられる旧約聖書の中の登場人物として、怪力の持ち主サムソンがいる

怪力サムソンは、古代イスラエル人にとっては英雄的な存在の士師で、髪の毛に力が宿っていた。サムソンは、サムソンの妻デリラに口説かれ、彼の怪力はどこから来るのかを尋ねられて最終的には怪力の秘密を明かしてしまい、デリラに寝ている間に髪の毛を切られて宿っていた力を抜き取られる。こうして金に目がくらんだデリラはサムソンを裏切り、サムソンは敵のペレシテ人達に捕らえられ悲劇的な最期を遂げる。サムソンとデリラを扱った絵やオペラ、小説、映画など多数あるので、ご存じの方も多いかもしれない。

ロマネスクの彫刻では、ライオンにまたがったり、組み伏せたりした長い髪の男として描かれているが、ここでは怪力サムソンがライオンの顎を掴んで倒す場面が描かれている。

狭い柱頭の中に見る人たちがすぐ認識できる構図に上手くまとめられている(写真:アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

アーキボルトの外側に左右二つの浅浮彫りがある。左側の浅浮彫りは不思議な生き物と何を意味しているのか分からない場面で、これについて言及しているものを見つけることができなかったのは残念だ。マントを羽織った聖職者(?)がまるで1982年のアメリカのSF映画「E.T.」に出てくる迷子の宇宙人そっくり!な生き物に何か与えているようだ。左側にはオオトカゲのような生き物が逆立ちしたような状態で描かれている。うーん、なんとも言えない不思議な場面だ。

謎の多い浅浮彫り。実は聖女ユリアナとドラゴン、そしてもう一つの生物は…?(写真:アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

このブログを公開した後、ブルゴスの観光部に別の件で質問した際、つい最近デマンダ連峰にあるロマネスク建築についての動画を youtube にアップしたということでその動画が送られてきた。その動画の中で簡単にアーキボルトの外側にある左右二つの浅浮彫りについて言及されていた。この謎の人物はマントを羽織った「聖職者」ではなく、聖女ユリアナ(Santa Juliana)だと判明。そして、この聖女ユリアナを中世の絵画や教会の中では、翼のあるドラゴンと戦っている姿や足元にドラゴンを従えている姿で描かれているとのこと。(ウィキペディアより)ということは、左側の逆立ちしたオオトカゲのような生き物は聖女ユリアナに服従するドラゴンを表しているようだ。しかし、右側の「E.T.」に出てくる迷子の宇宙人の正体はまだ不明なままなので、今後正体が判明したら報告したいと思う。

ピネダ・ラ・シエラのサン・エステバン・プロトマルティール教会 (Iglesia de San Eesteban Prótomartir en Pineda de la Sierra)の動画。中も少し見れる。

柱廊のある玄関(Galería porticada)

サン・エステバン・プロトマルティール教会の特徴である柱廊のある玄関(Galería porticada)は、前述したように12世紀末の第2次工事で建てられたものだ。同地方のビスカイノス・デ・ラ・シエラにあるトゥールの聖マルタン教会(Iglesia de San Martín de Tours en Viscaínos de la Sierra)やハラミージョ・デ・ラ・フエンテの聖母被昇天教会(Iglesia de la Asunción de Nuestra Señora en Jaramillo de la Fuente)との、様式的な同一性が見られる。これは、サント・ドミンゴ・デ・シロス修道院 (Monasterio de Santo Domingo de Silos)の影響を受けているからだという。(arteguias.com より)

サント・ドミンゴ・デ・シロス修道院 (Monasterio de Santo Domingo de Silos)についてはこちらをどうぞ。

外から見た柱廊のある玄関。矢張りこの教会の一番美しい部分だろう。(写真:アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

柱廊部分は、向かって右側(東側)に5つ、左側(西側)には6つ、合計11のアーチから成り、ほぼ中央に入口用のアーチがある。柱頭の装飾は植物の装飾が中心で、アカンサスの葉、パルメットと呼ばれる棕櫚葉文、果実がぶら下がっているものなど、さまざまな種類のものがある。

果実がぶら下がっている植物(写真:アルベルト・フェルナンデス・メダルデ)

最後に

この地方には、シエラ派(筆者訳 La escuela de la Sierra)と呼ばれるロマネスクの教会や修道院を造った人たちがいた。「シエラ」スペイン語で「Sierra」は、「(比較的低い)連峰、山脈、山」という意味で、この地方がシエラ・デ・ラ・デマンダ(Sierra de la Demanda)というデマンダ連峰の位置することから由来する名前だ。

このシエラ派の人達が造った興味深く、美しい教会が多数この地方にはある。その上、デマンダ連峰の素晴らしい自然、風景は、教会に興味がない人達をもきっと魅了する所だろう。是非、一度、この地方に足を延ばされることをお勧めする。

参考

ここで紹介したピネダ・ラ・シエラのサン・エステバン・プロトマルティール教会 (Iglesia de San Eesteban Prótomartir en Pineda de la Sierra)は、ブルゴス県のロマネスクを訪ねたルートの中の一つだ。こちらのルートを知りたい方はこちらを参考にしてほしい。

・ブルゴスの観光サイト。英語もあります。

https://turismoburgos.org/iglesia-de-san-esteban-protomartir-de-pineda-de-la-sierra/

・arteguias のウエブサイト。スペイン語ですが、詳しく説明されています。

https://www.arteguias.com/iglesia/pinedasierra.htm

・デマンダ連峰の観光案内。残念ながらスペイン語のみです。

https://sierradelademanda.com/

・デマンダ連峰にあるロマネスク建築のパンフレット。これも残念ながらスペイン語のみです。

https://sierradelademanda.com/wp-content/uploads/2019/01/FOLLETO-ROMA%CC%81NICO-SERRANO.pdf

参考文献:

-「Rutas románicas en Castilla y León 2 (Provincia de Burgos)」出版社:Encuentro Ediciones

– 「Iconografía y simbolismo Románico」 出版社: arteguias)

スペインでバードウォッチング!-種類別 スペインの野鳥 日本語名(トウゾクカモメ科)

ここでは、スペインに生息する野鳥の名前を、種類別に集めてみました。スペイン語名をクリックしてもらうと、スペイン鳥学会のホームページに飛びます。残念ながら日本語版はありませんが、英語での鳥の名前は出ています。スペインで野鳥観察されるとき、またはスペインの旅の途中で見かけた鳥のスペイン語名を知りたいときに、少しでもお役に立てれば幸いです。

キアシセグロカモメ (Gaviota patiamarilla) /(写真: アルベルト・F・メダルデ)

Gaviotas = カモメ科 カモメ類

スペイン語日本語ラテン語//常駐/偶然
Gaviota reidoraユリカモメChroicocephalus ridibundus常駐
Gaviota picofinaハシボノカモメChroicocephalus genei
Gaviota de BonaparteボナパルトカモメChroicocephalus philadelphia偶然
Gaviota canaカモメLarus canus
Gaviota de DelawareクロワカモメLarus delawarensis
Gaviota cabecinegraニシズグロカモメLarus melanocephalus常駐
Gaviota argénteaセグロカモメLarus argentatus
Gaviota patiamarillaキアシセグロカモメLarus michahellis常駐
Gaviota de AudouinアカハシカモメLarus audouinii常駐
Gavión altánticoオオカモメLarus marinus
Gaviota sombríaニシセグロカモメLarus fuscus常駐
Gaviota rosadaヒメクビワカモメRhodostethia rosea偶然
Gaviota enanaヒメカモメHydrocoloeus minutus
Gaviota tridáctilaミツユビカモメRissa tridactyla
Gaviota de SabineクビワカモメXema sabini偶然
Gavión hiperbóreoシロカモメLarus hyperboreus偶然
Gaviota groenlandesaアイスランドカモメLarus glaucoides偶然
Gaviota guanaguanareワライカモメLarus atricilla偶然
Gaviota pipizcanアメリカズグロカモメLarus pipixcan偶然
ユリカモメ (Gaviota reidora) /(写真: アルベルト・F・メダルデ)

パスクワ(Pascua)はイースター?それともクリスマス?

今年ももうすぐ聖週間(Semana Santa)が始まります。今年2023年は、4月2日(日)から4月9日(日)の1週間です。スペインに旅行される方に気を付けてほしいのは、4月6日(木)の聖木曜日、7日(金)聖金曜日、8日(聖土曜日)そして9日(復活祭、イースター)の4日間は殆どの職場で休みとなるので、観光地やレストラン、ホテル等混雑することです。また、レンタカーなどで旅行しようとされている方も、交通量がかなり増加するのでご注意くださいね。

アストゥリアス地方ビジャビシオサ(Villaviciosa)の「サンタ・マリア・デ・ラ・オリーバ教会(Iglesia de Santa María de la Oliva)」にある十字架にかけられるキリスト(写真:筆者撮影)

パスクワ(Pascua)はイースター?それともクリスマス?

知人から「Pascua」って「イースター」のことだと思っていたけど、クリスマスでも使うの?という疑問を投げかけられ、うーん、そういえば「ナビダ(Navidad)」以外で「パスクワ(Pascua)」も耳にすることがあるな、と今更ながら気づきました。(笑) それ以来、色々調べてみると興味深い内容のことが分かってきたので共有したいと思います。

調べてみると、クリスマスのことも「パスクワ・デ・ナビダ(Pascua de Navidad)」と言うし、主の御公現の祝日(1月6日の三賢王の日)のことも「パスクワ・デ・ロス・レージェス・マゴス(Pascua de Los Reyes Magos)」聖霊降臨の大祝日-復活祭後の第7日曜日-のことも、「パスクワ・デ・ペンテコステス(Pascua de Pentecostés)」と言います。

色んな場面で「パスクワ(Pascua)」という言葉は使われています。

¡Feliz Pascua!¡Felices Pascuas!は、単数形と複数形の違いですが、意味はかなり異なります。

単数形の場合は、復活祭(イースター)のことを表し、「ご復活おめでとうございます!」という意味です。キリストが復活したという聖日曜日(イースター)のミサの後などで使われる挨拶です。複数形の場合は、クリスマスのことを表し、「クリスマスおめでとう!」という意味で使われています。これは、クリスマスの当日だけに使われる言葉ではなく、クリスマス期間中(スペインでは12月24日のイブから1月6日の三賢王の日までずっとクリスマス期間です)には、いつでも使える挨拶です。

以上の通り、パスクワ(Pascua)はイースターでもあり、クリスマスでもあるのです。

サラマンカ新大聖堂にある東方三博士の礼拝(写真:筆者撮影)

パスクワ(Pascua)の語源は?

こんなにいろんな場面でパスクワ(Pascua)という言葉が使われていますが、語源は何でしょうか?

手元にある「Breve Diccionario Etimológico de la Lengua Castellana」というカスティジャー語の簡易語源辞典には、『ヘブライ語のPESACHA ído.、propte.の変形に由来し、ギリシャ語を経て、ラテン語のPASCHAから。【通過、移動】、ユダヤ人がエジプトからの脱出を記念する祭事である。スペイン語では、ラテン語のPASCUA、PASCUUM「動物の食べ物」の複数形(イースターの断食が終わったことによる混乱)の影響を受けて、この言葉が変化した。』と書かれています。

Pascua, 1090. Del latin, PASCHA, que por conducto del griego, procede de una variante del hebreo PESACHA ído., propte. “paso, tránsito”, fiesta con que los judíos conmemoraban la salida de Egípto. En castellano el vocablo se alteró por influjo del latin, PASCUA, plural de PASCUUM “alimento de los animales” (confisión sugerida por la terminación de los ayunos en Pascua).

旧約聖書の「出エジプト記」の中に、預言者モーセが、エジプトで奴隷として虐げられていたユダヤの民を脱出させたことが書かれています。エジプトのファラオが、脱出中のモーセとユダヤ人たちを捕えるために大軍を送りますが、モーセが海を割って道を作り無事脱出します。追ってきたエジプトの軍隊も道を通って海を渡ろうとしますが、再び海水が戻りエジプトの軍隊は海に飲み込まれてしまいます。これが有名な「モーセの海割り」の場面です。本や映画などで見聞きしている方も多いかと思います。このエジプト脱出をお祝いした祭りのことを指しています。

それにしても、このユダヤ教のお祭りが起源の言葉「パスクワ(Pascua)」が何故キリスト教で「クリスマス」や「復活祭」、そして「三賢王の日」や「聖霊降臨」の日にも使われるようになったのかは、まだ理解できませんよね。

カスティージャ・イ・レオン地方ブルゴス県のサント・ドミンゴ・デ・シロス修道院にある
聖霊降臨(Pentecostés)の浅浮彫り (写真: アルベルト・F・メダルデ)

納得できたパスクワ(Pascua)の語源はこれ!

どうも納得できない私は、高名な神父(レオン大聖堂の前オルガン奏者のサムエル神父)にパスクワ(Pascua)の意味を尋ねてみました。すると、次のような答えが返ってきました。

パスクワ(Pascua)には、もともと食事、食べ物、宴会などの意味があった。祭事に欠かせないのは食事、宴会。それが「お祝い事」という意味に発展していき、キリスト教の中でのお祝い事に使われる言葉となった。だから、おめでたい事のみに使われる言葉で、例えば、キリストが死んだ聖金曜日などは、Pascua とは呼ばない。

確かに、前述したパスクワ(Pascua)の意味をもう一度見てみると、全てキリスト教にとっておめでたいことに使われ、「クリスマスのお祝い」「主の御公現(三賢王)のお祝い」「聖霊降臨のお祝い」、「復活のお祝い」という意味でパスクワ(Pascua)が使われていることが分かります。

クリスマス-「パスクワ・デ・ナビダ(Pascua de Navidad)」

復活祭-パスクワ・デ・レスレクシオン (Pascua de Resurrección)

主の御公現の祝日(1月6日の三賢王の日)-「パスクワ・デ・ロス・レージェス・マゴス(Pascua de Los Reyes Magos)

聖霊降臨の大祝日(復活祭後の第7日曜日)-「パスクワ・デ・ペンテコステス(Pascua de Pentecostés)

これで、私もすっきりと納得できました!

2000年以上前の言葉の語源になるのでどこまで真実かはわかりませんが、この理由が一番しっくりする語源でした。それにしても、ユダヤ教とキリスト教の切っても切れない繋がりを感じさせられた一語でした。

レオン大聖堂(写真:筆者撮影)

ちょっとスペイン語 -22- (Pascua)復活祭、イースター、クリスマス

ここでは、ちょっとしたスペイン語の言い回しや、ことわざ、話し言葉など、辞書には載っていない単語も含めて紹介していきます。スペイン語を勉強している方には言葉の幅が広がるお手伝いができればいいなと、スペイン語には興味ないという方には雑学として楽しんでいただければいいなと思っています。

聖週間の行列に担がれる山車(写真:筆者撮影)

もうすぐキリスト教の聖週間が始まります。スペインでは、聖週間前後から学校では10日間くらいの休みに入ります。そして、キリストが復活した日曜日は、復活祭をお祝いするのが伝統です。最近は、宗教的な意味を持って過ごす人は少なくなりましたが、それでも復活祭の日は特別な日だと言えるでしょう。

さて、復活祭又はイースターのことをスペイン語では「パスクワ(Pascua)」と言いますが、一般的にスペインでは、単に「パスクワ(Pascua)」というより「パスクワ・デ・レスレクシオン(Pascua de Resurrección)」や「ドミンゴ・デ・パスクワ(Domingo de Pascua)」と呼ぶ方が多いようです。「レスレクシオン(Resurrección)」は「復活」、「ドミンゴ・デ・パスクワ(Domingo de Pascua)」は「聖日曜日」という意味があります。他にも「パスクワ・フロリーダ(Pascua florida)」「花で飾られたイースター」という言い方もあります。

「パスクワ(Pascua)」には他にも意味があり、クリスマスのことも「パスクワ・デ・ナビダ(Pascua de Navidad)」と言い、主の御公現の祝日(1月6日の三賢王の日)のことを「パスクワ・デ・ロス・レージェス・マゴス(Pascua de Los Reyes Magos)」聖霊降臨の大祝日-復活祭後の第7日曜日-のことを、「パスクワ・デ・ペンテコステス(Pascua de Pentecostés)」と言います。

気を付けたいことは、単数形と複数形で使う時期が異なるということです。

¡Feliz Pascua!

ご復活(イースター)おめでとうございます!

¡Felices Pascuas!

クリスマスおめでとう!

クリスマスの期間を指すので複数形、復活祭(イースター)は復活したその日のみを指すので単数形になります。

日本語には複数形・単数形がないのでなかなかピンとこないですが、スペイン語の面白いところですね。

「パスクワ(Pascua)」の語源を知りたい方はこちらもどうぞ。